ウイルス・プラネット (ポピュラ-サイエンス)

  • 飛鳥新社
4.09
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感想 : 25
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784864102322

作品紹介・あらすじ

最悪の敵か、最強の味方か。地球は、ほぼアイツら(ウイルス)でできている。知っていそうで知らなかった、驚きエピソードの数々。

感想・レビュー・書評

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  • 一ヶ月半くらい前までは、コロナウイルスがこんなことになるとは思わなかったなあ、と思いつつ読了。図書館でもちょうどウイルスや感染症の企画を展開していて、その時に借りた本がこの『ウイルス・プラネット』。

    ちなみにその図書館も、借りた数日後には当面休館となったので、ある意味この本は図書館の置き土産です。(もちろん開館したら、返すけど)

    ウイルスとなると病気のイメージが強いですが、この『ウイルス・プラネット』はそれだけでない様々なウイルスの側面を描きます。細菌を殺し、抗生物質の代わりとして期待されるウイルス。近年抗生物質に耐性を持つ細菌も増えている中で、こうしたウイルスの活用に、著者は期待を寄せます。

    また一方で海洋にもウイルスは大量にいるそうで、その重さの総計はシロナガスクジラ7500万相当! こうしたウイルスがすべて人に影響を及ぼすわけではなく、ほとんどが海に生息する微生物たちに影響を与えているそうです。

    この海洋微生物には藻類や光合成細菌といった種類がいて、二酸化炭素を吸収し酸素を放出するのですが、この誕生に関わったのが、光合成をする遺伝子を持ったウイルスだということ。厄介者に思われるウイルスですが、こうやって見ると様々な側面があることが改めて感じられます。

    そしてウイルスがもたらした変化は人類にもあるそう。生物の体内に入り細胞内に侵入したウイルスは、自分のウイルスに感染した細胞を複製することで数を増やし、生物の身体に影響を与えます。その際に、そのウイルスが持っている遺伝子の情報も取り込まれます。それが世代とともに受け継がれることで、ウイルス由来の遺伝子が生物の進化にも関わってくるのです。

    中でも驚きだったのが、胎児が子宮内で成長するために必要な気管を調べると、その細胞にウイルス由来の遺伝子があるということ。こうやって読んでいくと、ウイルスも自分たち生物と同じように、地球環境に組み込まれた存在なのだなあ、と思います。

    本の後半は、病気としてのウイルスの側面が描かれます。この『ウイルス・プラネット』の出版は2013年ですが、第10章に「本当に怖いのは「静かな」ウイルス」という節があり『人類にとって脅威となるのは、致死率は低くても大勢の人々に感染が広がるウイルス』とあります。これを読むと、どうしても新型コロナウイルスとその甚大な影響を考えてしまいます。

    こうした新種のウイルスを前もって予測しようとする動きもあるみたいです。GVFI(世界ウイルス予測イニシアチブ)という組織は、猿やチンパンジーといった動物の血液を採取し、それを調べることで新種のウイルスに対する情報をつかもうとしています。HIVやエボラ出血熱なども、猿やチンパンジーが起源とされていることから、こうした動きは確かに心強いかも。

    そしてSARSの流行も、新種のウイルスが比較的早い段階で見つかり、それを解析。そして患者を隔離するとともに、中国の人々が接する動物のウイルス調査を進める上で、原因がハクビシンと特定し、封じ込めに成功した、というエピソードも紹介されています。

    これもまた、今回のコロナウイルスを連想してしまいます。もし中国政府が最初の武漢市の医師のコロナウイルスに対する報告を受け取っていれば、封じ込められる可能性はあったのかなあ。

    著者も本の中で書いていますが、改めてウイルスは、創造的な側面と破壊的な側面が混在しているのだな、と感じました。そしてウイルスは自然の中のシステムに組み込まれている以上、自分たちはその二つの側面に、上手に対応していくしかないのだろうなあ。

