雪麻呂 (コスモス叢書)

著者 :
  • 短歌研究社
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784862726766

作品紹介・あらすじ

《冷えわたる夜の澄みわたるかなたよりもうすぐ天の雪麻呂が来る》
それは、ふとやってきた、不思議でどこかなつかしい気配──。
人生の哀しみと可笑しみを、ときに深く、ときに軽く。
著者の魅力が存分に発揮された第十五歌集。

【歌集より】
菜の花の丘わたる風の源流に紀元前といふ時間はありき
さざんくわにかこまれながら孫わらひ天の太鼓は鳴りやまなくに
見し者のまなぶたならんやはらかくちりかさなれるさくらはなびら
ふるさとの楽園町の丘に似る猫のあたまに陽が当たりをり
母がもう忘れたるわが誕生日 未生以前の秋のかぜふく

感想・レビュー・書評

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  • 張飛さんのレビューを拝見して図書館から借りてきました。

    お母様の歌、お姑様の歌がそれぞれの関係性も含めて共感する歌が多いと思いました。
    ちなみにお母様は90歳だそうです。



    ○地下鉄のあをきシートにみどりごは予言者のごとく立ち上がりたり

    ○ひつひつと夜の雨降り、十万人、否、二十万人の児童虐待

    ○歩くさへ全力の母すぐそこのはるけき夏の郵便局へ

    〇夕陽こんなにうつくしけれど、半端ない介護の月日もう二十年

    〇朝顔の観察日記 にんげんはなにかを数へつづけて老いぬ

    〇孔雀青(ピーコックブルー)の傘が空をとぶ夏のあらしの青山通り

    〇ややこしき世に陶然とぶだうあり何の比喩でもなくてうつくし

    〇夫よりもわれと親しく手をつなぐ姑(はは)となりたり靴ちぐはぐに

    〇あれもこれも忘れし姑(はは)と手をつなぐ三十五年目のさくらのしたで

    〇息子にもあなたのやうな嫁欲しと姑言ひ出づるさくらの日なり

    〇かつて子が言ひし「自分でできるから」いまは老いたる母が言ふなり

    〇おもひの外のもつての外のこともある一生せつなし明日は歯を抜く

    〇みづからの病知らねば古猫は怒りに怒るフード変はるを

    〇捨てて捨てて生きんとおもふ夕焼けのそらに老母を捨てるときまで

    〇晩夏(おそなつ)のうすむらさきのひぐれまへ過去が涼しくなる時間あり

    〇母がもう忘れたるわが誕生日 未生以前の秋のかぜふく

    • 張飛さん
      まこと、俺のレビューを見て読んでくれたとのことでありがとう!

      ちょうど俺も昨日読み返していたんだが、ユーモアのある短歌にもしみじみとなる余...
      まこと、俺のレビューを見て読んでくれたとのことでありがとう!

      ちょうど俺も昨日読み返していたんだが、ユーモアのある短歌にもしみじみとなる余韻みたいなものが感じられる気がする。それと身近なテーマが多くてまことの言うように共感できる短歌が多いと俺も思った。こういう短歌を作ってみたいなあとあらためて思ったよ。この歌集を度々ひもといて自分の作歌にもいかしたい!
      2023/10/09
    • まことさん
      張飛さん、こんにちは♪

      ちょうど昨日、読み返されていたのですね!
      家の母は、小島ゆかりさんより、まだひとまわり若いのですが、物忘れが多くな...
      張飛さん、こんにちは♪

      ちょうど昨日、読み返されていたのですね!
      家の母は、小島ゆかりさんより、まだひとまわり若いのですが、物忘れが多くなってきたりして、小島ゆかりさんのお母様の歌には共感しまくりでした。なんだか泣ける歌だなあと思いました。

      小島ゆかりさんは、張飛さんの投稿されていらっしゃる新聞歌壇の選者でも、あられますよね。
      娘さんの、小島なおさんの、歌集も、読みたいと思ってまだ積んでありますが。
      親子で、どんな類似点があるのかとかも、興味深いです。
      2023/10/09
  • 小島ゆかりさんの十五冊目の歌集。
    フォロワーさんたちがお読みになっていて、私も読みたーい、と思っていたら、我が市立図書館に所蔵されているのを発見。お取り寄せしてもらう。
    マイナス、ネガティブな感情も読ませる歌になっていてさすがだと思った。
    虫や鳥、植物に向ける視線が人間に向ける視線と同等に感じて、そこに共感した。
    ひらがなに開く単語の効果的な使い方も勉強になった。

    タイトルの『雪麻呂』ってかわいらしい響き。
    小島さん御本人は「架空の名前」「雪の気配とともに胸に降りてきた言葉」「不思議な懐かしさを感じる」と、あとがきで書かれている。
    曇り空から降り注ぐ真白の雪は、降ってはちり積もる感情や歳月のことみたいに思えた。
    積もって積もって、やがて跡形もなく消えゆく。
    それはひとの一生のことでもあるかもしれないし、ひとの紡ぐ言葉のことであるのかもしれない。
    できれば、その雪を見て「きれいだったな」って憶えてくれているひとがひとりでもいればいいですね。

