The Art of Marketingマーケティングの技法―パーセプションフロー・モデル全解説

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  • 宣伝会議
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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784883355259

作品紹介・あらすじ

どんな組織・商品でも応用可能
マーケティング活動の全体最適を実現する
「技法」を手に入れる

「個々の施策がバラバラで、有機的に連携していない」
「広告会社などパートナーから望んでいるような提案が来ない」
「チームの意識統一ができていない」

デジタル化の進展やメディア・手法の多様化・細分化が進み、単体の施策でマーケティング活動を成功に導くことは難しくなりました。複雑化する環境下で的確な意思決定を下すために必要なのは、活動全体を俯瞰した「全体最適」の実現です。

本書は、マーケティング活動の全体設計図である「パーセプションフロー®・モデル」の考え方を紹介し、その使い方、つくり方、検証の仕方までを詳細にわたって解説するものです。「パーセプションフロー・モデル」を効果的に活用することで、冒頭に挙げたような、部分最適が引き起こす事態から抜け出すことができます。

マーケティング活動の全体像が俯瞰できる「設計図」
パーセプションフロー・モデルとは、マーケティング活動を目的から実行に至るまで、1枚にまとめた「全体設計図」です。その過程を、消費者の認識(=パーセプション)の変化とともに記していることが最大の特徴です。

本書の筆者である音部大輔氏は、P&Gジャパンのマーケティング本部で駆け出しのマーケターとして消費財ブランドを担当していた当時、このモデルの原型を開発。その後ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、日産自動車、資生堂でマーケティング組織を率いる過程でブラッシュアップを続けてきました。現在はアルコール飲料や自動車、医薬品、家電、住宅、学習塾、保険、IP、電力会社、放送局など、ありとあらゆる業態で活用されています。本書は「パーセプションフロー・モデル」について解説する初めての書籍です。

本書の冒頭は、音部氏がブランドマネジャーとして経験した市場再創造の事例(洗剤「アリエール」のケース)、市場導入の事例(消臭剤「ファブリーズ」のケース)を詳細にわたって紹介。「戦略」「マーケティング」「ブランド」などマーケターが理解すべき基本概念についても解説しています。ブランドを担当するマーケターだけでなく、マーケティングチームに参加する広告会社の営業やプランナーにとっても使える一冊です。

感想・レビュー・書評

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  • マーケティング関係の本を読み直している中で、出会った本。
    著者は、元P&Gの有名なマーケターの方。

    読んでみると、過去のP&G マーケティング部での
    経験が具体的な事例と共に紹介されていて、とても参考になります。
    「パーセプションフロー・モデル」というのがユニークで、
    カスタマージャーニーに似たような概念なのですが紹介されており、
    とても実践的なツールとして紹介されています。
    具体的なファブリーズのパーセプションフロー・モデルも紹介されており、
    確かにこれは売れるな…と思わせてくれるようなロジカルな説得力があります。

    個人的にはP&Gのマーケティングって、
    (新たな課題認識をさせることで)
    顧客を不安に陥れるような手法で
    あまり好きではなかったのですが、
    その一面はやはり否定できなかったものの、
    それでもツールやマーケティングに対する
    考え方としてはとても勉強になる一冊でした。

    同じ著者の「なぜ「戦略」で差がつくのか。」も
    読んでみたくなりました。
    (→ようやく読み終わりました。)

    ※なぜ「戦略」で差がつくのか。
    https://booklog.jp/users/noguri/archives/1/4883353982#comment

