赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア: 自分を愛する力を取り戻す〔心理教育〕の本
- アスク・ヒューマン・ケア (2016年5月26日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (157ページ)
- / ISBN・EAN: 9784901030229
作品紹介・あらすじ
トラウマはなぜ苦しみを引き起こす? 被害と加害はなぜ繰り返される? 災害トラウマの特徴とその支援は?
赤ずきんとオオカミの物語仕立てで、トラウマによる症状、回復のプロセス、支援の方法について学んでいきます。
医療・保健・福祉・司法・教育などの場でトラウマを受けた人と関わるスタッフ、そして当事者とご家族も読める本です。
感想・レビュー・書評
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最初に赤ずきんやオオカミを登場人物にして、トラウマや自分の殻を乗り越えるストーリーは書かれている。後半から、色々と重要な点に触れて行っている。
「ジュディス・ハーマンによる回復の3段階」として、
・安全、安心の確保
・再体験(安心できる関係の中で、語ったり書いたりして過去を再体験する)
・社会的再結合(社会的なつながりをつくる)
「メアリー・ハーヴェイによる回復の7段階」として、
・記憶想起の過程の主体者になる
・記憶と感情の結合
・感情耐性
・症状統御
・自己尊重感とまとまりある自己感
・安全な愛着
・意味を見出す
愛着障害を治すための方法とよく似ている。「居場所の確保」「キーパーソンと、サブキーパーソンの設定」「治療対象に役割を与える」といったことが愛着障害治療にあるのだが、本著でも、ほぼこれに近い流れがある。
被害者にとって大切なのは、症状が出てきたとき「これは症状なんだ」とわかること。その状態に対処できること。そして、どんな時に症状が出るのかがある程度わかって、あらかじめ備えができることです、と筆者は述べる。
そして、「被害・加害の関係にはまらない」ということが大切であり、仕事、役割があることに繋げていくことの大事さが書かれてある。被害と加害はもちろん事実としてあるので、ゆるぎないのだが、結局被害者であることを胸に刻み続けると、そのたびに加害者が内側から現れて何度も自分自身をズタズタにしてしまう。被害・加害の枠組みから逃れることは、これ以上加害者に自分自身を傷つけさせないためである。つまり加害者をぶっ殺すためにも、被害・加害の枠から脱することは大事なのだろう。その枠から脱するには、重要なのは、己に仕事があること、社会のなかでの自分がいること、である。それが自己尊重感につながり、「私は汚されてしまった。何者にもなれない」から「何者かであること」に進むことができる。よくマンガとかで●●四天王とか出てくる。四天王はそれぞれが個性的だ。そしてそれぞれが何者かであり、何か能力を持っている。もちろん過去にはそれぞれつらいものを背負っている。しかし、四天王の一角を占めることにより、戦えるわけである。
白川氏の最大の仕事は震災時、被災地で被災者の心のケアにあたったことだろう。被災者と地域の回復プロセスには、かなりの力と、まっすぐな論理が貫かれており、非常に明確でかつ正確だ。
被災者が日常生活を取り戻し、コミュニティが機能を回復するまでには、一般に次のようなプロセスを経ると言われている。
1 英雄期(災害直後)
多くの人が自分の危険をかえりみず、勇気ある行動をとる。
2 ハネムーン期(1週間から6カ月)
たいへんな体験を乗り越えた被災者が強い連帯感を感じ、助け合いながら危機を乗り越えていく時期
3 幻滅期(2ヵ月から1,2年)
被災者の忍耐が限界に近づき、支援が行き届かないことや行政サービスへの不安、やり場のない怒り……ケンカなどのトラブルや、飲酒問題も起きやすくなります。同じ被災者でも状況がさまざまに異なることから、地域の連帯も失われがちになります。
4 再建期
被災地に「日常」が戻りはじめ、被災者も生活の建て直しに目を向けるようになる。復興ムードが高まる一方、そこから取り残される人も出る。
幻滅期には支援者・被災者みんなにバーンアウトの兆候があらわれる。「みんなつらい思いをしてるのに、よくそんな呑気でいられるものね!」といった態度やブラックユーモアが多く出始める。
書かれていることに、非常にリアリティがあるし、かつ、客観的に書かれてある。この被災地での四段階の「期」を知っているか知らないかだけでも、どうすればいいかそれぞれが考え対処できる有効なツールとなるだろう。
