- Amazon.co.jp ・本 (252ページ)
- / ISBN・EAN: 9784895421683
作品紹介・あらすじ
Linuxは破壊的存在なり。インターネットのかぼそい糸だけで結ばれた、地球全体に散らばった数千人の開発者たちが片手間にハッキングするだけで、超一流のOSが魔法みたいに編み出されてしまう。一番大事なソフト(OSや大規模なツール)は伽藍のように組み立てられる。Linuxコミュニテイはむしろ、いろんな作業やアプローチが渦を巻く、でかい騒がしいバザールに似ている。
感想・レビュー・書評
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本書は、ソフトウェア開発の手法をのべている本ではあるが、その奥にあるのは、文化人類学が対象とするような、交換経済、贈与経済といった論点である。
オープンソース・ソフトウェアは、まさに贈与経済の原動力と同じエンジンによって駆動しているのである。ソフトウェアは形がないだけに、贈与経済の格好の実験場になっているのだ。もちろん、この贈与経済は、今後は、ソフトウェアだけではなく、かたちあるモノを扱う別の分野にも及んでいくだろう。
なお、原題は、「Cathedral and the Bazaar」。「Cathedral」は、仏教建築群を表す「伽藍」と訳されているが、一般的には「大聖堂」と訳されるのではないか?本書が「つくられたもの」より「つくりかた」に主眼を置いていることを考えるとなおさら「大聖堂」の方がふさわしい訳であるように思えてくる。ひとりの天才的な設計者の意図をその他大勢のものがつくりあげることを「Cathedral」方式といっていることから、一般的に西洋のものと思われる「大聖堂」の方がしっくりくるからである。しかし良くも悪くも、この「伽藍」という言葉が、東洋的な思想を誘うような雰囲気を醸し出しており、それが本書の成功の要因になったのかもしれない、などとも思えてくる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
1章 がらんとバザール
「目玉の数さえあればどんなバグでも深刻ではない」
伽藍方式(中央集権的でクローズドな方式)にとってはバグは根深くややこしい問題。何人もの専門家が、数カ月かかる。リリースまでの時間を取られる。
バザール(希望者がどんどん参加していくオープンな方式)では深刻ではない。リリースを一つ残らず専任の熱心な共同開発者が叩いてくれれば。
ボランティアで熱心な共同開発者…ハッカーたちが最大化している「効用関数」は自分のエゴの満足とハッカー社会での評判だ。SFファンダムに似ている。
インターネットの世界では最も限られたリソースは才能ある人々の関心の身。
いやいややる人たちをどんなに集めたところで、関心のあるボランティアにはかなわない。
2章 ノウスフィア(アイディアの世界)の開墾
ハッカーの所有権の発展(開拓地の所有に似ている)
・フロンティアの開墾
・土地所有の移転(プロジェクトの譲渡等)
・打ち捨てられた場所の占拠(打ち捨てられたり放り投げられたプロジェクトを整備する等)
オープンソースの文化では交歓経済より、贈与の文化となる。これは物質的な欠乏があまり起きない社会で生じる。
3章 魔法のお鍋
ソフトの価値は販売価値と、利用価値がある。
クローズドソースからオープンソースに移行するときに失われるのは前者だけである。 -
タイトルからはなかなか中身は想像出来ませんが、オープンソースコードの開発に関わる人ならご存じの方も多いかも。
僕は建築家がオススメする本ということで手に取りました。
3本の論文と著者インタビューと訳者解説で構成されています。
コンピュータソフトのコードをオープンにして、不特定多数の人間があーだこーだと好き勝手にソフトをいじることが、なぜ他にない出来の、真にユーザー目線に立ったソフトになっていくのか?その秘密が解説されています。
僕は建築家として、「何かを構成、構築」していくことに興味があります。
そして、オープンソースコードの開発手法とは真逆の立場にいます。
ただ、もし上記の考え方をベースに建築を考えたらどうなるんだろう?
と興味が湧くことも確かです。
東京の都市の増殖や拡大や改変はまさに「バザール方式」そのものなのかな?と思ったりします。
専門分野の外にある本を読むのも面白いものですね。 -
http://tdtds.github.io/esr_trilogy_ja/ のePub版。伽藍方式とバザール方式のマネジメントについての考察。ちゃんとを読みました。
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2007/05/26 読了 ★★★★
2013/01/27 読了 -
ハッカー文化の文化人類学的な分析は新鮮な視点で面白い。
社会科学系が結構好きな私にとって、知的好奇心をくすぐられる内容。
オープンソースについての理解も深まって俺得。
アジャイルにも通じるのかな。伽藍はウォーターフォール、バザールはアジャイル。
ネット上の翻訳
http://cruel.org/freeware/cathedral.html -
エリック・レイモンドの三部作(有名なのかな?)と対談等を納めた本.カジュアルな文体ではあるものの,書いている内容は知識と想像を要求する.
所々理解できなかったり納得できない部分があるものの,現在まで起こっているオープンソースの流れの理由が何となくわかる(わかった気になる).
情報が多く,中には説明が少ない部分もあるので,読む人を選ぶだろうけど,さらなる研究するような場合は非常に参考になるのではという感想でした. -
Linuxとオープンソースの普及に関する理論的根拠となり、かつ執筆されて10年以上立った現在ではIT以外の面でもその主張が実際のものとなりつつある、正に現代の名著。
オープンかつ分散化された開発にもかかわらずWindowsの様な商用ソフトよりも高い信頼性と品質を手に入れたLinuxの謎を解く「伽藍とバザール」、そんなLinuxがなぜ無償で開発されたのかを理解する視点を提示する「ノウアスフィアの開墾」、そしてそれらが実経済上でどのようなビジネスモデルを開拓していくかを見通した「魔法のおなべ」の3篇。どれも平易な言葉と的確な訳出がされており、IT業界固有の難解な専門用語も殆ど出ない。
しかし、これを書いてる2010年現在ではフリーの経済云々というものが流行ってたりするけど、結局元の考えはここなのね、って感じで思わず笑った。とはいえ、本書は決してオープン化万歳、全て無料化みたいな一面的なものではなく「どのような条件化の場合に」オープン化すべきなのかがきちんと指摘されており、極端な主張をしているわけではない。もはやインターネット型ライフスタイルから抜け出す事が不可能になってしまった21世紀の僕らに捧げられた、前世紀からの最後の贈り物。
そうそう、蛇足だけど、この本自体もオープンソースの考えに基いて出版されている。つまり、この本に書かれている内容はインターネットで無料で公開されていて、誰でも自由に読めるし転載も自由。にもかかわらず、こうして出版されて買うこともできる。そして、自分はその上で買うことを選ぶ。
そう、一つの新しい形。 -
20110723読了。