  • ・新たな機能やベネフィットの導入と同時に、市場を再創造してニーズが創出されると、競合は事前に脅威を感じることなく、先制防御的なマーケティング活動を用意しにくい
    ・売上金額を円×人×回に分解して、消費者を単位とした目的を作る
    ・Thought started question : 今は3年後です。日本の70%の世帯がファブリーズを毎月1本消費しています。さて、何が起きていますか?
    ・製品が機能していることが実感できる使用時のブランド体験、正しい使用方法の喚起(濡れることは一見ネガだが正しい用法)
    ・現状→認知→興味→購入→試用→満足→再購入→発信
    ・パーセプションフローモデルは、現在の消費者の行動や認識を前提としつつ、これから起こるパーセプションの変化によって「未来の消費者行動」を描きます
    ・持続的に利益を出し続けるために、最も効果的で効率的なアプローチが消費者中心主義である
    ・重要なのは「見える化」と「仕組み化」
    ・顧客のパーセプションの全体像を描くことで、ここのメンバーの協調を効果的に引き出し、自分の担当領域を超えて全体への目配りをしたのは、消費者を中心とした全体像の可視化と仕組み化のため。パートナーたちが役割と領域を知ることで専門性を高めることに集中できた
    ・店頭でZMOTを思い出すことで、価格の影響を小さくできる
    ・製品に語らせる:正しく使える、製品そのものを見ただけで直感的に正しく使えることで、ブランド体験の満足度が高まる
    ・大事なだれかとの関係にかかわることのできるブランドは、強い感情とともに愛着を持たれやすい。大事なだれかとの大切な時間に貢献するブランドは、きっと大事なブランドです。消費者が一人でブランドに向かい、消費しているというよりも、大事なだれかとの関係の中でブランドを使用し、楽しみ、味わっているのだという視点で観察することで、理解が深まると思います
    ・人間は適当な範囲内で、入力と出力の不安定さを楽しむ
    ・単体あるいは混交した時の味や風味(混ぜるなどの作業を要求することは、ブランドの完成に参加できるので愛着の醸成につながることがある)
    ・Priceはグラムや商品階数ではなく、「満足あたりの価格」などで評価できるブランドもあるかもしれない(発毛剤など)
    ・POME(Point of Market Entry):そのカテゴリーの商品を初めて使うエントリーユーザーを主ターゲットとする。子供用の紙おむつの産婦人科向けのサンプリングや化粧品のエントリー向けブランド。最初の体験に満足するとLTVが高くなる「私の最初のブランド」
    ・普遍的な原則としては、買わない理由の排除よりも、買う理由の強化のほうがはるかに大事
    ・ターゲット消費者に問題や課題解決の手段として、なるべく自発的にブランドを探してもらうことを目指す。「今まで使ってきたこの商品は今の私にはあっていないかも。この問題がうまく解決できないし」と思ってもらえれば、新たな「探索」が始まります。既存の問題を解決する新しい課題の認知は重要属性の順位の転換をもたらし、「いい商品」の定義が変わる
    ・消費者が解決したい問題を、新しい課題へと解釈しなおし、消費者に受容してもらえばいい。普遍的なニーズに対して、具体的な「いい商品」を提案していく
    ・ゴシップの法則:①誰もが知っている話題について、②まだ多くの人が知らず、聞く価値のある話を、③投影したい自分増と一貫性のある形で、④話し上手でなくても話せるよう、起承転結のあるお話になっている
    ・「もしもう一度やり直せるなら、どのように変えますか?」に対して「仕組み(飛んできたボールにバットがどう当たるとよく飛ぶかという作用や原理を知ること)」と「働きかけ方(どうすればバットをうまく振れるか、といった体の使い方)」を理解する
    ・戦略:目的達成のための資源利用の方針
    ・戦略策定時の注意点
    1) 目的の再解釈:売上を円×人×回などに分解
    2) 資源の解釈:投入できる資源を洗い出す
    3) 資源優勢の獲得:投入できる総資源量(=効果)が最も大きくなる候補案を選ぶ
    ・定期的に市場創造(重要度の高い属性の入れ替わり)が起きている
    ・マーケティングが市場創造で、ニーズの創出であるとき、ブランドは意味で、ベネフィットの創出にかかわる。

  • 未来の消費者を描く「パーセプション・モデル」をベースに消費者視点の設計図をつくる、という点がとても面白かったです。設計図があれば、そのブランドや施策に関わる社内外パートナーが同じ方向を向いて適材適所走り出せるという点は、今すぐに自分の職場でも活かしたいと思いました。巻末にマーケティングに関連する基本的な概念や用語の説明や解説もあり、改めて勉強になりました。

