歌集副読本 『老人ホームで死ぬほどモテたい』と『水上バス浅草行き』を読む
- ナナロク社 (2023年2月22日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
- / ISBN・EAN: 9784867320181
作品紹介・あらすじ
2つの出版社(ナナロク社と書肆侃侃房)の2022年の話題の歌集2冊の著者が、
互いの本を語りぬいた一冊。
両方読んだ方、片方だけの方、まだ読んでいない方にも、
歌集を読む楽しさが愛情たっぷり伝わる「副読本」です!
▼構成▼
・『老人ホームで死ぬほどモテたい』の上坂あゆ美が語る『水上バス浅草行き』評
・『水上バス浅草行き』の岡本真帆が語る『老人ホームで死ぬほどモテたい』評
※各2万字の語り口調の読みやすい評です。
・新作短歌と書き下ろしエッセイ 収録
感想・レビュー・書評
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『老人ホームで死ぬまでモテたい』の上坂あゆ美さんと『水上バス浅草行き』の岡本真帆さんが互いの歌集を読み合い、評する。
とてもエキサイティングな試み。
歌集を「プロファイリングするように読む」上坂さんと、一首評を展開する岡本さん。
どちらも読み応えあった。
ただ、ひとの影響を受けやすい自分としては、両方の歌集を読んで、自分なりの読みを深めてから読んだほうが良かったかな。
当然、お二人のほうが、歌をより深く理解されていると思っちゃうから、自分の読みが浅くつまらなく思えちゃうんだよね。
それでも、どんなに誤読しようとも、自分で感じて、考える、というのは重要なこと。
揺らぎやすい「自分の感想」を、自分の中で消化したい。
これから読むひとにはやはり両歌集を読んでからこの副読本を読むのをおすすめしたいかな。
もちろん、こちらから先に読んでも面白いと思う。
短歌評を読み慣れていないひとにも、エッセイ感覚で読める、平易なことば遣いも魅力。
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※本稿は、「北海道新聞」日曜版2023年8月27日付のコラム「書棚から歌を」の全文です。
・ロシア産鮭とアメリカ産イクラでも丼さえあれば親子になれる
上坂あゆ美
話題歌集2冊の作者が、互いの読後感を述べ合った「副読本」を興味深く読んだ。
上坂は、1991年、静岡県生まれ。祖母の死、母にも姉にも感じる距離感、離婚後に外国で再婚した父の死など、家族が主なテーマとなっている。掲出歌は、血のつながりなどなくても「親子になれる」と、家族関係がぎこちない読者をも励ましている。
岡本真帆は、1989年、高知県生まれ。コピーライターを経て、作家や漫画家の作品編集などを手掛けているという。歌人としては、第一歌集が発売3カ月で5刷となり、1万3千部以上売れたことも話題となった。
歌人同士で作品を評し合うと、はからずも、自身の作歌スタイルや手の内を見せてしまうこともある。たとえば上坂は「いい歌には加害性がある」と述べ、実際、自身も「バズーカに巨大な弾を込める」ようなイメージで歌ってきたという。
そんな上坂が、岡本も「加害性」に自覚的だと言い当てた歌が、次の一首。
・火にかけて殺めることをためらえばゆっくりと死ぬ真水のあさり
岡本真帆
なるほど、人間関係などで、配慮したつもりが逆にじわじわと他者を「殺める」結果になりうることを自覚しているのだろう。
この夏、上坂はラジオ深夜番組のパーソナリティーとしてもデビューした。若いリスナーを励ます短歌がさらに生まれそうな予感。
(2023年8月27日掲載) -
上坂あゆ美、散文まじうまい。
テンションを文章に乗せるのが上手い。
つまり前半の「上坂あゆ美、水上バス浅草行きを読む」がすこぶる面白い。
「なんとなく好きだけど、どういう歌なのこれ?」「明るい歌集だけど、なんとなくの澱みみたいなのがあるのは何?!」
みたいな岡本真帆の歌やこの歌集にら解説という素晴らしい息吹を吹き込んでくれた。
通底するテーマ「喪失の需要」だったり、岡本真帆を特徴づける「暴力的主観的無邪気さ」だったり、歌集における「犬」の位置付けだったり、
自分じゃ読んでても気づけない、全体を俯瞰するような解説をしてくれているので読んでいてとっても楽しかった。
100点!!!!!
一方の岡本真帆は、散文がとても苦手なのだろうということが伝わってきた。
結果的に、上坂あゆ美の解説力により岡本真帆の短歌の魅力は存分にアップしたけど、上坂あゆ美の短歌の魅力は岡本真帆の解説により特にアップしなかった…という残念な事態が発生。
上坂短歌の魅力をもっと味わわせてほしかったな。
というわけだが、全体的にとても気分の良い楽しい読書だった。
ちなみに私の魂の形は圧倒的に上坂あゆ美よりだと思うが、上坂短歌は時々意味がわからず、岡本短歌の方が手軽に味わえる感がある。
私も短歌作れるようになりたい。と願ってはや4年。 -
まっすぐ感じた世界、思った感情が届く岡本さんの短歌、強く優しく生きてきた道がみえる上坂さんの短歌、どちらも素敵でお互いの短歌の捉え方も読み方もとってもおもしろかった!
おきにいり
(岡本真帆さん)
p043. もう君が来なくたってクリニカは減ってくひとりぶんの速度で
(上坂あゆ美さん)
p105. 残念でした!!!わたし、わたしはしあわせです!!!!!!!!!道にゴミとかあったら拾うし -
「老人ホームで死ぬほどモテたい」(タイトル秀逸)の歌人上坂あゆ美と「水上バス浅草行き」の歌人岡本真帆が、お互いの歌集を読み合った本である。この本を読んでから歌集を読むか、歌集を読んでからこの本を読むか。巻末には、それぞれの新作とエッセイが載っている。上坂あゆ美「丸々とした壺ひとつ ここにいる父を抱けば妊婦のようで」「仏前で悪口言えばそれまでの罪が帳消しみたいで黙る」「親子には互換も純正もなくてあなたは海を恐れず進め」「父を赦すためではなくて線香をあげればわたしはわたしを赦す」岡本真帆「わたしもう、夏の合図を待っている 冬至の長い夜からずっと」「人生の全てが期限付きなのにとたんに光り出す初夏の街」「この川を渡ったらもう戻れない たくしあげずに裾を濡らして」「一度だけ行ったラーメン屋の前でぜんぶ思い出す ぜんぶ忘れない」
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初めてちゃんと読んだ詩集。
副読本スタートだけど、上坂さんと岡本さんの人柄が滲み出ていて、これから読む詩集の心得がが分かった気がする。
自分の人生、想いをたった三十一音に乗せられるその感性が私には皆無すぎて、すごく遠い存在に思っていたけど
多分年も近くて、共感できるところも多くて。
ぐっと近くに寄ってきた感覚。
いいスタートを切れた気がする。 -
一年前にこの二冊を読んでいるのに、また読みたくなってしまったので、三冊セット買いがおすすめです!