私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活

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  • ブックマン社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784893088437

感想・レビュー・書評

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  • 【樋口直美さんインタビュー】レビー小体型認知症は認知症というより意識の障害 | 認知症ねっと
    https://info.ninchisho.net/archives/7038

    レビー小体病特有のリアルな幻視を見る本人の気持ち・思い・考察|樋口 直美*『誤作動する脳』医学書院|note
    https://note.com/hiiguchinaomi/n/naee40feedd2e

    私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活 - ブックマン社
    https://bookman.co.jp/book/b382917.html

  • レビー小体型認知症の樋口直美さんの著書。

     樋口さんの著書は「誤作動する脳」に引き続き2冊目です。
     前回私が読んだ「誤作動する脳」は、「ケアをひらくシリーズ」の特徴ともいえる(恐らく意図したわけではないでしょうが、シリーズ共通して本当に語り口が柔らかく分かりやすいです)、一般人にも理解しやすい「著者との対話」のような手触りが印象的な1冊でしたが、こちらは樋口さんの日記を(文字数などの制限に合うように)編集したものだそうです。

     「誤作動する脳」で著者の考えや体験について、ざっくりとアウトラインを知った上で読んだのが良かったのか、細部に至る過程が著者の心の声となって届くようで、とても理解しやすかったです。

     実際、このような形で日記を公開することって、病気を広く知ってもらうという意義のあることだとは分かっていても、なかなか勇気がいることだと思います。冒頭でも「家族も知らない内容です」(p.4)と言っておられて、著者の「レビー小体型認知症について広く世間に知ってもらいたい」という熱い想いを感じました。

     自分なりに読み取ってみて感じた本書の主題は、
    ・認知症は誤解されている
    ・レビー小体型認知症はアルツハイマー病とは違う
    ・認知症は人が作り出した人災と言える
     の3点です。

     樋口さんの著書がきっかけでレビー小体型認知症について知ったのですが、この病気は名前に「認知症」とはついていますが、アルツハイマー型認知症とは全く異なるものです。
     とにかく、我々がTVの特集や雑誌記事などで知らされている「認知症」とは全く違っていて、著者の言う通り「脳の不具合」「誤作動」で起こることで、発達障害や脳梗塞の後遺症、高次脳機能障害に近い感じなんだと思います。時々ひどくなって悪化するけれど、また元に戻ったりもするところなど、「誤作動」という表現は本当に的を射ています。

     「誤作動する脳」の感想にも書いたのですが、著者はとても聡明で、しかも研究者肌ということが本書で垣間見えます。
     疑問に思ったことは自分でどんどん調べて情報を集め、集めた中から効果がありそうなものは自分の身体を使って次々試してみる。そして効果のあったものやその感触を記録する。
     誰だって、自分の病状を少しでも改善したいと思えば努力は出来ると思いますが、著者は本当にそのあたり、「徹底的にやる」という感じがします。
     その明晰な判断と、取れる手段は臆さず試しているような勇気のあるところに人間としての根源的な力のようなものを感じましたし、諦めずに前へ進む姿勢が本当にすごいです。
     『私は敵を知っている。戦う武器も持っている。』(p.107)
     この言葉、カッコイイなと思いました。混乱の只中にいても冷静さを忘れないという雰囲気を感じさせます。

     実際、同じ立場に自分がいたら、どんなことをするだろうと考えた読者も私だけではないと思います。
     突然現れる謎の男。
     台風の日には毒を飲まされたように身体が辛い。
     楽しみにしていた友人との外出も、途中で断念。
     ボーっとしてしまい、駅の看板が突然読めなくなる。
     まるで、不思議の国のアリスの世界へ迷い込んだみただなと、読んでいて感じました。自分の常識の通じない世界へ、知らないうちに連れて行かれてしまったような、そういう混乱だったのかなと想像します。

     「何のキャリアもない、頼りにならない私」(p.5)
     と書いておられますが、医者に頼り切る患者になるのではなく、自分からどんどん行動を起こして改善法を探り、更には病気の認知度を高めようと行動されておられて、本当に凄い方だなと感じました。
     何か出来ることはないのかと医師に尋ねたところ、「何もすることはない」と言われて絶望したと書かれていますが、それを覆すような行動の数々が記録されています。
     先人たちの置いた石にひとつと言わず、10個20個と今も石を積んでおられるのが、樋口直美という人なのかもしれません。

