セレモニー

著者 :
制作 : 王 柯 
  • 藤原書店
3.80
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本棚登録 : 119
感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784865782226

作品紹介・あらすじ

ITによる新しい民主主義? 中国で未刊行の問題作!
共産党結党記念と北京万博が重なる空前の式典年に勃発した感染症騒動と、その背後で蠢く「主席」暗殺計画――。全国民を監視下に置くITは独裁の完成形なのか、新たな「民主主義」への逆転のツールなのか?“ファーウェイ問題”の現在を予見する、過激な問題作!

感想・レビュー・書評

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  • フォーウェイの締め出し。中国におけるBATH(Baidu、Alibaba、Tencent、Huawei)4社への警戒感が何故必要か本小説を読めば良くわかる。ポリティカル・フィクションでもあり、サイエンス・フィクションでもある。

    テクノロジーと独裁者は相性が良い。いや、独裁者はテクノロジーを使いこなせなければならない、正確には存在を知悉しつおく必要がある。それはプロパガンダや扇動ラジオ放送のような類もそうだし、インターネットの規制、盗聴やサイバーに限らず兵器類もそうだ。本書で主に取り上げられるテクノロジーは、GPS。そう、どこに居ても足跡が辿られ、何をしているかさえ見抜かれてしまう。

    ここで描かれた世界は実際に起こり得るだろうか。独裁国家では、実現してもおかしくない世界観だ。人を監視し、監視した相手を操作する社会。まるで人間たちがゲームのキャラクターのように、生殺与奪も自由自在。どんな展開かは記載しないが、そのスリリングな攻防、逃亡と、中国だからこそかのリアリティ、臨場感がたまらない。性描写も過激で、攻めた小説、面白いエンタメでもあった。

  • 共産党の建党記念行事と北京万博というふたつの式典を控える中国。ある下級役人が出世を狙って、インフルエンザの突然変異によるパンデミックの危険性を訴える陳情を国家主席に送った。官僚の粛清に利用できると考えた主席は、大々的な防疫運動を実施する。しかしWHOの調査の結果、ウイルスの変異は認められなかったことがわかった。

    運動を主導した国家安全委員会の蘇主任は、責任を取らされることを悟り、腹心の部下たちとともに主席の暗殺をして権力の掌握を目論む。しかし、政治局常務委員のメンバーによって阻まれてしまう。もたもたしていると、真相が暴かれてしまいかねない。追い詰められた蘇主任は建党記念行事で、三年後に民主化することを宣言するのだった。

    これをきっかけに中国全土が大混乱に陥った。地方自治を口実に、各勢力が力を拡大しようとしはじめる。首相暗殺に協力させられた李博は逃亡先で捕まってしまい、家族に被害が及ばないように、ドリーム・ジェネレーターを使って自らの記憶を消してしまうのだった。


    2017年に書かれた小説だが、ITによる監視網、パンデミックとその防疫を口実にした規制や政治闘争など、現在の状況ともリンクするのは、よくシミュレーションされたからだろう。役人たちは権力闘争と自己保身に汲々とするばかりで、誠実な人間がほとんど出てこないのは滑稽ですらあるが、本国で暮らす人たちからすると笑うどころではないのかも。

    靴にナノマシンを埋め込み人間の行動を監視するIoS、性欲を刺激したり記憶を消すことができるドリーム・ジェネレーターなどが登場する。

  • ハイパー監視社会中国という舞台設定で描かれた”政治ファンタジー小説”。網の目のように監視網が張り巡らせた社会の緊張と脆弱さ。己の欲望、野心、保身といったものがもつれにもつれて有り得べからざる事態を引き起こし、本来頂点に立つことなど想定されない人物が頂点に立とうとし、暗躍が繰り広げられ。その過程で多くのものが死んでいき、最後も救いなく感じ。靴に埋め込まれたナノ素材から位置情報をつかめる「靴のインターネット」、照射されたものは自分でも制御できない強烈な性欲が湧き上がるという「ドリーム・ジェネレーター」、暗殺にも使える超小型ドローン「電子蜂」、神経遮断薬、監視カメラ、ビッグデータ、グリッドシステム、(テクノロジーとは趣が違うけど)人間をごみのように粉砕して跡形もなくする部屋。道具立てはテクノロジーの亢進とディストピア社会を映し出すのにふさわしく。また、独裁国家での統治の手法と、政治的闘争の描写についても読み応え。◆警察と監獄に頼った統治は、コストがかかりすぎるのだp.77◆一国を治めるにおいては、具体的な個々人の無実かそうでないかなどは思慮の外である。重要なのは、規模を確保することだ。そうすれば統治に必要な効果を得ることができる。p.1239◆「失策を犯した者は、その首を斬り落とす」p.129◆彼が造ったソフトは、彼らを蟻扱いして人間として見ていないp.148◆国家と社会の安全のためには、区々たる個人の死などは大局を維持するためには必要な犠牲に過ぎませんp.175(劉剛)◆

