- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784863587007
作品紹介・あらすじ
古来より存在する土木技術は、いかにして環境を守ってきたのか、そしてその技術は現代を生きる我々にどのように語りかけてくるのか。造園から環境を考える一冊。
感想・レビュー・書評
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科学が明らかにしてきたことも多いが、すべてを解明できるわけではない。
その姿勢から、自然との長い対話で育んできた技術とのより良い調和を生み出す道を模索すること。
気候変動による災害激甚化を、単一の理由に帰結させることの思考停止の危険も改めて認識。
水と空気の流れ、自然の循環。
第1章 土中環境とは
・大きな機械力のない時代のかつての土木造作では、土中環境を健康に保つことで、(崩れることで)地形自らが安定していくように仕向ける工夫がなされていた
・通気浸透水脈により育まれる団粒土壌での根粒菌と木々との共生
・腐植層(A0層)で育つ菌糸ネットワークが担ういのちのリレー。マザーツリーからの選択的な養分の伝達。
第2章 大地の通気浸透水脈
・自然界がつくる安定形状にはミクロもマクロも共通のフラクタルな法則がある。
・土中の水の動きは、観測という定量的な手法に加えて、起こる現象の背後に必ず存在する自然の摂理や法則性を読み取って、それを推測で補う必要があり、そうすることでようやく全体像が見えてくる(柿田川湧水)
・健康な流域環境においては豪雨でも泥水の流亡はなく、増水しても川岸がえぐられることもなく、安定した形状が見られる。
・健康な山に浸透した多くの水は、土中を通過し伏流水へと合流するため、豪雨の際にも濁りにくくなる。水量調整機能を持ち、増水も起こりにくい状態が保たれる
・クリーム色の透明度ゼロに近い汚濁は、ダム底に堆積した土砂が、シルトという非常に細かな砂状の粒子となって、降雨の度に勢いよく下流部に流亡するために起こる現象。シルトが川底を詰まらせ、伏流水と河川水を分断し、川全体の浄化機能や推移調整機能をも広範囲に奪っていく
・現代科学では解明できていない土石流のメカニズム
第3章 暮らしを支える海・川・森の循環
・かつて、いのちの源としての森林を、杜と書いたのも、木だけでなく、木と土が共に健康で一体に育ってこそ、多様で豊かないのちが循環し、永続することを表している
・砂防ダム上流も森に水が染み込まない理由は、地下水の出口となる川底の湧き出しの閉塞にある。
・急傾斜は、森が荒れて健康に保たれない状況を招いてしまえば、崩壊のリスクが生じるが、本来は、段丘の急傾斜によって土中の水や空気が活発に動くため、湧き出す水も豊富で。木々は根を深く張り、災害に強く土地としても安定しやすい。
↔︎擁壁等によって斜面を固め、水脈環境を遮断してしまえば、環境の恵みは失われてしまう
・寺田本家の杜を守る酒造り詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
知識がなくても事例や図が多くとてもわかりやすい、読みやすい
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12月22日新着図書:【道路、ダム、トンネルといった現代の土木建設による構造物が土中の環境を変えていき、広範囲の環境を壊してしまうという実態を目の当たりした著者が環境を考える一冊です。】
タイトル:土中環境 : 忘れられた共生のまなざし、蘇る古の技
請求記号:468:Ta
URL:https://mylibrary.toho-u.ac.jp/webopac/BB28194992 -
森や林の課題や再生の方法が良く理解できた。一方で現代の土木の良い面は何だったのだろうかとも思う。かつて洪水が多かったというが、土木技術の発展のお陰で今の暮らしがあると理解している。
コンクリートで固められた擁壁に心地悪さを感じるのは動物としての感覚なのか。 -
土の中のつながりを当たり前に考えることが重要
見えることだけで決めていくと
見えないつながりを排除し悪循環に
人間がまだ健全な環境を尊いと感じることができるとすれば改善していくことはできそうだ
数値化は難しいだろうけど -
水と空気の循環とバランス。
自然の仕組みって本当にすごい。 -
土中環境 忘れられた共生のまなざし、蘇る古の技。高田宏臣先生の著書。国内外で造園・土木設計施工、環境再生に従事されてこられた高田宏臣先生。ひとりひとりの人間は自分本位で自分勝手自分優先主義になりがちだし、人類全体でも人類本位で人類優先主義になりがち。でも地球は自分だけのものでもなければ人類だけのものでもない。全ての生物は土中環境でつながっているだから土中環境にもっと気を配って土中環境を大切にして共生していかないといけない。こういう土中環境の問題のことをもっと学校で子供たちに伝えていくべきです。
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豊富な写真とイラストを用いて、海・山 ・川のつながりを地下の視点から解説した本。コンクリートによる土木工事が山や川の荒廃につながっているという警鐘や、筆者がかかわった森林再生事例の紹介などにより構成。色々なテーマをカバーしているが、チャプターごとに内容を切り替え、合間に鼎談・対談のページを挟むことで読みやすさが増している。
「杜」という字の話、山に降った雨が湧水となって海底に湧き出る場所が「ネ」と呼ばれる話、土砂災害と言われる現象は滞留した水が行き場を求めてほとばしる自浄作用であるという話、山間の古道の造作(石畳、道脇の溝など)が理にかなっているという話、などなど、納得する内容のエピソードが多かった。
知人にお借りした本だけど、手元においておきたいので自分でも購入した。