環境と文明の世界史―人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ (新書y 30)

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  • 洋泉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784896915365

作品紹介・あらすじ

人類が営々と築き上げてきた文明は、頻繁に変化する自然環境とともに興亡を繰り返してきた。人類の飽くなき知恵と欲望は、今日の「繁栄」をもたらしたが、次々に自然を破壊することで、地球環境の悪化をもたらした。人類の歴史は、自分たちが自然環境に生かされていることを忘れた滅亡への道でもあった。環境学、環境考古学、比較文明史の論客が、環境史の視点から人類の滅亡回避の可能性を論じ合った警世の書。

感想・レビュー・書評

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  • 人類の発祥から、古代文明、産業革命、そして人類の未来
    までをも、自然環境の切り口から描いた一冊。

    環境学、環境考古学、比較文明史・経済人類学をそれぞれ
    専攻する学者三人のフリートークと言う形で話は進む。

    飲み屋でのオヤジ・トークとも思えるようなノリも時々
    感じられるけれども、それぞれの考えを投げかけ合い、
    違いを認めつつ展開する知的トークは読み応え十分。

    同じ祖先を持つ人間とチンパンジーを分けたのは地殻
    変動が要因、ローマ帝国衰亡の原因をつくったのは
    キリスト教の拡大、毒ガス開発が人口の爆発的増加を
    招いた、中国はあと20年しかもたない、など"目から
    うろこ"級の説や、少々乱暴とも思える主張が次から
    次に時系列に飛び出してくる。

    十分検証されていない説も多くあるようだが、それが
    この本の価値を下げることにはならないだろう。
    人類の歴史に、これまでにないスポットの当て方をした
    ことの価値の方が勝っていると思うから。

  • 2001年刊行。◆石弘之(東大大学院新領域創成科学研究科教授、環境学)、安田喜憲(国際日本文化研究センター教授、環境考古学)、湯浅赳男(常磐大学教授、比較文明史・経済人類学)の3名による鼎談。テーマは広くいえば環境史であるが、テーマは非常に多岐に渡る。水・金属・火から農耕、遊牧、あるいは宗教・哲学・文明や、環境史を学ぶ意味まで議論の対象としている。にもかかわらず、掘り下げは深い(ただし、根拠の説明はほとんどない)。その意味で、本書を起点にして色々な書物にあたっていくのも一考であろうか。参考文献の一覧は挙げられていないが、文章中に引用があるので、ここを取っ掛かりにするのも良いかもしれない。それはともかく、レイチェル・カーソン「沈黙の春」の世界的な意義の大なることがよくわかるところ。

  • 資料番号:010190551
    請求記号:209カ

  • 環境学、考古学、経済人類学の権威たちによる三者鼎談。「人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ」という大風呂敷ながら、その内容は散漫になることなく、むしろ収まりきれない知的興奮に溢れている。ここで膨らまされたアイデアの数々は、学術的検証こそ他に紙片を必要とするが、読者をしてそこに動員させるに足る引力を持っている。西アジアと黄河文明のミッシングリンクをつなぐ長江文明の存在と日本人のルーツ、気候変動による二大民族(インド・ヨーロッパ語族と漢民族)の台頭と精神革命、オリエントの古代文明を支えた灌漑農業の体系とグレコ・ローマの古典古代を支えた天水農業の体系の違い、中華料理と日本刀と森林破壊、麦作文明における労働生産性と稲作文明における土地生産性(稲作文明から奴隷が発生しないのは何故か)、ロマネスクの丸窓とゴシックのステンドグラス、ウィスキーの樽とワインのアンフォラ、アマデウスの棺桶、年間雨量500mmの妙、植生の変化と精神生活の変化、果ては大気汚染を保護色にした蛾と鼻をかんだら真っ黒だった夏目漱石等々。環境がいかにして自分たちの生活、社会、組織に影響を与えていたかと同時に、逆に自分たちのそんな生活、社会、組織がどうやって環境を変化させてきたのか、博覧強記、快刀乱麻の270ページ。(近々新版が出ます。)

  • きわめて興味深い本だった。新書で、しかも三人の学者の鼎談による本で内容がこれほど刺激的で充実しているとはちょっと信じられないほどだ。著者のひとり安田喜憲の本については、このブログでもしばしば取り上げ、影響も強く受けてきた。彼はあとがきで、「今まで自分ひとりで考えていたアイディアが、鼎談によって何倍にもふくらみ、自分が思ってもみなかったまったく新しい世界が開け」たと語っているが、この本は文字通りそのような豊かな展開と深い洞察にあふれ、何冊かの分厚い専門書を読んだような読後感がある。

    ここでは、ムギ作とコメ作の文明を環境変化の視点をふまえてこの本がどのように論じているかを紹介しよう。

    四大文明はムギ作を基盤とした文明であった。そのため、これまでの世界史はムギ作を中心に描かれ、コメの文明は不当に扱われる傾向があった。ムギはコメに比べ生産性が低いので多くは牧畜を伴う。しかし近年、中国文明の源流は黄河流域ではなく長江流域にあったのではないかという説が注目されている。そして、長江文明は、牧畜を伴わない稲作文明であり、森の文明であった。