  • 仕事関係で読了。

  • まだ読んでる途中だけど金言の数々に圧倒される。早くどんどん実践して早くモノにしたい

  •  既存の製品を大きく変更することなく、ターゲット消費者を明確にし、ベネフィットの訴求を強化することで、売り上げ増加を目指すイノベーションのことをコマーシャルイノベーションと呼びます。
     今回のように製品やパッケージの一部を変更して新商品とすることもあれば、製品を変えずにコミュニケーション主体の新しい訴求をすることもあります。いずれにしても、製品開発やそれに伴う工場の変更が小さいので、迅速に市場導入できます。ブランドによっては、ベネフィット訴求に使っていない製品機能を備えていることがありますが、今回の「除菌」もアリエールの現行製品に副次的に備わっている機能でした。ブランドの埋蔵資源ともいえる除菌を掘り起こし、コマーシャルイノベーションの起点としたのです。


    ▫️「除菌」で息を吹き返したアリエール
    「除菌」はスケジュール通りに導入され、8%まで劣化していたシェアは3カ月で元の16%まで回復しました。パーセプションフロー・モデルの、初期型ゆえの不安定さは、営業の臨機応変な対応にすくわれました。主要な量販店ではそれぞれの営業担当者が「除菌」をうまく使って商談を進め、価格に依存することなく店頭露出を回復しました。「除菌」という新しいペネフィットを量販店バイヤーの期待につなげたのは、タッグを組んできた本社勤務の営業リーダーと営業部門の大きな功績です。製品の開発と製造を担った研究開発チームや物流チームの奮闘、マーケティング予算や全体のP/L(損益計算)を助けてくれた財務チームの活躍も不可欠でした。直属の上司が社内外からの多様な圧力や要求から守り続けてくれたアプローチは、のちにマーケティング担当副社長やCMO(最高マーケテイング責任者)として前線のブランドチームを支援する際に大きなヒントとなりました。マネジメントがブランドチームを支援するというのは、ブランドマネジャーを押しのけて細々と指示をするのではなく、ブランドマネジャーができない領域の仕事をするということです。


     そのまま消費者に聞くと、「除菌」を欲しいと答えるのは32人中1人だけです。常識的には、競合ブランドの担当者は「アリエールの除菌は消費者に支持されず失敗する」と解釈するでしょう。まともに対応策を用意する気にはならないはずです。競合企業のマネジメントも、その報告を疑うことは ないでしょう。除菌の導入と同時に「いい洗剤」の定義を変えていったように、「新しい機能やペネ フィットの導入と同時に、市場を再創造してニーズが創出されると、競合は事前に脅威を感じること なく、先制防御的なマーケティング活動を用意しにくい」ということに気づきました。この気づきには、いくつものブランドで大いに助けられました。
     重要な製品属性を新たに提案することで市場を創造し、同時にシェアの順位が大きく変化します。 競合も対抗しにくいので、競争上も有利です。ただ、必然的にマーケティング活動は複雑にならざる を得ません。でも、パーセプションフロー・モデルを使えば、そうした複雑な活動の立案も実現しやすくなります。


     19世紀の戦略家カール・フォン・クラウゼヴィッツが、戦場で情報が不足し、全体を見通せないことを「戦場の霧」と表現しました。マーケティングにおいても「市場の霧」は頻繁に立ちこめます。予想より悪い結果は冷たい霧となり、ときにパニックを呼びますが、予想を上回る結果も、生暖かい霧となってマーケターを包み込み、安心させ、冷静な判断を妨げます。それに、売れているときというのも忙しいものです。品切れを防いで店頭露出を維持し、競合の動きに目を凝らしつつ半年後に続く施策を用意し、さらなる売り上げ拡大に備えて生産能力を調整するなど、やることはたくさんあります。成功の濃霧に視界をさえぎられ近視眼的になることは、めずらしいものではありません。
     そうした霧の中からでも「持続的な成長のためにはユーザー数が根本的に足りない」という事実は見えてきました。広告の表現や投下量の改善では、会社の期待に応えられないでしょう。製品を変える時間も予定もないなら、「洗いにくい布製品のニオイをとる」という製品機能は変えず、より多くの消費者が興味と必要を感じるベネフィットが必要です。小手先の施策ではなく、本質的なベネフィット強化が課題だと解釈できたのは、有限のマーケティング資源をムダ使いしないために、非常に重要な一歩でした。


