「闇の奥」の奥: コンラッド・植民地主義・アフリカの重荷

著者 :
  • 三交社
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  • Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784879191670

作品紹介・あらすじ

コンラッドを「べらぼうな人種差別主義者」と断罪した作家アチェベの1975年の発言は、果たしてそれほど不当なものだったのか?ナチスのユダヤ人抹殺に先立つ30余年ほど前に起こった、ベルギー国王レオポルド二世による「コンゴ自由国」での黒人虐殺・収奪の痛ましい悲劇を中心にすえながら、黒人奴隷貿易の歴史、レオポルドの悪行と隠蔽に抗して立ち上がった先駆者たちの多彩なプロフィール、アチェベ、ハナ・アーレント、サイードなどのコンラッド論、『闇の奥』をモチーフにしたコッポラの映画「地獄の黙示録」をめぐるエピソードなど、豊富なトピックをまじえながら、ポストコロニアル時代のいま、改めて、「白人の重荷」という神話、西欧植民地・帝国主義の本質を摘出する。

感想・レビュー・書評

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  • コンラッドの「闇の奥」を切り口に、奴隷貿易から現在まで根を張るの白人のアフリカに対する帝国主義、植民地主義を鮮やかに描き出す。

    間違いなく名著。
    映画「ブラッドダイアモンド」関係で調べ物をしていて辿り着いた。日本に住んでるとアフリカについて疎くなりがち。出会ってよかった。

    平易な文章、数多くの(歴史的)エピソード、とても読みやすい。

    戦前生まれかつ、元々理系畑の著者が、カナダ移住と北米先住民との交流を経てここまで平等主義的な思想を獲得しているのは注目に値する。

    少し感情的な(怒りに震えた)文が目立つ。

  • 4.1/104
    内容(「BOOK」データベースより)
    『コンラッドを「べらぼうな人種差別主義者」と断罪した作家アチェベの1975年の発言は、果たしてそれほど不当なものだったのか?ナチスのユダヤ人抹殺に先立つ30余年ほど前に起こった、ベルギー国王レオポルド二世による「コンゴ自由国」での黒人虐殺・収奪の痛ましい悲劇を中心にすえながら、黒人奴隷貿易の歴史、レオポルドの悪行と隠蔽に抗して立ち上がった先駆者たちの多彩なプロフィール、アチェベ、ハナ・アーレント、サイードなどのコンラッド論、『闇の奥』をモチーフにしたコッポラの映画「地獄の黙示録」をめぐるエピソードなど、豊富なトピックをまじえながら、ポストコロニアル時代のいま、改めて、「白人の重荷」という神話、西欧植民地・帝国主義の本質を摘出する。』

    「『闇の奥』の奥」
    著者:藤永 茂
    出版社 ‏: ‎三交社
    単行本 ‏: ‎237ページ
    発売日 ‏: ‎2006/12/1

  • 『レオポルド王の幽霊』を読む参考書として読む。『レオポルド王の幽霊』の内容がうまくまとめられているので、助かった。

  • ヨーロッパがアフリカで行ったことと、アメリカがフィリピン、ベトナムで行ったことはネオコロニアリズムの発揚という点でパラレルである。その意味で地獄の黙示録が「闇の奥」を下敷きにしていると言うのは皮肉である。
    奴隷貿易がいかにアフリカの現在に壊滅的な影響を与え続けているか、思い知らされる作品だった。

  • コンラッド「闇の奥」で描かれたコンゴ河流域におけるベルギー(正確にはレオポルド2世)による植民地経営の実態に迫る。「地獄の黙示録」における「手首切り」と当時のコンゴ自由国において行われていた黒人労働者への刑罰としての手首の切り落としの関連から筆を起こして、奴隷を現地調達してゴム栽培などの強制労働に徴発する植民地経営システムへの怒りは、そのような背景に無関心で、むしろ大英帝国の植民地支配を疑わない当時の知識人たち(コンラッドを含む)を鋭く告発する内容になっている。一方で植民地支配を告発したモレルやオリーブ・シュタイナーら、現在あまり知られることのない文筆家たちの功績も紹介されている。

  •  小説「闇の奥」がヨーロッパの帝国主義的アフリカ侵略の革新を摘出する文学作品とみなしている。しかし著者は本質的に曖昧でその考えには欠陥があると考えている

     闇の奥の舞台はアフリカのコンゴである
     ここは植民地として目をつけたのがベルギー国王レオポルト2世であった
     彼の父レオパルド1世はイギリスやフランスでは植民地からの莫大な利益に憧れたが残念ながらその夢では叶わなかった
     しかし息子が驚くべき執拗さと恐るべき項目分割がはっきしてその夢を引き継いだ
     時はすでに19世紀後半。アフリカの奴隷貿は既に時代おくれとなり、アフリカの新たな天然資源に関心が寄せられ始めていた

