- Amazon.co.jp ・本 (305ページ)
- / ISBN・EAN: 9784879842602
作品紹介・あらすじ
第二次大戦下、親元から疎開させられた6歳の男の子が、東欧の僻地をさまよう。ユダヤ人あるいはジプシーと見なされた少年が、その身で受け、またその目で見た、苛酷な暴力、非情な虐待、グロテスクな性的倒錯の数々……危うさに満ちた、ホロコースト小説。
旧邦題『異端の鳥』(角川書店)の新訳版。
感想・レビュー・書評
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東欧の作家の作品を選りすぐった「東欧の想像力」シリーズ、なかでも衝撃的な作品といえば本作でしょう。あのアゴタ・クリストフ『悪童日記』さながら、疎開のために親から引き離された6歳の黒髪の少年が戦時を生き抜くサバイバル小説です。
『悪童日記』が淡々と投影される影絵のような物語であるとするならば、本作は先鋭的でどぎついほどの光を放つ鮮やかな作品ですね、いや~圧巻です。
ナチズムの台頭によって、ユダヤ系の人々、ジプシー(ロマ)や障がい者はいわれのない差別と迫害を受けていますが、そこでは大人のみならず子どもたちも悪魔の子として忌み嫌われました。少年は村々を放浪し、飢餓にあえぎ、奴隷のような労働、日常化した暴力、狂気と不条理な歴史に呑み込まれていきます。
ここでは興味深い田舎の子どもたちの遊びが紹介されています。野鳥をつかまえた子どもたちは、その鳥にせっせとペンキで彩色します。色をつけられた鳥を群れに返すと、仲間の鳥たちはその姿をひどく怪しみ、しまいには突つき攻撃して殺してしまうのだとか。
そのエピソードを敷衍したのが本作のタイトルで、これだけみても、作者コジンスキー(1933~1991ポーランド出身ユダヤ系アメリカ・全米図書賞作家)がこの作品に全身全霊を傾けているのが伝わるよう。
1965年にアメリカや西欧諸国で刊行されたものの、あまりの衝撃的な内容にポーランドでは発禁処分となり、東欧のいくつかのマスコミは反対キャンペーンをはったようです。作者コジンスキーへの批判や迫害、母国ポーランドへの裏切り呼ばわり、はたまた亡命先のアメリカではゴーストライター疑惑までもちあがって、なんとも数奇な作家です。
ある種の真実を、ほの暗い影絵のように浮かび上がらせるのではなく、抗いようのないものとして鮮やかに照らしだすことは、往々にして人々を凍らせ、パニックを与えてしまうのかもしれません。先の戦争が終わって20年、人々は戦争や差別やホロコーストの反省を口では誓ってみても、かたやベトナム戦争の激化、キューバ危機、黒人公民権運動家の暗殺……ちまたにはびこる虚飾や偽善をやすやすと剥してしまったコジンスキーの言葉に凍りつき、居心地の悪さを覚え、結局は彼を一羽のペインティド・バードにしてしまったのではないのか?
