頼朝の武士団 ~将軍・御家人たちと本拠地・鎌倉 (歴史新書y)

著者 :
  • 洋泉社
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (219ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784862489500

作品紹介・あらすじ

草創期の幕府をまとめあげていたのは、頼朝という個性だった。頼朝と御家人たちとの人間関係の中心には「情」があり、器量ある将軍の下に結集した武士たちは、幕府の未来を素直に信じていた。既存の頼朝像に変更を迫る試み。

感想・レビュー・書評

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  • オレたちの鎌倉殿である源頼朝と愉快な御家人たちの物語。頼朝が伊豆で挙兵した1180年から頼朝が死去した1199年までを取り扱っている。吾妻鏡など当時の史料が、かつての東映ヤクザ映画のような口調で訳されており、読んでいる間、「仁義なき戦い」のOP曲が常に頭の中で流れていて少し困った。揉め事があれば友達や家臣をすぐに殺そうとするヤクザより酷い御家人たち(仲が良いのに、代が代わっても合戦未遂をやらかす小山氏と三浦氏など)と、情は厚いが敵対すると容赦ない、鎌倉組の「大親分」頼朝との交流が描かれているのが大きな特徴である。

    本書は軽い口調で書かれているが、内容は至って真面目だ。頼朝と御家人たちの「物騒と緩さ」、「残虐とほのぼの」なやり取りとの間に当時の武士の生態もきちんと書かれている。石井進『鎌倉幕府』では、頼朝のカリスマ性は河内源氏の「貴種性」によることが強調されていたが、

    ① 頼朝の家系が「清和源氏の中の河内源氏の中の一系統」に過ぎず、頼朝以前に「源氏の嫡流」などは存在しなかった。
    ②河内源氏は源義家以来、南坂東の強い影響力を持っていたが、それも平治の乱で河内源氏が壊滅しており、頼朝挙兵まで20年間断絶している。

    以上から、頼朝は「貴種性」に頼らずに御家人たちとの絆(主従関係)を初めから新たに構築したという指摘は目から鱗だった。頼朝、本宮ひろ志が描く漫画の主人公のようである。実際、御家人たちに大変好かれたのだからあながち間違いではないか。

    amazonで古書価格が高騰しているが、今は無き洋泉社の替わりにどこか他の出版社が再販して欲しいところ。鎌倉幕府初期の時代の雰囲気を知るのにおすすめである。

  • 鎌倉幕府の成立は治承四年(一一八〇年)十二月十二日に頼朝が鎌倉の大倉御所に入り、鎌倉殿と呼ばれるようになった時からとの説もある。朝廷から何かを認められたことが重要ではなく、東国武士団が朝廷とは無関係に頼朝を自分達の主と認めたことが重要とする立場である。一方で全国的な制度としての鎌倉幕府は守護・地頭の設置が重要になるだろう。

  • エピローグに書かれた著者の目指す本の在り方を感じる事ができたと思う。
    武士団の親分である頼朝の情を確認できるエピローグ群がおもしろかった。

  • 大河ドラマ見てると武士が来たというだけで恐慌に陥る京の貴族たちの姿が良く描かれるが、ちょっと大袈裟なんじゃないのっていつも思っていた。現代の私たちから見ると武士は礼節を重んじる印象があるし、貴族の慌てふためく様は宇宙人が攻めてきたかのようで、貴族たちの方がおかしな奴らに思えた。そんなに武士ってヤバいのかということが気になっていた昨今、先日読んだ「ハードボイルド読書合戦」の「ギケイキ」の章で、初期の武士はヤクザみたいなモノだっていう話をしていて、その中で言及されていたこの本。超訳「吾妻鏡」と言いましょうか、源頼朝とその郎党たちが、田舎で一旗上げたヤクザたちの会話みたいに現代語訳される。時代劇でござるとか言ってる武士に馴染みのある耳には、ギョッとするヤンキーぶりの言葉遣いだが、単なる妄想ではなく、歴史の先生だもの、ちゃんと文献にあたって、我々にその面白さを提示してくれている。確かに政所で喧嘩したり殺したり、ヤクザの事務所感ある。自分家にヤクザどもがドヤドヤ押しかけてきたら…確かに怖い。恐慌をきたす。貴族たちのビビりっぷりが理解できた。
    源頼朝の人気ぶりがいい。家臣たちの心を掴むのに長けていて、部下たちも「親分のために」という熱い心で熱狂的についていく。京に行かずに(本人はその指向があったようだけど)、鎌倉を拠点にすると決めたのが最大のポイント。いけすかない威張るだけの貴族と比べ、本当に俺たちの気持ちをわかってくれるぜ源頼朝の兄貴は、と。やっぱ最初は情なんですよ。
    本文中、著者の学歴に触れてるのがちょっとイタい。確かにカバーを読んで私もそう思ってしまいました。こういうアカデミズムの世界は微妙な学歴より在野の方が得だったりするかも。

