えーえんとくちから 笹井宏之作品集

著者 :
  • パルコ
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感想 : 62
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784891948405

作品紹介・あらすじ

透明で、永遠かと思えるほどの停滞を軽々と飛び越えてしまうあざやかな言葉。『ケータイ短歌空を飛ぶコトバたち…』『あなたの歌に励まされ〜歌人・笹井宏之こころの交流』NHKドキュメンタリーで大反響を呼んだ、やさしい言葉。

感想・レビュー・書評

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  • わかったとはとても言えないけれど、心がしんとしたり、ふわっとしたり、すごく動かされたのは確かだった。
    小難しいわからなさではなく、どちらかと言えば、突拍子もないわからなさで、
    不快なわからなさではなく、もどかしいわからなさだった。

    同じような経験をしたことがある一句。

    ○ふわふわを、つかんだことのかなしみの
    あれはおそらくしあわせでした

    後になってじわっとふわっとくる幸せな感じが沁みます。

    幸せ続きで…

    ○手のひらのはんぶんほどを貝にしてあなたの胸へあてる。潮騒

    家族の幸せ…

    ○ひろゆき、と平仮名めきて呼ぶときの祖母の瞳のいつくしき黒

    辛い病床…

    ○水仙にアイスピックを突き立てて祈りのような言葉を吐いた

    ○息抜きをしているひとに栓をする すべてがぬけてしまわないよう

    ○ブレーカー落としてまわる 人生に疲れた人たちのなれのはて

    ○ひたいから突き出ている大きな枝に花を咲かせるのがゆめでした

    ○すこしずつ存在をしてゆきたいね なにかしら尊いものとして

    ○思い出がしおれてしまいそうなときあなたが貸してくれた霧吹き


    作者がどんな病だったのかよくわからないけれど、これらの短歌から、私の持病と似ている部分があるのかな?と感じた。
    疲れて体がもう休むよって言って、生きるのをやめてしまった感じ。


    [きれいごとのはんぶんくらいが

    そっくりそのまま しんじつであるといい]

    最後のこの言葉に、とどめを刺されました。

    • りまのさん
      avec totoさん、こんばんは。
      こんな深夜に、ごめんなさい。
      えーえんとくちから、文庫で持っています…… はずなのですが、本の山の中...
      avec totoさん、こんばんは。
      こんな深夜に、ごめんなさい。
      えーえんとくちから、文庫で持っています…… はずなのですが、本の山の中、いくら探しても、見つかりません。探すのを諦めた頃、出てくるのでしょう。
      totoさん(と、お呼びしますね)も、作者とよく似た病をお持ちなのですか。それは心配です。病が癒えますように、お祈りいたします。
      私も、totoさんが上げられていた、最後の詩に、心うたれました。
      全ての人が、しあわせでありますように。叶うことのない、美しい願いです。
      この方の歌集、私はブクログのレビューアーさん達から、紹介されました。とても感謝しています。avec toto さんも、この本を読まれたのかと思うと、嬉しいかぎりです。とても好きな歌が、たくさんあります。toto さんの選ばれた歌と、重なる歌を見つけると、嬉しくなりました。
      素敵なレビューでした。
      ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。(•ө•)♡
      2023/05/06
    • avec totoさん
      りまさん、コメントをくださっていたのですね。テレビで笹井宏之さんの特集をしていたので、どんな句集だったか見直していたら、コメントに気づきまし...
      りまさん、コメントをくださっていたのですね。テレビで笹井宏之さんの特集をしていたので、どんな句集だったか見直していたら、コメントに気づきました。今まで気づかなくてごめんなさい。でも、気づけて良かったです。とても嬉しいです。

      レビューを書いてまたしばらくの時が経ちましたが、あの頃よりもまた少しより理解できる句が増えたように思います。その分いっぱしに辛さも経験たのかな?

      改めて、笹井宏之さんは、何とも優しい歌を書く人だなと感じました。図々しいけれど、お友達になりたいと思ってしまいました。
      2023/10/21
    • りまのさん
      avec totoさん
      コメントのお返事を、どうもありがとうございます。
      お返事をいただいてから、この本、部屋の中からようやく見つけ出しまし...
      avec totoさん
      コメントのお返事を、どうもありがとうございます。
      お返事をいただいてから、この本、部屋の中からようやく見つけ出しました。また、ゆっくり読み返そうと思います。見つけ出すきっかけをいただき、ありがとうございます!
      2023/10/21
  • 『天井と私の間を一本の各駅停車が往復する夜』

    『風という名前をつけてあげました それから彼をみないのですが』

    このニ首を詠んだ時の笹井氏に、思いを巡らせる。
    病床で天井を見上げることしかできず、眠れない夜。時間はゆっくりとしか進まず、夜明けは余りにも遠い。
    視点は天井へ向かい、次は自分の内面へと深く降りてくる。きっと暗い思いがよぎり、孤独と絶望に苦しむこともあっただろう。
    だが、動けない身体に閉じ込められたはずの私の魂は、一方でどこまでも広がっていくこともできるのだ。風は自由の象徴だ。たったいま吹いた風は止んで消えたかに見えて、世界中の空気を揺らし伝播していくのだから。
    この時、視点は自意識のくびきを離れて拡散して行き、もはや身体は透き通って消えていく。