     戦略を立てる際に、目的の再解釈という重要な概念があります。売り上げ金額は、一回限りの衝動買いも、継続購入もあります。そこで、金額の単位「円」を、「新規ユーザーの人数」の単位「人」や、「既存ユーザーが同じ「400円」となり、マーケティング活動の目的としては使いにくいことが使用する回数」の単位「回」などに変えることで、消費者を単位とした目的が見えてきます。
     今回、「とりあえず達成すべき売り上げ」は今期の24億円ですが、会社の本当の期待は持続的に成長できるブランドの確立です。それは、なにを意味しているのでしょう。ぼんやりした考えを明確化したいときなどに、Thoughtstarterquestionという方法を使うことがあります。Thought(考え)をstart(はじめる)させるquestion(質間)をすることで、通常とは異なる考え方をするよう脳を刺激します。
    ファブリーズチームには、次の質問を投げかけました。「いまは3年後です。日本の10%の世帯がファフリーズを毎月1本消費しています。さて、なにが起きていますか?」。未来の消費者の行動を通して、ブランドが確立された様子を描写してみたのです。

     ベネフィットと機能は混同しがちですが、ベネフィットの記述は主語が消費者で、機能の記述は主語がブランドです。「ファブリーズがどういったものか」を指すのが機能で、それを使うと「あなたはどのようないいことを経験するのか」を表すのがベネフィットです。ベネフィットの訴求は、機能の訴求よりも自分ごと化しやすく、高い関与度につながります。


    ▫️知覚刺激がパーセプションに変化をもたらす
     広告や、ブランドの使用体験などを知覚するたびに、消費者のパーセプションは反応し、変化して いきます。そのブランドに「大して興味をもっていない」と思っていても、広告を見てベネフィットに魅力を感じられれば「あ、使ってみたいかも」という認識が生まれ、行動を起こします。五感で知 覚される外的な刺激(見る、開く、嗅ぐ、味わう、触る)や、過去の記憶などの内的な刺激を受けて、パ ーセプションが変わることを、私たちは日常的に経験しています。北極の氷が溶けてシロクマが困っ ている様子をニュースで知り「温暖化はよくない」と考え 「CO"を減らすために自動車ではなく自 転車に乗ろう」とするなら、ニュースという知覚刺激がパーセプションを変化させ、新しい行動を促しています。
     このようにパーセプションの変化をもたらす「シロクマの窮状を説明するニュース番組」や「ベネフィットを魅力的に語る広告」を「知覚刺激」と呼びます。消費者に知覚され、メッセージが解釈されてパーセプションの変化につながる活動は、すべて知覚刺激です。前述のマーケティングの4Pは、 ほとんど知覚刺激です。例えば製品であれば、ベネフィットに直結する製品機能だけでなく、色や香り、粘度や1回あたりの使用量、パッケージの印象や使い心地なども知覚刺激です。


    ▫️カスタマージャーニーマップとの違い
    相違点①消費者の行動か、消費者のパーセプションか
    相違点②現在の見取り図か、未来の建築図面か
    相違点③市場創造と差別化か、既存市場での効率化か


