アーミッシュの老いと終焉

著者 :
  • 未知谷
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784896426304

感想・レビュー・書評

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  • キリスト教の一宗派で、宗教上の信条から現代でも原則として電気や自動車のような近代的な技術を拒否する暮らしを貫く、アーミッシュの人々。そんな彼らが送る生活を手掛かりに、現代における家族・地域コミュニティーの衰退によって問題化されている高齢者の孤立と孤独の問題を考えようというのが本書のコンセプトとなっている。

    全体が約260ページで、三章構成。
    第一章はカトリックへの反発から誕生した再洗礼派をもとに、メノナイトから分裂した成り立ちに始まるアーミッシュの歴史を解説する。そのうえで、現代のアーミッシュたちが送る生活の日常、非日常、ツーリズムなどについて紹介する。
    第二章は、本書のもうひとつのテーマである"老い"によりフォーカスし、アーミッシュの死生観や高齢者介護、それらを支えるネットワークについての洞察に充てられている。また、一・二章を通じて、現代のアメリカ・日本・世界との出生率や人口増加率、健康状態、自宅で最期を迎える割合などのデータを比較することでも、現代におけるアーミッシュの特殊性を浮かび上がらせる。
    終章となる第三章は30ページ強ともっとも短い。内容もアーミッシュの紹介を中心としていたここまでとは趣きを変えて、高齢者の孤立化をどのように防ぐかについての考察のための章となっている。この問題を考えるために前章までのアーミッシュの生活のほかに、中国桂林の高齢者による自発的なサークル活動やアメリカの高齢者向けリタイアメント・コミュニティーが参照される。

    アーミッシュたちの存在と生活ぶりについて常に好意的に紹介するスタンスで、否定的なものとしてはアーミッシュを離れてメディアでアーミッシュの暗部を"告発"したという一人の男性の存在が明かされる程度である。謙虚なアーミッシュの人々と歩を合わせるような、終始穏やかな文体で綴られる。

    本書で紹介されるアーミッシュの基本情報のなかでとりわけ重要と思われるのは、全てのアーミッシュは強制されているわけではなく、成人した段階で"普通の生活"を送る選択が可能だということだろう。そのための無期限のモラトリアムを与えられた若者たちは、流行の服装や酒・タバコ・車・ダンスやライブといった街の生活を楽しむのだが、結局ほとんどの若者たちは自らの意志でアーミッシュとして生きていくことを決断するという。この自己決定を経ているという過程が重要であり、人びとがアーミッシュとしての生活に不満を持ちにくい重要な動機のひとつとなっていることが窺える。

    アーミッシュの社会に見いだせるもうひとつの興味深い点は、先の選択権も含めた、その民主主義的ともいえる基本姿勢にもある。現代技術とどう付き合うかなどといった課題も含め、アーミッシュのなかでの決まり事は、「それぞれが意見を出し合い、全員でそれを吟味したうえで結論を出す」という。だからこそ、「一度決まれば皆が守り抜く」。このように全員で話し合いを重ねたうえで共同体としての結論を導き出すという姿勢は、国家運営のもとで行われる多数決による決定とはある意味で対照的である。これは、最近読んだ『くらしのアナキズム』にあった、多数決が分断を生み、原始的であると思われている過去の共同体はもっと本質的な意味で"民主主義"だったという指摘とも符合する。そう考えれば、自らの意志で前近代的な生活を選びとっているアーミッシュの人々が、このように"民主主義"な社会を営んでいるのはむしろ必然的なのかもしれない。また、多数決に関連していえば、アーミッシュの司教が選挙ではなく「くじ引き」によって選ばれるという事実も面白い。

    そして、このような一般的な現代社会とは一線を画すアーミッシュの特徴的な社会を可能とするのは、次のような宗教的な信条を背景とした、アーミッシュの人々が共有する基本理念によるものだとされている。
    「謙遜とは、自己評価の低さと自信のなさによるものではなく、相手からの理不尽な要求に耐え忍ぶことでもない。自分を大切にして相手を尊重し、相手との違いに慈しみの心で向きあい、それを受け入れることである。そしてこの謙遜こそが、イエスの生涯を貫く姿勢なのである」。

    現代社会と対比してアーミッシュ社会における特徴的な共同体運営のありようの一端を学ぶことができたことが何よりの収穫だった。先に触れた『くらしのアナキズム』では、国家と共存しつつアナキズムを実践する必要性が解かれていたが、国家への税金をきちんと支払いつつもコミュニティーを運営し、強制ではなく人々が納得したうえで結果的に人口の増加が続くアーミッシュの社会は、既にそれを実現しているといえるのかもしれない。アーミッシュの研究だけで十分に興味深く、逆に現代の高齢者の孤立の問題を考えるための終章については、蛇足の感が残った。

    (『本の雑誌』に掲載されていた服部文祥さんの書評をきっかけに拝読しました。)

  • アーミッシュという存在がずっと何となく気になってはいたものの、関連本など読んだことがなくたまたま図書館で見かけた本書を手に取りました。タイトルにある「終焉」という重々しさにも惹かれ。

    ジャンルは宗教で分類されていましたが内容からすると民俗学的ジャンルの方が本書は手に取られやすく読みやすく感じられるんではないかなと自分は考えました。
    アーミッシュの人たちの信仰に基づいた生活ぶりが実に興味深く、また人間本来こうあるべきなのでは、と思わされるような温かさ(というか敬虔さ)を感じました。
    これはもう現代の理想郷と言いますか…。

