レモンとねずみ (童話屋の詩文庫)

著者 :
  • 童話屋
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感想 : 22
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  • Amazon.co.jp ・本 (157ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784887470804

作品紹介・あらすじ

故・石垣りんの未刊詩40篇。

感想・レビュー・書評

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  • 石垣りんさんの詩集ですね。
    りんさんの最後の詩集です。亡くなられて後の作品です。
    可愛らしい小さな詩集です。
    出版社の童話屋さんが、りんさんから託されて、ご遺族のご了解のもとで遺品のなかから未刊詩をさがして四十編を選んで紡ぎ出された、宝の詩集です。
    童話屋さんは詩華集「レモンとねずみ」と命名されています。



    ちいさな森のはずれに
    今年も桃が咲いた。

    去年とそっくり
    同じ景色で
    その間に月日が流れたことなど
    うそのよう
    その間に人が死んだり
    生まれたりしたことなど
    まるでなかったよう。

    季節は
    巡り来るたびに取り出される
    一枚の衣装で
    過ぎれば
    薄く薄く折りたたまれる。

    ちいさな森のはずれに
    今年の桃が咲いた。

    とても嬉しい嬉しい詩集ですね。

  • きのう買っておいた
    サンキストレモンの一個がみつからない
    どうやらねずみがひいて行ったらしい。

    今ごろ 黒い毛並のチビが
    つやつや光る黄色い果実をかかえこんで
    つぶらな眼をキョロリと光らせていることを思うと
    狭い我が家の天井裏が宮殿のようだ。

    (略)

    サンキストレモンをひいていくような鼠ならば、決して小さくはない。耳を齧られるぐらいの恐怖を感じても良さそうなものだが、石垣りんさん特有の諧謔は、貧乏の生活を光り輝かせる。因みに、鼠は戦利品を決して天井裏までは持ってゆかない。かなり奥まったところに溜め込んでいる筈だ。何故わかるかって?最近はご無沙汰だけどウチも毎晩天井裏の運動会をやっていたし暫く智慧の合戦をしていたからである。長い間戦っていると、なんだか旧知の間柄のようになってゆく。でも、遂に私は我が家の天井裏を、平和なお城にたとえたことは無かった。

    石垣りんさんのような有名な詩人でも、おそらく普通に貧乏だったと思う。私は仕事で一度岡山市の永瀬清子の寓居に赴いたことがある。まるで、江戸時代のサムライ長屋のようだった。日本では、詩集ほど売れない本はない。

    「春」
    ちいさい森のはずれに
    今年も桃が咲いた。

    去年とそっくり
    同じ景色で
    その間に月日が流れたことなど
    うそのよう
    その間に人が死んだり
    生まれたりしたことなど
    まるでなかったよう。

    (略)

    コロナ禍をくぐり抜けて、来春の桜に、多くの人が同じ想いをすることと思う。石垣りんさんの想いは私たちとは当然別の想い、おそらく先の「いくさ」にあるのではあるが。

    今年もたいへんお世話になりました。
    良い年をお迎えください。

    • 地球っこさん
      kuma0504さん
      今年も読み応えのあるkuma0504さんのレビュー、いつも楽しみにしてました。
      来年もどうぞよろしくお願いします。...
      kuma0504さん
      今年も読み応えのあるkuma0504さんのレビュー、いつも楽しみにしてました。
      来年もどうぞよろしくお願いします。

      そういえば、来年は「十二国記」の短編集が出ますね!
      kuma0504さんは「新作刊行記念全員プレゼント」に応募してましたか?
      わたしはそのおかげで新作の一編「幽冥の岸」読むことが出来ましたよ。
      短編集の発売と、そして何よりkuma0504さんのレビューがとても楽しみです。

      ではでは、よいお年を♪

      2020/12/31
    • kuma0504さん
      地球っこさん
      今年は楽しく、誠実にお相手して頂いてありがとうございました。私もレビュー愉しみにしていました。

