そして、ねずみ女房は星を見た〈大人が読みたい子どもの本〉

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  • テン・ブックス
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784886960184

作品紹介・あらすじ

いつの世でも、生きていくことは難しいけれど、生きることの素晴らしさは、自分と他人を信じて、平凡な日常をしっかりと送っていくことではないでしょうか。子どもの本には、そのような登場人物や、また、自分を信じ他人を思いやることができるようになる手がかりが、たくさん盛り込まれています。本書では、13篇の「子どもの物語」を紹介する。

感想・レビュー・書評

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  • 児童文学作品の”大人の感想文”。少女のように瑞々しい感動と驚きに満ちた文章、その感動と驚きは、おそらく主婦として母として生きた時期にかなしみや息苦しさを経験したのかもしれない著者の人生経験から生まれるもので、子供の時にはけっして得られないものなのである。

    [more]<blockquote>P78 生きていくときのさまざまな事柄はこちら側の意志だけでは決まりません。それだけで決まるように見えるときがありますが、そんな時でも、実はさまざまな偶然が働いていることが多い。【中略】家族はその現実を引き受けていくしかありません。でもありがたいことに、周辺にいる人が、ー子供も含めてーちょっと助け舟を出してくれる事があります。その逆ももちろんありますが・・・そうしたこともあって何となく風向きが変わる事がある。自分のことにばかり固執していると、せっかくの風向きの変化、他者が自分に向かって手を差し伸べてきていることなどを見逃してしまう事があるからです。

    P84 11歳はネッドが子供でいられなくなった年でした。別の言い方をすれば、イノセンスでいられなくなった年、罪を知ってしまった年ということができます。では子供でいられなくなることは、即大人になることを意味するか、これがそうはいかないのですね。

    P171 ただてきぱきと能率的に仕事をこなしていくだけでむっつりとろくな話もしないからと、腕のいい床屋をけって技術は格段に劣るものの話の面白い床屋に乗り換えたサリムじいさん【中略】言葉をたのしもうとする姿勢です。いえこれはもう伝統であり文化とよぶべきものでしょう。ほらも嘘もたのしむ、非常に高度な文化です。子供から大人へ、何があったら人はまっとうに育つのか。ここまで書いてきて、私は身近に具体的な人がいることと同時に、文化の存在の重さを感じています。

    P189 スペンサーはママみたいに100%有頂天になることができない。山ほどの喜びにも、マッシュポテトにこしょうをふりかけるみたいに心配事をふりかける」
    P196 ボールにおびえてしまうマークが「どうすれば怖くなくなるの?」とスペンサーに聞くところがあります。「まあもっと自信を持てばいいのさ」とたんにマークは思います。「そんなの、貧乏な人に向かってもっとお金をたくさん持てば貧乏でなくなるよというようなものじゃないか!」全くですよね、自信が持てないから困っているのに、こういう愚にもつかないことをいう。思わず反省してしまいました。

    P201 プレイガールの覗き屋になるのを私がわざわざ許すことはないわ。あの子のしていることを黙認するのと賛成するのは同じではないでしょ?【中略】小さい時には小さいプライバシー、大きくなったら大きいプライバシーを許すようにしないと、息子たちをこそこそ人間にしてしまう。

    P229 <幸せな状態>というのはこの世にはない。世の中にはただ<幸せな瞬間>馬鹿裏があるのである(「オヤジ国憲法で行こう!」より)

    P247 この世の中心から最も遠く隔てられた縁は、けれど<あの世>には最も近い場所ということになります。<あの世>とは時に自然界であり、時に空想の世界であったりもします。【中略】社会の縁に一人追いやられた男が、一瞬垣間みた世界は天とつながる縦の瞬間、カイロスの時間の流れる世界でした。それは彼に与えられた祝福だった。

    P269 やわらかな、たゆたうような出雲弁の美しさにも私は惹かれます。言葉はそれを話す人と切り離されて単独で存在するわけではありません。</blockquote>

  • 紹介されている本はどれも手に取ったことがない中で読み進めても、著者が抜粋した、物語の背景、登場人物の動作や言葉にただただ引き込まれてしまう。
    母親としては、もう少し早くこの本と出会い、いろいろな物語の母親の背中を知りたかった。

    成人を迎える子を持つ親の立場からすると、小学生あたりのころに、この本を手元に置き、子供と一緒に同じ本を読めたらどんなに素敵なことだったんだろうと思ってしまう。
    でも今出会えたことでも、いろいろな家族の形、愛の形を知ることができて、良かったと思えた。

  • 選書の目は相変わらず、ほぼ確か。取り上げられた本を一つ読むたびに本書を紐解いた。
    それぞれの評言は、いまいち掘り下げられていない印象が。今の時代はダメと随所で書いちゃう作者がダメ。清水さんの本はほぼ読んだ。共鳴した時期もあったが、時代も私も卒業の時が来たようだ。

  • 本の本

  • 面白かった!絶妙な配分で、本のあらすじ紹介と自分の感想書いてあって、読みやすいわ面白いわ(。>﹏<。) ここに紹介されてた本、読んでみたいって思った(๑•̀ㅂ•́)و✧ やっぱり本て面白いな〜(*˘︶˘*).。.:*♡

  • 本の紹介本(この表現で合ってるか分かりませんが)はよく読むのですが、ここまで深く内容を掘り下げて紹介しているものは少ないと思います。ものすごい愛情が伝わってきます。児童書とはいえ描かれる世界は決して幼稚でなく、どの本もぜひ読んでみたくなります。子どもを愛情深く育てるって本当に大切だと実感します。

  • 子どもの本がこんなに深いなんて。読んでない本ばかりだった。(がっくり)

  • ただ児童文学の紹介…と思って読んだが、作者の視点と言葉がとてもあたたかくて、読み物としてよい一冊だった。

  • 2014.8.10市立図書館
    『ゲド戦記』などの翻訳でおなじみの著者が、童話や児童文学作品を大人の視点から読み味わう。
    児童文学ってあくまでも「こどもでも読める文学」なんだな、と改めて思う。年を経て読み返すたびに発見がある。こどものときには何とも思わなかった表現に膝を打ったり、大人だからこそわかる人生の機微にふれたり・・・考えても見れば、児童文学も著者は一人の大人(夫/妻だったり父親・母親だったりおじいちゃん・おばあちゃんだったり・・・)であることは一般小説と変わらないのだものね。そういう気持ちで、いろんな本を再読してみるものだな、と意を強くした。
    実際こどものおかげで、今40代で児童文学をあれこれ読み直せているのが、ほんとうにありがたいし、この先、まだまだ発見があると思うと楽しみでならない。

  • 翻訳者でもある筆者が、さまざまな児童文学を紹介しながら、そこから何を学びとれ、どう感じたかを記した本。人生は生きるに値するものだ、という言葉が印象的。優れた文学は実用的である。

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著者プロフィール

1941年朝鮮半島に生まれる。児童文学者・翻訳家。青山学院女子短期大学名誉教授。主な著書に『子どもの本のまなざし』(日本児童文学者協会賞受賞)、訳書にル・グウィン『ゲド戦記』全6巻(岩波書店、日本翻訳文化賞受賞)、『ピーターサンドさんのねこ』(ルイス・スロボドキン/あすなろ書房)ほか多数。

「2016年 『カルペパー一家のおはなし』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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