- Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
- / ISBN・EAN: 9784864880985
感想・レビュー・書評
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今ではすっかりノンフィクション専門になってしまったけれど、貪る
ように小説を読んでいた頃、私の本棚は東京創元社と早川書房
の文庫に占拠されていた時期があった。
海外エンターテイメントの両雄の出版社である。その早川書房で
10年間、編集者及び翻訳家として勤務した時期の回想録が本書。
1970年代に「出版ニュース」に連載されたエッセイをまとめた作品
なので、同じような話が繰り返されるのはご愛敬。
初めてのニューヨーク出張、海外作家のエイジェントとのやり取り、
版権料の話、海外小説の情報収集方法。多分、今では大きく違って
しまっているのだろうが、翻訳書が今ほど豊富ではなかった時代に、
翻訳出版専門の出版社の内部の様子が面白い。
1ドルが360円の時代である。150ドルの版権料を115ドルに値切る
のだって必至だよね、版元としては。
先輩編集者や翻訳者との思い出話がたくさん出て来るが、中でも
一番印象深かったのは初代「SFマガジン」編集長で、「SFの鬼」と
呼ばれた福島正実氏への親愛の情である。
これは本書の解説を書いている宮田昇氏も福島氏へのオマージュ
が込められていると表現している。SFを愛し、SF一筋に生きて47歳
の若さで亡くなった福島氏の業績を書き残したくて書かれたエッセイ
なのではないかと感じさせる。
海外のベストセラー情報が今のように簡単に手に入る時代ではな
かった翻訳出版黎明期。常盤氏が書いているように「あの頃、翻訳
出版は冒険だった」のだろう。
それだけに翻訳も「名訳」と呼ばれる作品も多かったのだと思う。
「翻訳の問題は奥が深いと思う。何がいい訳で、何が悪い訳かは、
人によってちがう。私がいい訳と主張しても、これに反対する人も
いるだろう。しかし、万人が認める名訳もあるはずだ。たとえば、
アーサー・ヘイリーなら永井淳、シムノンなら矢野浩三郎、チャン
ドラーなら清水俊二、アイリッシュなら稲葉明雄というように。」
はい、ここ大事です。「チャンドラーなら清水俊二」。なんで村上
春樹訳にしちゃったんだろうな、早川書房。『長いお別れ』『さらば
愛しき女よ』を、『ロング・グッドバイ』やら『さようなら、愛しい人』
にされちゃったら、それはもう私が愛したフィリップ・マーロウで
はないのである。
と、最後は愚痴になってしまった。でもね、本書を読んでいると
書棚の収容量の関係で既に手放してしまった早川書房の作品
を読みたくなるほどに、素敵な回想録でした。
昔のノンフィクションの作品、復刊してくれないかな。『パリは燃えて
いるか』は復刊したけれど、他にも読みたい作品が多いんだよな。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
本の本
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著者の逝去後、次々と書籍化される作品がありがたい。これはかつての翻訳事情を描く。