硫黄島栗林忠道大将の教訓

著者 :
  • ワック
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784898311028

感想・レビュー・書評

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  • 硫黄島からの手紙・父親達の星条旗の背景知るのに良い作品

  • アッツ島は守る必要がなかった、硫黄島は死守せねばらなかった。そんな重要な島をどうしてあんな守り方しか出来なかったのか。残念でならない。日本の宿痾について一貫して論じた小室先生の絶筆である。

  • 日本人が忘れてはならない島がある。

     「硫黄島の戦闘で日本軍があまりにも強いのを見て、アメリカはこんな強敵と戦争するのはもうごめんだと考えた。
       この戦争の御蔭で、
      戦後の日本は米軍を殆ど無償で使うことが出来るようになった」

     これは本書カバーに記載されている文言からの引用です。本書を通読し、改めて著者の主張主旨がこの一文に集約されていると実感したので紹介しました。

     ここ数年、特に「硫黄島からの手紙」という米国発の映画が発表されて以降、この戦場のことを知った方は多いはずである。本書や他でも指摘されている事項ですが、「硫黄島からの手紙」という映画のタイトル自体は「イオウジマからのてがみ」と読みますが、「硫黄島」の日本語は「イオウトウ」と読むのが正しい。この間違いは、当時の日系人が「硫黄島」のことを「イオウジマ」と米軍関係者に紹介したところから間違ったまま定着されたと言われています。

     さて、本書の特徴といえばやはり大東亜戦争全体を視野にいれた多角的な分析にあると思う。「硫黄島 栗林忠道の教訓」というタイトルも情緒的・精神的なものに由来する命名ではなく、合理性から導きだされたタイトルだと言えます。

     何が合理的かと言えば、戦前の官僚機構(日本軍)のシステム上の様々な非合理性が敗戦の原因を多々生み出していることの指摘(本書では具体例がいくつか挙げられています)、また国民性や道徳律等、一見合理性では語れない部分も、それらを一つ一つの要素として用い、大枠で論じる際に合理的な論理で著者が意見を述べるところに合理性が垣間見えます。著者は多数の著書を遺されていますが、宗教論・経済論・法律論・科学論等多岐に渡っており、すべてを読んだわけではありませんが、一貫して合理・論理を大切にし展開されているのが一大特徴だと言えます。

     ゆえに、情緒的文章や感傷的なものはあまりないので、そちらにシフトした文脈を求めるのであれば他の著者のものも当たってみるといいと思います。尚、本書巻末には硫黄島に関する基礎資料や、硫黄島の戦闘に関連した人物を中心に日米の佐官将官クラスの軍人がコラムとして複数紹介されています。

     

  • 日本の地理はある程度わかっていると自認していたのですが、日米で壮絶な戦いがあった硫黄島の場所を、この本を読むまで正確に知りませんでした。

    本土、沖縄、グアム、南鳥島まで各々1200キロはなれた場所にある島で、戦略上においても、とても重要な島でした。戦死者こそ日本のほうが多いのですが、戦傷者数で比較するとアメリカが日本を上回るという、ある意味、日本の意地を見せた戦闘だったようです。

    この戦いと沖縄戦を体験して、アメリカは本土攻撃をあきらめ原爆使用に踏み切ったとのことですが、原爆使用の是非はともかく、日本が戦後に経済成長のみに重点をおけたのは、硫黄島での日本軍の踏ん張りに因るところが大きいのかもしれません。

    もうすぐ65回目の終戦記念日を迎えますが、私たちが今幸せを享受できているのは、日本のために戦ってくれた先輩達のおかげであること認識できた一冊でした。

    この本を読んでの驚きは、最後通牒と言われてきた”ハルノート”に書かれている項目には期限がなかったという事実(p147)です、期限が無いのは即時やれと解釈するのか、交渉の余地があるのかは議論になるとは思いましたが新たに認識した事柄でした。

    以下は気になったポイントです。

    ・硫黄島では日米あわせて2.7万人の兵士が亡くなった、日米合同慰霊祭が毎年3月14日に実施、世界中で戦った双方が合同で行う慰霊祭はここのみ(p21)

    ・海軍兵力には二乗均等の法則が適用されるので、ワシントン軍縮条約で戦艦・空母が米英5:日本3になったことは、戦力比は25:9ということになる(p30)

    ・日本は戦争が始まっても空母を殆ど造らなかった、アメリカは昭和18年ごろから最新式空母が続々と造られた(p43)

