狩りの思考法 (アサヒ・エコ・ブックス)

著者 :
  • 清水弘文堂書房
3.98
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本棚登録 : 258
感想 : 25
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784879506368

作品紹介・あらすじ

現実は、とても残酷だ。でも現実は、とっても美しい。
未来を見つめて、いまを直視できない私たちへ。

グリーンランドの世界最北の集落シオラパルクから、結氷した海峡を犬ぞりで渡る壮大な旅をしようとしていたのに、新型ウイルスのせいでカナダの入国許可が取り消され、旅ができなくなってしまった! 氷に囲まれた小さな村にいる間に、世界は一変してしまったらしい。

だが、感染症によってもたらされた明日をも知れない世界は、角幡唯介が探検によって求めてきた世界の姿と似たところがある――。

■北極圏で生き抜いてきたイヌイットの知恵
シオラパルクのイヌイットは、農業ができない土地で、数千年ものあいだ狩猟による生活をつづけてきました。彼らと同じ生活をしてわかった、厳しい世界と向き合う方法。その秘密は、イヌイットが口癖のように言う「ナルホイヤ」という言葉に秘められていました。

この「ナルホイヤ」という言葉から、イヌイットが厳しい環境を生き抜いてきた知恵をうかがい知ることができます。

■狩りと漂泊の旅
前時代のイヌイット猟師のように、食料をほとんど持たず犬ぞりで移動し、狩りの獲物だけを頼りに2カ月ものあいだ旅行をする。そこには、日本の都市での「安全な」暮らしとは対照的な世界が広がっています。

狩りとは、旅とは、生と死、偶然と運命とは――明日の食べ物があるかどうかもわからず、ときに野生動物に襲われかけながら、狩りと旅をした経験から、角幡唯介が考え、発見したことを、軽やかな筆致で語っています。

いつもと同じ生活が、少しだけ違った景色に見えてくる。そんな一冊です。

感想・レビュー・書評

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  • 冒険されていない場所が段々と少なくなって、エクストリーム登山のようなものが多くなってきましたが、書籍として読むのはやはりオーソドックスな方が楽しいしワクワクします。
    とはいえオーソドックスって何ぞやというと、厳しい自然に少ない装備で分け入っていき、現地で食料調達して食べるというのは非常に読んでいてワクワクします。
    なので極夜を旅するという概念上の未到達地点を作り出した角幡さんは偉大です。無人の平原を犬橇で旅をしていきゴール地点を決めず、得られた食料によってどこまで行けるか本人がワクワクしながら極地を分け入っていく。うーんこれはワクワクだ!と思ったらまさかのコロナ。まさか無人の野にまで波及するとはコロナ恐るべし。

    さて、そんな中、イヌイットの通常業務である狩りという行為がもたらす精神的な動き。我々肉を買っている人々と彼らの違いなどが色々書かれていて非常に興味深かったです。
    よく屠畜する人々への差別をさておいて肉を恒常的に口にする事を云々される事多々ありますが、そもそも極地には植物が殆どなく、殆どすべての栄養を生物の死から取り込んでいます。死が身近にある事で自分と他者(人だけではなく)の違いが薄皮一枚にまで狭められている。これは我々にとっては異常な事ですが、本来生物としては当然の事と思えます。

  • 今現在あてを決めずに旅をしているが、観光地や飲食というものに飽きてしまっている。 
    どこに行っても同じような現代人間の生活の中で、唯一楽しいと思ったのが漁を始めとする“生の生活”だ。
    日が昇れば起きて、天気が良ければ漁をして、気分次第でおやすみする。そんな暮らしがまだ残っている地域がある。
    それは本当に“生活”そのもので、旅行や観光といったものには決してない素の姿だった。

    自分がしたいのはそういう生の生活を見ることだなと思うようになってきた。
    旅の仕方と目的を、今一度確かめたいと思う。
    そんな今にピッタリの本であった。
    ちょっと後半3割ほどが冗長であったが、読みやすくまとまっており良い読後感です。
    まだまだわしも考えることがたくさんある。がんばろう。