    ▫️ 的確な状況判断と意思決定を可能にする3つの特徴
    効用①全活動を把握でき、全体最適を実現しやすい
    効用②各活動の目的が明確になるので成果を上げやすい
    効用③消費者中心の経営を仕組み化できる
    ・なぜ「消費者中心」であるべきなのか
     製品技術を重視するモノづくりの会社、取引先との関係構築を優先する営業中心の会社、財務,顧 理第一主義の会社、組織の力学や人事計画など社内事情を大事にする会社もあるでしょう。製品や取引先、社内事情ではなく、消費者を第一に考えるのが消費者中心の考え方です。
     消費者中心という言葉には、どこか社会正義で、SDGs(国連が唱える、持続可能な開発目標:Sustainable Development Goalsの略語)的な印象を与えることがあります。この「善」の側面を否定するものではありませんが、本義ではありません。「持続的に利益を出し続けるために、もっとも効果的で効率的なアプローチが消費者中心主義である」というのが本来の主張です。消費者にとっていいことと、自社にとっていいことが一致するようなウィンウィンの関係ならば、繁栄しない理由がありません。逆に、ウィンウィンでないのに持続的な成長を維持するのは難しいでしょう。シンプルな概念ですが、このシンプルな相念ですが、この考え方を全部門で理解する必要があります。「いまは会社が傾くかもしれないときなんだから、消費者中心とか言ってる場合じゃない」といった議論が出てくる場合には、注意が必要です。本質を見誤っているかもしれません。ビジネスが劣化してきているときは、多くは消費者が離れているときです。そんなときこそ、消費者中心に考えないと根本的な劣化を止められないでしょう。
    ・重要なのは「見える化」と「仕組み化」
    「やってみせ、言って聞かせてさせてみて、ほめてやらねば人は動かじ」という山本五十六(日本の海軍軍人、連合艦隊司令長官)の有名な教えがあります。やり方を実演し、方法を伝えて、自分でやってみさせることで、個人は実行力を高められます。そうした個々人が集まって形成される組織についても有意義ですが、組織には固有の力学も働きます。組織を動かすのに不可欠なのが「仕組み化」です。以前に勤めていた会社の米国人上司に、陸軍士官学校出身のリーダーがいました。彼からリーダーシップについて多くを学びましたが、なかでも組織の動かし方として「仕組み化」の重要さを繰り返し教わりました。成功した活動の報告をすると、一通り褒めてくれたあと、“Otobe-san, you should make it into a process."と、よくアドバイスされました。「それを仕組み化するといいよ」ということです。仕組み化するというのは、「プロセス(手続き)をつくりなさい」ということです。成功理由を抽出し、成功が再現できるような仕組みやプロセスを、失敗からは、同じ失敗を繰り返さないための工夫としてプロセスをつくります。後進が自分ではその成功を経験していなくても、プロセスを守れば再現できるようにするのです。


    ▫️パーセプションフロー・モデルの材料
    ①ブランドについての理解・知識
    ②消費者についての理解・知識
    ・感動の仕組み①人と人の間:消費者が1人でブランドに向かい、消費しているというよりも、大事な誰かとの関係の中でブランドを使用し、楽しみ、味わっているのだという視点で観察することで、理解をが深まると思います。
    ・感動の仕組み②期待と満足の関係
    ・感動の仕組み③入力と出力のギャップ
    ③マーケティング活動についての理解・知識
    ④計測方法についての理解・知識


     クリエイティブディレクターなどの専門家たちに仕事を依頼する際の説明をブリーフィングと呼びます。ブリーフィングのスキルは「自分ではできないことを専門家に依頼し、自分の期待を超えてもらうための技術」です。習熟すると、部下への指示や他部署との協働にとどまらず、ヘアカットから注文住宅の設計まで、自分ではできないことを、自分の期待を超えて実現してもらいたい、さまざまな状況に応用できます。ブリーフィングで重要なのは、アウトプットへの期待を明確にして、マイクロマネジメントを避け、専門家が能力を発揮しやすい自由度を確保することです。パーセプションフロー・モデルでは、ヘパーセプション〉の変化に期待が明示され、〈知覚刺激〉の開発に自由度を確保しやすく、全体像も把握できるので、専門家にも好意的にとらえられることが多いでしょう。
     ブリーフィングで使われるブリーフ(brief)とは「端的に書かれた指示書」のことです。クリエイティブブリーフやメディアブリーフなど、活動領域をしめす言葉とセットで使われます。