    僕はここに永遠を解く力をみる。
    風も水も月の光も、儚く移ろい、誰もその形を留めることはできない。だが、移ろい流転していくことこそが永遠なのだろう。
    笹井氏の歌がこんなに優しいのは、個人の苦しみ悩みに向き合った末に我執を超えて手に入れた、透き通った世界にいるからではないだろうか。
    “いま” “ここ”を軽やかに越えて、美しい言葉で。

    『風。そしてあなたがねむる数万の夜へわたしはシーツをかける』

  • 歌人・笹井宏之の作品集です。

    歯ブラシ、マンホール、鮭フレークなど、生活の中にある言葉たちが、笹井さんの歌の中ではいつもと違う雰囲気をまとうのが不思議。
    現実に根ざしているふりをした、幻想的な世界を眺めているような気持ちになりました。

    澄んでいて、儚げで。
    本書を読みながら、26歳という若さでこの世を去った歌人は、普通の人よりも死を近しいものに感じていたのかもしれない、とふと感じることが何度もありました。

    母の中に少女を見出す歌から感じられる、なんとも優しいまなざしが忘れられません。

  • 清浄な空気と音楽に満ちた守りたくなるような事ども.私の周りにもあるかもしれないと気づかせてくれるような時間.やさしく心に染み入る短歌です.

  • 〈えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい〉


    しんとした森の中で、冷たい水に足をひたしながら、歌を詠む。
    私が歌集を読んで感じた、笹井さんの勝手なイメージだ。

    人間として、尊いものとして、日々を見つめるその目はあたたかい。
    ふわふわとした幸せをつかもうとする指は繊細で、ペンを持てば、短歌というちいさな宇宙をつくり出す。


    〈拾ったら手紙のようで開いたらあなたのようでもう見れません〉

    〈ふわふわを、つかんだことのかなしみの あれはおそらくしあわせでした〉


    こんな風に透明な目で、世界を見つめてみたい。

  • これを読むなら、本当は前置きを一切なしで読んでみたい。
    この人がどういう人なのか、どういう歌なのか、この歌集が作られた経緯など、そいうことにとらわれがちになるから、事前の情報無しで、一度手に取って読んで、何を感じたか、それだけを大事にしたい。帯も取り外したい。

    たくさんある歌の中で、何かを感じた歌は、ちゃんと残しておきたい。この歌を読んでこう感じた、という記録をつけておきたい。
    本も歌も鏡のようなもので、その時々の自分をうつしているから、明日になって同じものを読んでも何も感じられない事がある。だから、ちゃんと残しておきたい。

    頭に映像が浮かぶもの、体に染み込むもの、よくわからないもの、たくさんあります。よくわからないものから、何かを感じ取れる日まで、何度も読み返したいと思います。きれいな鏡です。映る自分を探してください。

  • 思わず口に出して、声をあげて読みたくなる。
    そして、その情景を頭の中で想像して、反芻したくなる。
    時々、取り出してページを開きたくなる。

  • ●この森で軍手を売って暮らしたい まちがえて図書館を建てたい
    ●「はなびら」と点字をなぞる ああ、これは桜の可能性が大きい
    ●ウエディングケーキのうえでつつがなく蝿が挙式をすませて帰る
    ●晩年のあなたに窓をとりつけて日が暮れるまで磨いていたい
    ●からだにはいのちがひとつ入ってて水と食事を求めたりする
    ●できるだけふるいまぶたをあけてみる そこには海があるはずなんだ
    ●レシートの端っこかじる音だけでオーケストラを作る計画
    ●世界って貝殻ですか 海ですか それとも遠い三叉路ですか

  • ことばの選び方、繋げ方が素晴らしい。
    何度も口ずさみたくなる短い詩のような短歌。
    読んでいると、世界は本当に美しいものなんだ、と思えてくる。

    26歳で亡くなったなんて、あとがきを読むまで知らなかった。
    神様はなんで、。

  • 夭逝した歌人の遺した歌集。

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著者プロフィール

1982年佐賀県生まれ。2004年より作歌をはじめる。2005年、連作「数えてゆけば会えます」で第4回歌葉新人賞を受賞。2007年、未来短歌会に入会、同年度の未来賞を受賞。2008年、第一歌集『ひとさらい』(Book Park)刊行。2009年1月24日、自宅にて永眠。2011年、『えーえんとくちから笹井宏之作品集』(PARCO出版)を刊行。第二歌集『てんとろり』刊行、併せて『ひとさらい』再刊(ともに書肆侃侃房)。2018年、その早逝を惜しむ声を受けて、書肆侃侃房が短歌新人賞として笹井宏之賞を創設。第1回受賞者が2019年2月に短歌ムック『ねむらない樹』vol.2にて発表される。ブログ「些細」http://sasai.blog27.fc2.com/

「2019年 『えーえんとくちから』 で使われていた紹介文から引用しています。」

笹井宏之の作品

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