- Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
- / ISBN・EAN: 9784892571299
感想・レビュー・書評
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異常な作家アンナ・カヴァン。真冬に風邪の高熱下で読んだ「氷」が異様な迫力をもって印象深かった。短編集であるこの本も、色彩感覚にあふれて明るい雰囲気の作品も不安、不審、絶望、孤立といったネガティブな感情に覆い尽くされます。だから面白いということはないのです。
このような作品に共感できる感情状態ということは自分もかなり追い込まれているということがわかるPCR検査的な位置付けの作家です。今は、これは異常だなと感じることができるので私は病気ではないということかな。病的異常さが気になっていつまでも印象に残る危険な作家だと思いす。 -
過剰な光と色彩は静寂を八つ裂きにし、狂気の悲鳴を響かせる。日々は果てしなく罅割れ、空虚な荒廃を露わにする。心には強迫観念が巣くい、魂の救いなど現れず、手の甲では幻影と幻想が踊り、手の平で掬えるものは微塵もない。原罪のない刑罰と現在のない未来。現実とは永続する悪夢。季節は孤独増幅装置として作動し、暦の上に真っ赤な血を流す。夕日が寂寥を嘔吐する路地は「求めよさらば与えられん」とは程遠い場所。どこにも逃げられない。絶望の影を踏み、影踏みばかりしているわたしの惨めな背中に、世界の無関心な一瞥が投げかけられるだけ。
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草地は緑に輝いて
著作者:アンナ・カヴァン
文遊社
フランス在住の裕福なイギリス人の両親のもとにヘレン・エミリー・ウッズとして生まれる。1920年~30年代にかけて最初の結婚の際の姓名である。ヘレン・ファーガソン名義で小説を発表する。幼い頃から不安定な精神状態にあり、結婚生活が破綻した頃からヘロインを常用する。精神病院に入院していた頃の体験を元にした作品集「アサイラム・ピース」からアンナ・カヴァンと改名する。終末的な傑作長篇「氷」を発表した翌年の1968年死去。
タイムライン
https://booklog.jp/timeline/users/collabo39698 -
アサイラム•ピースや氷などの代表作を一通り読み終えた流れでこちらの短編を読んだ。
アンナ•カヴァンの小説は実験的な側面も強く、分かりにくいといえば分かりにくいのだが、嫌になって投げ出すこともなく、最後まで読むことができる。なぜかと言えば奇怪なイメージを絵画を描くかのように描写的に小説の中で表現しているからではないかと思った。そして登場人物達は大抵の場合、不安神経症のような状態に陥っており、自分としては何だかそんな不安定な登場人物達に共感を抱いてしまい、執拗に描かれる心理描写はどこか他人事とは思えないのである。それとユーモア感覚もあると思う、カフカのような雰囲気でちょっと分かりにくい感じではあるのだが。
アンナ•カヴァン自身はヘロイン中毒という点を小説に結びつけて、センセーショナルに語られたくなかった(?)らしいのだが、自分としては作者のライフスタイルはどうしても小説に滲み出てしまうのではないか?とも考えてしまう…。安易な考えではあるが、突然突き刺すような不安に襲われるような描写はどこかしら薬物影響下の不安症状のようにも思えるし、天上に迎えられるような感動的な描写があった後、天の裂け目から不安の手が迫るような展開もその感覚の濃厚さにおいて薬物によって圧縮された時間のようなものを感じさせるところではある。とは言っても、それは自分の考え過ぎとも言えることだ…。結局のところ、健全な人間であっても心の皮を一枚破って仕舞えば濃密な感覚が充満する場所が広がっているのだ。この短編集では、そんな自分の中に眠る濃密な場所を大いに刺激された気がする。この本を読んで、筆者は心の深いレベルにあるイメージを凄まじい描写力でもって文章化できる稀有な作家なことには間違いなく、そして言葉の選び方や風景の切り取り方などとても現代的な感覚であり、素晴らし過ぎると改めて感じ入ってしまった。 -
結構気合いというか、どんより沼に突き落とされる覚悟で開いたが、全然読みやすく面白かった。ものすごく短いのもあるけど、いい感じにまとまった短編集。あんまりユーモアさっていうのはイメージになかったけど、今作には見受けられる。なんだかずーっと引きこもって、ベッドと机の往復人生と思ってたが、生涯に渡って世界各地を旅して回っただとう?そうなのね、今回は高等民族ゆえの、脇汗かいて労働する人間とは違う、なんだかそういう目線が気になった。今までのイメージと違い、穏やかでしっかり面白い感じ。読みやすい。