    • 5552さん
      なおなおさん、こんばんは。
      ありがとうございます!
      実はレビューをUPしてから、また、訳分からない文章を書いてしまったかも…、と思っていたの...
      なおなおさん、こんばんは。
      ありがとうございます!
      実はレビューをUPしてから、また、訳分からない文章を書いてしまったかも…、と思っていたので、なおなおさんのコメントに感激しました。
      雪の日ってワクワクしますよね。
      「なぜか優しい気持ちになる」というのも、よくわかります。
      ふわりふわりと、小さな白い綿みたいなものが降ってくるって、よくよく考えると、絵本やファンタジーの中みたいですよね。

      スキー場では〜って、そういえばそうですね!
      発見です。

      おお、なおなおさんも息子さんも素晴らしい!
      俳句は短歌よりも公募が多いらしいです。
      学生さんに特化したものもあるので、息子さん、一度応募してみてはいかがでしょうか。

      夏井先生、手つき鮮やかに俳句を手直しするさまに惚れ惚れします。
      歯に衣着せぬ物言いもスカッとしますよね。

      最近の歌集はデザインが凝っているものが増えてきて、手に取ってみたくなるものが多いです。

      2023/10/19
    • なおなおさん
      5552さん、お返事をありがとうございます。
      レビューは素敵です。お伝えしたいなと思いつつ、短歌や詩が分からず、また著名なユーザーさんたちが...
      5552さん、お返事をありがとうございます。
      レビューは素敵です。お伝えしたいなと思いつつ、短歌や詩が分からず、また著名なユーザーさんたちがコメントされている中にとても入れません^^;
      この機会にこちらでコメントをさせていただきました(,,ᴗ ᴗ,,)ペコリ
      雪が、「ふわりふわりと、小さな白い綿みたいなもの」(←これまた素敵)で良かったと思います。
      たまに思うのですよね…自然界ってうまくできているなと。例えば色。海が青で、空が水色で、木が緑で良かったと。雪もそうですね。
      雪がファンタジーの中みたい、というのも面白いです。何でもイメージするものに置き換えると毎日が楽しくなりそう!
      ありがとうございました。
      2023/10/20
    • 5552さん
      なおなおさん、返事のお返事ありがとうございます。
      確かに、出来上がってるグループに入るのは、ネットでもリアルでも緊張しますね。
      私も、コメン...
      なおなおさん、返事のお返事ありがとうございます。
      確かに、出来上がってるグループに入るのは、ネットでもリアルでも緊張しますね。
      私も、コメントしよーかな、、、と、思ったけれど、迷った末やめたことが何度か、、、。
      改めてお礼を。ありがとうございます。

      でも、安心してください。私も短歌や詩のことなど何もわかっておりません。
      私はこう感じたんじゃーオラオラオラ!みたいな勢いだけでレビューを書いています。

      なおなおさんのその感覚、感性、素敵です。
      自然ってうつくしいですよね。うつくしいだけじゃなく、精緻ですよね。
      たまにその壮大さに呆然とします。
      2023/10/21
  • 歌人小島ゆかりの第十五歌集。歌風は、明るくユーモラスで日常の何気ない情景を詠んでいる歌が多い。著者の感性の豊かさを感じるような、はっとさせられる短歌が多く読んでいてとても楽しい。

    短歌は文語で詠まれているが、使っている言葉自体は難しい言葉をほとんど使っていないので文語を読みなれてなくても分かりやすいと思う。いくつか紹介したい。


    ブランコは乗るより降りるむづかしくおッとッと さくらももこさん逝く

    両足のふくらはぎ攣(つ)る一、二分孤島のごとし春のあけぼの

    中日歌壇N氏かつての上司なり慎みてその歌をボツにす

    ああ五月、未来長者の若者にまじりてさわぐ過去長者われ

    感情はけものなるゆゑ夏くれば青葉の闇に毛づくろひする

    明日また旅ゆくわれに若猫は気づかぬを古猫は気づきぬ

    母がもう忘れたるわが誕生日 未生以前の秋のかぜふく

    • 張飛さん
      5552、コメントありがとう!とても嬉しいぜ!

      5552、さすがだな!!その通り!切手のお題で出した短歌を推敲したんだ!アイデア自体は気に...
      5552、コメントありがとう!とても嬉しいぜ!