批判の渦中におかれたコジンスキーは、「ノンフィクションを書いたわけではないし、大戦中に東欧でみられた残忍さや残酷さを誇張してはいない」と述べています。ナチズムにかぎらず、古今東西の戦争、差別や集団的暴力の残忍さや歴史を少しでも知っていれば、こんなにも哀しい弁解を作者にさせる「ヒステリックな何ものか」には、ただただ呆然とします。
クオリティの高い創作や力のある物語は、つねにある種の真実と並走しながらどこかの時点で重なり、溶け合い、化学反応を起こしてとてつもない感銘力を生むものと思います。それが事実なのかそうでないのか、フィクションなのかノンフィクション(自伝)なのかを云々すること自体、ひどく無意味で滑稽に感じます。
本作はまさに物語の力をみせつけた作品。さらに人間の心の闇に巣食う、違うことへの恐怖、憎悪、差別意識――たしかにちょっと見渡してみても、平然と人種差別発言をする米国の大統領、LGBTへの差別的発言をする日本の国会議員にはじまり、障がい、宗教、民族などを理由にした差別や迫害、わけのわからないヘイトスピーチが世界中には溢れていて――それが発露したときの集団的暴力と残忍性、多様性を排除した狂信性、その行き着く先は……そんな時も場所もこえた、普遍的な真実に迫った作品だと思います。
けなげに生き抜く少年とパワフルな物語をながめてみてください♪ -
「異端の鳥」(角川文庫)を読んだ時の衝撃は忘れられないです。
新訳で、もう一度読んでみたいと思っています。 -
ホロコーストから逃れるために、東欧のとある寒村に預けられた少年。だが、金髪碧眼の周囲の人間からは浮いたその風貌から、迫害を受け、村から村へと追放される。時には危険を冒し庇護下に置いてくれる人物もいたが、安寧は長くは続かず…。食糧も、家族も、居場所もない中、唯一想像力を糧として生き抜かんとした少年のサバイバル小説。
とにかく残虐で凄惨という前評判だけは知っていたので覚悟していたが、冒頭の子供がリスを無邪気に生きたまま火だるまにするシーンを読んで納得。この描写がアウトなら読まない方が良い。しかも終始容赦がないのであれば、構えて、ひたすら打たれ続けるのに耐えれば良いだけなのだけど、誰かの不意打ちのような優しさで無防備にされたその直後に、ボディブローをかまされたりする。このアップダウンが一番残酷かもしれない(実際はダウンダウンダウンアップくらいのものだけど)。
しかし本作、「ホロコースト文学」と謳われているが、素直にそう捉えて良いのだろうか。少年は本当に、ジプシーやユダヤ人と勘違いされ、銃後という余裕のない環境で、ナチスの処罰を恐れた住民に迫害されたのだろうか?平時であれば、違ったのだろうか?鮮やかなペンキで塗られた鳥、「ペインティッド・バード」が、群れの仲間の元に戻された後にどうなるかを考えると、疑念を抱かずにはいられない。最も強い暴力である戦争と、最も無力である子供という対置で際立つが、そのような過酷な環境下で唯一武器となるのは、呪い・信仰・思想といった想像の力であるということを著者はただ示したかったのでは、と思った。 -
冷戦の時代、ポーランドからアメリカに亡命した作家コジンスキーの作品です。ぼくは映画「異端の鳥」の原作という興味で読みました。
映画も心に残りましたが、原作であるこの小説も心に残る作品でした。コジンスキー自身の少年時代の経験に基づいて書かれた作品なのかもしれませんが、映画にすればおもしろいだろうというヨーロッパの田舎社会の1940年代の様相が、子どもの目を通して描かれているところが俊逸なのだと思いました。
中世的、あるいは呪術的、カトリック的農村世界、ナチス、赤軍、三つ巴なのですが、どこにいてもペインティングバードでしかありえないアイデンティティを、唯一救うかもしれない「共産主義」さえも偽物であったところからこの作品が生まれたことを痛感しました。
ブログに感想を書きました。覗いてみてください。
https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202012260000/ -
「気持ちがふっきれず、目的意識も定かでないまま、呪いと祈り、居酒屋と教会のあいだで道に迷った人間は、神からも悪魔からも助けを得られず、たったひとりで、一生涯、もがき苦しまなければならない。」p.181
東欧の物語。第二次世界大戦の影響により、少年は8歳で両親と離れ1人で様々な場所を流浪する。黒い髪と瞳を持つ彼は、当時迫害の対象であったジプシーと見なされ、行く先々で異端の者として酷く扱われる。彼は様々な人々と関わることで、愛や憎悪、また宗教や共産主義といった概念に擦り寄り、生き続けようとする。