    日本史の通説では、弥生文化は朝鮮半島経由で大量の人々が日本列島に渡来したときに始まるとされていた。そうであれば、当然家畜を伴っていたはずなのに実際はそうではなかった。とすれば弥生文化の基本を作ったのは長江からやってきた越人である可能性も高い。

    どちらにせよ弥生人が牧畜を持ち込まなかった、ないしは縄文人が牧畜を取り込まなかったことは、日本文化のその後の性格に大きな影響を与えた。牧畜が持ち込まれなかったために豊かな森が家畜に荒らされずに保たれた。豊かな森と海に恵まれた縄文人の漁撈・採集文化は、弥生人の稲作・魚介文化に、ある面で連続的につながることができた。豊かな森が保たれたからこそ、母性原理に根ざした縄文文化が、弥生時代以降の日本列島に引き継がれていったとも言えるだろう。

    一方、ユーラシア大陸の、チグリス・ユーフラテス、ナイル、インダスなどの、大河流域には農耕民が生活していたが、気候の乾燥化によって遊牧が移動して農耕民と融合し、文明を生み出していったという。遊牧民は、移動を繰り返しさまざまな民族に接するので、民族宗教を超えた普遍的な統合原理を求める傾向がが強くなる。

    さらに彼らのリーダーは、最初は家畜の群れを統率する存在であったが、それが人の群れを統率する王の出現につながっていく。また、移動中につねに敵に襲われる危険性があるから、金属の武器を作る必要に迫れれた。こうした要素が、農耕民の社会と融合することによって、古代文明が発展していったという。これはまた、母性原理の社会から父性原理の社会へと移行していく過程でもあった。

    また天水農業によるムギ作は、かなり粗放的なので、奴隷に行わせることもできた。しかし稲作は、いつ何をするかの時間管理に緻密さが要求され、集約的なので、奴隷に任せることができない。稲作文明で大規模な奴隷制が発生した例は見られない。さらに、家畜管理の技術と奴隷管理の技術は連続的なものだったろうから、稲作・魚介型で牧畜を行わなかった日本では、奴隷制が発生しにくかったのではないか。

    さらにムギ作は、天水農業の下では個人の欲望を解放する傾向をもつという。水に支配される度合が少なく、自分が所有する土地を好きなように耕作できるからだ。一方稲作は、水の管理が重要で、共同体に属して協調しないと農耕がしにくい。その分、個人の欲望は解放しにくいわけだ。

    牧畜を行わず、稲作・魚介型の文明を育んできた日本は、ユーラシアの文明に対し、どのような特徴をもったのだろうか。

    ①牧畜による森林破壊を免れ、森に根ざす母性原理の文化が存続したこと。
    ②宦官の制度や奴隷制度が成立しなかったこと。
    ③遊牧や牧畜と密接にかかわる宗教であるキリスト教がほとんど浸透しなかったこと。
    ④遊牧や牧畜を背景にした、人間と他生物の峻別を原理とした文化とは違う、動物も人間も同じ命と見る文化を育んだ。

  • 未来を予測することは難しいとは思いますが、この本で解説されている”環境史”を学ぶことで、人類が自然に対して接した結果として今があることがよく分かりました。

    歴史で学んできたローマ帝国に始まって、主に欧米列強が活躍してきた歴史は、自然を破壊する(克服するとも言える)ことによって進歩してきたのだということ、自然に対する考え方が農耕民族とは異なることが理解できました。

    二酸化炭素を抑制することで達成できるかは判断出来ませんが、かつて地球を覆っていた森林を減らすことは人類が繁栄していくにあたって良くないことであると思いました。

    以下は気になったポイントです。

    ・福井県の水月湖で極地の氷の層(年層)に代わる「年縞」を発見した、そこには15万年分の年縞が堆積していて、過去の環境変動を数年の単位で復元できる可能性が出てきた(p28)

    ・現在のような赤道西風のパターンが形成されたのは、およそ90万年前、温暖期には北上して寒冷期には南下する、今は乾燥地域のゴビ砂漠は湿潤であった(p38)

    ・現代型新人はネアンデルタール人と比較して、自分たちの食料に必要な以上に狩りをした、非常に強い欲望の遺伝子が存在した可能性あり(p41)

    ・氷期と間氷期は過去90万年の間に10万年周期で交互に繰り返している、マンモスがなぜ絶滅したかは、現代型新人がいたせいかもしれない(p44)

    ・土器を作り出したことは革命的で、違う種類の食べ物を煮て、違う味が出せる、殺菌にもなることで一種の食料革命である(p52)

    ・中国文明が、南の長江流域で誕生したように、インダス文明もその南のラジャスタン平原の南で発生してから北へ移動している(p86)