  • レビー小体型認知症と診断された
    樋口直美さんの著書。

    ご自身でも書かれているが
    本当に強い方だ。

    日替わりで荒波のようにアップダウンする
    自律神経症状に翻弄されつつも
    そのときどきの体調や感情を
    実にクールに分析・記録している。

    幻視かそうでないかは
    本人にはまったく区別できないことや
    体調のよしあしと関係なく幻視は起こることなど
    身をもって経験したことの記録は
    さまざまな人にとって貴重な情報となるだろう。

    そしてあらためて
    アルツハイマー型
    レビー小体型
    前頭側頭型など
    まったくキャラクターの異なる症状を
    「認知症」とひとくくりにしていいものか
    考えさせられる。

    なんの先入観もなく本書を読まれた方は
    樋口さんの理路整然とした語り口と
    いわゆる一般的な「認知症像」とのギャップの大きさに
    驚かれるに違いない。

  • 人生はアップで見ると悲劇。遠くから見るとコメディだ

  • 40代でレビー小体型認知症になった著者の日記。数年におよぶ体調不良の末に、レビー小体型認知症と診断されたところから日記は始まる。体調の波にふりまわされ、医者の診断を訝しみ(実際にうつ病と誤診されて悪化したのだから当然)、先行きを悲観し、家族にどう伝えるか悩む、という病とともに生きる日常が、自分の言葉で赤裸々に語られる。当然、病気の症状についても語られる。幻覚、と言われるとぼくは、えっどうして幻覚だとわからないのだろう? と不思議に思っていたが、著者によれば本物とまるきり区別がつかず、おかしい、と思っても実際に見えており、いきなり消えてしまって始めて幻覚だとわかるのだそうだ。

    丹野智文や、東田直樹の本を読んでも思ったが、認知症や自閉症という病名/症状でひとくくりにして、「○○はできないだろう」「△△すべきだろう」と考えるのは間違いだな。一人ひとり症状も、できること/できないことも異なる。加えて、病気や症状を切り離した人間としての個性も当然異なるわけで、そういったさまざまな属性を持っているひとりの人間に対する対応が、一つのパターンに収まるわけはない。
    著者は調子の波はあるものの、思考能力は損なわれてはいない。著者が「ほんとに認知症なんですか?」と驚かれる場面は何回も出てくるし、そういう経験をする「当事者」は少なくないようだ。病名を変えればそうした思い込みはいくらかは和らぐ気はするが、それが解決策かというと違うと思う。気をつけよう。

    著者は日記の中で前向きに生きることを宣言し、患者の一人として積極的に発言する活動も続けているようだ。よかった。

  • 先日読んだ「誤作動する脳」の著者が以前に出している本。2015年。順番を逆に読んでいるので、まだレビー小体型認知症との折り合いが今ほどついてなかった頃の記録、という印象を受けた。

    自閉症や高次脳機能障害の人の本を読んだ時にも思ったけれど、脳の働きに関する症状で案外当事者が困っているのって身体症状で、しかもそれが他者(医師も含めて)から軽視されがちなのではなかろうか。

    ついつい特徴的な症状や、周りの人が困るような症状に目が向きがちだけれど、本人は体の具合が悪ければ当たり前に辛いだろうと思う。忘れがちなポイントなのでメモしておく。

  • レビー小体型認知症を発症した著者がうつと誤診され薬の副作用に悩まされつつ正しい診断に至り回復に向かうまでの日記。
    漠然と持っていた認知症に対するイメージがすべての患者に当てはまらないこと、症状も千差万別であることを知った。

    当事者の「意識」はあくまではっきりしており、幻視や幻聴を訴えることで周りからはおかしくなってしまったのでは?ととられることはさぞかし辛かろう。
    また、症状には波があり右肩下がりではないこと、回復の見込みがあることに勇気づけられる当事者や家族もおられると思う。

