完本 春の城

著者 :
制作 : 田中 優子  町田 康  赤坂 真理  鈴木 一策 
  • 藤原書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (912ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784865781281

作品紹介・あらすじ

名著『苦海浄土』で描かれた民衆の魂をさらに深くつきつめた最高傑作!
豊かな山海に抱かれささやかに生きてきた無垢な信仰心をもつ人々が、なぜ立ち上がらねばならなかったのか? 天草生まれの石牟礼道子が、水俣病闘争でのチッソ本社前座り込みで島原の乱の原城籠城を追体験し、執筆を決意。十数年かけた徹底した取材調査ののち、天草・島原の乱を民衆の心性に添いながら描き切った最高傑作! 詳細な地図や年表、多彩な執筆陣による解説、取材過程で生まれた紀行文、作品に関連するインタビューやエッセイを附した完全版!
[解説]田中優子・町田康・赤坂真理・鈴木一策
[対談]鶴見和子+石牟礼道子

感想・レビュー・書評

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  • 石牟礼道子は、水俣事件の糾弾のためにチッソ本社で座り込みを行った際に、島原の乱に参じたキリスト教徒へ思いを致していたという。

    故郷の地が、歴史のとある地点で「試しを受ける供犠の地だったのかもしれない」と述べる。作家のなかで、島原の乱と水俣事件は、ひとつながりである。作家の、400年という射程の広さに驚愕する。

    しかし一方で、いたずらに故郷を神聖視するわけではないことは、下記の言及からも明らかだ。

    「人は山野や海の光が階調をもって広がる中に置かれると、自ずから生命の気品というべきものをかもし出すものではなかろうか」

    故郷はまさに生命の気品を有して「いた」土地。しかしそれは特有の条件ではなく、本来あたりまえのようにあった人間の暮らし様であったこと。故郷が神聖なのではなく、当たり前であったものが失われた今に対する(声高ではない)気品のある叫びがここにある。

    世界史上、無垢の土地にキリスト教布教レースの力が及んだ悲劇は数多あり、島原もその単なる一例。しかし、歴史を引き受けて、悲劇を繰り返す宿命を引き受けた土地であることも事実。

    ページ数的に再読は厳しいが、手元に置いて折に触れて部分部分を読み返したい、そんな気にさせらる、私にとっては価値の高い一冊。

  • 天草・島原の乱を描いた物語である。完本で取材時のエッセイである「草の道」やインタビュー・対談なども載っている。900ページ。本編だけでも600ページほどある。図書館で借りた。「アニマの鳥」といっしょに借りたが、どうやら同じものであったようだ。連載中は「春の城」、単行本刊行時に改題、そしてまた完本として「春の城」と改めているようだ。このところ続けて石牟礼を読んでいる。きっと魂の深いところにつながるのだと思う。他の本がなかなか読めなくなっている。心に響かないのだ。四郎が登場するあたりからドラマは急激におもしろくなるのだが、それよりも何よりも人々が米や麦が底をつく中、なんとか自然の恵みで食いつないでいく様子、その知恵が心にずしりとのしかかってくる。こういう生きるための知恵はおそらくは水俣病が見つかるころまでは続いてきたのだろう。それをこの60年ほどの間で、つまり私が生を受けてから今までの間に受け継がれなくなってしまったのだろう。これで良かったのか、これが良かったのか、なんとも重いテーマなのだ。さて、四郎の周りには人が集まって来る。キリシトの生まれ変わりではないかと思われる。磁石に吸い寄せられる砂鉄のように子どもがくっついてくる。台風の後、四郎がすずをなぐさめるシーンで心が熱くなる。その後も奇跡を起こしていく(実は手品だったのだが)。四郎のことばに人々の心が動かされる。終盤で、四郎にはもうひと活躍してほしかった。そして、ちょっと歴史についての注釈が入るような場面が最後の盛り上がりを冷静にさせてしまったように思う。そうせざるを得なかったのか。連載のためにそうならざるを得なかったのか。もう少し、対談や解説が残っている。そのなかに何かの答えが見つかるかもしれない。最後の最後に、あやめとすずが登場する。そこから光がぱっと広がっていくようでもある。さあ次は「西南の役伝説」である。少し間をあけて、クールダウンしてから読むことにしよう。

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著者プロフィール

1927年、熊本県天草郡(現天草市)生まれ。
1969年、『苦海浄土―わが水俣病』(講談社)の刊行により注目される。
1973年、季刊誌「暗河」を渡辺京二、松浦豊敏らと創刊。マグサイサイ賞受賞。
1993年、『十六夜橋』(径書房)で紫式部賞受賞。
1996年、第一回水俣・東京展で、緒方正人が回航した打瀬船日月丸を舞台とした「出魂儀」が感動を呼んだ。
2001年、朝日賞受賞。2003年、『はにかみの国 石牟礼道子全詩集』(石風社)で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。2014年、『石牟礼道子全集』全十七巻・別巻一(藤原書店)が完結。2018年二月、死去。

「2023年 『新装版 ヤポネシアの海辺から』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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