  • 人類と昔からずっと戦いあっている風邪やインフルエンザのウイルスや、最近になって猛威をふるいだした、SARSウイルスやHIVといったこわいウイルスなどなどを紹介するとともに、ウイルスが、実は海洋で酸素を生みだす役割の大きな部分を担っていたりするなど、あまり知られていないであろうウイルスについてのあれこれをやさしく詳しく教えてくれる本です。たとえば、AIDSを発症させるHIVの起源はといえば、なんと、チンパンジーが保持していたウイルスだそうで、それがヒトに感染して突然変異を起こしてHIVになったものだそう。歯ぐきから出血しているようなチンパンジーに噛まれた、だとか、チンパンジーを食べた、だとか、そういったことで感染してきているようです。チンパンジーを食べる文化ってあるんですね、人間と近縁種だから心理的に避けそうなんですけども、やはり、生き延びていくためには食べるしかないですから、その土地その土地での、貴重なタンパク源として、チンパンジーも狩られているんでしょうね。また、チンパンジーじゃなくとも、アフリカあたりではサルを狩って食べる土地があって(たぶん、ごく狭い文化ではなく、サルを食べる行為が、まあまあ、ありふれていると思われる)食べることでサルが保持しているウイルスがヒトに移り、そのなかでもエボラ出血熱を起こすウイルスなんかが突然変異してヒトの体内に適応するようになり、ヒトのなかで蔓延するみたいです。まあ、順序を整理すると、サルからヒトにわたって、ヒトのなかで突然変異して、エボラ出血熱を起こすようになるようです。と、このようないろいろなトピックが、雑誌の良質なコラムのような体で、十数ページくらいをひとつの項としてまとめてあります。著者の語り口も翻訳者の仕事もどちらもいいのでしょう、落ちついた文体で好感の持てる本に仕上がっています。他人におすすめしやすい感じの本です。

  • ウイルスの生態、発見、効能について冷静に紹介されている。
    今までに人類の科学の力で完全に抑え込めたのは天然痘のみ、という事実は、新型コロナと直面している我々に示唆するところが大きい。
    ウイルスも自然の一部、なんでもコントロールできるわけではないのだ。そう考えているのは驕りでしかない。

  • ウイルスは、創造と破壊を司っている。
    正しくそうだと思う。
    最後に紹介されていたミミウイルスが、印象的だった。
    ウイルスから細胞への変遷を思わせる、生命の起源を感じさせる、そんなウイルスだ。
    新型コロナウイルスだ、と騒いでいる世の中の人たちも、読んだらいいのに。
    分かりやすく読みやすかった。

    【memo】
    一人の肺の中には、平均174種のウイルスがいる。
    すでに知られているウイルスは10%にすぎなかった。

  • ウイルスとは何なのか?ということが分かりやすく(まだ分かっていないことも多いが)書いてある。変化の激しいこの分野の分かりやすい本は貴重なのでは。

  • 【選書者コメント】ウイルスというと、良くないイメージがつきまとう。できればお付き合いしたくないという人は多いだろう。けれども衝撃の言葉がこの本の帯に書かれていた。地球は殆どウイルスで出来ている!ウイルスは本当に悪い奴らなのだろうか。
    [請求記号]4900:2317

  • 生物か無生物かわからないウィルスの存在は、多くの人にとって恐ろしいものでしょう。
    しかし、ウィルス由来の遺伝子がなければ人間を含む哺乳類が、自らを複製できないことは衝撃です。
    人間や他動植物を死亡させるウィルスもあれば、それらの細胞に永住しつづける選択をするウィルスもあります。
    恐ろしいだけではないウィルスが、この一冊に綴られています。

  • ウィルスは生物か非生物か、家人と話していたのを思い出しふらっと図書館から借りてきました。すごく面白い!私は文系なので生物学とかほとんど無知なんだけど、すごくわかりやすく面白く書いていてほ~っと感心することばかり。他の本も読んでみたいと思わせる本でした。

  • ウイルスって、不思議だ。面白い。

  • ウイルスは創造と破壊の両方を併せ持つ存在であり、地球上のあらゆるところにいる、というのが主題。ウイルスとは、とにかくただ悪いものではなく、生命にとって重要な役割をもっているのは確か。僕らのDNAも、どこまでがヒトのもので、どこまでがウイルスなのかもわからない、といわれるとこそばゆい。ウイルスがいなければ子どもも生まれない。ラテン語のウイルスには、蛇の毒液と、人間の精液、の二つの意味があったそうだ。それが端的にウイルスの性質を表している。個々の事例はそれほど詳細でないが、愉しく読める本。

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著者プロフィール

アメリカを代表するサイエンスライター、『ニューヨーク・タイムズ』紙の科学コラムニスト。
著書はスティーヴン・ジェイ・グールド賞をはじめ、数々の賞を受賞している。新型コロナウイルスの世界的流行について報道する『ニューヨーク・タイムズ』紙のチームに加わり、その記事は2021年のピュリッツァー賞(公益部門)を受賞した。イェール大学分子生物物理学・生化学科の客員教授も務めている。彼の知るかぎり、条虫の種と小惑星の両方にその名がついたただひとりの著作家でもある。
『カラー図解 進化の教科書』(共著、講談社)、『進化 生命のたどる道』(岩波書店)、『ウイルス・プラネット』(飛鳥新社)など著書多数。

「2023年 『「生きている」とはどういうことか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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