サイレンと犀 (新鋭短歌シリーズ16)

著者 :
  • 書肆侃侃房
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本棚登録 : 774
感想 : 40
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  • Amazon.co.jp ・本 (144ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784863851665

作品紹介・あらすじ

命を見据えて現代を探る
見なければ、考えなければ、どうってことなく過ぎていくものばかりである。
しかし、書かずにはいられない。
東 直子(解説より)

<自選短歌五首>
もういやだ死にたい そしてほとぼりが冷めたあたりで生き返りたい
ともだちはみんな雑巾ぼくだけが父の肌着で窓を拭いてる
河川敷が朝にまみれてその朝が電車の中の僕にまで来る
そうだとは知らずに乗った地下鉄が外へ出てゆく瞬間がすき
つよすぎる西日を浴びてポケットというポケットに鍵を探す手

感想・レビュー・書評

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  • X(旧Twitter)でよくイラストとともに一首ずつ流れているのが「なごむなあ」と思い衝動買いした一冊。

    これを読んだ日は、ちょっと疲れていて、何も読みたくなかったけれど手持無沙汰だったので、この歌集なら読めるかもと思い手に取りました。

    拝読してみるとなごむ歌ばかりではなかったのですが、疲れていても読める範囲内でした。
    イラストの無垢な感じも手伝ってくれているのかもしれません。
    軽妙に飄々と詠まれている感じですが、泣ける歌もありました。




    <散髪の帰りの道で会う風が風のなかではいちばん好きだ>

    <ともだちはみんな雑巾ぼくだけが父の肌着で窓を拭いてる>

    <ゴッホでもミレーでもない僕がいて蒔きたい種を探す夕暮れ>

    <ポケットの硬貨2枚をネクターに変えて五月の風のなか飲む>

    <本棚のむこうでアンネ・フランクが焦がれたような今日の青空>

    <マーガレットとマーガレットに似た白い花をあるだけ全部ください>

    <もう声は思い出せない でも確か 誕生日はたしか昨日だったね>

    <もういやだ死にたい そしてほとぼりが冷めたあたりで生き返りたい>

    <実行犯が億人組でそのうちのひとりが僕である可能性>

    <あかねさすIKEAへゆこうふたりして家具を棺のように運ぼう>

  • NHK短歌選者で、穏やかな中にも真摯にゲストの話を聞く姿にグッとくる。

    あとがきに「自分が忘れたくないと思った何かを、見知らぬ誰かにも伝えたいという願いから」との思いがこもった歌集。どの歌も、生活のふとしたそこまで特別でない場面を切り取って説得力のある歌でじんわりと伝わる。

    身近な音楽やショッピングモールの連作、ワクワクしてはしゃいだあとの我に返る切なさも残る。句読点、クエスチョンマーク、カタカナが多用されて独特の調べと語感、行間になっている。目で読むのと音読するとでは雰囲気が変わる気がする。
    開くたびに気になる歌が違う。

    春だから母が掃除機かける音聴きたくなって耳をすませる

    え、七時なのにこんなに明るいの?うん、と七時が答えれば夏

    ゴッホでもミレーでもない僕がいて蒔きたい種を探す夕暮れ

    抜けるほど青い空って絶望と希望を足して2で割った色?

    じいさんがゆっくり逃げるばあさんをゆっくりとゆっくりと追いかける

    さかさまの洗面器からざぱーんと水。さようなら今日のできごと

    踏んづけた蜂は生きてたあの夏のプールサイドのバケツのなかで

    僕ひとり乗せた車で僕はいま僕の命を預かっている

    ショッピング・カートにねむる子らのまなうらにバーコードの万華鏡

    アンコール良かったね、ってひとしきりひたってもまだはしゃいでる耳

    日めくりがぼそっと落ちて現れた画鋲の穴の闇が深いよ

    僕を切り売りするような感覚で切り取る分割証明写真

    • 111108さん
      ☆ベルガモット☆さん、おはようございます♪

      岡野大嗣さん、NHK短歌でお見かけするたびに何故かセラピストや占い師(まだ本当にはどちらもかか...
      ☆ベルガモット☆さん、おはようございます♪

      岡野大嗣さん、NHK短歌でお見かけするたびに何故かセラピストや占い師(まだ本当にはどちらもかかったことないです。)のような、うたわれている心の状態や情景を細かいところまで伝えてくれている気がしてました。この歌集でもその辺を味わえるのでは‥と勝手に予感しています。探してみますね!
      2023/10/21
  • 『スタンスは持ってないけど立ち位置はGPSが示してくれる』

  • 東直子が「岡野大嗣は取るに足らないことが気になって仕方ない」と解説していて腑に落ちた。その点にずっと感激しながら、少し引っかかっていた。なるほど目の凝らし方には何度も驚いたが、写実的すぎる感が否めなくて、気になる。『たやすみなさい』の方が好みだが、岡野の目の付け所は大変勉強になる。

  • 視野の広さに驚きました。素晴らしい発想。

    生死に関するうたにとても惹かれました。一部、思考が似ているかもしれませんね。


    2023/11/02 目次-140

    p.5
    “青空とブルーシートにはさまれてサンドイッチのたねだねぼくら”
    わあ……! この発想、好きです!!
    お花見をしているのでしょうか? その場所からぐーんと視野を広げて空まで包み込んだ短歌を詠むことができるのは、素晴らしい才能です。凄い。

    p.26
    “二人の「またね」は祈り”
    無意識に、わたしたちは祈っているのかもしれません。老若男女誰であっても、いなくなる時は必ず来るものですから。

    p.34
    “三分の二を隠しつつこの夜のひとりひとりに嘘をつく月”
    嘘つきな月がつく嘘はどんな嘘?