    高齢者が社会性を失わないで生きていくコミュニティのあり方として本書の終盤に中国桂林市やアメリカのリタイアメント・コミュニティについての有り様が紹介されていましたが、アーミッシュの方々の生き方も含めてどれも現代の日本人には到底真似できない生き方だと思われます。たとえ自分がそういう生き方を貫こうとしても、社会の有り様が受け入れてはくれないと思います。
    変人扱いされて終わるだろう…とミもフタもない殺伐とした言い方になってしまいますが。

    しかしこういう社会が現実に今あるということを知るのは無益ではないと思います。
    信仰というもの、老いるということ、社会と関わりを持ちながら晩年を生きるということ、そういうことを思考する上で知っておいたほうが自分の考え方や生き方のキャパシティを広げる材料の一つになるのではないかと思います。
    …私の周りにはこの本を勧めて読みそうな人は皆無ですけどね。

  • 「アーミッシュの老いと終焉」堤純子著|日刊ゲンダイDIGITAL
    https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/287705

    Publisher Michitani 未知谷のホームページ
    http://www.michitani.com

  • アーミッシュの人たちの存在は
    ずっと気になっている
    何年前の記事だったか、
    アメリカの新聞紙上で人質になった年下の女の子のために
    「(人質の)代わりに 私を撃って」と言って
    亡くなった銃撃事件があり、
    その人質の代わりに亡くなった少女がアーミッシュで
    あったことが強烈に記憶に残っている。

    人がどのように老いを迎え、そして終焉を迎えるのか、
    どんな国でも
    どんな時代でも
    持たざるを得ない必然の課題である

    アーミッシュの人たちの社会に
    精通している著者ならではの
    生身のアーミッシュの人たちへの
    インタビューの受け答えが
    まことに爽やかてある

    どうしても
    今の日本では…
    を 考えてしまう

    力作である

  • 最近まで、全く存在を知らなかったアーミッシュ。
    人から教えてもらい、電気を使わず牧歌的な暮らしをしているアーミッシュに興味を持ち、この本を手に取りました。

    なぜアーミッシュがアメリカで生活をしているのか、という歴史の部分や信念を知ると、物理的にも精神的にも、私には到底この暮らしをすることはできないと思います。

    同じ宗教の中での考え方の相違(アーミッシュは政教分離、再洗礼派)で、ひどい迫害を受けアメリカに逃げてきたのがアーミッシュです。学校を卒業する頃に、一度文明社会の中に行き、その後もアーミッシュとして生きるのか否かは自分で決め、その時に洗礼を受けます。

    文明や余分な学びは、人を傲慢にさせるだけということから、昔ながらの生活をしています。
    大切にしているのは、謙虚さと、人への思いやり。

    JOYという考え方があると聞き、私は「楽しむのが一番」ということか!と早とちりしたのですが、全然違いました。

    Jesus first、others next、you last、JOY
    イエスが最初、他の人がその次、あなたは最後、それが幸せ。

    そんな考え方を持っている人達です。

    さて、この本のテーマは、「老いと終焉」
    アーミッシュは、高齢者も自分の経験や知恵を活かす場が普通にあり、介護の段階になっても、一族のみならず地域の人達が自然に支え合う環境です。宗教観もあって、自分の老いや終わりを自然に受け入れている人が多いようです。

    対して日本。老老介護や孤独死が問題になっているのは、おそらくアーミッシュの暮らしと逆行しているからでしょう。

    でも、私のように、親戚付き合いや地域との繋がりを、煩わしいなぁと感じてしまっている人が多いのも事実…。

    本当は、そのあたりの繋がりを濃くして、みんなで高齢者を助け、逆に高齢者からも色々なことを学べる社会にするのがいいのだとは思います。

    この本をきっかけに考えていこうと思えたのが、
    とても大きな収穫でした。

  • 信仰があるというのは強いなあ。共同体で暮らせる人しか残ってないのだから当然か。それでも、羨ましくはある。

  • 宗教的なスタンスを含む成立の経緯や、コミュニティーにおける具体的な生活様式など、これまで個人的にほとんど知らなかったアーミッシュについての基本的な情報を読むことができ、大変興味深かった。
    一方で、アーミッシュ社会に対して心理的距離が至近な著者なので仕方ない部分もあるが(だからこそここまで取材できているという面もある)、トータルで主観的な描写が多く、いわゆる”中の人”感が随所で滲み出てしまっているのは若干残念。
    フロリダで過ごす冬の間、電気製品などの文明の利器の使用制限が緩くなるのはなぜなのか、納得に至る説明はなされず、まったく腑に落ちぬままだ…。
    また、障害者を指す英語の表現にまで言及し、インクルーシヴについて論じているくだりで、「障がいを持つ」とあっさり表記してしまっている点には正直、失望…。

    著者の他作を読んでいないのでフェアなまとめではないかもしれないが、せっかく面白いテーマなんだからもう少しフラット、客観的なトーンで広く解説してほしかったかな…という感想を持った。

  • ふむ

  • とても人間らしい生活をしている人たちのお話。
    私も一度訪ねてみたいと思った。

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