異世界の書: 幻想領国地誌集成

  • 東洋書林
3.61
  • (5)
  • (4)
  • (7)
  • (1)
  • (1)
本棚登録 : 168
感想 : 10
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (479ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784887218215

作品紹介・あらすじ

本書は、多くの人々がどこかに実在する、もしくは過去に実在したと本気で信じ、その信念がキメラ、ユートピア、幻想を生み出した土地と場所を扱うものである。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ただの想像ではなく、現実世界に影響を与えた異世界の事物を集めた書。大きな図版がふんだんに入っていて、分厚い紙を使ってるから、めちゃくちゃ本が重い。
    「平板な大地と対蹠地」、「東方の驚異」など、全15章のテーマからなるが、興味深かったのが極北神話を取り上げた第7章の「ウルティマ・トゥーレとヒュペルボレイオイ」と、第14章「レンヌ・ル・シャトーの捏造」。これを読むと、ダヴィンチコードを楽しんで読めなくなる。

  • フィクションの世界で見聞きしたことがある地名ばかりで楽しかった。訳者あとがきの『不在の世界についての実在の歴史と、実在する世界についての不在の歴史』という文章が端的にこの本の特徴を表している。

  • 『あるいは、当時の教養人が好んだ修辞の習作だったのかもしれない。それならば、内容の真実性について書き手が頓着していないのも頷ける。だが問題はその起源よりも、この手紙がいかに受容されていったかである』―『東方の驚異―アレクサンドロスから司祭ヨハネまで』

    ウンベルト・エーコが語る嘘は、指輪物語や白雪姫の話のように明らかな空想の世界を語る嘘ではないのでうっかりすると歴史上本当にあったことのなのかと信じてしまいそうになる。しかし、例えばダ・ヴィンチ・コードのように本当の事だと言い張るような事をエーコはしない。その代わり、ガリバー旅行記のように、これはある手記に基づく話であるという体裁を取り、良識的な読者に嘘と真の境が如何にあやふやなものであるかを語ってみせる。そうすることによって人が如何に騙され易く、信じたいことを無理矢理にでも信じてしまうかを教える。この本は、その教えをより直接的にしかも元となった歴史的資料もふんだんに採取して見せてくれる。

    『ひと口に伝説と言っても必ずしも遠い過去に遡るわけではなく、騙されてくれる買い手がいる限り日々新たに生み出されるものであることが明らかにされるはずだ』―『聖杯の彷徨』

    人はただ単に騙され易いのではない。積極的に在りもしない真実を受け容れようとするのだ。そしてそれを大概自らに都合の良いイデオロギーを補強する材料として用い権威付けをしようとする。それはナチスの極北主義に端を発する選民思想に限らず、洋の東西を問わず為されて来たこと。例えば徳川家康が時に藤原姓を名乗り、時に源姓を名乗り、その都度家系図を創作したのと同じこと。何処ぞの御仁が長州藩の出であることをいつまでも言いつのるのも同じ心情が根っ子にあるのかも知れない。

    あとがきにとあるように本書の中で解説される歴史上の誤謬や史料の贋作は、これまでのエーコの小説の主題として取り上げられたものも多く、それを思い出しながら頷いたりすることもまた楽しい。特に最近読んだ「プラハの夜」は本書の主題と重なるところも多く、また小説を読んでいる時にはしかと実感出来なかった背景なども理解できてエーコの描く虚構の面白さを改めて感じることが出来る。惜しむらくは本書が存在しない「場所」に敢えて主題を絞っているところ。もし彼が次の一冊を記すことが出来ていたのなら是非「薔薇の名前」で取り上げたような実在が明らかでない「テキスト」についての本の書いて欲しかったなと思ってしまう。アリストテレスの笑いについてのテキストや、シオン議定書など、エーコ自身が小説の主題として取り上げたテキストについて本書のような小気味よい文章を是非とも読んでみたかったなと思う。残されたヌメロ・ゼロをじっくりと味わおう。

  • 図書館で借りて読む。というより、本屋で購入するには高価すぎる。図書館がなければ読むことも出来ない貴重本である。内容はともかくとして、挿絵は素晴らしい。眺めているだけで堪能する。

  • なかなか全部は読みきれないけど、挿絵見てるだけで楽しい。聖杯伝説とかわくわくするよね。

  • さまざまな伝説上・空想上の土地を紹介した本。
    有名なアトランティスやムーやエルドラドから
    アーサー王伝説、プレスター・ジョンの国や地球空洞説などなど・・・
    著者の膨大な知識に脱帽。

    とても面白いが読み物として気軽に読破できるボリュームではない。
    幻想文学ファンが調べものをするときに開く
    「百科事典」と考えるべきかもしれない。

    余談だが本書の日本語訳がとてもこなれていて感心した。
    こんなに縦横無尽に想像の世界を飛び回る内容は翻訳も大変だったと思う。

  • 巨匠墜つ....
    眺めているだけで楽しい本。

  • 博識などという言葉では到底足りない。
    知識量はもちろん、項目、章立て、図判、これだけの事柄をこのようにまとめる編集力たるや。縦は古今を行き交い、横は美術、地図から映画やコミックまで至る。アウグスティヌスからスヌーピー、エルジェまで言及出来る、その幅と深さ。
    めくるだけで圧倒され、何かを読めばこの書で何度も確かめたくなるだろう。

  • 伝説の土地と伝説の場所、多くの人々がどこかに存在する、あるいは過去に存在したと本気で信じ、その信念が幻想を生み出した土地と場所。平板な大地、聖書の土地、七不思議、プレスター・ジョン、エルドラド、アトランティス, etc.ウンベルト・エーコの碩学がこれらを愛と冷静な眼の双方で語る。もちろん、置いてけぼりにならないようにするのが精いっぱいでとても全部は理解できない。
    こういった想像力の産物を見るに、人間の想像力というものは無限のようで実はきっちり枠があるのと理解できる。あくまで当時の宗教、科学、常識の範囲内で目いっぱいイマジネーションの羽根を膨らませた結果の産物であることが後世の眼で見ればよくわかる。
    多くのページを割いてきちんと原典の抜粋を引用しており、資料的価値は抜群に高い。挿絵、絵画、学術資料などの図版も非常に豊富で眺めるだけでも楽しい。全15章のうち、わざわざ1章を割いてレンヌルシャトーの捏造を書くあたり、よほど腹に据えかねるものがあったのだろうか。

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784887218215

全10件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1932年イタリア・アレッサンドリアに生れる。小説家・記号論者。
トリノ大学で中世美学を専攻、1956年に本書の基となる『聖トマスにおける美学問題』を刊行。1962年に発表した前衛芸術論『開かれた作品』で一躍欧米の注目を集める。1980年、中世の修道院を舞台にした小説第一作『薔薇の名前』により世界的大ベストセラー作家となる。以降も多数の小説や評論を発表。2016年2月没。

「2022年 『中世の美学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ウンベルト・エーコの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
マルクス シドニ...
ミシェル ウエル...
スタニスワフ・レ...
山本 貴光
畑中 章宏
ジャレド・ダイア...
テッド・チャン
伊藤 計劃
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×