永遠でないほうの火 (新鋭短歌シリーズ25)

著者 :
  • 書肆侃侃房
4.25
  • (10)
  • (5)
  • (5)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 141
感想 : 8
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (144ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784863852235

作品紹介・あらすじ

【言葉が奏でる究極の結晶】
とうめいな水の底に光る幻影は、
深い祈りが集めた光なのだと思う。
(東 直子)

[自選短歌五首]
どんなにか疲れただろうたましいを支えつづけてその観覧車

月を洗えば月のにおいにさいなまれ夏のすべての雨うつくしい

煮えたぎる鍋を見すえて だいじょうぶ これは永遠でないほうの火

ふいに雨 そう、運命はつまずいて、翡翠のようにかみさまはひとり

ぼくを呼んでごらんよ花の、灯のもとに尊くてもかならず逢いに行くさ

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 海と重なる 深い深い祈りのような
    言葉は奥深くへと潜っていく 祈りへと至るための巡礼の旅のように

    どこまで行っても 結局は一人ということを
    どうしようもないほどに突き付けられる

    寂しさがなぜか 静かで美しい
    一人という夜を 航海する

    静けさの中に渦を 悲しみとしか言い様のない
    真っ黒な闇に 光を探して

    そこは月さえも揺らぐ 海と光
    波のように揺れる 輝く火

    揺れる花 止まった船
    凪いで 荒れ狂う波

    その心が 意味するものを
    想像して 息が止まる

    痛みと言葉 夢と雨 氷 鳥 そして
    日常のありとあらゆることが 雨粒のように降り注ぐ
    心の襞を伝って流れて行くのか 海へ通じる川となって

    違う世界へ行きたいのに
    誰も連れていってくれないなら
    もうどこにも行けない

    燃えている明かりと熱さを頼りに
    行き先を風に聞く 流れる方へ

    憎しみは導火線のよう
    感情に火をつけて すべて燃えてしまえばいい
    愛に似た 悲しみが やはり静かに揺れる

    水というそれは 冷たさと静けさではない
    その奥底に湛えた 激しい情と灼けるような熱さと
    うねる氷と輝く炎のような
    相反するものを孕む――海だった

    ――誰かが言った
    「それは舞い降りるのか」――と

    誰かは答えた
    「いいえ、それは溢れるのです」――と

    この目で見て 心が思い
    体が感じた全てが言葉となって
    感情のように溢れ
    雨粒のように零れるのです――と

    ―――だから

    ――言葉はゆりかごになります

    いつまでもあなたを守れるように――

  • このひとの短歌をお見かけし、好きなうたが二首あったので、いつかこの歌集を読みたい

  • 青い炎を連想させる透明感とひりつきのある連作が良かった。

  • 初々しい言葉と少し演歌っぽい言葉とがカオスのように同居する。前者には強く惹かれつつ、後者の演歌っぽさが時々鼻につく瞬間を否定出来ず。
    書籍で読んで気に入ったらKindleでも購入しようかと思ったのだけど、そこまでモチベーションが維持出来ず…。

    もっと言葉がこなれて来るのをそっと待ちたいと思う。くれぐれも演歌っぽさが熟達することのないように、と祈りながら。

  • 井上法子 短歌 かわせみよ波は夜明けを照らすからほんとうのことだけを言おうか 抱きしめる/ゆめみるように玻璃窓が海のそびらをしんと映せり 波には鳥のひらめきすらも届かないだろうか海はあたえてばかり みずうみと海とがあった輝きのゆたかな抱擁をしっていた 渚から戻っておいで微笑みも雪の匂いもわすれずおいで ずっとそこにいるはずだった風花がうたかたになるみずうみに春 耳でなくこころで憶えているんだね、潮騒、風の色づく町を #返歌 台風の雨風怯えこころでも耳でも潮騒時空質量

  • 表紙の色に通ずるような水色の空気感漂う寂しげな歌、対照的に日差しがまぶしくて活力にあふれてるような歌が個人的には目に止まった。難解で一読どうにも読み解けないものもあったけれど、それはそのまま受け止めて、何度も矯めつ眇めつ眺めて読み解けたら、それはまたそれで楽しいのではないかと。以下引用。/いえそれは、信号、それは蜃気楼、季節をこばむ永久のまばたき/それぞれの影を濡らしてわたしたち雨だった、こんな雨だった/どんなにか疲れただろうたましいを支えつづけてその観覧車/煮えたぎる鍋を見すえて だいじょうぶ これは永遠でないほうの火/日々は泡 記憶はなつかしい炉にくべる薪 愛はたくさんの火/ふいに雨 そう、運命はつまずいて、翡翠のようにかみさまはひとり/まっしろな気持ちばかりが駆け出して ああ あこがれ と手をつなぐこと/いっせいにゆれる吊り革 うつむけば海鳴り、親指、ママン---拍手を/心地よくアロエ果肉のなじみつつ半透明の夏がまた来る/触れたのはてのひらだけではつなつのステーキ屋さんでステーキを食む

全8件中 1 - 8件を表示

著者プロフィール

1990年7月生まれ
福島県いわき市出身
明治大学文学部卒業
立教大学大学院修士課程修了
東京大学大学院博士課程在学中
2009年 早稲田短歌会入会
2013年 第56回短歌研究新人賞次席

「2016年 『永遠でないほうの火』 で使われていた紹介文から引用しています。」

井上法子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×