      5552、さすがだな!!その通り!切手のお題で出した短歌を推敲したんだ!アイデア自体は気に入っていたからあきらめきれなかったんだ。たしか、この短歌を作った時は、大西民子という歌人の短歌を『ぼくの短歌ノート』という穂村弘の本や『短歌タイムカプセル』で読んでいて何気ない日常をドラマ化させるという彼女の短歌の良さを自分の短歌にも取り入れたいと思っていたんだ。以前、短歌くださいに掲載された5552の短歌も大西民子のようにドラマ化の凄みを感じるような短歌でかっこよかったぜ!
      2023/07/22
    • ☆ベルガモット☆さん
      張飛さん、皆さん、こんばんは!
      うたらば掲載、おめでとうございます!
      これから封筒に切手を貼ることが楽しくなってきます♪旅だなんて。ホン...
      張飛さん、皆さん、こんばんは!
      うたらば掲載、おめでとうございます!
      これから封筒に切手を貼ることが楽しくなってきます♪旅だなんて。ホントどこにでもいけますものね。あきらめずに推敲することの大事さを教わりました。若山牧水短歌大会も投稿されるんですね。そのモチベーション凄いです。

      まことさん、「大伴家持賞」応募なさったんですね!ペンネームを持つことで切り替わるのはアイディアいっぱい出てきそうですね。
      Twitterまたチェックします♪いつも耳寄りな情報提供ありがとうございます。

      5552さん、鋭い!なるほど、切手がお題のときもありましたね。
      張飛さんの「何気ない日常をドラマ化」という言葉のように、5552さんの歌は、見逃していた風景に新しい物語がうまれる素敵な歌だと思います。
      今回のお題『正義』は難しくて1首しかできてません。
      2023/07/22
    • 張飛さん
      ベルガモット、コメントありがとう!

      一度落選した短歌は推敲せずに捨てることのほうが多いんだが、この短歌は自分でも好きな短歌だから、あきらめ...
      ベルガモット、コメントありがとう!

      一度落選した短歌は推敲せずに捨てることのほうが多いんだが、この短歌は自分でも好きな短歌だから、あきらめきれなかったんだ。

      モチベーションを維持できているのは、ブクログであたたかなコメントをくれるみんなのおかげだから心から感謝してるぜ!

      あと、NHK短歌は相変わらず8月号も不掲載だったがこちらも掲載される日を夢見て引き続き頑張りたいと思う!
      2023/07/22
  • めずらしく短歌の新刊が図書館に入ったので早速予約して読みはじめる。
    旧仮名表示で馴染めない短歌。プロフィールをみるとわたしとほぼ同世代。
    この本は15冊目の歌集。そうか小島なおさんと勘違いしてましたが、なおさんのお母さん。気の若い私は娘さんの方が波長があうみたいですが・・・。

    気になった歌は
    よこたはる母にみえねど病室の窓にやさしい夕月のぼる
    七草を言へぬ娘が作りたるとはいへうまし七草の粥
    ゆきは冷た、ゆきは温か いつのまにこんなに着ぶくれをしてわたし
    外側のいちまいは風のかたちなり手を差し込んでキャベツをはがす
    あやまりたいことがあるから一度だけ会ひたい人があります、いまも
    スケボーの少女うつくし半袖を肩へめくれるしろいTシャツ
    言うことと言ひたいことがこんなにもちがってしまって また夏が来る
    かつて子が言ひし「自分でできるから」いまは老いたる母が言ふなり
    あぢさゐのざわざわゆれて午後四時のバスより先に通り雨くる
    台風の迫るまひるを深鍋に白雲のごとく湧きたつうどん
    落葉また落葉 忘れた日が今日に続いて 落葉またちる落葉
    林檎箱あければひそひそ話やみ一個一個の息かすかなり

    やはり、詠みやすい歌ばかり選んだようです。

  • 小島ゆかりさんは、日常の中に、見えないものをみて聞こえないものをきく。「遠く近く雨中になにかこゑ聞こえ あるいは雨になりし人々」「地下鉄のあをきシートにみどりごは預言者のごとく立ち上がりたり」「梅雨ふかし地下ホームから地上へとボンベのやうな人体はこぶ」「歩くさへ全力の母すぐそこのはるけき夏の郵便局へ」「日ざかりをゆらゆら母とわれゆけりたつた二人のキャラバンに似て」「天道虫ぷつととまれば夏の夜の窓にちひさき水輪ひろがる」「ふくよかな熱き空気が脚に触れ盲導犬とすれちがひたる」「おほぞらを雲のまにまにスフィンクスゆけり前方後円墳ゆけり」「朝顔の観察日記 にんげんはなにかを数へつづけて老いぬ」「この坂を自転車でゆきし日々はるか雲の峰まで今日バスで行く」「冷えわたる夜の澄みわたるかなたよりもうすぐ天の雪麻呂が来る」「雪麻呂を待ちつつこよひあかあかとわれは椿の媼となりぬ」

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著者プロフィール

1956年、愛知県名古屋市生まれ。1978年、大学在学中に「コスモス」入会。現在、「コスモス」短歌会選者・編集委員。「NHK短歌」選者。産経新聞、中日新聞、熊本日日新聞、南日本新聞歌壇選者。毎日新聞書評委員。青山学院女子短期大学講師など。歌集に『水陽炎』『月光公園』『ヘブライ暦』(第7回河野愛子賞受賞)『希望』(第5回若山牧水賞受賞)『獅子座流星群』『エトピリカ』『憂春』(第40回迢空賞受賞)『純白光 短歌日記2012』(第6回小野市詩歌文学賞、第7回日本一行詩大賞受賞)『泥と青葉』ほか。

「2015年 『和歌で楽しむ源氏物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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