    アフリカを科学的に啓蒙し無知から人を救い出すという名目の元、大国の間を縫って、恐るべき狡猾さでレオポルド2世はアフリカのコンゴに「コンゴ自由国」を設立する。
     だが、「自由」とは名ばかりで、そこで奴隷現地調達し、それを使ってアフリカの天然資源を採掘すると言うシステムを生み出した。

     コンゴにはレオポルド二世と彼に営業権を与えられた民間会社の私設群が駐屯していた。
     彼らは、ある集落を襲うと原住民を調達し、潰れるまで酷使した。
     荒廃し、集落が役に立たなくなると、無用となった集落をすて別の集落に襲いかかった
     少しでも抵抗見せると武力で鎮圧し、女性は陵辱された。
     民間会社もそれぞれに同じような子飼いの武装集団を持ち、同様の手口で資源採取していた。

     鎮圧に使われた小銃類は、先住民の酋長の間にも次第に普及し、小銃弾に対する需要が大きくヤミ取引も多かった
     そこで白人支配者から小銃弾の出納を取り締まるために 銃弾が無駄なく人間射殺のために用いられた証拠として、死人の右手首の提出の黒人隊員に求めた。
     そのため右手首を切り落とされた先住民の男たちの写真が今後の真実としてスクープされ、レオポルド二世の暴虐が明るみに出た。

     それまでレオポルド二世はコンゴ独立国と称した広大な私有地を有し、アフリカに私財を投入して未開の先住民の福祉の向上に力を尽くす慈悲深い君主としてヨーロッパアメリカで賞賛されていた。
     糾弾したのは黒人解放に尽力した、Washington Williams、有能なジャーナリストであったロジャー・ケースメントとE.D.モレルであった。
     彼はアフリカから輸出されるゴムなどの現地の産物に与えられる見返りが極端に少なく、その輸出品に重火器や弾丸が多いことに気づいた。それは奴隷を現地調達し、その維持のために絶え間ない暴力が必要であることを示唆していた

     ケースメントもモレルも悪の根源を見抜いていた。これは個人の資質に問題ではない。
     このシステムの下で行動する白人たちには黒人を残酷に扱う以外、選択肢はなかったのである。

     さて、闇の奥の著者何だったコンラッドはこのスキャンダルに対してどのような姿勢だったのか
     このアフリカに対する暴虐はベルギー一国の問題である。
     ヨーロッパの古き良き心の担い手はイングランドであり、ベルギーという文明度の低い諸国はヨーロッパのメンバーシップ値しないと言っている。
     しかし、これは他のヨーロッパ諸国と同様、とりわけビクトリア女王時代にイギリスの植民地経営主義的侵略を正当化したい気持ちの表れである。植民地主義帝国主義的支配のシステムの本質においてベルギーとイギリスの区別する理由は何もない
     また、正常なものがアフリカの原始を媒介として非常に危険なものに変貌するという考え方が今も白人の偏見の中に息づいており、コンラッドの闇の奥は、この暗黒大陸アフリカの神話を極端なまでに強調した小説である。
     同時に「白人の重荷」という「半ば悪魔、半ば子どものような原住民に文明の光を与えるためには、無私の奉仕と無償の善行が要求される」という概念である。
     日本人にとってはややなじみの薄い概念だが、「非キリスト教世界に自由と民主主義を拡大する」というブッシュ政権の語り口と、アフリカの惨状を目の前にして「脱植民地後、アフリカは後退した」と植民地支配を正当化しようとする発言に脈々と受け継がれている。

    <抜粋>
    P40
    ヨーロッパの商人たちはアフリカ西海岸の黒人王国の支配層金品で買収腐敗させ銃器を与えて奴隷取引のて先に仕立てた (略)
    アフリカ大陸の内部に押し入って植民地を開拓し資本を投入するよりも 略 そのほうがはるかに効率よく仕方が安全な富の安全な集積方途であったのだ

    P45
     イギリスで始まった産業革命の進行はヨーロッパとその延長としての北米の産業構造を大きく変えていった
    黒人と言う生身の労働力資源をアフリカから吸い出し、わざわざ家の彼方に行って農業生産に従事させることが産業経済的に時代遅れになってしまった。それよりも8割の土地がまだ手付かずに残っているアフリカ大陸に眠っている。天然資源の開発に時代の関心が向けられヨーロッパの食指、毒牙が動き始めるのである
    アフリカ分割争奪時代の幕開けである

    P69
    以前にはコンゴ河の河口方に張り付いて、奴隷を吸い出していった吸血鬼が、いまや今や河をつてたって内陸部に侵入し
    先住民を現地で奴隷化して労働を強制し、象牙、ゴム、椰子油、鉱産物を持ち出す自由(とは名ばかりの搾取)貿易を始めたのである

