- Amazon.co.jp ・本 (335ページ)
- / ISBN・EAN: 9784866240138
感想・レビュー・書評
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▼猫がソロバン。装丁が、かわいい。
それだけが動機ぢゃないけれど、本屋さんで衝動買い。電子書籍依存度は高いですが、やはり実店舗、実書籍の魅力も尽きません。
▼「漱石の家計簿」山本芳明。2018年教育評論社。2019年12月読了。日本近代文学を研究していらっしゃる大学の先生の書いた本。どうやら、経済の観点から見るのがご専門のよう。漱石好きとしては、面白かった。やや細部が詳しすぎて冗長な感じがありましたが、きちんとファクトに基づいて研究していることが大事でしょうから、そこら辺は致し方なし。
▼面白かったのは2点。まずは、「漱石は自分で公言してるよりも、遙かに収入が多かった」。これは微笑ましい感じです。誰しも実際よりは「いや、そんなに余裕は無いですよ。おっしゃるほどは儲けてませんよ」と発言しますよね。その範疇です。漱石が自分について語った文章はそんなに多くないですが、それでも謙遜?というか、経済的に楽ぢゃないように表現していることが多いんだそう。
▼ところが、山本さんは、原稿料や販売部数、そして出版社との契約などから、名探偵よろしく厳しく切り込んでいきます。結論は、同世代の文筆業の誰よりも、莫大な収入があった。遺産も。
▼もう1点は、漱石の死後の稼ぎ。これが莫大だった。つまり、死後も売れに売れた。今でもそれなりの作家が亡くなれば、(それも活躍途中に急逝すれば)生前より却って売れるのは、むべなるかな。面白かったというか興味深かったのは、遺族のお金の使い方。未亡人さんそして子供たちが、湯水のように使う。全然自分で稼がずに、とにかく使う。なにに使うかというと、贅沢するために使う。出版社(岩波)からも、かなり、どしどし融通してもらう。それも、「漱石の本を出させてやってるんだから当たり前だ」くらいの態度。そこンところに、漱石の小説の芸術へのリスペクトが、微塵も感じられない・・・(それ以前に、読んでるのか?という感じ。読んでない?読んでも何十年も以前の一度ぎりで内容なんかほぼ忘れてる?という濃い疑惑…)。人心は、弟子たちは、続々遺族から離れていく。
▼そしてとうとう使い果たしてしまう。莫大な金額を、蕩尽してしまう。とうとう目先の金に行き詰まる日が訪れる。なぜか。「漱石の著作権が切れるから」。ガーン。
▼遺族はどうしたか。なんとそれまでの義理人情をすべてかなぐり捨てて、著作権ぎりぎりで怪しい出版社に権利を売って、全集を再び出す。これ、つまりそれまで散々お世話になった岩波に、後足で砂をかける感じだったようです。更には驚天動地、「漱石」を商標登録しようとします。とにかく、「夏目漱石の血族であること」でなんとか金を得ようと、プライドも見栄もなく、必死にもがく…。
▼周りのあらゆる人たちから猛反発猛反対。ジャーナリズムにも揶揄され笑いものに。あえなくその策は失敗・・・。このあたり、全く知らなかったです。かなりエンタメなまでの、亡者ぶり・・・。まあ、奥様やお子様たちにとって、千円札の文豪は、あまり愛着の持てる人物では無かったのかも知れません。
▼それ以外にも、岩波書店という出版社が、漱石の本を出すことから事実上、船出したことなども、不勉強で知りませんでした。面白い。旧字旧仮名の、岩波版漱石全集は、"BOOKOFFで超安値なら見つけ次第買い揃え、十年超える長期作戦" で、主要全巻はウサギ小屋の本棚に並べて家宝にしています。老いたら例え遊興費に困っても、あれだけ読んでれば数年は幸福に過ごせそう。
▼あとは、本書のリサーチから明確に数字で浮かび上がる、「結局やっぱり売れてるのは、いつの時代も猫と坊っちゃん」という事実。これはいくらでも色々語れますが、漱石ファンとしては、当然もやもやします(いや、漱石ファン皆さんが同感では無いでしょうが…。僕としては、ですね)。ちなみにナンバー3が「こころ」で、これもスッキリしません。「三四郎」「それから」「行人」「明暗」あたりの方が面白いと思うんだけどなあ・・・。特に「明暗」は未完の遺作ながら漱石史上、比類なき段違いの凄みのある小説なんですが・・・(私見ですが)。詳細をみるコメント0件をすべて表示