- Amazon.co.jp ・本 (171ページ)
- / ISBN・EAN: 9784891769529
作品紹介・あらすじ
大農園主ドン・アレホに支配され、文明から取り残され消えゆく小村を舞台に、性的「異常者」たちの繰り広げる奇行を猟奇的に描き出す唯一無二の"グロテスク・リアリズム"。バルガス・ジョサに「最も完成度の高い作品」といわしめたチリの知られざる傑作。
感想・レビュー・書評
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ドノソである。あの「夜のみだらな鳥」の。
その昔、たき火をするときの焚き付けの古新聞で目にとまった筒井康隆の署名記事。そこで紹介していたのが「夜のみだらな鳥」だった。そのかっこいい書名、富豪が奇形のわが子のため、国中の奇形を集めて奇形の街をつくる、という異様なあらすじと筒井の大絶賛に、これは読まねば、と焚き火にあたりなががら思った。
しかしながら古書価格はすでに高騰、買いどきをずーっと探していたところに、ドノソの新訳本が水星社から出るとのニュース、しかも、「夜のみだらだな鳥」も復刊されるらしい!との知らせ。
と、肩慣らし(?)に「境界なき土地」を読む。
帯に「性的「異常者」たちの繰り広げる奇行を猟奇的に描き出す唯一無二の〈グロテスク・リアリズム〉。」これは、期待!・・・・うーん、水声社、煽りすぎ。
電気も通じないさびれた田舎町、初老のおかまマヌエラと処女で不器量な娘ハポネシータの親子が切り盛りする売春宿を舞台にしたどしようもない物語。
行き止まりの閉塞感ながらも、妙な心地よさが全体を覆う。
三人称と一人称が混じり、会話文と地の文がそのまま続くリズムのある文章が、へんな酔い方をさせる。
土地にしがみつくハポネシータに「風と共に去りぬ」のスカーレットが重なる。
期待していた内容とは違ったが、圧倒的な力をもつ物語。すごいものを読んだのかも。
この感じ、誰だっけ?と思ったら中上健次。舞台を紀州に移したらそのまんま。
中に「ペチャパイの家」という売春宿が出てくるが、ええ、そんな訳なの???と思ったが名前だった・・・ペチャパイ。
訳者あとがきもなかなか面白い。
ドノソの伝記を書いた養女は自殺したそうである。ドノソの創作ノートには、「作家の父親の死後、日記を見つけた娘が自殺する」との小説の構想があった。
死の床にいたドノソを見舞ったリョサが「ヘンリー・ジェイムスはくそだよ」というと、ドノソは「フロベールのほうがくそだよ」と返した。これが二人の交わした最後の会話となった。
映画化を希望していたのがブニュエル。実現しなかったが、別の監督による映画化の際に脚本を書いたのが、マヌエル・プイグ。
「夜のみだらな鳥」が楽しみ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
喚起力に満ちた中編。
住人が去り、いずれ葡萄に土を奪われることが定められた村落。破滅を予感させる4匹の犬。時間が固定されて進まないような老人の余生、娼婦の日常。これらが旺盛なビジュアルイメージを伴って、行間からあふれるよう。
水声社のラテンアメリカ文学の新訳シリーズ「フィクションのエルドラード」は、気概を感じるすばらしい仕事だと思う。熱烈支持。 -
読み始めてすぐプイグがこの本に影響を受けたのを感じた。ブニュエルが映画化を望んだのも納得の世界観だった。異端・異形者との関係に、同じチリ出身の映画監督ホドロフスキーとも共通するテーマがある。ラテンアメリカ文化の中でも重要な位置の作品のような気がする。一気に読めるのでドノソ入門としてもよい本であった。赤いドレスのカルメン(カルメンシータ)のようなマニュエルの妖しい魅力にとりつかれつつ、対となるハポネシータがなんだか忘れられない登場人物になった。
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ラテアメっぽい、でも頭おかしい系ではないドノソ(しかし黒い犬は定番の四頭)。ドノソ特有の捻じれはあまり感じず、ある家族と共同体の変遷を描いた人間味あふれる話として面白く読んだ。
マヌエラのハポネシータに対する愛憎入り混じった感情がリアルに伝わってきて、そこが一番よかった。母親(母親じゃないけど)の娘に対する思いって、きっとああいう感じなんだろう。ちょっとだけ苦い。
訳者あとがき。ハポネシータは奥手なだけで「異常者」じゃないと思うんだけれど、チリの田舎の標準からするとありえないんだろうか。 -
素晴らしい
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マヌエラ……ああ……これはグロテスクというよりも美しい小説だ。
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『夜のみだらな鳥』で有名なドノソの中篇。
『訳者あとがき』には『グロテスク』という単語があるが、そこまでグロテスクでもない。寧ろ閉塞感というか、出口のないエネルギーが渦巻いている印象をより強く受けた。