    p.35
    “プルトップまわりに埃めだちだす四十九日の友のコーヒー”
    お家か、お墓か、わからないですけれど……そこに行くことができるくらい親しい仲だったのですね。
    わたしも友人を亡くしたことがありますけれど、まだ、何も知らない時期でした。もっと仲良くなれたらよかったのにって後悔しても後悔は先に来ることなんてないから、あの時のわたしは本当に何も知らなかったです……。

    p.60
    “母と目が初めて合ったそのときの心でみんな死ねますように”
    生死を詰め込むこの技量凄いです。
    ねえ、生まれたばかりのわたし……どんな気持ちでしたか。せかいはまだ、明るかったのでしょうね。

    p.66
    “「自殺点?今のが?マジで?これほどの恍惚感の只中なのに?」”
    もしかしたらとても死に近かった瞬間、うとうとしていました。もうすぐ眠ることができそうな気持ち良い感覚。
    こわくなかったです。あれが最期だったら、とても良いのにって思います、これから来るであろう最期の瞬間も。

    p.73
    “生年と没年結ぶハイフンは短い誰のものも等しく”
    生死を意識しているのでしょうね、この方。わたしも。だから惹かれます。

    p.93
    “なぜ蟬はぼろぼろ死ぬのこんなにもスギ薬局のあふれる町で”
    その薬局では虫を殺す商品も売っていて、人には優しいけれど虫には厳しい町なのかもしれません。

    p.94
    “六カ月は死なない前提で買う六カ月通勤定期”
    一時期、何か予定を入れるたび、「その時まで生きているのだろうか」と考えていました。生きていますよ、過去の自分。

    p.126
    “運転に支障は無くて何年も放置している心の異音”
    そうしてわたしは壊れました。

    p.140
    “御守りになるような短歌を一首でも見つけることができたなら、それに勝る喜びはありません。”
    お守りにしても、良いのですね。作者さんから許可をいただけると、うれしいです。

  • 知り合いに紹介されたたやすみなさいから勢いで買った2冊目。
    平凡ながらも憂鬱で、でもユーモラスな素敵な世界が広がっていた。

    どの詩が好きだった?って聞かれたとしたら沢山あって答えられないけれど、直近読んだ中では(ささやかな落胆)ニュース速報の全ては僕に関係がないなんかは身近な感じかして、それでいてその角度!?なんでなん?という驚きがあって好き。

  • 「散髪の帰り道で会う風が風のなかでいちばん好きだ」と、「脳みそがあってよかった電源がなくても好きな曲を鳴らせる」が特に好き。知っている言葉なのに、今まで出会ったことのない気持ちになるのってすごいね。

  • 自由律短歌というのでしょうか。先日「たやすみなさい」を読んでその自由さにワクワクしました。
    曲がりなりにも作詞をする人間の一人として、この何にも縛られることなく言葉を紡ぐ楽しさに胸が高まりました。
    そしてその前の作品を読んでみたくなりました。
    これもまた自由で、情景がぱっと頭に浮かぶ素晴らしい作品集です。
    お気に入りの短歌をフレーズ登録しました。やはりとてもいいよねー。
    本好きな割には言葉を紡ぐという事には無頓着で生きてきて、まじめに言葉と向き合ってきたのはこの15年程度でしょう。
    しかもこの「まじめ」というのは、何かに縛られて書いている文章を考える意識としてとてもふさわしい言葉かもしれません。歌詞の場合メロディーに縛られている部分が多分に有り、どこか自分の心そのものではないなと思います。当然作品としての完成度の為には重要な事なので、推敲に推敲を重ねて作詞をします。
    しかしこの自由な短歌は、自分が今、思い浮かべたぼんやりした感情をそのままつかまえて封じ込めることが出来ます。まるで魔法のようです。
    特に僕が好きだったのは
    「道ばたで死を待ちながら本物の風に初めて会う扇風機」
    です。見た瞬間に情景が浮かぶし、ごみでしかない扇風機を絶妙に引いた擬人化で感情移入させます。これがもっとグイっと踏み込むと感傷的になり過ぎるのですが、幾分冷めた、それでいて優しい視点がとても心地いいです。

  • 非常によかった…

    静かにすっと入ってくる。
    短歌だから当たり前なのかもしれないけど、言葉のつくるリズムが心地よい。
    内容は日常の何気ないことで、作者の冷静で少し毒のある味方で書いている。
    おそらく自分の感覚と近く、共感できたのでは。

    この本はいつも枕元に置いて、1日の終わりに少しずつ読んだ。
    静かで落ち着いた、温かい気持ちで寝ることができた。
    そんな気持ちになれたのは、共感してもらった感覚だったのかな。

    作者のことはツイッターで知った。
    新作『たやすみなさい』も近いうちに読みたい。

  • 若いとき買ってまでした苦労から発癌性が検出される
    #あと二時間後には世界消えるし走馬灯晒そうぜ
    「強く押すボタン」を弱く押したのに鳴って止まない火災報知器
    すこしなら逆に体にいいという噂を信じ毒を飲む顔
    ノーメイク、セルフカットのきみだけど裏地のボアのにおいは女
    座ってただけだったのに誌上での僕は何度も(一同笑)
    終わらない痛みのように立ち上がるアップデートの通知を閉じる

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著者プロフィール

一九八〇年大阪府生まれ。歌集に『サイレンと犀』『たやすみなさい』『音楽』『うれしい近況』。共著に『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』『今日は誰にも愛されたかった』。がんサバイバー当事者による、闘病の不安に寄り添う短歌集『黒い雲と白い雲との境目にグレーではない光が見える』を監修。

「2023年 『現代短歌パスポート2 恐竜の不在号』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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