    ・日本はサイパンから飛び立つB29を1000機撃ち落しアメリカを驚かせた、1機製造に当時で60万ドル以上かかったから、航続距離の短い戦闘機P51を護衛につけるために硫黄島攻略を決定した(p48)

    ・硫黄島上陸3日目にして、戦死者;644、負傷者:410、行方不明者:560人であり、ノルマンディー上陸作戦での死傷者数を上回った、これは第二次世界大戦でアメリカ軍が行った全ての戦闘の死傷者数よりも多かった(p99)

    ・2月21日に木更津から発信した特攻隊21機(艦上戦闘機、艦上攻撃機、艦上爆撃機)は、空母サラトガを大破、空母ビスマルクを轟沈するという成果をあげた(p101)

    ・3月26日に最後の組織的な総攻撃があった、ゲリラ隊を指揮した武蔵野大尉が捕らわれたのは6月11日、最後の生き残り2名がアメリカ軍に投稿したのは4年後の昭和24年(p116)

    ・日本側の戦傷者:20933(死者:19900)、アメリカ側:28686、海兵隊:19920(死者:6821人、海兵隊:5931)であった(p116)

    ・硫黄島での凄まじい戦闘は、アメリカでは殺戮を目の当たりにした従軍記者によって瞬時に報道された、日本の大本営発表とは大違い(p123)

    ・緒戦において、米太平洋艦隊および英東洋艦隊も全滅した、ミッドウェーではアメリカが勝利したが、南太平洋海戦(ラバウル、サイパン・テニアン)では全滅させられたことは、アメリカ人には信じられないことであった(p126)

    ・硫黄島、沖縄戦により、九州上陸作戦は取りやめになった、本土決戦をせず戦後の日本にとって有利な日米安保保障条約を結び高度経済成長の繁栄に結びついた、一種の神風である(p128)

    ・アメリカの原爆投下によりソ連の発言権が全く無くなった、ソ連が北海道領有を主張したがアメリカに直ちに断られた、原爆により日本はアメリカにのみ負けたことになり、ドイツの4カ国統治とは異なり、アメリカのみの占領となった(p136)

    ・ハルノートには無理難題が書いてあったが期日が書いていなかった、これは最後通牒であるはずがない(p147)

    ・敵機64機を撃墜した”坂井三郎飛行士”は、アメリカの宇宙飛行士である”アームストロング船長”とともに「空の英雄20傑」に選ばれていて、今でも敬意を表されている、日本での扱いとは大違いである(p159)

    ・共同体とは、内なる規範と外に対する規範が異なる社会のことを言う、例えばユダヤ人の社会である(p167)

    ・戦争を収拾した鈴木貫太郎首相は、日清戦争から実践経験を積んでいて、連合艦隊司令長官、軍令部長も経験していた人物、彼の功績は日本の統治機構、国旗、国家、通貨、菊のご紋(天皇)も残した功績がある(p172)

    ・アメリカは硫黄島、沖縄のような激戦地を全て日本に返還している、これは世界史上まれなことである、戦勝国が敗戦国に領土を返還することは珍しい(p173)

  • 2012年3月21日

    装幀/神長文夫+広瀬優子

  • 硫黄島の戦いがいかに重要で、そしていかに激しく壮絶であったかが分かります。
    もう読みながら泣いて泣いて泣いて泣いた。

  • 日本の歴史の中に輝く栗林中将の戦記。歴史教育は大事だ。

  • 久しぶりに政治系の本。
    小室先生の本。
    「読め」と言われて半年がたってしまった。

    結局(?)やっぱり一番主張したいところは憲法なんだろうと思う。

    「硫黄島」が現代にまでどんな影響を与えているのか、
    も含めてすごい広範囲。
    小室先生ほどのジェネラリストはなかなかいないんじゃないか。
    スペシャリスト→ジェネラリスト
    はけっこういるけど、
    ジェネラリスト→スペシャリスト
    は、そういないと思います。
    そうなる前にみんな死んでしまう。

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著者プロフィール

1932年、東京生まれ。京都大学理学部数学科卒。大阪大学大学院経済学研究科中退、東京大学大学院法学政治学研究科修了。マサチューセッツ工科大学、ミシガン大学、ハーバード大学に留学。1972年、東京大学から法学博士号を授与される。2010年没。著書は『ソビエト帝国の崩壊』『韓国の悲劇』『日本人のための経済原論』『日本人のための宗教原論』『戦争と国際法を知らない日本人へ』他多数。渡部昇一氏との共著に『自ら国を潰すのか』『封印の昭和史』がある。

「2023年 『「天皇」の原理』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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