      えっ?新作短編?
      発売半年以...
      地球っこさん
      今年は楽しく、誠実にお相手して頂いてありがとうございました。私もレビュー愉しみにしていました。

      えっ?新作短編?
      発売半年以上経ってやっと買った私には、そもそも無理なお話でした。
      十二国記は、今年のフィクションBest3に選びました。末尾2篇のレビューは、私にとってもホント特別なものでした。当然発売されたら、直ぐに読もうとも思っていますが、全体像はおそらく提示されないだろうな。でも愉しみです。
      2020/12/31
  • 心に響く うた でした

    石垣りん さん

    ひだまりトマトさん、ありがとうございました。
    恥ずかしながらこの方を知りませんでした
    亡くなられてからの詩集

    レビューの「春」よかったですね
    最後の一行『今年の桃』なんてすてきな表現

    タイトルの『レモンとねずみ』も好きです

    市井で詩作を続けられたりんさん
    大好きな谷川俊太郎さんと茨木のり子さんの言葉も沁みました

    ≪ 身の丈で 紡ぐ言葉が 宙にとぶ ≫

    • ひだまりトマトさん
      はまだかよこさん こんにちは!

      「レモンとねずみ」を読んでいただいて、心に響かれてよかったです。

      とても、身近に感じる詩人さんですね。
      ...
      はまだかよこさん こんにちは!

      「レモンとねずみ」を読んでいただいて、心に響かれてよかったです。

      とても、身近に感じる詩人さんですね。

      2023/04/01
    • はまだかよこさん
      知らなかった著者をここで教えて頂けるのはとてもうれしいです。
      ありがとうございました。

      心というかお腹からというか内臓の奥から出てく...
      知らなかった著者をここで教えて頂けるのはとてもうれしいです。
      ありがとうございました。

      心というかお腹からというか内臓の奥から出てくるような
      言葉の数々ですよね
      すごい詩人ですね
      しかも、等身大で

      もっと読んでみます

      ご丁寧にコメントありがとうございました
      2023/04/02
    • ひだまりトマトさん
      こちらこそ、ありがとうございます。

      私は、若い頃に詩をよく読んでいたのですが、ここ何十年読むことを忘れていました。
      ブクログで、読者さんた...
      こちらこそ、ありがとうございます。

      私は、若い頃に詩をよく読んでいたのですが、ここ何十年読むことを忘れていました。
      ブクログで、読者さんたちに刺激されて、再び読む機会を得ました。

      はまだかよこさんも詩を読まれるようなので、楽しみですね。
      これからもよろしくお願いいたします。
      2023/04/02
  • 石垣さんの未刊詩から40編を選んだ、最後の詩集。
    印象に残ったのは、家族との関係や闘病経験の詩。己の感情をそのまま激しく言葉にし、老いたことでの弱さも認める。家族の稼ぎ頭として、様々な葛藤があったことだろう。石垣さんが背負っていたものの重さに今更ながら気付かされ、彼女の詩の世界の深さを改めて実感した。
    親交のあった谷川俊太郎さん・茨木のり子さんの弔辞もまた印象に残るものであり、涙が出た。
    一語一語に込められた、石垣さんの魂。言葉の美しさ、力強さ…時には醜さや暗さを孕みながらも、そのゆるぎなさは彼女独特のものだとつくづく感じ、しっかり心に刻みたいと思うのだった。

  • 内容も装丁も素晴らしくて,言葉もない.
    「春」「虹」「なのはな」などが特に好きです.

