源氏物語 A・ウェイリー版1

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  • Amazon.co.jp ・本 (688ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784865281637

作品紹介・あらすじ

このヴィクトリアン・GENJIを読むまで
私は源氏物語を理解していなかった!
このまま漫画にしてみたい!
竹宮惠子


光り輝く美貌の皇子シャイニング・プリンス、ゲンジ。

日本の誇る古典のなかの古典、源氏物語が英訳され、ふたたび現代語に訳し戻されたとき、
男も女も夢中にさせる壮大なストーリーのすべてのキャラクターが輝きだした!

胸を焦がす恋の喜び、愛ゆえの嫉妬、策謀渦巻く結婚、運命の無常。
1000年のときを超えて通用する生き生きとした人物描写と、巧みなストーリーテリング。
源氏物語のエッセンスをダイレクトに伝える、こころを揺さぶられる決定版!
こんなにも笑えて泣けて、感動する物語だった!


この歴史的な名訳を世に送り出したのは、天才アーサー・ウェイリーでした。
大英博物館に勤務しながら独学でマスターした日本語で、彼はこの傑作を手がけました。
刊行されるや「黄金時代の日本から来た最高の文学作品」と大絶賛され、本書は一躍ベストセラーに。
紫式部は、中世日本の生んだプルーストと呼ばれ、はてはシェイクスピアまでを引き合いに評されました。
スペイン語やイタリア語版の底本となったばかりではありませんでした。
アメリカでも評判となったこの本との出会いが、ドナルド・キーンさんの生涯を決めたといいます。
原文を何度も読んで頭に入れ、一気に訳文を書き下ろす。
ウェイリー流のスタイルで、ときには大胆に省略し、ときには解釈にも踏み込んだ訳文。
その生き生きとした文章の魅力は、とりわけ会話文に表われます。
プリンス・ゲンジの艶やかなキャラクターを立ち上がらせ、
プリンセスやレディたちの恋のときめきも、嫉妬の苦しみも描ききる。
あまたの読者を源氏物語の世界に惹き込んだ傑作です。

第1巻ではプリンス・ゲンジの誕生(「桐壺」)から、
ひととき彼の運命に翳りがさす物語の山場「須磨」「明石」までを収めます(全4巻)。
和歌表記監修:藤井貞和

感想・レビュー・書評

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  • グスタフ・クリムト「接吻」の美しい表紙カバーに見惚れる。漠然とイメージは、光源氏と藤壺かなぁ、なんて思いながら本を開く。

    すると、次の一節に目が惹きつけられる。
    ──貴女でしたの、王子さま、と彼女は
    云いました。
      ずいぶんお待ちしましたわ。
           「眠りの森の美女」より
    明石の君がふと思い浮かんだ。

    今まで何度も「源氏物語」に挑戦したのだけど、どうしても途中でリタイアしてしまう。
    そんなわたしにmyjstyleさんがおすすめしてくださったのが、A・ウェイリー版、毬矢まりえ+森山恵姉妹訳の『源氏物語』だ。
    それはそれは、なんとも素晴らしい世界だった。

    〈いつの時代のことでしたか、あるエンペラーの宮廷での物語でごさいます。〉
    こんなセンテンスから第1帖「桐壺」が始まる。
    登場人物たちのカタカナ表記の名前、パレス、ロングドレス、馬車、ベッド、ワイン、リュート……、最初はそんなワードに戸惑ったものの、それもほんの一瞬のこと。ヴィクトリア朝時代を思い起こす華麗な世界観にわたしはすぐに魅了され、幻想的でドラマチックな愛の物語に夢中になった。

    この『源氏物語』は、イギリスのアーサー・ウェイリーの訳した紫式部「源氏物語」すなわち
    The Tale of Genji(1925)
    The Sacred Tree(1926),
    A Wreath of Cloud(1927),
    Blue Trousers(1928),
    The Lady of the Boat(1932),
    The Bridge of Dreams(1933)   (GeorgeAllen&Unwin)
    の初版を日本語に訳し戻した作品である。
    つまり、千年前に書かれた『源氏物語』を、その900年後にウェイリーが英訳し、さらにその100年後に訳者姉妹によって、日本語に戻し訳されたものなのだ。
    ウェイリーの英訳には、ヨーロッパの文化背景と100年という時間が加わり、そこに日本の文化背景がある訳者姉妹たちが戻し訳することによって、今までにない『源氏物語』が創造されたことになる。その結果、物語は情感をまったく失うことなく、さらには登場人物たちの心情が胸を打つように響く、大変魅力溢れるものとなったのだ。