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ホロコースト小説ということで手に取ってみたが、いやー、しんどかった。6歳の男の子が迫害されては逃亡を繰り返す中、祈りすら届かないことをこの年で悟るというのが……最後には、心がすさむという言葉ではとても片づけられなくなった。数々の(性描写を含めた)残虐行為も途中食傷気味になったものの、読了してみれば彼の意識の変遷にはやはり必要な描写だったと気づく。しかしこれを特に大人が読むと、封印していたうしろめたさを刺激されるというか、普段目をそむけている自分の中の黒い部分を暴かれるような錯覚に陥りそうだなと思った。
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10歳の子供には過酷すぎる仕打ちが次々と出てきて読み進めるのが嫌になるほど。作者の経験に基づいていないと言われているようだが、それにしては描写が細かい。翻訳はとてもいい。翻訳者による解題も参考になった。ただ、そう言われるとそうかとも思うけど、ポルノグラフィの面は読んでいる間はそれほど気にならなかった。それよりも、普通の村人たちから受ける殴るけるその他の尋常でない暴力の方がインパクトが大きかった。ポルノ的な部分もむしろ暴力の一部として描写されていたように感じる。ともかく実際にこれを生き延びられる人はいないのではないか。でもこの少年は、ある迷信はたまた別の迷信をたたきこまれ、それについて考え、その後共産主義の洗礼を受け、読書ができるようになり、自分の頭で考えているところが立派だと思う。生死がかかっていると真剣になるものだ。家族の暖かさを求めたりする感情はすべて抑圧されてしまったかもしれないが。
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映画を観た後に読んだ影響で景色がしっかりと目に浮かぶ。映像の中でヒキで撮影されたカットが本の中でも体内の状況や気持ちまでクローズアップされる事がよく分かった。これがフィクションであろうとこんな状況になっていただろうし、現在でタブーである動物や親子間での関係性(当時もタブー視されて村八分か)も当時の残虐な時代背景を上手く写り出しているように感じた。
こんばんは。レビューをお読みいただき、しかも過分なお褒めの言葉までいただいてとても嬉しいです。ありがとうございます♪
り...
こんばんは。レビューをお読みいただき、しかも過分なお褒めの言葉までいただいてとても嬉しいです。ありがとうございます♪
りまのさんは、この作品を思春期に読まれようですね、スゴイな……おそらく柔らかな心に深く突き刺さるような本だったのではないかと想像します。はるか昔に学生を終えた私の心にさえ感銘を与えてくれた本ですものね……あまりに感激して半分泣きながらレビューしましたよ(笑)。
こういった時代を超えた素晴らしい作品がもっとたくさんの人に読まれて欲しいな~と思います。とりわけ苦難だらけの東欧の作品は、生きることへの問いかけを直球でしてきます、ドキドキします。すぐれた作家も多く、楽しく読ませてくれるので惚れぼれします。魅力を少しでもレビューできればいいなと思っています。それではりまのさん、どうぞ今年も宜しくお付き合いくださいね♪
まさか、コメントにお返事頂けるとは、思っていませんでした。感激です〜!
リアル本友に、感動した本をおすすめしても、(悪童日記...
まさか、コメントにお返事頂けるとは、思っていませんでした。感激です〜!
リアル本友に、感動した本をおすすめしても、(悪童日記とか)「暗い」と言われる事の多い私……。ブクログの皆様のレビューに、心癒されております。
どうもありがとうございました。どうぞよろしくお願いいたします。
ブクログの皆さんのレビューやコメントは斬新だったり楽しかったりしますので、コメントしたりされたりして、もっと楽しくなりますよね...
ブクログの皆さんのレビューやコメントは斬新だったり楽しかったりしますので、コメントしたりされたりして、もっと楽しくなりますよね♬
りまのさんのお薦めする本は、この『ペインティド・バード』にしても『悪童日記』三部作にしても、重厚なリアリズム作品で東欧のいい作品だと思います。とくに『悪童日記』は結構人気あると思いますよ、世界的にも。どうぞガンガン友人にお薦めください(笑)。