吉井勇の旅鞄ー昭和初年の歌行脚ノート

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  • 短歌研究社
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  • Amazon.co.jp ・本 (425ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784862726339

作品紹介・あらすじ

「いのち短し恋せよ乙女(ゴンドラの唄)」で一世を風靡した若き伯爵歌人・吉井勇。
その中年期は社交界を巻き込んだ一大スキャンダル「不良華族事件」からはじまる激動があった。はじめて明かされる長い漂白と隠遁の日々。晩年の円熟した境地に至るまでを丹念に追う。

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  • 生死【いきしに】のさかひにありて酌む酒のこの冷たさは知るひとぞ知る
     吉井勇

    「ゴンドラの唄」の作詞者として知られ、京都祇園に〈かにかくに祇園はこひし寝【ぬ】るときも枕の下を水のながるる〉の歌碑が立つ、伯爵歌人吉井勇。若き日のイメージは酒色にふける遊蕩文士だったが、40代半ば以降は、漂泊のうた人に変わったそうだ。

     これまで注目されなかった吉井勇の土佐(高知県)時代にスポットを当てた研究書は、タイトルに「旅鞄【たびかばん】」とある。さて、壮年期のかれが、小さなかばん一つであちこちを旅する生活を送るようになったきっかけは―。

     1921年(大正10年)、10歳以上年下の妻を迎え、男児にも恵まれた。けれども2人は性格が合わず、勇は家を離れ、知人たちのもてなしを受けながら歌作にふけった。

     遍路のように四国路を旅する勇。一方、妻はダンスホールに通いだし、ついには新聞ネタになるスキャンダルに発展。失意の勇は、「西行たらんか、我鬼【がき】たらんか」(西行のように世を捨てるか、芥川龍之介のように死を選ぶか)と思い悩み、34年に高知県での隠棲を決意。「渓鬼荘」と名付けた小さなかやぶき屋根の家で暮らした。

     数年後、日中戦争を機に京都に移住したが、高知での生活は、生き恥をさらしつつも「生きる」決意に満ち、掲出歌のようなすごみをもたらしたのだった。

    「歌行脚【あんぎゃ】」の壮年期を経て、1960年死去。享年74。
    (2022年9月18日掲載)

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