    1巻を読み終えたとき、わたしの心には喜びや切なさ、悲しみや憤り、その他言葉にできないさまざまな感情が嵐となって吹き荒んでいた。
    こんなにも感情が揺さぶられる物語だとは想像もしてなかったので、しばらくの間、どうしていいのかわからないほどだった。それは決して不快な感情というわけではなく、逆にもっともっと自分のなかに嵐を呼び起こしたい……!とさえ思うものなのだ。

    まだ1巻を1度読んだだけなので、理解できたなんて口が裂けても言えないけれど、それでも千年前にこんなにも情緒豊かな、ワクワクさせられる物語が創作されたことの凄さには心底感動した。
    今までのわたしは、物語の上辺の部分だけをさらりと撫でただけで読んだつもりになり、文字を目で追ってるだけで、難しいとか興味が湧かないとか言っていたのだと気づかされた。
    全くもって、自分の浅はかさを思い知るばかり。自分のせいで、物語の魅力に気づくことができなかっただけなのだから。

    この1巻には、
    「桐壺」「帚木」「空蝉」「夕顔」「若紫」「末摘花」「紅葉賀」「花宴」「葵」「賢木」「花散里」「須磨」「明石」
    が収録されている。

    彼女たちの物語を読んでいくうちに、表紙のクリムトが描く女性のイメージが次々と変わっていった。
    藤壺から空蝉へ、そして夕顔、六条御息所、朧月夜、紫、明石の君……
    彼女たちを思い浮かべながら、じっと絵を眺めていると、ふと疑問が浮かぶ。この女性は、接吻を受けている今、本当に幸せを感じているのだろうかと。
    ひき結んだ唇。固く閉じた瞼。感情の読めない表情。彼女は、この接吻がもたらす愛の喜びの先には、すでに終わりが待っていると、そんな予感を抱いているのではないだろうか……
    愛しあっているのに淋しい。
    そんな感じが女性からは伝わってくるのだ。
    そう思ってしまったとき、わたしには彼女が第54帖『葵』での葵の上と重なって仕方がなかったのだ。

    また先に記した「眠りの森の美女」の一節は、ウェイリーが初版本の扉に掲げたものでもあるのだけれど、訳者は〈『源氏物語』が千年の眠りから覚めた〉とあとがきで記している。そういうことかと思いながらも、わたしは〈王子さまを待っていた〉のは、やっぱりこの源氏物語を楽しみにしていた当時の女性たちじゃないかなと思わずにいられなかった。
    自分の思うように生きることのできなかった女性たち。どうにもならない運命と折り合いをつけながら必死に生きていた彼女たち。
    光源氏と姫君たちの恋の行方に胸をときめかせ、なかにはお気に入りの姫君に自分を重ねたものもいたはずだ。
    どうか想像の世界でだけは自由でありたい、そう願ったであろう女性たちが、物語に夢見た言葉だったと、わたしには思えるのだ。

    • 地球っこさん
      myjstyleさん、
      わたしが「源氏物語図典」や「源氏狭衣百番歌合」にたどり着けるのは、いつのことやら 笑
      行きつ戻りつ、その時々の興...
      myjstyleさん、
      わたしが「源氏物語図典」や「源氏狭衣百番歌合」にたどり着けるのは、いつのことやら 笑
      行きつ戻りつ、その時々の興味あることに寄り道しながら、楽しみたいと思います。

      「源氏物語の色辞典」も気になりますよね。
      ワクワクするレビューを、nejidonさんが載せておられるので、もしよければそこからお聞きになったらどうでしょう?
      何かわかるかもしれませんo(^o^)o

      2020/11/03
    • 淳水堂さん
      地球っ子さんこんにちは

      来年の大河ドラマ予習で『源氏物語』の角田光代版、谷崎潤一郎版、そしてこちらのウェイリー版を読み始めました。
      ウェイ...
      地球っ子さんこんにちは

      来年の大河ドラマ予習で『源氏物語』の角田光代版、谷崎潤一郎版、そしてこちらのウェイリー版を読み始めました。
      ウェイリー版は、表紙のクリムトとか、出版社の紹介ページに出ていた「ワードローブのレディ(更衣)、ベッドチェンバーのレディ(女御)」などにちょっと疑問と不安を感じたのですが、いざ読み始めてみるとまあなんと素敵なおはなしになっていることか。
      英訳して日本語訳しているけれど、人間の変わらない心の機微や自然の情感を十分に感じられました。
      そして英訳されたために帰ってわかりやすくなったこともいろいろです。

      表紙のクリムトの印象もあり、綺羅びやかかつ繊細な物語を堪能しております☆
      2023/12/30
    • 地球っこさん
      淳水堂さん、こんにちは!

