唯幻論始末記 (わたしはなぜ唯幻論を唱えたのか)

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  • いそっぷ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784900963818

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  • 友人にものぐさ精神分析を薦められたがかなり古い本で図書館車庫奥に保管されていたのかカビ臭くなっていたのでこちらをお取り寄せ。
    文化、欲望、宗教、日本の歴史、戦争など、様々な課題を、本能が壊れたため、もしくは、現実感覚の不全で捉える論調、ご自身の母との関係性からの考察、日常のエピソードがぶっ飛んでいるが、小気味よく読み進めた。小テーマも興味を惹く内容。男の「強い」性欲願望は本能ではなく、『文化現象』、過去の歴史を隠蔽し歪曲した民族や国会は、現在の政治や外交において永遠に間違い続けるとの論調が続く。誰でも生きている今の時代の共同幻想に囚われていることを自覚すべきとも主張。
    <落第をせぬかと恐れ通知簿の合の字を見て胸なで下ろす> 中学三年の短歌には親しみを感じた。

    覚書
    性本能が壊れて滅亡しそうになった人類の危機に対処するために、人類は、弱くなった男の性欲を何とか女性器にむかわせようとし、屁理屈を導入しデッチあげたのが、女性差別の性分化 男の強い性欲という幻想と、それを刺激する魅力的な女性器という幻想がこの性分化の主要な要素 歪みに歪んだ文化的失敗作 人間には自然な性行動はない

    ユダヤ教は無理してつくられた不自然な例外的現象 選民思想を引き継いで近代ヨーロッパ人は、一神教であるキリスト教こそ最高に進歩した唯一の正しい宗教、アニミズム、先祖崇拝、多神教など世界のさまざまな宗教は未開野蛮な民族が信じる遅れた劣った迷信とした

    日本の歴史は日本人がどのような幻想を抱いていたかによって動かされている 気まぐれな偶然に左右 史的唯幻論
    歴史を作るのは、現実に選んだ選択肢以外の選択肢を選ぶこともできた過去に悔恨がある

    女には性欲がないという基本的観念から「清純な乙女」と「売春婦」という女の二つの文化的・社会的役割が発生し、ともに性本能の崩壊に対する弥縫策として機能 一見反対だがお互いに支えあっている同じ穴のムジナ 男にとっては女から求められても応じることができないかもしれないので恐ろしいもの 

    人間は生まれてから、まず、親が提示する現実を現実として受け容れる。それが基本。人間にとって客観的現実というものはなく、知覚するのは、あくまで親や他の人々から与えられた枠組みを通して知覚する現実
    主観的心情に重きをおいて客観的現実を軽視する傾向

    七世紀後半、倭軍が唐新羅の連合軍との惨敗時、天孫降臨神話をデッチあげることによって、その屈辱的事件隠蔽。日本は屈辱的現実を容認し、現実に適応しようとする外的自己と、屈辱を否認し誇りを保とうとする内的自己とに分裂。この分裂は日本の歴史を規定し続けて現在に至る 好ましくない現実を否認することが日本国の基本的な構造的習癖

    現実感覚の不全と不都合な事実の隠蔽 日本軍の戦略・戦術・作戦を貫いており、その稚拙さを招いた その起源は天孫降臨神話

    人間は、誤解、言い掛かり、なすりつけ、逃げ口上、責任転嫁、誇大宣伝、被害妄想に陥りがち 怒りの根拠が疑わしく不当

    近代ヨーロッパ人が残酷で攻撃的だったのは、わが身の惨めさと比べて、肥沃な地で豊かな自然に恵まれてのんびりと暮らしている幸せそうなアフリカ・アメリカ・アジアの人たちを羨ましがって嫉妬し、自分以下のレベルまで引きずり下ろそうとした ローマ帝国に強いられた屈辱をアフリカ・アメリカ・アジアの人たちに強いることによって鬱憤晴らしする企てだったのでは
    人類に対する近代欧米人のこれらの偉大な貢献と、他国・他民族に対する彼らの残虐な犯罪とはどちらが大きいか

    大東亜戦争において、日本軍とアメリカ軍・ソ連軍はお互いになるべく多く日本兵・一般民を殺すために協力し合っていたかのよう

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著者プロフィール

精神分析者、エッセイスト。1933年生まれ。早稲田大学文学部心理学専修卒。和光大学名誉教授。『ものぐさ精神分析 正・続』のなかで、人間は本能の壊れた動物であり、「幻想」や「物語」に従って行動しているにすぎない、とする唯幻論を展開、注目を浴びる。著書に、『ものぐさ精神分析』(青土社)、「岸田秀コレクション」で全19冊(青土社)、『幻想の未来』(講談社学術文庫)、『二十世紀を精神分析する』(文藝春秋)など多数。

「2016年 『日本史を精神分析する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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