- Amazon.co.jp ・本 (478ページ)
- / ISBN・EAN: 9784902257212
作品紹介・あらすじ
1981年、北アイルランド。国境近くの村に暮らす高校生・ファーガスは、紛争が続くこの土地から離れて、イギリスの大学で医者になることをめざしていた。ある日、こづかい稼ぎに泥炭の盗掘にでかけた湿地で、ファーガスは少女の遺体を発見する。泥炭の作用で生々しく保存された遺体には、絞殺の跡があった。一方、アイルランド独立をめざす兄・ジョーは、獄中でハンガー・ストライキを敢行。死へのカウント・ダウンがはじまる。故郷への思いと、自由への渇望とのあいだで揺れるファーガスは、兄の命をかけて、ある決断をする…。"湿地の少女"の死の真相とは?ファーガスは、その手に未来をつかめるのだろうか?-二〇〇九年カーネギー賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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1981年、北アイルランドに住む18才のファーガス。叔父と一緒に、アイルランドとの国境地帯で泥炭を盗掘して小遣い稼ぎをしている。そんないつもの朝、泥炭の中から生々しい少女の遺体を発見する。しかし少女は鉄器時代の人物だという。そんな情景から始まるファーガスの夏の物語。
1981年という北アイルランドにとっては紛争の時期に人生の岐路に立ったファーガス。IRA活動家で獄中でハンガーストライキをしている兄、叔父、妹たち、父母、遺体調査の考古学者母子、国境検問所の若い兵隊との交流、そして兄の友人からのあやしげな頼まれ仕事。素直で家族思いのファーガスだが、IRAとは距離を置いて、自分の道を進みたいファーガス。ファーガスは自分の道を進めるのか。最後はさわやかな感動でファーガスの門出を祝う自分がいる。
・・でも紛争に犠牲者は出る。ダウドは犠牲者を配置したが、やるせない。
国境検問所の同年代の兵隊は、ウェールズ出身で、炭鉱で地下にもぐるか、兵隊か、の二つの進路で兵隊を選んだ、とか、ファーガスの家はもちろんカトリックで家族そろって日曜は教会に行っている。兄の友人さえも日曜には教会に顔を出している。そして18歳のファーガスは選挙権があり、すでに1回投票をしていて、バルで酒も飲んでいる、などなど興味深い記述があった。
昔見たIRAがらみの映画「父の祈りを」(1993) 「クライングゲーム」(1992)をちょっと思い浮かべた。
2008出版
2011.1第1刷 図書館詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
北アイルランド問題への知識があると、だいぶ読みやすくなります。若者たちに迫る生死に関わる決断は読んでいて胸が苦しくなりますが、未来も描かれています。その未来にさえ安全や幸せは保証されてはいないけど、なにか前向きな変化が、希望があるのではないかと期待してしまいます。現在と過去、現実と空想が交錯し、ミステリー要素もある、読み応えある一作です。
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アイルランドを舞台にした小説って暗いものが多いイメージが…。生まれで境遇は決まっていて選ぶことはできない。その中で、未来を切り開くためには、そこから逃げ出すための力をつけなきゃいけないってことなんだなぁ。だまっていても変えられない。でも自分の力だけでは及ばない。ラスト、フェリーでイギリスに渡るシーンが希望であるように、出ていく、逃げるというのは大事な成長の過程かもしれない。
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ジョン・レノンが殺害された翌年1981年、アイルランドとの国境が入り組んだ北アイルランドの町に住むファーガスは18歳。医大進学のかかった試験を控えたある朝、小遣い稼ぎのために叔父と出かけた泥炭地で、地層の中から子どもの遺体をみつけてしまう。泥炭(ボグ)からみつかったのはほぼ2000年前の少女だった・・。
ヤングアダルトの書棚に並ぶようですが、作者も訳者も主人公もほぼ私と同世代。時代背景や音楽などアラフィーに「ドキュン!」の作品です。 -
シヴォーン・ダウドの死後、発表された作品。本の分厚さにも驚いたが、読み始めて北アイルランド問題を背景にした物語だと知り、向き合う気持ちが少し緊張感を増した。
主人公のファーガスは叔父さんと一緒に泥炭の盗掘のために湿地を訪れるのだが、その最中に少女の死体を発見してしまう。
ファーガスには服役中の兄、ジョーがいる。ジョーはイギリス政府への抗議のためのハンガー・ストライキを始めてしまうのだった。何としてもそれを止めさせたいファーガスや家族。ファーガス自身もイギリス本土の大学を目指して、勉強しなければならない時期なのだ。しかし兄のためと説得されて手を貸してしまっている怪しい取引や、湿地で死体で見つかった少女「メル」の過去の記憶らしきものを夢で見たりと、ファーガス自身も様々な問題に深く係わっていくことになる。 -
北アイルランド紛争についてほとんど知らないので、どれだけ作者の思いを受けとめられたかわかりませんが
十代の揺れる心はよくわりました。でも、日本の受験生とこんなに違うのかと驚きました。 -
考古学上の話とは思わずで。
なるほど、不作為よりは作為と。 -
北アイルランドの紛争地帯に生まれた少年が湿地で少女の遺体を見つけることから始まる。わりと暗い感じで読んでると鬱々とした気持ちになる。