      でしょ、でしょ、ウェイリー版の源氏物語、とっても素敵でしょ~
      表紙もとっても印象的ですよね。
      私は本が分厚いから...
      淳水堂さん、こんにちは!

      でしょ、でしょ、ウェイリー版の源氏物語、とっても素敵でしょ~
      表紙もとっても印象的ですよね。
      私は本が分厚いから読み始めるまでに時間がかかったけれど、読み始めるともう止まりませんでした。

      淳水堂さん、角田版と谷崎版もお読みになられてるんですよね。レビューを読ませていただいて、すごいなあと感嘆してました。比べ読みも楽しいでしょうね。

      私は田辺聖子さんを読んでみたいと思ってます。
      ブク友さんからだいぶん前にオススメしていただき、先日も別のブク友さんが田辺聖子さんの源氏物語が好きとおっしゃってたので、読んでみたいと思ってます。
      2023/12/30
  • (本年最後のレビューになると思います。
     みなさまとはブクログを通して本の交流ができて充実した本生活となっております。
     みなさま良いお年をお迎え下さい)


    来年の大河ドラマを機会に『源氏物語』の角田光代版、谷崎潤一郎版を読み、さらにこちらのウェイリー版も同時進行してしまってます。
    最初は角田光代版だけ読むつもりだったんだけどさ、本って仲間を連れてくるじゃん、良いと思った本に「この子もいるんだけど」って言われたらまとめて面倒見る(読む)しかないじゃん!

    『源氏物語』についてヴァージニア・ウルフは「戦争と政治という二つの暴力から自由であったからこそ、日常のささやかな出来事のなかの人生の機微、疵があるからこそ美しさを増すものへの愛情を表すことができた」
    私は高校授業で『源氏物語』を習ったときは、貴族たちの色好みやすぐ泣いたりというのが好きになれなかったのだけれど、この英訳で素晴らしい物語というのは古今東西普遍なんだなあ思ったものです。

    こちらのアーサー・ウェイリー版は『源氏物語』の世界初の英語全訳で、1921年から1933年にかけて出版されました。ドナルド・キーン、谷崎潤一郎も褒めていたようです。
    この英訳をさらに毬矢まりえ 森山恵姉妹により日本語訳にしたものが本書です(平凡社からもウェイリー版源氏物語和訳が出ているので、二度目の和訳ということになるのでしょうか)。あとがき解説によると「元々日本の古文であったもの⇒ウェイリーがヨーロッパの文化背景を加えて英訳⇒それから日本の文化を加えて日本語で訳し戻す。紫式部の源氏物語と、再翻訳は別物になるので『螺旋訳』と呼んでみる」ということです。


    一巻は『桐壺』から『明石』まで。

    角田光代版感想
    https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/430972874X

    谷崎潤一郎版感想
    https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4122018250


    ❐翻訳比べ
    ”さてさてさん”のレビューに倣って現代語訳比べをしてみます。

    【原文】
    いづれの御時(おおんとき)にか、女御(にょうご)更衣(こうい)あまた侍(さぶら)ひ給ひけるなかに、いとやむごとなき際(きわ)にはあらぬが、すぐれてときめき給うありけり。

    【角田光代版】
     いつの帝の御時だったでしょうか――。
     その昔、帝に深く愛されている女がいた。宮廷では身分の高い者からそうでない者まで、幾人もの女たちがそれぞれに部屋を与えられ、帝に仕えていた。
    ※紫式部の言葉は「ですます調」で訳し、物語部分は「である調」で訳している。

    【谷崎潤一郎】
    何という帝の御代のことでしたか、女御や更衣が大勢伺候していました中に、たいして重い身分ではなくて、誰よりも時めいている方がありました。

    【ウェイリー版】
    いつの時代のことでしたか、あるエンペラーの宮廷での物語でございます。ワードローブのレディ(更衣)、ベッドチェンバーのレディ(女御)など、後宮にはそれはそれは数多くの女性が仕えておりました。そのなかに一人、エンペラーのご寵愛を一身に集める女性がいました。
    ※女御や更衣が「妃」ではなくて「侍女」のようになっていますね。

    ウェイリー版は、平安朝源氏物語がまるで世界の普遍的な御伽話のようになったではないか!そういえば原文の書き出し「いづれの御時にか」って昔話の「むかしむかしあるところにおじさんとおばあさんが…」みたいなものですよね!?「むかしむかし、帝のご寵愛を受けた更衣がいらっしゃいました」みたいな。