    症状に悩まされながらもご自身で調べ、学び、他の患者や家族とつながり続けた著者の聡明さ、精神力の強さに頭が下がった。

  • うつ病の誤診から、悪化していく様子、
    そのときの気持ちの揺れ動き、
    そして理解してくれるお医者さんに会った後だんだん再生していく、
    というストーリー(実話)

    レビー小体型だとこのような症状がでるのか、患者自身はこう感じるのか、
    というのがよくわかる。

  • 40代で認知症と診断されたら、果たして私たちは、どんな気持ちになるでしょう。

    認知症にはアルツハイマー型、血管性、前頭側頭型、レビー小体型など様々な種類があります。
    この中でもレビー小体型認知症は、脳内にレビー小体という物質が溜まって起き、幻視、幻聴、幻臭など、少し特殊な症状を引き起こします。
    私もレビー小体型認知症という名前と、このような症状を伴うことは知っていましたが、認知機能症状の低下とともにこれらの症状が合わさり、どんどんと機能低下が進んで色々なことを忘れていく病気だと思っていましたが、この本を読み、考えが改まりました。

    著者は、40代に入り、抑うつ気分や他にも様々な症状が出現し、受診したところ、うつ病だと診断され、10年くらいにわたって、抗うつ剤を処方されてきましたが、服用するとさらに症状が悪化して辛い思いをされました。

    幻視が見えるようになり、毎回、それにおびえます。
    本物と見分けがつかないくらいリアルなので、本物だと信じているのに、それがある瞬間、パッと目の前で消えたらどうでしょう。
    自分の症状を調べていくうちに、レビー小体型認知症の症状と当てはまることに気づきます。そして、この若さでそうなってしまったことに、傷つき、どうしようもない不安に襲われるのです。

    この本は、著者の日記なのですが、その心情がよく吐露されていて、迫りくるものがあります。
    症状が良い日と悪い日とで気分が大きく違い、良くなったのではないか、と希望を持ったり、もう駄目だと思ったり、心が大きく振れます。
    家族が知ったらショックを受け迷惑をかけるかも知れない、と家族や友人には話すことができなかったため、幻臭等でにおいを感じなくなり、食事の味付けがうまく出来なくなり、ある瞬間に色々な記憶が抜け落ちることがあり、モノがどこにあるか分からない、言ったのに聞いてない等、トラブルも増えてきて、さらに悩むのです。
    少しでも調子が良いときは、運動したり、活動して、何とか進行を遅らせようと努力します。

    この認知症は、確かに認知症状も伴うけれど、著者の日記では、ある文字を見ても、それが何と読むのか全く分からなくなったり、言葉が示す意味を思い出せなかったり、ある目的地に行くために歩いていたら瞬間的に、見慣れたその場所が全く見覚えがない場所になってしまったりするのですが、少し時間が経つと、また消えた記憶がよみがえる(考えて思い出した、というのとは違うようです)ので、一般的な認知症とは、少し違うような気がしました。

    このほかにも随伴症状として、自律神経失調(急激な低血圧、徐脈、大量の発汗等)、強い倦怠感、抑うつ感、気を失うかと思うほどの突然の眠気等々、非常に多くの症状が出たり消えたりしていて、ご本人は「ガンダムのスーツを着ていつも操縦している自分の体が誤作動を起こして自分の思ったように動いてくれない」と表現しています。

    認知症の書籍で、医師や家族が書かれた本は沢山ありますが、本人が出された書籍は、珍しいのではないでしょうか。
    読めば読むほど、本人の辛さ、苦しみ、不安、心の揺れが迫ってくるようによく理解できました。
    ご本人も、症状緩和の為に、様々なことを試しています。

    身近にこのような症状を持った方、医療・福祉関係者、そして将来認知症になる可能性がある誰もが、この本を読むに値するのではないかと思える1冊でした。
    読後は、きっと症状を抱えた方へのかかわり方も変わってくるような気がします。