  • 2019.06―読了

  • 中国共産党主席の暗殺が成功してしまった後、関係者がどう動くのか、手に汗握る展開と、救いのない結末
    面白い。

  • 独裁国家がITを駆使した管理により永続し得ることが実感としてわかった。プーチンがIT音痴であって不幸中の幸い。

    登場人物の行動原理がすべからく利己主義であることは、「やはりそうなんだ」と思わされた(中国人はたいへん資本主義的と言われてます)。

    「電子の蜂」は『ルパンの娘』のてんとう虫△号を思い出させて笑えましたし、「ドリーム・ジェネレーター」は是非とも使わせていただきたいと思いました(笑)。エンタメとしても良くできた作品だと思います。

  • - 王力雄「セレモニー」読了。小説、原作は中国語で2018年に出版されていた。舞台は近未来の中国。全ての靴にGPS信号を発するチップが埋め込まれ、市民の全ての行動が全て監視対象になっている。この監視技術を権力者が使いこなし民衆を効果的に統治する様が物語の縦糸になっている。^1
    - 横糸は感染症のパンデミック。共産党建党記念式や万博などの「セレモニー」を大過なく実施するため、国家主席が徹底した感染症対策を指示する。共産党という巨大組織が、時に人を包摂し、排他し、攻撃するウネウネした生き物のように描かれる。^2
    - 最後にドローン技術と靴のGPSを活用して反乱を起こした「老叔」は、それを正当化するための方便として中国の民主化をぶち上げる。曰く「毛沢東も民主を目標としていた」と。 ^3
    - ドリーム・ジェネレーターという、それの発する電波を照射されると貞淑な女性も性欲が制御できなくなるという、中学校2年生が思いつきそうな発明品が物語の一つの大きな鍵となる。ちなみに「幸福な監視社会・中国」という新書で引用されていて気になり、購入。夏休みの旅行先で読み終えた。
    - 中国、監視テクノロジー、パンデミック、民主主義と最近気になるテーマが山盛り詰め込まれていて、それが小説の人間ドラマに深みを与えている。小説なのでサラッと読めて、手にとって良かった。

  • SF小説としては、前半が面白い。靴のインターネット、ドリームジェネレーター、電子の蜂、ガジェット満載で、使い方も最高!
    後半は中国特有?の権力闘争で、面白くもあり前半に比べてつまらなくもあり。
    作者あとがきで、テクノロジーによる独裁は内部からの破局が不可避であることを描きたかったとあり、作者が目指すのはテクノロジーによる民主主義であることが記されている。少数の人間が多数の人間を支配することが可能になるテクノロジー(監視技術)は独裁を産むが、このような独裁は本小説が例示するように壊れやすく、破綻しても後に続くものは本書後半部の様に新しい革袋に古い酒を注ぐことになるだけ。小説としては救いようがない結末だが、これを避けるためにも多数の人間がテクノロジーで少数の行政執行者を監視・管理できる仕組みが必要であるとの主張には同意できる。そのような明るい未来のSFが読みたいものである。

  • ちょっと空想的なストーリーではある。が、何らかの問題が発生した時に、トップの何人かに責任を取らせて共産党の解散を宣言する、というクーデターはありえるかも、と思わせる。

  • 最後まで心が明るくならない小説。事実ではないところも多いものの、伝えられる今の中国を思い浮かべながら読むと、さもありなんとも思える。テクノロジーで他国を凌駕しつつある中国の怖さが十二分に描かれている。あとがきで作者は、テクノロジーによる独裁は外部からの崩壊は不可能であり内部から崩壊したとしても実質は変わらないが、それに対抗するには民主主義を求める側もテクノロジーを駆使すべきだという。独裁はテクノロジーによって少数で多数を支配するが、民主主義が多数によって少数を支配できないことがどうしてあろうかと。そうであることを祈るばかり。
    こんな小説がよく出版できたなと思ったら、やはり中国本土では無理で国外での出版を検討した結果、日本語への翻訳が実現したらしい。作者が紹介している『黄禍』も読みたくなってきた。

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著者プロフィール

王力雄(ワン・リーション、おう・りきゆう)
1953年、吉林省長春市生まれ。作家、民族問題研究者。著書に『漂流』(1988)、『黄禍』(1991)、『溶解権力』(1998)、『天葬─西藏的命運』(1998)、『ダライ・ラマとの対話』(2002)、『黄禍 新世紀版』(2008年)、『天葬』(増補改訂版、2009年)など多数,日本語訳は『私の西域、君の東トルキスタン』(集広舎、2011年)。2002年「当代漢語貢献賞」、2003年「ヘルマン・ハミット賞」、2009年「真理の光賞」などを受賞。

「2015年 『黄禍』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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