    ❐欧米アレンジ:風習言語
     当時は欧米では日本の風習や生活様式に馴染みのなかったのでしょう、欧米読者にわかりやすいように風習や言語をアレンジしています。
     ゲンジはパレス(宮中)から馬車(牛車)でレディたちのもとに通い、プリンス(貴公子)たちはリュート(琵琶)やシターン(和琴)やフルート(横笛)でフェスティバルを行い、ワインカップ(酒杯)で祝杯を上げ、ゴッドレスマンス(神無月)に紅葉フェスティバル(紅葉賀)を楽しみ…

    ほーら、古今東西を超えて人類普遍のお伽噺に!

    ●欧米アレンジ:状況
     風習や物だけでなく、状況や宗教も欧米読者にわかりやすいものになっています。
     須磨での嵐にはノアの箱舟が投影され、ゲンジの夢に亡父の桐壺帝が出てくる場面はハムレットが投影されています。
     ゲンジとトウノチュウジョウが紅葉賀で青海波を舞ういかにも平安宮廷らしい場面の英訳も良いんですよ。青海波はブルーウェイブス、迦陵頻伽(がりょうひんが/上半身人間で下半身鳥)はカイアヴィンカで、舞うゲンジをギリシア・ローマ神話の神のように表しています。
     なお、賀茂や伊勢の斎宮は「古代ローマの書いウェスタに仕える巫女」なので、ヨーロッパの神話とも繋がった英訳になってます。

    迦陵頻伽
    https://www.youtube.com/watch?v=45QMh8v8YLQ&ab_channel=%E4%BA%AC%E9%83%BD%E6%95%A3%E6%AD%A9%E3%81%AE%E6%97%85

     英訳で上手いなーと思ったもので「帚木」を「ブルーム・ツリー」と訳したものもあります。ブルームツリーは遠くからは豊かな木陰のようだが、近づくと貧相な灌木で、旧約聖書でも出てきている言葉だそうです。夕顔のうら寂しい隠れ家にちょうどよいですね。
     「花散里」は原文では橘の花ですが、英訳では「オレンジの花散る里」で花散里とその姉の麗景殿(桐壺院の女御の一人)の屋敷は「オレンジの花散るヴィレッジ」です。花散里も麗景殿も華やかでないけれど優しくたおやかななかにしっかりした人物という印象なので、このオレンジの香りというのは人となりもうまく表現した温かな印象になりますね。


    ●欧米アレンジ:服装、物
     私のように「冠か烏帽子か」「狩衣か直衣か」「裾の色が何色か」と言われてもその地位や状況がわからないので、原文では読み取れないんです。王朝文学好きの友人に聞いたところだとこんな感じらしい。
     被り物:冠→公的な場所。烏帽子→私的な場所
     着るもの:直衣→身分が高い人の普段着、ただし光君は参内も直衣でOK。狩衣→他の人たちの普段着
     それが英訳されたことにより私にもわかりやすくなっています。
     原文では、(王朝文学好きの友人受け売り)光君は須磨に下っても直衣を着用しています。「どうせ流され者ですし?」といいながらも質素とはいえ上級貴族の装束なんだそうです。しかし私にはそこまでは読み取れなかった。それがウェイリー版では須磨のゲンジを訪ねたトウノチュウジョウがが見たゲンジの装いは「ルセットブラウンの服の上に、グレーの狩猟用クロークとズボンという農民風の出で立ち」で「わざとらしく田舎人を気取っているゲンジの姿が滑稽にも楽しくも感じられた」と書かれています。なんか表面的には「こんな目に合うなんて」と言いながらも、しっかり格好つけているゲンジの様子が目に浮かびますね。
     そんなトウノチュウジョウの服装は、末摘花の詫び住まいに通うゲンジの後を付ける場面では「馬上怪しげな、ハンティング・クロークという悪漢姿に変装」となっています!なんだそりゃ、格好良いじゃないか!(私は見ていないのですが「NHKドラマ いいね!光源氏くん」での頭中将は「派手好みのホスト中ちゃん」なんだそうで、まさにウェイリー版のイメージ通りですね)