トラウマを背負い、または被災者となって苦しむ人にとって、「連続性」が大事である。ムーリ・ラハドによる連続性については以下の通り。
認知的・意識的連続性=一定の規則のもと生活が営まれ、こうすればこうなるといった論理や、日々の現実がゆるがないこと。
社会的・対人関係における連続性=家庭・職場・学校などで同じ人に繰り返し合えること。
機能的連続性=職業や家庭内・地域社会での立場など、自分が一定の役割をもち続けていること。
歴史的連続性=過去から現在に至るまで、自分が自分だというまとまりを感じられること。
印象的だったのは、じつは多くのトラウマ・サバイバーが、「このことを話したら先生に嫌われるのではないか」、「聞いた相手を傷つけるのではないか」と感じていることだ。性的虐待の話をして、「先生を汚してしまいました。ごめんなさい」と泣いたクライエントもいる。揺らがず、受け止めて話を聞くことが大切になるのだと、白川氏は言う。
また、カウンセラーに対しても、重要なアドバイスがいくつも載っている。
特に代理受傷についてページを割いている。
代理受傷とは、支援者が、当事者と同様の感情的・身体的苦痛を体験すること、ひいては支援者自身の内的な世界観が変容していくことをさす。
【P135】世界観の変化とは、たとえば性犯罪被害者の支援をしている人が週刊誌のグラビアページに抑えられないほどの怒りと嫌悪感を覚えたり、「すべての性交はレイプだ」などと言い始めたり、DV被害者支援に関わっている人が「男性はみな暴力的なのだ」と考えるようになる、などです。
こうしたことが起こるのは、その支援者が弱いからではなく、トラウマを抱えた当事者と関わる時間に比例する。よってカウンセラーがトラウマケアをする際重要なのは以下の3つである。
1,準備
ケースに即した訓練を受ける。
自分自身が未消化の個人トラウマを抱えている場合、その課題について自分自身がセラピーを受ける。未処理の課題があると、それが当事者との関係に悪影響を及ぼすため。
2,サポート
トラウマ支援は一人ではできないし、一人で行ってはいけない。セラピスト同士のつながりや、多職種の連携が必要。また、被害者・被災者への社会的サポートも欠かせない。
3,バランス
面談などで、トラウマのケースばかりを扱うことを避ける。避けられない場合は、予約時に回復途上のケースを重症ケースの間に入れてバランスをとる。私生活を充実させて日常生活でのバランスにも留意する。
私はトラウマはない。が、色々と心の病はあったような気がする。しかし、最終的にそんな狂っていた自分を解決に導いたのは、死であった。夢を持った友達が自殺する。親に苦しんでいた女友達が自殺する。娘の結婚式がもうすぐというときに病死したおじさん。姉が8歳の子どもを残して病死。多くの死が、自分自身に確実に変化を与えた。トラウマと、自分の心理的な問題のケースはまったく異なる。この、自分もそうだったと考えたり、混同することが、一般人にとって、もっともしてはいけないことだし、しがちなことだろう。しかし、居場所・キーパーソンとサブキーパーソン・役割は、どんな人間にも重要な、生きる条件であることは、間違いないことだと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
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2020/07/29
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DV被害者自立支援「トラウマ・ケアの読書会」(5月) | 講座・イベント | 京都市男女共同参画センター ウィングス京都
https://...DV被害者自立支援「トラウマ・ケアの読書会」(5月) | 講座・イベント | 京都市男女共同参画センター ウィングス京都
https://www.wings-kyoto.jp/event/event-all/tcare2205.html2022/04/14 -
にゃんこまるさん
にゃんこまるさんの、セミについてのコメントが、秘かにとても好きでした。なんて、感性の豊かな言葉でしょうか。
今、読むと、懐...にゃんこまるさん
にゃんこまるさんの、セミについてのコメントが、秘かにとても好きでした。なんて、感性の豊かな言葉でしょうか。
今、読むと、懐かしさに 心が震えます。2022/04/14
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トラウマはなぜ苦しみを引き起こす?被害と加害はなぜ繰り返される? 災害トラウマの特徴とその支援は?