    1.戦略:目的達成のための資源利用の指針
    ▫️戦略の本質
     あらゆるマーケティング活動には達成すべき目的があり、使える資源は有限です。そこで、資源を効果的・効率的に使うための指針が必要となってきます。これが戦略です。戦略という言葉は、「重要な」「長期的な」「計画的な」などの言い換えや、高尚な雰囲気を出すために曖昧な意味の修飾語のように使われがちですが、「目的達成のための資源利用の指針」と定義づけることで明快に理解でき、組織の共通言語として使いやすくなります。構成要素が「目的と資源」の2点に絞られているので、シンプルで汎用性が高く、国内外の多くの企業も戦略の基本概念として採用しています。
    消費者や市場環境の変化、競合の活動、取引先との関係などは、戦略を考える際に重視されがちな要素です。同時に、こうした要素は戦略に直接的に作用するものではなく、「目的と資源」への影響を通して、戦略に作用します。また、経営戦略の教科書にあるフレームワークやモデルなども、基本的には「有限の資源で、目的を達成するためのパターン」を定型化したものだと理解すると、使いやすいと思います。

     戦略を開発するときには、①目的を再解釈して戦略の候補案とし、②それぞれの候補案に対して投入可能な資源をリストアップし、③目的に対して「資源優勢」となる選択肢を選ぶことで、もっとも効果的・効率的に目的を達成する戦略を描けます。

    2.マーケティング:市場創造のための総合的活動
    ▫️マーケティングの本質
     日本マーケティング協会などが唱えるマーケティングの定義は、うまく本質をとらえています。「マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である」。そして、その核心部分を要約すると「マーケティングとは、市場創造のための総合的活動である」と端的に理解できます。
     野菜を洗って刻んだり、肉を切って炒めたりすることは「料理」の一部です。こうした行為を「料理をしている」とも呼びますが、料理の本質的な意味は「食べ物をこしらえるための総合的活動」です。同様に、商品開発や調査、広告や販促施策などの活動はマーケティングの一部で、こうした行為を「マーケティングをしている」と呼びますが、マーケティングの本質的な意味は「市場創造のための総合的活動」です。
     マーケティング=市場創造と理解すれば、「企業経営はマーケティングそのものである」という論も、「新しい価値を提案し、市場創造を続けることが、持続的な企業繁栄の道だ」と説いていると理解できます。新たに市場が創造されるなら、結果的に売れる仕組みにもなりそうです。

    ▫️市場創造の要諦
     そして、市場創造は「いい商品」を再定義することで実現されます。例えば、1990年代の「いいクルマ」は、「乗り心地がいい上質なセダン」などの属性が重要でしたが、 2010年代では「環境への負荷が少ない」、2020年代では「自動ブレーキなどの安全装備」が重要な属性となって「いいクルマ」を決定づけています。そのたびごとに市場の首位は変化します。逆に市場の首位が入れ替 わるときは、こうした市場創造が起きているようです。「消費者が望んでいる既存の属性順位を、一番うまく満たしたブランドが市場の首位になる」という印象がありますが、必ずしも現実に即したものではありません。

    3.ベネフィットと機能:主語はブランドか、消費者か
    ▫️ベネフィットの主語は消費者
     ベネフィットは、消費者がブランドを欲しいとか、使いたいと思う理由です。つまり、主たる購入理由です。ブランドを使うことで、消費者が経験する「なにかいいこと」ともいえます。ベネフィッ トの体感は、製品やサービスの機能や性能によってもたらされるので、両者の理解に混乱が生じます。 見分け方として、通常、ベネフィットの記述では主語は消費者です。

    ▫️機能・性能の主語はブランド
     製品の機能や性能は、消費者がブランドの使用を通してベネフィットを体感するための、もっとも 重要で直接的な手段です。通常、機能の記述では主語がブランドや製品、成分などです。

    ▫️ベネフィットの類型
    ①個人の快体験に関するベネフィット:能力を使い、整え、強化する
    ・所有する能力を一定の閾値以上に使う
    ・能力を温存し、整える
    ・能力を強化する
    ②社会的な快体験に関するベネフィット:他者や社会との関係をよくし、期待に応える
    ③代理による快体験に関するベネフィット