    P71
     レオパルド2世は自由国を区分して数社の有力な民間会社に割り当て、各社がそれぞれに要所に交易出張所設立して白人を常駐させ、周辺の集落の首長たちに過酷な割り当てよう実施して象牙、その他の資源を収奪した。レオポルドはそれらの会社に営業権を与えそのコミッション名義で金を集めた。

    p73
    19世紀後半には空気入ゴムタイヤが発明され(略)それは笑のとものとするがにした

    77ページ
    強制労働のあまりの過酷さに耐えきれず作業を捨てて黒人たちは密林の間に逃げ込むのを防ぐのがレオポルド二世の私設軍隊の重要なに任務もだった

    195p
    (奴隷貿易に対するモデルも厳しい)
    リバプールの繁栄に象徴される18世紀の奴隷貿易から巨万の富を蓄積した英国は、19世紀初頭にはいち早く時代の変化を察知して奴隷貿易廃止1807年を宣言し、海軍力を行使して多国籍の奴隷船の洋上拿捕に乗り出す。アングロサクソン伝統の国家的事前の典型である。記述の通りモデルに動かされて英国議会と政府はレオポルドの大陸内現地奴隷システムを打倒に貢献した

    147p
    正常なものがアフリカの原始を媒介として非常に危険なものに変貌するという考え方が今も白人の偏見の中に息づいている

    155p
    コンラッドの闇の奥は、この暗黒大陸アフリカの神話を極端なまでに強調した小説である

  • 闇の奥と地獄の黙示録から現代の世界を覆う白人至上主義と植民地主義を見つめ告発する。西洋を支える為にアフリカが収奪された姿を文学作品から読み取る。コンゴを支配したベルギーのレオポルド2世のえげつなさが凄まじい。

  • アフリカの作家アチェベは『闇の奥』を執筆したコンラッドを「べらぼうな人種差別主義者」と批判したが、なぜそこまで言わなければならなかったのか?本書は執筆当時の実情について明らかにし、ベルギー国王レオポルド2世の統治下における悲惨な実情について告発する。コンゴは当時植民地ですらなく、国王の私領であった為に植民地支配を推し進めていた列強諸国からも批判されていたという構造は皮肉としか言いようがない。地獄の黙示録に出てくる、手首を切り落とされた人々の話は当時のコンゴで実際に行われていたというのはおぞましい事実だ。

  • リバプールは奴隷船の発着港だった。
    欧米の白人たちはみな、植民地支配はアフリカを未開の地から解放しているという共通理解のもとにあった。それはまさに悪魔の所業であったのにもかかわらず。

  • 著者は量子化学の専門家だが、九大在勤中にエンプラ事件に居合わせた衝撃からこの道へ。

    「地獄の黙示録」製作秘話から始まり、エリオット「虚ろな人々」を切り口に検証を進める。「切り落とされた腕の山」のエピソードの元ネタはベトコンでなく、コンゴにあると、アリス・ハリスの「切り落とされた腕先」の写真の存在を紹介する。また、「『闇の奥』は、モブツ独裁に対するナイポールの『暗い河』と同様に、ベルギー国王レオポルド2世のコンゴ搾取にバイアスをかけている」とアチェベ論争における自身のスタンスを表明した上で、サイードの見解を披露する。更にはH.M.スタンリーが国王の片棒担ぎだったことを名台詞“Dr.Livingston,I presume?”と絡めて見せ、話はボーア戦争まで広がる。
    E.D.モレル『コンゴの醜聞』や
    メアリー・キングスリー『西アフリカ紀行』や
    コナン・ドイルの従軍記『偉大なるボーア戦争』と『コンゴの犯罪』や
    オリーブ・シュライナー『マショナランドの騎兵ピーター・ハルケット』や
    アイルランド人ケースメントなど、コンラッド同時代人の業績と見解を明らかにする…

    このくらいで一般書としては満腹でしょう~ふうっ ^^;

    まあ、これで終わっては(日本語の書物としては)彼岸の火事になってしまうとの著者の焦りはわかる。わかるけどさあ・・・。

    米比戦争の下りは(キプリング「白人の重荷」は印象的だが)いかにも駆け足だし、コンゴ産コルタン鉱石がマンハッタン計画や昨今のエレクトロニクス産業に密接に関連していることなんかは別建てでしっかり展開してほしいところだなあ。

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著者プロフィール

藤永 茂(ふじなが・しげる)
1926年中国・長春生まれ。九州帝国大学理学部物理学科卒業。京都大学で理学博士の学位を取得。九州大学教授を経て、カナダ・アルバータ大学教授就任。現在同大学名誉教授。著書:『分子軌道法』(岩波書店)、『アメリカ・インディアン悲史』(朝日選書)、訳書コンラッド『闇の奥』(三交社)他多数。

「2021年 『ロバート・オッペンハイマー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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