赤ずきんとオオカミの物語仕立てで、トラウマによる症状、回復のプロセス、支援の方法について学んでいきます。
医療・保健・福祉・司法・教育などの場でトラウマを受けた人と関わるスタッフ、そして当事者とご家族も読める本です。
トラウマ記憶の特徴は、時間が経っても鮮明であること、思い出す時に不快感や痛みを伴うこと。
トラウマ記憶が生々しい感覚や感情と共に蘇るフラッシュバックを起こさないための方法、トラウマ記憶を信頼出来る人に打ち明けることで過去の出来事としてトラウマ記憶の処理をする方法、トラウマ記憶による症状が出た時に対処する方法、日々のちょっとした進歩に気付いて自分を認めること、問題が起こった時に人間関係が気まずくなった時に自分や他人を責めないようにコミニュケーションする方法、自分の感情と過去に感じた感情と他人の感情を区別して自分がどう感じているかをきちんと理解して表現する方法など、トラウマ記憶の治療や自分と他人を大事にコミニュケーションする方法を学ぶ課程を「赤ずきん」のストーリーを通して解説した心理学本です。 -
「知らなければ良かった」「全てを忘れ去りたい」
と思ったことがあったけど
『知識は力、自分を守ってくれる。』
この一文で、これからも”知ること”を恐れず続けていきたいと思った。 -
『赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア』
当事者・支援者向けなので、トラウマとは何か、回復のステップ、支援者が気を付けることなどがすごくわかりやすく書かれています。トラウマ対応について理解する上でも、当事者に説明する上でもとても役に立ちそうです。
印象に残ったのは、「回復とは、被害者でも加害者でもなくなり、サバイバーでもなくなり、そういう一般的な名前ではくくれない『ほかの誰とも違う、私でしかない私』になることです。」という言葉。傷つき体験も含めて自分を自分で受け入れられるようになることが回復のプロセスなのだなと思います。
あとがきで著者自身の被害体験にも触れておられ、回復体験を持っていることがトラウマ臨床から逃げずに向き合う原動力になった、と書かれています。当事者性を持っていることは支援者にとってマイナスではない、気を付けないといけないことはあるけれどすべての経験は力になる、と勇気が出る本でした。 -
こういった類の本の中では、読んでいてイメージが湧きやすく、また文章も難解ではなくとても読みやすく、大衆に向けた専門書、という感じで個人的にはとても良かったです。
わたしも当事者で、今、EMDRをしています。
半年以上続け、やっとこのような本を手に取ってみよう、読んでみようと思える状況になりました。
前半部分は何故か、読みながら涙が出てきました。
不快でも愉快でもなく、ただ、何故か、涙が出ながらも読み続けました。
そして一気に読み終えてしまった。
ちょっと内容についてはまとめられない。
とにかく、今読めて良かったなと思った一冊。
またいつか読んで、頭を整理したい。 -
トラウマと聞くと大袈裟で自分には当てはまらないと思っていましたが、この心のもやもやはトラウマの症状だったのかと分かりとても楽になりました。他の人と違い、ネガティブに、悪い方向に考えてしまう。なぜか常に不安。自分がおかしいのかと思っていましたが、それは症状のひとつにすぎないのでした。だから分かればそれをどういい方向に持っていくか、どう付き合っていくか。その対処がこの本には優しく書かれていました。戦争体験や暴力だけでなく、幼少時代につらい体験を何度もすることでそれはトラウマとなります。子供の頃のいやなことを今でも夢に見たり、思い出してパニックになる人はぜひとも読んでほしい。当事者にも、その周囲の人たちにも(誰しもが成りえます、当事者にも支援者にも)分かりやすく、とても優しく書かれています。
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新卒の時の職場で、いじめとパワハラを受けたことがずっとトラウマになっていました。
自分が悪かったからなにをされても仕方なかったのだと、
ずっと自分で自分を責めてきましたが、
この本を読み、本当はそうではないのだとわかりました。
少しずつでも、今ここの領域を広げていこうと思うことができました。 -
単回性のトラウマをもつ「赤ずきん」
慢性的で複雑性のトラウマをもつ「オオカミ」
赤ずきんを襲った狼も、3匹の子豚の家を壊した狼も、もしかしたら何か心に抱えているのかもしれない。
その視点が、とても面白く、わかりやすかった。
支援を受けることのメリットを知った。 -
当事者目線、支援者目線どちらも書かれていて、どちらの視点も持つ自分にとっても非常に理解しやすかった。辛い経験を乗り越えたからといって、他の人の支援をすることに執着する必要はないということに胸を打たれたような思いがした。思い返せば、思春期の頃から、自分と同じような子どもを救いたいという思いから、支援者への道を目指し始めたことに気づいた。ただ、今の私にはやりがいのある仕事になっており、自己を探求する機会にもなっている。著者のように、全てを手放す段階にはまだまだ遠いが、自分自身のトラウマを解放して、地にしっかりと足を付けた支援者となりたい。