科学の人種主義とたたかう: 人種概念の起源から最新のゲノム科学まで

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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861828102

作品紹介・あらすじ

「白人は非白人より優れている」
「ユダヤ人は賢い」
「黒人は高血圧になりやすい」
――人種科学の〈嘘〉を暴く!

各紙でBook of the Year
フィナンシャル・タイムズ/ガーディアン/サンデイ・タイムズ ほか多数

「人種の差異〔……〕について、現代の科学的な証拠は実際には何を語れるのか、そして私たちの違いは何を意味するのだろうか?  私は遺伝学や医学の文献を読み、科学的見解の歴史を調べ、こうした分野の一流の研究者たちにインタビュー をした。そこから明らかになったのは、生物学ではこの問題に答えがでない、少なくとも完全にはでないということだった。人種の意味について理解する鍵は、むしろ権力について理解することにある。」(本書「序章」より)

感想・レビュー・書評

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  • 人種テーマ読書5冊目。
    今回は人種主義がいかにして科学を用いてきたか、それが先の大戦をへて一旦は忌避されつつも、自覚的(ナショナリスト/ビジネス優先)あるいは無自覚的(ゲノミクス研究)に結果として人種主義を支えてしまっている「科学」あるいは「科学者」と呼ばれる人々に焦点を当てている。

    翻訳本ということで言い回しが独特で、主語が誰なのか分かりにくく、名前がいっぱい登場する(しかもカタカナなので判別つきにくい)という「読みにくさ」を差し引いても、それ以上に手に取る価値のある本だった。
    自分は遅読だから読みながら考えてメモしたりするので、15-20時間はかかったけど、本当に学ぶことは多かった。

    何よりすごいのがこれだけの時間軸(人類誕生前からトランプまで)の範囲で世界中の事例を拾い上げながら、しかも話の展開を自分語りではなくその道のプロフェッショナル(やばい系の人も含めてすんごい量)のオピニオンを中心に組み立てている、ということ。
    余程自分の中で信念と話の構成ができていないと空中分解してしまうが、「10歳からこの本を出したかった」というだけあって、どの章も説得力がすごい。


    どれほど実験と調査を繰り返しても「人種」の存在を裏付ける客観的な証拠はなく、人種は自然科学ではなく人文科学・社会科学の領域であり、如何に人種が科学の皮を被りながらその実、非科学的な背景しか持っていないか、政治的に使われてきたかに多くの紙面が割かれており、その詳細な説明や具体例は本書を読むに尽きる(特にネアンデルタール人と現代人の遺伝特質の近さが明らかになった途端にネアンデルタール人の評価が急に持ち上げられた、というのには笑った)。

    また、読後に本書は以前読んだ「白人ナショナリズム」に通ずるものを感じた。
    現代のアメリカを中心として世界に広がる特定の人種に特化した自己優位性を主張する上で、本書にあった「科学的な主張」こそが、彼らの論拠を支える上で大きな役割を果たしている。

    他者より自己が優れていることの証明として、それを人種に求めた。まさに「SUPERIOR」というタイトル通りであり、姉妹本の女性差別を「INFERIOR」と名付け、対の構造にしたのはお見事(両者は対になっているようで実は同じ構造なんだけど)。


    最後に、著者が繰り返し投げかける「反人種主義者が人種を扱うことは問題ないのか?」というフレーズに考えさせられる。
    人種とは何なのか?人種主義者とは誰なのか?
    語りは語りとして、空想は空想として、共同体の神話性=非現実をあたかも実在させるような印象を持たせたのが科学とナショナリズムの負の組み合わせであり、人種主義者が度々使用する手段でもある。

    一方で、人種が、その表現自体が人々に分断をもたらすことから、人種という表現は撤廃されるべきなのだろうか?見えなくすべき?でも現実問題として、特にアメリカに起きてるような黒人の制度的差別を考えた際に、アファーマティブアクションなどは人種という概念をあえて持ち込まなければ実施できない。

    次なる興味として、「啓蒙主義の変遷」「差別用語の取り扱い」について学びたい。

  • 人種について科学的に語る本ではない。人種や人間の遺伝的バリエーションについて研究した科学者について政治的に語る本。
    異なる人間集団の間の遺伝的なバリエーションは、あまり大きくなく、一つの人間集団の中でのバリエーションのほうが大きい。
    体型や体力に遺伝の要素と育った環境の要素の両方が影響しているのと同じく、知能にも遺伝の要素と育った環境の要素の両方が影響している。双子の研究からのその事がわかる。
    しかし、IQテストの数字が、多くの国において、この数十年間大きく向上していることからわかるように、社会環境、教育環境の差の影響が遥かに大きい場合が多い。
    双子の研究の対象となる子どもは、多くの場合、両方ともあるレベル以上の社会階級で育てられていることが多く、また、双子の生育環境は違うと言っても、皮膚の色やいわゆる人種の違いによって生じる生育環境の差は存在しないので、例えば黒人と白人の生育環境の差の影響の大きさが見えない。