    2019/05/22

  • 遠方に住む父が、レビー小体型認知症(以下レビー)と診断されていたことを知る。

    父が、どのように苦しんでいるのだろうか、どんな世界を見ているのか、
    父が何を考えているか、どんな思いをしているのか。

    レビーの情報を必死で収集した。

    その過程、YouTubeで本著、樋口直美さんの講演を偶然聞いた。

    「発症は11年前と診断されているが、現在も思考力、記憶力の低下はない」
    「レビーの場合は脳はほとんど萎縮しない」
    「ストレスを無くすと認知機能の低下はない」等

    絶望の中にいる私に救いを差し伸べてくれる講演だった。

    そして、講演者が本を書いていると知り、本著を手に取る。

    この本を読み、私は、彼女の心(父の心)に同化する。

    *(P162)
     残したい。私の考えたこと、感じたこと。
     私という人間(正常な思考力を持っていた私)が存在していたこと。


    正常な思考を持つ作者の、認知機能がいずれ失われるだろうという恐怖。


    *(P166)
     心のどこかで、いつも助けを求めている。何か掴むものはないかと手を伸ばしている。
     でも結局、自分で背負っていくしなないのだとわかる。
     誰もが自分の人生を生きることで精一杯だ。
     私は、夫を支えることすらできないし、仕事に追われる夫にも私を支える余裕はない。それは仕方がないこと。まして友人にそれを求めても仕方がない。友人は、時々、サポートをくれる。それで十分だし、それを感謝しよう。
     覚悟することなのだと思う。自分の人生の重荷を自分で背負っていくのだと覚悟すれば、やっていける。逃げ腰だから、だめになる。肚をすえて、正面から取り組めば、そうそう悪いことにはならない。
     自分の人生を自分が生きていくという覚悟さえあれば、それが、どんなに苦難に満ちたものであれ、傍からはみじめにしか見えないものであれ、満足して死んでいけるだろう。人生の主人公として、主体的に生きたのだから


    全力で生きる、という覚悟。


    *  
    父がレビーとなったことはとてもとても悲しい。
    でも、悲しいけれど、いつまでも泣いているわけにはいかない。
     
    私に今できることは、嘆き悲しむことではなく、
    ・父の認知機能の低下をできるだけ衰えないようにする方法を考えること。
    ・父に楽しく、できるだけ長生きしてもらう(その間に、特効薬ができるのを待つ)
    ・長生きしてもらう間に、できるだけ親孝行をすること。
    ・母の介護の負担、精神面の負担を減らすこと。
    ・2人を笑顔にすること。
     
    どうすれば、それが可能か?
     
    考えなければいけない。
    考えて、それを一つずつ実行しなければいけない。
     

    著者は言う。
     
    (P205)
     この闘いはeasyじゃない。知力、感性、精神力、総動員しなければいけない。
     自分の脳の中で起こっていること、身体の中で起こっていることに集中し、耳を研ぎすませ、かすかな音を掴み、比較し、言語化し、主治医と一緒に考えていかなければいけない。でもその音は、私自身にしか聞こえない。経験したことのない、どこにも書かれていない、誰も知らないことだ。どんな医師にもわからないと思う。この微量な感じをわかれと言っても無理だ。
     私自身が、患者と観察者と治療者を兼ねなければいけない。なんて厄介なんだと思う。でも他に選択はないのだから、やり遂げるしかない。

     

    現実と向き合う覚悟を与えてくれた、作者とこの本に感謝したい。
     
    私は、この本から、彼女から、「希望」を渡された。
    生きるエネルギーを分けてもらった。
     
    レビー当事者、関係者たちに読んで頂きたい。

    この本には希望がある。
     


    その他感想
    ・用語とその意味が併記されていて分かりやすいです。
    ・薬をどれぐらい自分に投与したかと、その症状の結果、記録が非常に参考になります。

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著者プロフィール

樋口直美(ひぐち・なおみ)1962年生まれ。50歳でレビー小体型認知症と診断された。多様な脳機能障害のほか、幻覚、嗅覚障害、自律神経症状等もあるが、思考力は保たれ執筆活動を続けている。著書に『私の脳で起こったこと』(ちくま文庫)、『誤作動する脳』(医学書院)、『「できる」と「できない」の間の人』(晶文社)等がある。

「2023年 『レビー小体型認知症とは何か』 で使われていた紹介文から引用しています。」

樋口直美の作品

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