ボグ・チャイルド

  • ゴブリン書房
3.76
  • (6)
  • (18)
  • (13)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 152
感想 : 24
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (478ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784902257212

作品紹介・あらすじ

1981年、北アイルランド。国境近くの村に暮らす高校生・ファーガスは、紛争が続くこの土地から離れて、イギリスの大学で医者になることをめざしていた。ある日、こづかい稼ぎに泥炭の盗掘にでかけた湿地で、ファーガスは少女の遺体を発見する。泥炭の作用で生々しく保存された遺体には、絞殺の跡があった。一方、アイルランド独立をめざす兄・ジョーは、獄中でハンガー・ストライキを敢行。死へのカウント・ダウンがはじまる。故郷への思いと、自由への渇望とのあいだで揺れるファーガスは、兄の命をかけて、ある決断をする…。"湿地の少女"の死の真相とは?ファーガスは、その手に未来をつかめるのだろうか?-二〇〇九年カーネギー賞受賞作。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 1981年、北アイルランドに住む18才のファーガス。叔父と一緒に、アイルランドとの国境地帯で泥炭を盗掘して小遣い稼ぎをしている。そんないつもの朝、泥炭の中から生々しい少女の遺体を発見する。しかし少女は鉄器時代の人物だという。そんな情景から始まるファーガスの夏の物語。

    1981年という北アイルランドにとっては紛争の時期に人生の岐路に立ったファーガス。IRA活動家で獄中でハンガーストライキをしている兄、叔父、妹たち、父母、遺体調査の考古学者母子、国境検問所の若い兵隊との交流、そして兄の友人からのあやしげな頼まれ仕事。素直で家族思いのファーガスだが、IRAとは距離を置いて、自分の道を進みたいファーガス。ファーガスは自分の道を進めるのか。最後はさわやかな感動でファーガスの門出を祝う自分がいる。

    ・・でも紛争に犠牲者は出る。ダウドは犠牲者を配置したが、やるせない。


    国境検問所の同年代の兵隊は、ウェールズ出身で、炭鉱で地下にもぐるか、兵隊か、の二つの進路で兵隊を選んだ、とか、ファーガスの家はもちろんカトリックで家族そろって日曜は教会に行っている。兄の友人さえも日曜には教会に顔を出している。そして18歳のファーガスは選挙権があり、すでに1回投票をしていて、バルで酒も飲んでいる、などなど興味深い記述があった。

    昔見たIRAがらみの映画「父の祈りを」(1993) 「クライングゲーム」(1992)をちょっと思い浮かべた。

    2008出版
    2011.1第1刷 図書館

  •  本当にいろいろな要素が詰まってて、何から感想を書けばいいのやら、な盛りだくさんの作品。IRA、少女の死体、運び屋、女考古学者の娘との恋、勉強、ハンガーストライキで刻一刻と死に向かう兄。
     なんでこんなに詰め込んでるんだろう、ってちょっと思ったけど、青春時代ってそういうものなのかもってふと思った。自分の周囲で起こる種々の出来事にストレートに反応し、真正面からぶつかっていっちゃう青春時代。だから傷つくことも多いけれど、それができるエネルギーを持ち合わせているということでもある。大人になったら、自分に関係ないこと、興味ないことを上手にスルーして、無視することができるようになるけど、いちいち一生懸命になってちゃ身が持たないもんな。
     トロンボーンが上手なイングランド兵、オーウェインが最後に命を落としたのが残念だったなあ。

     ハンガーストライキで徐々に死に近づく兄の姿は、こないだ読んだ『怪物はささやく』のお母さんと重なるものがあった。もしかしたらここから着想を膨らませたのかもしれない。作者シヴォーン・ダヴドはこの作品を書いた後この世を去ってしまい、『怪物はささやく』の完成はパトリック・ネスによって引き継がれる。

    原題:Bog Child

  • 北アイルランド問題への知識があると、だいぶ読みやすくなります。若者たちに迫る生死に関わる決断は読んでいて胸が苦しくなりますが、未来も描かれています。その未来にさえ安全や幸せは保証されてはいないけど、なにか前向きな変化が、希望があるのではないかと期待してしまいます。現在と過去、現実と空想が交錯し、ミステリー要素もある、読み応えある一作です。