  • ●人種そのものは、かなり新しい考えだ。この言葉が使用され始めたのは、16世紀と新しく、しかも私たちが現在使っている用法とは異なる。当時は家族、部族、もしくは小国の国民のような共通の祖先を持つ人の集合体を指していた。
    ●人種が改良され得るのだと考え、科学者は自らの人種を改良する方法を探した。
    ● 20世紀の最初の数十年間には世界各地で、19世紀の人種に関する考えと優生学が結びつき始めた。日本でも明治時代の思想家で政治家でもあった加藤弘之がダーウィン学説を利用して、国家間には生存をめぐる争いがあると主張した。中国でも王兆銘が、単一の人種である国家の方が強いと主張した。インドでも。
    ●戦後、知的人種主義者は新しいネットワークを築きあげた。マンガインド・クォータリー。
    ●人間の生物多様性。
    ●本当の人類の物語は何万年もの間1つの場所に目を下ろした純粋な人種の話ではなく、中央に移住を重ね、常に混血を送り返した物語となるようだ。私たちのルーツは秩序だった家系樹ではなく、むしろ格子に這わせた植物のように絡まり合っているのだ。
    ● 1部の人種は他の人種よりも本当に賢いのか?
    ●十分なデータがあれば、十分な数の人間モルモットがいれば、十分な科学があれば、人種…強者が弱者を支配するために発明したこの想像上の恣意的なカテゴリー…はどうにかして本物になるんだと、研究者は信じているようだった。
    ●人種別の新型コロナウィルス感染者数の統計結果が報道されている。幸い、その理由を遺伝子に求めるのではなく、むしろ貧困と結びつけ、医療格差や住宅環境の悪さ、低所得故の不健康な食習慣とその結果などの理由が挙げられていた。

  • ふむ

  • 請求記号 469.6/Sa 22

  • アンジェラ・サイニー
    東郷えりか訳
    本体 2,700円
    ISBN 978-4-86182-810-2
    発行 2020.5

    【内容】
    「白人は非白人より優れている」「ユダヤ人は賢い」「黒人は高血圧になりやすい」――人種科学の〈嘘〉を暴く!
    各紙でBook of the Yearフィナンシャル・タイムズ/ガーディアン/サンデイ・タイムズほか多数。

    「人種の差異〔……〕について、現代の科学的な証拠は実際には何を語れるのか、そして私たちの違いは何を意味するのだろうか?  私は遺伝学や医学の文献を読み、科学的見解の歴史を調べ、こうした分野の一流の研究者たちにインタビュー をした。そこから明らかになったのは、生物学ではこの問題に答えがでない、少なくとも完全にはでないということだった。人種の意味について理解する鍵は、むしろ権力について理解することにある。」(本書「序章」より)


    【著訳者略歴】
    アンジェラ・サイニー(Angela Saini)
    イギリスの科学ジャーナリスト。オックスフォード大学で工学の修士号、およびキングス・カレッジ・ロンドンで科学と安全保障の修士号を取得。『ニュー・サイエンティスト』『ガーディアン』『タイムズ』『サイエンス』『セル』『ワイアード』『ウォールペーパー』『ヴォーグ』『GQ』 などの有名メディアに寄稿。また、BBCラジオで科学番組にも出演するなど多方面で活躍している。著書に『Geek Nation: How Indian Science is Taking Over the World』など。

    東郷えりか(とうごう・えりか)
    翻訳家。上智大学外国語学部フランス語学科卒業。訳書に、シアン・バイロック『なぜ本番でしくじるのか――プレッシャーに強い人と弱い人』、シンシア・バーネット『雨の自然誌』、ルイス・ダートネル『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』(以上、河出書房新社)、デイヴィッド・W・アンソニー『馬・車輪・言語――文明はどこで誕生したのか』(筑摩書房)、アマルティア・セン『アイデンティティと暴力――運命は幻想である』(大門毅監訳、勁草書房)など多数。
    http://www.sakuhinsha.com/nonfiction/28102.html

    【簡易目次】
    太古の昔―私たちはヒトという一つの生物種なのか、違うのか?
    イッツ・ア・スモール・ワールド―科学者はどうやって人種の物語に入り込んだのか?
    科学的偽善売教―人種は改良されうるのだと考え、科学者はみずからの人種を改良する方法を探した
    仲間内で―戦後、知的人種主義者は新しいネットワークを築きあげた
    人種現実主義者―人種主義を再び社会的に認めさせる
    人間の生物多様性―二一世紀に人種はどのようにブランド再生されたか
    ルーツ―新しい科学研究に照らし合わせると、人種はいま何を意味するのか
    起源の物語―科学的事実がつねに重要にならないのはなぜか
    カースト―一部の人種はほかの人種よりも賢いのか?
    黒人用医薬―人種別化した薬がなぜ効かないか
    奇術師―生物学的決定論のウサギ穴に落ちて

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著者プロフィール

アンジェラ・サイニー(Angela Saini)
イギリスの科学ジャーナリスト。オックスフォード大学で工学の修士号、およびキングス・カレッジ・ロンドンで科学と安全保障の修士号を取得。『ニュー・サイエンティスト』『ガーディアン』『タイムズ』『サイエンス』『セル』『ワイアード』『ウォールペーパー』『ヴォーグ』『GQ』 などの有名メディアに寄稿。また、BBCラジオで科学番組にも出演するなど多方面で活躍している。著書に『Geek Nation: How Indian Science is Taking Over the World』など。本書の原書である『Inferior: How Science Got Women Wrong-and the New Research That's Rewriting the Story』は高い評価を得ており、英国物理学会『Physics World』誌で2017年のブック・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。

「2019年 『科学の女性差別とたたかう』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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