  • 吾妻鏡をより一般的・世俗的な現代語に訳して、頼朝と御家人たちの関係性や人間性を描く。吾妻鏡に記述された各人の発言や行動からキャラクターがかなり浮かび上がってきておもろかった。これはなかなか名著だと思う。

  • 辺境の怪書、歴史の驚書つながり。べらんめえ調の、ならず者たちの親分みたいな口調の頼朝に語らせる、鎌倉幕府成立から初期まで。みんな頼朝のことが好きだからなりたっていたような集団。ちょっとでも舐められたと思ったら激高して、人の命をやりとりだなんてしょっちゅうの世にあって、綿密な計画ではなく、勢いと幸運で、鎌倉入りできてしまったのでは、ということ。意外と裕福だった島流し時代。乳母や乳母の親戚など、見返りを求めずに仕送りしてくれた人々。貴種としてありがたがられはするが、娘の相手にはちょっと…と地元の有力者には思われていた頼朝。安徳天皇の改元を拒否していたことから、自らが反乱軍であるという認識は持っていた頼朝。それまでは自分の領地近くの人々としか交流がなかったのが、幕府が、ひいては頼朝邸がたまりばとなって、以前なら交流がうまれるはずもなかった、領地の離れた武士たちの交流がうまれ。「残虐とほのぼの」「物騒とゆるさ」の共存がみてとれる、と。/「頼朝は自身を「武家の棟梁である唯一絶対の清和源氏の嫡流」として位置付け、その権威を確率することによって、鎌倉幕府を統制しようとしていたのである。それが鎌倉幕府を守ることだと考えていた」だからそこからはずれれば、親族だろうと有力御家人だろうと容赦なく斬った、と。/「結局、軍事的・政治的・経済的な利害関係とは無関係に、政子をはじめとする北条一族は頼朝にとって大切なものであったのではないか。スッタモンダがあったとはいえ、ただの流人だった自分を家族として迎え入れてくれた北条氏は、頼朝にとって掛け替えのないものであったのだろう」/また弱小御家人が、自らの力量と奉公のみで頼朝に認められたシーンを、弱小大学、三流研究者とののしられてきた…と作者自身の来し方行く末を思うところもまた。

  • 中高生向けの本。暇つぶしにはなったけど、大人の読む本では無いですな。

  • 他の方々も書かれていますが、斬新な現代語訳や
    例えで、これから鎌倉幕府や頼朝について勉強して
    みようという方にも、非常にとっつきやすい本かと。

    ただし電車の中で読むのはおすすめしませんw

  • 鎌倉幕府を開いた源頼朝と、その周囲の御家人(武士団)とはいったいどんな人間たちだったのかを資料から解き明かす・・というと固い感じだけど、著者がノリノリで現代風な言葉で意訳をするなどしてわかりやすい表現を心がけているせいか、ものすごく読みやすい本になっている。
    新書なのにこの軽さ・・というところで拒否反応を示す人もいるようだけど、個人的にはハードカバーであろうが文庫本であろうが、大切なのは中身だと思っているので特には気にならなかった。

    ただ、この本のターゲットとしてはどういう人を想定しているのか・・ということに関してはやや疑問で、さすがに義経や頼朝はしっていても、鎌倉幕府の御家人の名前は知らない人が多いような気がするので、そのあたりは他のところで知識を手に入れたほうがいいと思う。この作者が好きな人ならば、「やる夫は鎌倉幕府の成立を見るようです」から始まる大長編を読むと面白いと思う。

  • 大河ドラマ『平清盛』は不発だったが、司馬遼太郎も指摘しているように、平清盛と源頼朝こそが日本史上で傑出した政治家だ。しかし、頼朝がなぜそこまで評価される人物なのか、あまり知られていないのではないだろうか。軍事的天才だった義経を執拗に追い詰めて自殺に追い込んだことに象徴されるように、冷徹な独裁者という印象だが(トロツキーをメキシコまで追捕したスターリンに似ている)、じつは激しやすい性格の色男だったんだよというのが本書。頼朝は毛沢東がそうしたように、建国の立役者だった有力な坂東武者たちを粛清して、権力を確立していく。その一方で、直属の部下には細かい心配りのできる絵に描いたような為政者だった。著者はおよそ歴史書には似つかわしくない「汚い言葉」で頼朝や坂東武者たちの息吹を伝えようとしており、とても楽しく読めた。参考文献も豊富であり、源平合戦の歴史を勉強するガイドブックとしても利用できそう。さすがに『玉葉』、『吾妻鏡』、『平家物語』からはじめるのは難しいもんな・・・。

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著者プロフィール

1962年東京都生まれ。立正大学大学院文学研究科史学専攻博士後期課程満期退学。博士(文学)。現在、中世内乱研究会総裁。著書に、『鎌倉政権得宗専制論』(吉川弘文館)、『鎌倉幕府の滅亡』(吉川弘文館)、『執権 北条氏と鎌倉幕府』(講談社学術文庫)、『頼朝の武士団 鎌倉殿・御家人たちと本拠地「鎌倉」』(朝日新書)など。

「2022年 『論考 日本中世史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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