  • 図書館では、児童書かYAの棚に置いてある本だけど、中学生には難しいかも。リアルタイムで北アイルランドで紛争が起きていたころを知っている私でも、当時の政治的な背景をきちんと理解していたわけではないからなあ。現在しか知らない若者には読みにくいかもしれない。もう少しあとがきなどで当時の状況を解説してほしかったと思う。
    しかし、読む価値のある小説なのだ。北アイルランドのカトリック家庭で育った少年の大人への道のりを、IRAの活動に身を投じた兄、湿地に埋められていた鉄器時代の少女の運命、国境兵士の少年との友情、主人公とダブリンの学者の娘の恋をからめて描き、どんでん返しもあるという、読んでいて飽きない上に考えさせられる内容である。こういう物語を読んで、ISに入る若者の心情を考えてみるきっかけにするのもいいと思う。
    クッツェーが『鉄の時代』で、戦えと叫ぶのは老人で、実際に戦うのは若者なのだというようなことを書いていたが、IRA然り、IS然り、戦時中の日本も。若者の純粋さやまじめさ、一本気なところを老獪な政治家や宗教指導者に利用されるのだと思う。残された家族の苦悩など、歯牙にもかけず。
    兄の選択を大人として認めてやろうという父と、いくつになっても自分の子供なのだから死なせるわけにはいけないという母の姿もリアル。
    タイトルも日本人にはわかりにくいし、表紙でそそるタイプの本でもないから、ただ置いておいても誰も読まないだろう。大人がまず読んで、読めそうな中高生に手渡すのがいいかな。どちらにしろ、ある程度読む力がないと読めないので、多少の性描写はあるが、読める子なら問題なし。

  • アイルランドを舞台にした小説って暗いものが多いイメージが…。生まれで境遇は決まっていて選ぶことはできない。その中で、未来を切り開くためには、そこから逃げ出すための力をつけなきゃいけないってことなんだなぁ。だまっていても変えられない。でも自分の力だけでは及ばない。ラスト、フェリーでイギリスに渡るシーンが希望であるように、出ていく、逃げるというのは大事な成長の過程かもしれない。

  • ジョン・レノンが殺害された翌年1981年、アイルランドとの国境が入り組んだ北アイルランドの町に住むファーガスは18歳。医大進学のかかった試験を控えたある朝、小遣い稼ぎのために叔父と出かけた泥炭地で、地層の中から子どもの遺体をみつけてしまう。泥炭(ボグ)からみつかったのはほぼ2000年前の少女だった・・。
    ヤングアダルトの書棚に並ぶようですが、作者も訳者も主人公もほぼ私と同世代。時代背景や音楽などアラフィーに「ドキュン!」の作品です。  

  •  シヴォーン・ダウドの死後、発表された作品。本の分厚さにも驚いたが、読み始めて北アイルランド問題を背景にした物語だと知り、向き合う気持ちが少し緊張感を増した。
     主人公のファーガスは叔父さんと一緒に泥炭の盗掘のために湿地を訪れるのだが、その最中に少女の死体を発見してしまう。
     ファーガスには服役中の兄、ジョーがいる。ジョーはイギリス政府への抗議のためのハンガー・ストライキを始めてしまうのだった。何としてもそれを止めさせたいファーガスや家族。ファーガス自身もイギリス本土の大学を目指して、勉強しなければならない時期なのだ。しかし兄のためと説得されて手を貸してしまっている怪しい取引や、湿地で死体で見つかった少女「メル」の過去の記憶らしきものを夢で見たりと、ファーガス自身も様々な問題に深く係わっていくことになる。

  • 北アイルランド紛争についてほとんど知らないので、どれだけ作者の思いを受けとめられたかわかりませんが
    十代の揺れる心はよくわりました。でも、日本の受験生とこんなに違うのかと驚きました。

  • 考古学上の話とは思わずで。
    なるほど、不作為よりは作為と。

  • 北アイルランドの紛争地帯に生まれた少年が湿地で少女の遺体を見つけることから始まる。わりと暗い感じで読んでると鬱々とした気持ちになる。

全24件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1960年、ロンドン生まれ。オックスフォード大学卒業後、国際ペンクラブに所属し、作家たちの人権擁護活動に長く携わった。2006年、A Swift Pure Cryで作家デビューし、ブランフォード・ボウズ賞とエリーシュ・ディロン賞を受賞した。2007年に『ロンドン・アイの謎』を発表したが、わずか2か月後の8月、乳癌のため47歳で逝去。この作品はビスト最優秀児童図書賞(現・KPMGアイルランド児童図書賞)を受賞した。死後に『ボグ・チャイルド』が発表され、2009年のカーネギー賞を受賞している。遺された構想をもとにパトリック・ネスが執筆した『怪物はささやく』も、2012年にカーネギー賞を受賞した。

「2022年 『グッゲンハイムの謎』 で使われていた紹介文から引用しています。」

シヴォーン・ダウドの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
三浦 しをん
伊坂 幸太郎
三浦 しをん
村上 春樹
村上 春樹
辻村 深月
三浦 しをん
宮下奈都
辻村 深月
伊坂 幸太郎
高野 和明
冲方 丁
伊坂 幸太郎
小川 洋子
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×