    ●欧米アレンジ:情緒 
     欧米にわかりやすくしながらも、日本や王朝文学の情緒もちゃんと表しています。
     末摘花の詫び住まいの「おかしみ」を「夕食は中国陶磁器に盛られているが、古びてかけているし、食事はそんな高価な器にそぐわない質素なもの」で、それを用意する女官たちは「煤けた服に薄汚れたエプロンというみすぼらしい姿なのに、髪にはいにしえのパレスのメイドのような古式ゆかしい櫛で結い上げている。だがよく見るとほつれている」という様子。
     そして末摘花がゲンジに送ったダサい和歌と装束を「黄褐色の地味でオールドファッションなジャケットで、質が良い織物だけど、カットも縫いも出来が良くないと一目でわかるもの」であり、うんざりしたゲンジが返礼で贈ったのは「グレープ色(葡萄染)の織物やイエローローズ(山吹色)の宮中ドレス」なんだそうだ。「奥ゆかしく共用も有る美女だと決めつけていたのに、恥ずかしがり屋すぎて気は利かないし古めかしく見栄えもかなり悪い女でがっかり…。でも面倒は見るよ」の「おかしみ」といった感じがよくわかります。これは確かに谷崎潤一郎も大絶賛だわ。

    ●欧米アレンジ:ここはどうなの
     欧米にわかりやすくしたためちょっとニュアンスがどうなのよ、となったところもあります。
     服装表現でちょっと笑えてしまったのは、「袴着の儀(男の子に初めて袴を着させて少年の仲間入りとする)」を「ズボンの儀式」にしているところ。すみません、これは笑ってしまいました。
     ちょっと違うかなと思ったのは、空蝉が寝所から逃れるために置いていった小袿を「羽織ったスカーフ」にしていたところかな。着ていた薄布なので、中世騎士道物語で騎士が想い姫に所望する「脱ぎたての肌着」そのものなんですよね(笑)。女性のぬくもりや香りが残っている。スカーフだとちょっと違う。せめて「ガウン」とか「ローブ」どうだろう(どうしようもないけど)。
     根本的な「通い婚制度」「妻の実家の力」「遺産相続制度」のようなものは説明されているんでしょうかね。説明がないとゲンジと妻(葵さん)が別居でも左大臣がゲンジを大歓迎していることがわからないかなと。また、私は角田光代版ではゲンジが紫ちゃんときちんと結婚したり、須磨に降るゲンジが荘園の権利を紫ちゃんに譲渡したことで「紫ちゃんの立場を確立させた光君偉いじゃないか!」とちょっとだけ見直しました。ウェイリー版では須磨下りにあたっては「荘園の書類を預けた」というくらいだったので。

    ●主語について
    『源氏物語』では主語をはっきり書かないのですが、英語訳では「あの方(藤壺さん)」などと個人名をはっきり書かない方法を取っています。英語なので主語は必要だけれど個人名は出さないことにより情緒は活かしている感じですね。

    ●西洋文化と平安貴族との相違を思った
     この1年間では『ドン・キホーテ』『ティラン・ロブ・ディラン』『サラゴサ手稿』『アーサー王関連』など西洋中世騎士道物語をいくつか読みました。戦ってばっかりの西洋中世騎士と、歌を詠み恋して泣いての平安貴族って一見全く違うようですが似たところもあるなと思いました。
     なんといっても空蝉の「小袿を脱いで逃げた」のところ。これって貴族が欲しがる「想い姫脱ぎたての肌着」じゃないか!!笑 空蝉は「汗臭くないかしら恥ずかしい」と思い、光源氏はこっそり手にとって思いに耽ります。しかし中世騎士は自分の鎧の上にその肌着を着て「秘密の恋人からもらったんだ☆」と見せつけます。ここが西洋と日本の違い 笑??
     そして中世物語出でてくる即興詩、ソネットを読んで「よくこんなの即興でできるなあ」と感心していたのですが、平安人も和歌をやり取りしています。
     まったく違うと思っていた欧米と日本の根本に同じものを感じるとは、文学って凄いな。。

    • 淳水堂さん
      pinoko003さん

      今年もよろしくお願いします!
      ウェイリー版は、ヨーロッパの古典文学読んでいるような楽しさでした。

      好き...
      pinoko003さん

      今年もよろしくお願いします!
      ウェイリー版は、ヨーロッパの古典文学読んでいるような楽しさでした。

      好きな登場人物ですが、女性はやっぱり紫の上だなあ。
      他の女性って「恥ずかしくて返事もできない」「困った(と思うけどどうしようもない)」「自分なんかがと遠慮の気持ち」などの描写があるけれど、紫の上は直接スネたり、嫉妬しながらも他の女性と仲良くしようとするなど、うちに籠もった感じがないのが良いなと。
      立場で良いのは花散里です!六条の御殿での一角で紫の上と同じ扱いしてもらい、子供たちの教育任されたから光源氏の死後も安心、もう夜の相手しなくてよいし、そのために嫉妬もしないで良い。『源氏物語』女性で一番良い立場ではないですか。