    5.ブランド:ベネフィット創出に関わる「意味」
    ▫️根幹となる要素は明示しておく
    マーケティングが市場創造で、ニーズの創出であるとき、ブランドは意味で、ベネフハットの創出に関わります。ブランドの定義にはいくつかの種類が存在し「ある売り手あるいは売り手の集団の製品 を別の製品と識別させることを意図した名称、言葉、サイン、シンボル、デザイン、あるいはその組み合わせ」といった定義を唱導する権威もあります。網羅的な記述は学術的にも安心ですが、実務においては、少し煩雑に感じることもあるでしょう。そこで、「ブランドとは意味である」と理解しておけば、実践で困ることはないと思います。

    ▫️ブランドマネジャーの矜持
    ブランドマネジメントの経験の中で学び、大事にしていることのひとつに、「自身が引退し、寿命が尽きるときにも、自分が携わったブランドが社会に愛され元気にしていることを目指す」というブランドマネジャーの矜持があります。「意味」であるブランドにはライフサイクルはなく、うまく管 理すれば永続します。もちろん、消費者や社会に必要とされ続けなくてはなりませんし、利益を出し 続けて会社に投資してもらいつつ、競合の圧力に負けない強さも必要です。加えて、社内の仕組みが障害となることがあります。ひとつは製品技術のライフサイクルで、もうひとつは人事異動のキャリ アサイクルです。いずれも、数年ごとにやってきて、ブランドの存続に大きな影響を与えます。
     製品技術とブランドを同一視している場合には、技術革新のたびにブランドをつくり変えることになり、長命を阻害します。かつて日本のテレビ受像機は多くの技術革新を生み出し、しました。技術革新のたびにブランド名を変え、固有の意味を確立しにくかったことは、時代が移り変わった理由のひとつかもしれません。また、担当者が新しくなるたびにブランドの方針が変更されることも、活動の不安定さを招き、好ましくない結果をもたらすことがあります。そうした技術革新や人事異動のサイクルよりも長くブランドを存続・成長させるためには、ブランドが体現する「意味」を明示し、構造化しておく必要があります。無分別なライン拡張や、思いつきによるベネフィット変更、刷新のための刷新、なども避けやすくなります。

    6.ブランドホロタイプ・モデル:ブランド定義のフレームワーク
    ▫️ブランドホロタイプ・モデル
    ①大義
    ②市場/競合
    ③ターゲット消費者
    ④ベネフィット
    ⑤エクイティ
    ⑥パーソナリティ
    ⑦アイコン
    ⑧機能・性能

    7.成長:昨日できなかったことが今日できる

  • 会社から支給された課題図書。実業務であるあるの事態をもとに、ブランドマネジメントにおけるいろはが分かりやすく解説されていて良かった

  • 今まで読んできたマーケティングの本で一番参考になったかも。実践的・具体的で自分の仕事に落とし込みやすいと感じました。

  • ◉市場のリーダー…「いい商品」の定義を新しく提案→市場の創造=自分でルールをつくる

    ◉ロイヤルカスタマー…タイムリなー情報提供で信頼を
    ∴特別扱いしてます感を出すべき

  • 大企業のマーケター向けです。
    パーセプションフローモデルを詳しく解説。
    ただ、全く響かず。
    年間億単位の広告予算を扱う方には向いているかも。
    「なぜ広告会社との議論が空疎になるのか」は
    若干悪意あるかも。
    僕にはこの本が空疎でしたが。
    街の広告屋には別次元の話だったかも。
    宣伝会議発行のマーケ本は当たりはずれが激しいです。

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著者プロフィール

クー・マーケティング・カンパニー 代表取締役。日本と米国のP&Gで17年間ブランドマネジメントやイノベーション方法の確立などに従事した後、ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、日産自動車、資生堂など複数のブランドを擁する企業でブランドマネジメント組織を指揮・構築。組織強化を通したブランドの成長を実現。2018年1月より現職。博士(経営学 神戸大学)。著書に『なぜ「戦略」で差がつくのか。』(宣伝会議)、『マーケティングプロフェッショナルの視点』(日経BP)、日本マーケティング学会「日本マーケティング本 大賞2022」を受賞した『The Art of Marketing マーケティングの技法 - パーセプションフロー・モデル全解説』(宣伝会議)などがある。

「2023年 『マーケティングの扉 経験を知識に変える一問一答』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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