井上章一 現代の建築家

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  • ADAエディタトーキョー
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  • Amazon.co.jp ・本 (504ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784871406895

感想・レビュー・書評

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  • 井上さんは専門は「建築」なんです

  • 明治から現代まで20人の建築家を紹介。一人一人の切り口、エピソードはそれだけでとても面白かったのだが、ではこの本全体を通じての井上章一先生の狙いどころがなんなのか。てなことを1週間くらい考えていて、最終的には「日本的なもの・日本らしさと建築家自分自身らしさ」への問いなのかなというふうに考えた。
    明治から戦前までは、日本が近代化した進んだ国であることをアピールするために西洋に倣ったどっしり重厚な古典様式の建物が求められた。官庁街計画もドイツのエンデ・ベックマンの和風要素の提案をやり直させている。そんな流れの中で、アジアに学び、インドの寺院みたいな築地本願寺を建てた伊東忠太は異色である。
    植民地で日本の威光を示すのも当然、和風建築ではない。大連に今も残る大連賓館(旧大連ヤマトホテル)が面するロータリーに集まる堂々たる西洋建築が「すごいニッポン」を示すものだった。和風の建物は癒しの場所、日本人向けの娼館などに使われたそうだ。
    20世紀に入ると西洋建築の最先端はモダニズムへ。戦後、帝冠様式が国粋主義の象徴として目の敵にされたが、近代の国家意思に近いのはモダニズムの建築家の方だったんだって!モダニズムの時代になると、今度は日本建築との歩み寄りが見られる。いわく「伝統的な日本建築はもともと柱と梁で建物を成り立たせているから、モダンデザインの手法で建物をこしらえれば自ずと日本的になる。」いわく桂離宮との類似や茶室にモダニズムを幻視するとか(堀口捨己)。建築部材の工業化と量産化はモダンデザインが目指した目標のひとつでもあったらしいが、戦後日本の復興の方向性が確かに重なる。
    モダニズムの建物自体は持ちが良くなかったらしく、記録メディアの発達に伴い、建物自体は残らなくていいという話(前川國男、篠原一男)、建物自体が市民のためとか都市計画に組み込まれたふりをしつつ、機能性を無視して純化していく話(丹下健三、菊竹清訓)なども印象深い。
    公的な建築物の背景には必ず「力」(クライアント、使用者、社会、周辺、時代などの)が存在し、その「力」と向き合い、かつ自分の作風を反映させる建築家はものすごくエネルギーがある。一気読みしてものすごく疲れてしまったのは、たぶんそのエネルギーにあてられたせいだろう。
    以下、それぞれの建築家についての印象メモ。
    長野宇平治:日銀の建築家。最晩年の大倉精神文化研究所は映画のロケで使われて訪れたことがある。
    伊東忠太:築地本願寺を作った人。平安神宮もそう。WTCのイスラム風アーチが⒐11の標的になった?挿話が面白い。
    吉田鉄郎:逓信省営繕課に務めた建築家。東京と大阪の中央郵便局の保存運動を皮肉るところが面白い。それまでどこが名作かわからないと言われていたのに建築界の権威主義の理屈をあげつらっている。京都中央電話局は確かに可愛く、見てみたい。
    渡辺仁:帝冠様式のトーハクのおかげでファシズムいの汚名を着せられた人とさかんに主張。のちのモダニズム万歳の歴史の中で悪者にされたという。
    松室重光:日本の覇権をアジアに示すのは和風の建物ではなく、堂々たる西洋のクラシックな建築物だった。大連のは確かに威風堂々としている。その代わりに植民地での娼館は癒し空間として和風に建てられたんだそうです。
    妻木頼黄:日本橋を作った。国会議事堂など国の庁舎建築を委託されたエンデ・ベックマン事務所時代、和風要素を取り入れようとしたところ、政府にダメ出されてネオバロックで設計しなおす。だが一部に和の要素を忍ばせた。
    武田五一:
    堀口捨己:
    前川國男:帝冠様式を否定した作品案を作ったということで井上先生がさかんに主張。
    坂倉準三:パリ万博日本館。菊竹の次に好き。
    丹下健三:インテリアできない。
    谷口吉郎:藤村記念堂の世界観の暗さの通底にヒトラーの官邸が着想の下地にあったと。この話面白い。
    白井晟一:市民のための建築家。真似されること。
    村野藤吾:
    吉田五十八:エロい数寄屋。
    菊竹清訓:この人サイコー。スカイハウスとあのキッチュな建物の人だということが一致してなかった。
    黒川紀章:
    篠原一男:建築作品の値打ちは雑誌に紹介される映像で決まる。住みにくそうな家を作ってきた人。この人の話も面白い。
    磯崎新:
    安藤忠雄:

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784871406895

  • 日本の名だたる建築家を勉強できました。訪れてみたい建築物がたくさん。都庁に対する批判も。
    小学生のころ、父の雑誌で見て印象の強かった「つくばセンタービル」(磯崎新)はやっぱりすごい建築物なんだと改めて感じました。

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著者プロフィール

建築史家、風俗史研究者。国際日本文化研究センター所長。1955年、京都市生まれ。京都大学工学部建築学科卒業、同大学院修士課程修了。『つくられた桂離宮神話』でサントリー学芸賞、『南蛮幻想』で芸術選奨文部大臣賞、『京都ぎらい』で新書大賞2016を受賞。著書に『霊柩車の誕生』『美人論』『日本人とキリスト教』『阪神タイガースの正体』『パンツが見える。』『日本の醜さについて』『大阪的』『プロレスまみれ』『ふんどしニッポン』など多数。

「2023年 『海の向こうでニッポンは』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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