幕末鼓笛隊‐土着化する西洋音楽 (阪大リーブル037) (阪大リーブル 37)
- 大阪大学出版会 (2012年11月19日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
- / ISBN・EAN: 9784872593198
作品紹介・あらすじ
幕末鼓笛隊は欧米列強に対抗するために西洋式の軍事訓練がなされ,メロディを吹く篠笛と,
リズムを刻むスネアドラムが軍楽隊として誕生した.
その後廃藩置県により消滅したが,じつは地域社会の祭礼と結びついて今も生き残っている.
維新後から継続している数団体と,その後復活した約10の団体を調査し,
文化接触による伝統音楽の変容と適応について紹介する。
感想・レビュー・書評
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幕末の西洋軍制の導入とともに入ってきた西洋音楽、鼓笛隊が、その後日本各地に広まり、それが現在にどう受け継がれているかということを考察した一書。フィールドワークの面白さというか醍醐味がふんだんに盛り込まれている点が、この本の印象を力強いものにしている。
著者は、五線譜に固定化した楽譜とは違うメロディーを演奏している各地の「鼓笛隊」に対し、「違うじゃないか」とか「歴史の改編である」と批判するのではなく、その変容じたいを歴史として受け止めるべきだとしている。この主張は、たびたび出てきており、印象的である。
僕自身も、地域の文化については、その通りだと思う。しかしじゃあ歴史修正主義に対しても同じように思えるかというと、そうはならない。だとすると、歴史の改変自体を受け止めてよい境界線というのは、どこにあるのだろうか・・・と考えてしまう。ある場面では歴史の「改変」を受け止め、違う場面では受け止めない。それは恣意的ではないのか・・・。
それは本書の主題ではないのだが、そんなことが気になった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
鼓笛隊という言葉を見て、小学校の運動会を思い出した。あの頃、集団で楽器を演奏しながら歩くことに何の疑問も持たなかったが、演奏することで周りが盛り上がり、気持ちも高まるので、少なくとも平和的な活動をしている感は持っていた。ところがまさかそのルーツが幕末の国威発揚にあり、戊辰戦争を通じて土着化したとは想像だにしなかった。また口伝の威力もすさまじい。楽譜ではなく人を通じて伝承されたことでバリエーションができ、その数分文化も生まれた。伝統を作る一つの力を感じる。