  • 記録

  • "ナルホイヤ"なる言葉から狩猟民族であるイヌイットの社会と思想を紐解いていく。
    今を生きるにはどうするか。
    筆者の偏った思想や屁理屈に近い(?)文章にどんどん惹かれていき、妙な説得力を感じられます。
    それが心地よく、面白い。
    そしていつも思いますが、ひとつの本がひとつの本で終わらず、ずっと続いてる印象があるのでこの本から始めるというのは少し厳しいかもしれません。
    私も何冊か読ませて頂いてますが、筆者に完全にはまってます。

  • 偶然と必然。そして現地人の多分の言葉。数も分からない、ほんとんど原始に近い暮らし。

    自殺者も多く命の概念も違う。何もない場所で狩りをして単調な毎日を送る。極寒の地での暮らしを書いているがそこに住む人たちは何を楽しみに生きているのか。難しい哲学みたいな問答よりもそこを書いて欲しかった。
    分からない、考えろ、多分。それらの言葉が絶対についてくるらしい。明日の天気は?の答えは天気予報はあくまで予報。なのでわからないと答える。ネットでは何と言っていた?と言うと晴れと言っていたが分からない。
    明日の計画も天気次第で計画すること自体が頭がおかしいと考えている。
    私みたいな計画に縛られている人は暮らすことはできないが育った環境で性格は形作られていくのだろうなぁ
    この本は冒険ではなく筆者の考えをまとめた本。

  •  現在、僕的に最もしっくりくる冒険論を書いているのが、本書の著者、角幡唯介さんだ。計画と漂泊に対する考察、冒険行を思い立つその経緯、すべて拍手したくなるほどだ。

     本多勝一さんが著書で紹介していた『アーマイ』(本多さんは音符表記で発音・アクセントも伝えようとした)と同義語の『ナルホイヤ』を通してイヌイットの思考を理解する下りは、著者の肌感覚と併せ、面白い考察だと思う。

     ただ、文中にも書かれているが、原稿量が決まっているためか、一つ一つの論旨を説明するにあたり、冗長になるきらいがある。もう少し比喩を削り、文章に締まりを持たせたほうがダイレクトに著者の主張が伝わると思う。

  • グリーンランドから海峡を渡ってカナダ側へ行く計画を立てていたが、新型コロナのせいで行けなくなった。その顛末がグタグタ、スマホ論まで絡めて言い訳じみていたし、暗い。
    この部分を冒頭で読まされる。

    狩り、というから雄々しい思考パターンをするのか、と想像していたが、違うようだ。

    読了45分

  • ふむ

  • 著者の「目標と過程」の考察と行動が興味深いです。目標達成に重きを置き過ぎると、日々は単なる過程、短いほど効率的となってしまいます。旅行で、目的地に達する事だけが目標だと全然楽しめないように、「今、ここに生きる」とは全く正反対で、決して幸せにはなりません。
    著者は「地図なし登山」など行動してそれを試したりしています。「〇〇を手に入れたら」というように幸せを遠くの目標に置かないで生きることを、僕たちもそれぞれが自分の頭で考えて行動に移したいですね

  • 自分の行為を見つめて、その内面深くを考察する。
    計画を立てて行動する、現代人の在り方と、ナルホイヤの思想という、今現在を生きる狩猟民族の生き方の対比がとても印象的だった。
    本を書いて発表するために冒険していたが、シオラパルクに通うようになってから、本では伝わらない、それでもいいと思うようになったとの著者の心境の変化も印象的。
    こんな生き方もあるのか。

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著者プロフィール

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)
 1976(昭和51)年北海道生まれ。早稲田大学卒業。同大探検部OB。新聞記者を経て探検家・作家に。
 チベット奥地にあるツアンポー峡谷を探検した記録『空白の五マイル』で開高健ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞などを受賞。その後、北極で全滅した英国フランクリン探検隊の足跡を追った『アグルーカの行方』や、行方不明になった沖縄のマグロ漁船を追った『漂流』など、自身の冒険旅行と取材調査を融合した作品を発表する。2018年には、太陽が昇らない北極の極夜を探検した『極夜行』でYahoo!ニュース | 本屋大賞 ノンフィクション本大賞、大佛次郎賞を受賞し話題となった。翌年、『極夜行』の準備活動をつづった『極夜行前』を刊行。2019年1月からグリーンランド最北の村シオラパルクで犬橇を開始し、毎年二カ月近くの長期旅行を継続している。

「2021年 『狩りの思考法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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