      男性では、好きなわけではないけれども頭中将が楽しいですね。
      ウェイリー版の「馬上怪しげな、ハンティング・クロークという悪漢姿に変装」というのと、須磨に光源氏を訪ねた(政治的に不利になりそうなのに)ところで好感度アップ。好きなわけではありませんが、出てくると面白いです。

      夕霧くん・柏木くんは、今読んだいる範囲では(玉鬘ちゃんのあたり)父たちより真面目だなあ、もうちょっと遊び心がほしいかなあという感じです。この先印象変わるのかもしれませんが。
      2024/01/02
    • pinoko003さん
      こちらこそ、今年もよろしくお願いします。

      詳しくお好きなキャラありがとうございました。
      私も頭の中将、好きですよ。
      日本の古典を海...
      こちらこそ、今年もよろしくお願いします。

      詳しくお好きなキャラありがとうございました。
      私も頭の中将、好きですよ。
      日本の古典を海外訳→日本訳本で読んだことはなかったですが、主語述語がはっきりして面白そうですね。
      でも和歌はどうやって訳すのかなあ。難しそうですね。
      2024/01/02
    • 淳水堂さん
      pinoko003さん

      和歌の訳し方とのお題を頂いたので、2巻でやってみました!
      よろしければお立ち寄りください!(^o^)
      ht...
      pinoko003さん

      和歌の訳し方とのお題を頂いたので、2巻でやってみました!
      よろしければお立ち寄りください!(^o^)
      https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4865281983
      2024/02/01
  • 源氏物語はずっと気になっていた。
    ・もともと日本の古典を少しずつ読みたいと思っていたし、
    ・源氏物語はフランスでは「世界最古の心理小説」として知られている*ことを知りその世界的な位置付けに興味を持ったし、
    ・そして地球っこさんのレビューにやられ、
    ・最後に須賀敦子対談集の中の「夏だからこそ過激に古典を」に背中を押されて本書を読んだ。

    *Le Dit du Genji, écrit au Japon au xie siècle, est considéré comme le premier roman psychologique du monde.
    https://fr.m.wikipedia.org/wiki/Le_Dit_du_Genji

    クリムトの装丁が秀逸で「これはジャポニズムに深く影響された、しかし全く新しい世界観の作品ですよ」というメッセージが込められているよう。

    光源氏はシャイニングプリンスゲンジ、神無月のフリガナはゴッドレスマンス、法華経のフリガナはロウフラワー。そうやってウェイリーは英訳したんだ!という発見を上手に日本語に残してくれており、新鮮な気持ちで読むことができた。

    古文として読むとまず当時の風習の理解、それから古文自体の読み解きに集中してしまうけど、「ゴッドレスマンス」の世界観の中では細かいところは気にせずにおとぎ話として気楽に読めるからか、物語にどっぷり浸かって純粋に楽しむことができた。

    さらに注釈を読むとプルーストの『失われた時を求めて』と比較した説明がなされたり、ギリシャ・ローマの古典やシェイクスピアを彷彿とさせるような脚色・言い回しがなされていたりと、作品上で西洋の古典と東洋の古典が出会いを果たしているのも面白くて興奮した。

    • 地球っこさん
      shokojalanさん、こんばんは。

      ウェイリー版「源氏物語」ってどっぷり物語の世界に浸って楽しめますよね、わかりますー!

      クリムトの...
      shokojalanさん、こんばんは。

      ウェイリー版「源氏物語」ってどっぷり物語の世界に浸って楽しめますよね、わかりますー!

      クリムトの装釘には、どの巻もうっとりです。
      クリムトの絵とウェイリーの源氏物語が見事に共鳴しあってるなぁとドキドキしながら、なぜかセンチメンタルにもなってしまう私です。

      昨年は他のジャンルに興味がいっちゃって、3巻の途中で止まってたのですが、ちょうど再開したところでshokojalanさんのレビューが!
      同じ本を読んでるブク友さんに会えて嬉しくて、ついコメントしてしまいました♪
      2022/02/05
    • shokojalanさん
      地球っこさん、コメントありがとうございます!

      この版に出会えたのは地球っこさんのおかげなので、大変感謝しています。

      私も(時間はかかりそ...
      地球っこさん、コメントありがとうございます!