  • ◆きっかけ
    『詩のこころを読む』(茨木のり子)で著者のことを知り、現実を受け止め見つめているどっしりとしたたたずまいのようなものを感じ、他の作品も読みたいと思って。Amazonでざっと見て特に気になったのが、エッセイ『ユーモアの鎖国』と、谷川俊太郎さんと茨木のり子さんの弔辞も収められているという『レモンとねずみ』。2017/6/21
    ◆感想
    し図。リクエストして他館より貸し出し。2017/9/11
    中古?購入。2023/5月以前

  • 大人になって(?)、殆ど、詩を、読まなくなった。

    先日、ウルグアイの元大統領のホセ・ムヒカ氏が、来日した。
    「世界で一番貧しい大統領のスピーチ」と言う絵本を読んだ事があるけど、その本人です。
    「お金があっても、時間は買えません」と、、、、
    その時に、この石垣りんさんのこの本の中の「すべてほしいものばかり」の詩に、
    「ナンニモイラナイ なんにもいらない 何にもいらない 三遍となえて おじぎをする 欲ばりおりんの 朝のお経。。。。。と、言う詩が、出て来る。
    言葉は、違うが、パナマのタックスヘイブンで、各首脳らの蓄財が、疑惑されている中、心に、ずっしりとくる詩である。

    苦労され、病気に冒されたのに、ユーモラスな生活感や、抑制出来ない命の叫び、母への思い、不正へ怒り、、、が、描かれている。

    その中で、私が好きなのは、
    「かなしみ」
    私は65歳です。この間転んで 右の手首を骨折しました。なおっても元のようにはならないと 病院で言われ 腕をさすって泣きました。
    「お父さん お母さん ごめんなさい」
    2人ともとっくに死んでいませんが 2人にもらった体です。
    いま私はこどもです。
    おばあさんではありません。

    先日読んだ重松清氏の「日曜日の夕刊」で、子供が哀しい時は親も哀しいのです。と言う言葉と、共に、親子のつながりを深く感じた 一篇である。

    そう、還暦を過ぎたら、赤いちゃんちゃんこ着て、あかちゃん還りへ なるのだから、作者の「いまも私はこどもです。」の言葉も、親からしたら、歳を重ねていてもいくつになっても子供はこどもなのですと、、、、
    共感出来ました。

  • 『私の前にある鍋とお釜と燃える火と』や『表札など』で知られる詩人の没後の詩集。

    暮らしのなかから世の中を見つめた人であることがこの詩集からも感じられた。

    「夏みかん」のなかの「夏みかん そんなつややかさで 苦労というものも たわわな実りかたをしてくれないか 顔をしかめながらも むしゃぶりつきたくなるような」というフレーズがとくに好き。

  • 前に読んだものよりも自由に掻かれたものが多く感じられた。

    やはり、詩は難しい。奥が深い。
    そして、石垣りんさんの作品が好きになった。

    この本は入手するつもり。

  •  私は65歳です。このあいだ転んで右の手首を骨折しました。なおっても元のようにはならないと病院で言われ腕をさすって泣きました。「お父さん お母さん ごめんなさい」二人ともとっくに死んでいませんが二人にもらった体です。いまも私はこどもです。おばあさんではありません。「かなしみ」 石垣りんさん、2004.12.26永眠、84歳。5冊目の詩集「レモンとねずみ」、2008.4発行。巻末に2005.2.7、石垣りんさんのさよなら会での谷川俊太郎氏、茨木のり子さんの弔辞がおさめられています。

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著者プロフィール

石垣りん一九二〇年東京生まれ。詩人。高等小学校時代から詩作を始め、少女雑誌に投稿する。小学校卒業後、十四歳で日本興業銀行に就職。二十五歳の時に敗戦を迎え、戦後は職場の組合活動にも参加しながら詩作に集中。三八年同人誌「断層」を創刊し福田正夫に師事。五九年第一詩集『私の前にある鍋とお釜と燃える火と』刊行。六九年第二詩集『表札など』でH氏賞、七一年『石垣りん詩集』で田村俊子賞、七九年『略歴』で地球賞を受賞。二〇〇四年没。

「2023年 『朝のあかり 石垣りんエッセイ集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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