    ・森を破壊する元凶は、鉄と中華料理であった、中華料理は日本料理の3倍の火力を使う、日本刀を原料にして加熱に強い鉄鍋をつくった(p125)

    ・森がなくなったことで引き起こされる人間の精神の変化が、物理的要因の変化(土壌の劣化、水分条件の変化)とともに、ローマ帝国の滅亡に起因する(p137)

    ・ローマ帝国末期にはペストや疫病が流行するたびにキリスト教が大きな力をもつ、その理由は愛のしるしとして、病人には手をさしのべるという教えがあったから(p142)

    ・三圃制農業において、土地を3分割して、1年目には1つ目に秋まき麦(人間用)、2つ目に春まき麦(家畜の餌)、3つ目は休閑地(放牧用で家畜の排泄物を肥料)とする(p146)

    ・7世紀のペストは記録が少ないが、14世紀の流行よりも強烈であった(p154)

    ・天然痘はウシの病気、麻疹はイヌのジステンパーが突然変異したもの、結核やジフテリアもウシ、インフルエンザはブタと鶏、ハンセン病は水牛に起因する(p173)

    ・日本は江戸時代には完璧なリサイクル社会をつくっていたが、1858年にロンドンでは「グレート・スティング事件」が起きて、テムズ川が腐ってロンドン中が悪臭に見舞われて町を逃げる人が多かった(p174)

    ・ペストがアルプスを越えなかったのは、アルプス以北が森の国であったから、ペストを媒介するねずみを食べる猛禽類がいたから(p177)

    ・スペインとポルトガルは国内の森林資源を使い尽くしていたので、15世紀には北大西洋やアフリカ西海岸諸島を征服して木材の獲得をした(p185)

    ・梅毒も強い系統のものは、感染者とともに共倒れになるが、弱い系統は人間と共存するようになる(p201)

    ・インカ人を攻めたスペイン軍は分が悪く、追い詰められて壊滅寸前になったが、コルテスが持ち込んだ天然痘がインカ軍に爆発的に流行ったのでスペインは勝利した(p202)

    ・軍隊は第一次世界大戦までは、戦死者よりも病死者のほうが多い、日露戦争では発疹チフスの死者の方が多い(p203)

    ・人類は1万年前に肉を諦め、穀物でカロリーと摂ることにしたが、再び肉にのめり込んだ(p207)

    ・南極点制覇争いにおいて、アムンゼン隊はイヌを食べながら進むが、スコット隊はポニーであったので食べられなかった(p209)

    ・肉1トンとつくるのに小麦は12トン、小麦1トンに1000トンの水が必要、1トンの肉に1.2万トンの水が必要(p213)

    ・アメリカの大平原地帯では、ミシシッピ川の支流の水を使い尽くしたので、この20年間は地下水を使い始めている(p215)

    ・人類にとっての大きな転機は、1)1万年前の農業革命、2)5500年前の都市革命、3)18世紀の産業革命、である(p224)

    ・アメリカの捕鯨産業は、1650年頃東海岸で始まり、1700年頃には取り尽くして北極海、1830年には太平洋、19世紀には太平洋東では壊滅したので日本に到達した(p235)

  •  これは勉強になった。人類史の壮大なパノラマを「環境史」という視点で読み解く作業が実に刺激的である。最近よく聞かれるようになったが、世界の大きな戦争は寒冷期に起こっているという。これは少し考えればわかることだが、寒くなれば暖房などのエネルギーを多量に使うようになる上、農作物が不作となれば大量の人々が移動をする。当然のように温暖な地域を目指すことになるから衝突は必至だ。

    http://d.hatena.ne.jp/sessendo/20100306/p9

  • これまでにない大きなタイムスケールでの環境論。
    知らないことが多すぎて、刺激的。

    金属の文明と森林の文明。
    鉄、精錬、燃料、武器。

  • まさしく目から鱗。世界史が人類による地球環境破壊の歴史だったなんて……。古代文明って、何であんな荒地や砂漠に?と思った事ありませんか。実は、緑豊かな大地を、森林伐採や略奪農法により疲弊した結果が、あの姿なのです。

  • 唯物史観からの反省に立った「環境史観」とも言うべき新しい視点が新鮮です。
    ★5つはやりすぎな気もするが、「読んでみて!」という意思もこめて。

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著者プロフィール

1940年東京都生まれ。東京大学卒業後、朝日新聞入社。ニューヨーク特派員、編集委員などを経て退社。国連環境計画上級顧問。96年より東京大学大学院教授、ザンビア特命全権大使、北海道大学大学院教授、東京農業大学教授を歴任。この間、国際協力事業団参与、東中欧環境センター理事などを兼務。国連ボーマ賞、国連グローバル500賞、毎日出版文化賞をそれぞれ受賞。主な著書に『感染症の世界史』『鉄条網の世界史』(角川ソフィア文庫)、『環境再興史』(角川新書)、『地球環境報告』(岩波新書)など多数。

「2022年 『噴火と寒冷化の災害史 「火山の冬」がやってくる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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