      この版に出会えたのは地球っこさんのおかげなので、大変感謝しています。

      私も(時間はかかりそうですが)完結編まで追いかけたいと思っています。3巻のレビューも楽しみにしていますね(^^)

      クリムトの表紙絵、センスが良くて世界観にマッチしていて、うっとりしますよね。わかります…!
      2022/02/05
  • べらぼうに面白いです。こんなに楽しく、感心しながら、感動しながら何百ページも読み進めた経験はありませんでした。この物語を、自分の国の物語として読める幸福は、おそらくイタリア人にダンテがあり、スペイン人にセルバンテスがあり、イギリス人にシェイクスピアがあるのと同じくらいの幸福だろうと思います。

    生まれながらに全てをもっているゲンジは、器量も教養も国で最高のレベルなのですが、特に二十七、八までは時に性急で人の心が分からないお馬鹿さんです(ただ、素直で憎めないイイやつでもあります)。この物語は、そんな彼がたくさんの女性たちと出会い、恋や愛を知りながら宮廷で生き抜いていく話ですが、ここで出会う女性たちの心情の数々が繊細で奥深く、「これが人の心の全て」だと思わせるほどの量と質で押し寄せてきます。死ぬまでずっとこの物語だけを繰り返し読んでもいいとさえ思います(実際はほぼ毎日別な本を手に取るわけですが)。

    物語手法もたいへん凝っていて、もっとも大事そうなシーンが描かれなかったり、知らない名前が出てきて、後からその人との関係が明かされたり、何百ページも前の風景描写が伏線になっていたりと二十世紀小説顔負けです。博識なウェイリーは、注釈でプルーストやウルフの名前を出して、紫式部がいかに時代を先取りしていたかを教えてくれます。「千年前の小説ではない。千年後から来た小説だ。」という書評にも大きく頷きます。

    今回、与謝野訳、寂聴訳、角田訳、田辺聖子版と並行して読みましたが、このウェイリー版は一度英訳してそれを和訳という一見無駄なプロセスを経ることによって、平安という時代の歴史的特殊性と、それを所謂古典として受容せざるを得ない日本、という社会的特殊性の両方を濾過することに成功し、それによって物語の本質としての人の心が浮き彫りになっていると思います。
    また和歌の訳が上記の中で断トツに優れていました。訳者が俳人とのことでムベなるかなですが、説明し過ぎず、かといって丸投げでもない具合の意訳のうえで、しっかり情緒が乗っている訳は、小説家にはできないプロの技だと思いました。

    長文になってしまいました。源氏を読むとご覧の通りに一文が長くなって仕事にも影響が出てしまうのは珠に瑕ですので皆様もご注意ください。

  • かねてより今年のNHK大河ドラマ『光る君へ』を楽しみにしていましたが、再び『源氏物語』現代語訳を読むことは考えていませんでした。初めて読んだのは高校生のころまたは20代前半か、円地文子版の文庫本。当時の感想もほとんど覚えておらず、その後『源氏物語』や関連書籍等に手を出すこともなかったことを考えると、さほど面白みを感じなかったのだと思います。あれから○十年、偶然ラジオでA・ウェイリーの英語訳版からの訳し戻しした毬矢・森山姉妹訳のことを耳にし、姉妹のチャレンジを面白そうと興味を持ちました。
    以前読んだ、マルグリット・ユルスナール著『東方綺譚』に『源氏の君の最後の恋』という小品があり、海外の作家が源氏物語に関する作品を描いたことに驚きました。そのユルスナールが読んだのがウェイリー版だそう。また、いろんな言語に翻訳された『元本』になっていると聞くにつけ、「流麗で文学的」と評判のウェイリー版からどんな印象を受けるのか、海外の人達が味わったであろう感覚に近づきたかったのも、姉妹版を読んでみようと思った理由です。

    まず、この1巻目を手にして、まずクリムトの絵を使った装丁に目を奪われました。時代も国も越え、こんなにもぴったりくるなんて、読み始める前からワクワク、期待が膨らみました。
    読み始めて間もなく、『帚木』の有名な『雨夜の品定め』という箇所。物語が展開するわけでもなく、ひたすら光源氏とその仲間による女性評が続きます。正直苦手、この訳だからなんとか乗り越えられたかもしれません。またほかの箇所でも、普通の現代語訳だと、頭ではイメージ出来ない単語が出てきても、言葉は知っているから何となくスルーした単語が、この作品では思いがけない言葉に置き換えられているので、却って理解が容易いこともあると感じました。その反面、カタカナに置き換えられた単語を再び頭の中で漢字に置き換えるのが面倒だという意見もありました。

    訳者あとがきで述べられている通り、姉妹の訳は「A 日本の古文 → B ウェイリー英訳 → A’ 日本語に訳し戻し」 であって、訳し戻しによってA= A’とはならず、普通の現代語訳とは異なるエキゾチックな雰囲気漂う作品に化学反応を起こしています。私にとっては、時に意味がとりやすく、十分楽しめましたしこれも有りだと思いますが、日本語の美しさを純粋に味わいたい人(時)向きではないのでしょう。実際、高校の授業以来、唯一印象に残っている場面ですが、『若紫』の少女が雀が逃げたと祖母に訴える様子、かつて頭に思い描いた光景は、この作品では浮かびませんでした。
    まあ、その時の気分で旅行先や着る服を変えるように現代語訳を選択し、違いや変化を楽しむのもまた一興ではないでしょうか。

    最後に『源氏物語』一般論として、初めて源氏物語を読んだ当時は、まだ恋多き光り輝く貴公子光源氏が絶対的主人公という捉え方が主流だったように記憶しています。昨今では光源氏との恋に悩む『女君達』の生き様を描いた物語と解釈する見方もあるようです。現代女性の生き方の選択肢が増えるにつれ、光源氏に対する読者の評価は相対的に低くなっているように感じます。
    作品に対する解釈も、その時代の世相を反映して変わっていくんだなと、改めて思いました。

  • エンペラー・キリツボの御代、ムラサキを育てるゲンジは馬車に乗ってロクジョウの館を訪ねます。新訳のウェイリー版源氏物語は、オリエンタルな雰囲気の中、登場人物が活き活きと動きます。平凡社の初訳は千一夜物語風の語り口に違和感を感じましたが、なぜかこちらはしっくりハマり、面白さにサクサク読めました。次巻が楽しみなヴィクトリアン・GENJI です。

  • 蜂飼耳さんに「ウェイリー版源氏物語」を書評していただいています | 左右社
    http://sayusha.com/news/review/p201802151152

    左右社のPR
    このヴィクトリアン・GENJIを読むまで
    私は源氏物語を理解していなかった!
    このまま漫画にしてみたい!(竹宮惠子)

    光り輝く美貌の皇子シャイニング・プリンス、ゲンジ。

    日本の誇る古典のなかの古典、源氏物語が英訳され、ふたたび現代語に訳し戻されたとき、
    男も女も夢中にさせる壮大なストーリーのすべてのキャラクターが輝きだした!

    胸を焦がす恋の喜び、愛ゆえの嫉妬、策謀渦巻く結婚、運命の無常。
    1000年のときを超えて通用する生き生きとした人物描写と、巧みなストーリーテリング。
    源氏物語のエッセンスをダイレクトに伝える、こころを揺さぶられる決定版!
    こんなにも笑えて泣けて、感動する物語だった!
    http://sayusha.com/catalog/p9784865281637

  • 面白かった。源氏物語は「あさきゆめみし」を全巻さらっと読んだ程度で、おぼろげにしか知らないが、基本的に私は光源氏が好きじゃない。衝動を抑えられないとか野蛮人じゃないかと思う。思うが煌びやかな装いやシターンの音色、美しい自然などの描写がとても心地よいので楽しく読んだ。
    そう、クロークとかシターンとか全てが英国のお伽噺風になっているのでソフトなフィルターがかかって割と他人事になっているので楽しく読めた。
    源氏物語を読むならこの翻訳で読み続けたい。2巻も買う予定だ。

  • 国内最高峰の恋愛文学と名高い作品を一度はちゃんと向き合ってみようと手に取った。
    ゼネラル・エグゼクティブ・プレミアム・マーベラス・臣下ゲンジの、上がったり下がったり凄まじい感情変動とキラキラ感に若干辟易しつつも、華やかな宮廷文化に心惹かれ、御仏に祈る程ではないものの、続きが早く読みたくて帰路が早足になる程夢中になった。

    中宮定子に纏わる双璧、丁寧に読み込みたい。

  • クリムトでしかも接吻で竹宮惠子だと⁉︎角田光代版の源氏物語積ん読なんだよ。これ知ってたら、絶対積ん読にならんかった。教えてくれた方に感謝

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著者プロフィール

平安時代の作家、歌人。一条天皇の中宮、彰子に仕えながら、1007~1008年頃に『源氏物語』を完成されたとされる。他の作品として『紫式部日記』『紫式部集』などが残っている。

「2018年 『源氏物語 姫君、若紫の語るお話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

紫式部の作品

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