歌え、葬られぬ者たちよ、歌え

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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861828034

作品紹介・あらすじ

全米図書賞受賞作!
アメリカ南部で困難を生き抜く家族の絆の物語であり、臓腑に響く力強いロードノヴェルでありながら、生者ならぬものが跳梁するマジックリアリズム的手法がちりばめられた、壮大で美しく澄みわたる叙事詩。現代アメリカ文学を代表する、傑作長篇小説。

「胸が締めつけられる。ジェスミン・ウォードの最新作は、いまなお葬り去ることのできないアメリカの悪夢の心臓部を深くえぐる」――マーガレット・アトウッド

「トニ・モリスンの『ビラヴド』を想起させる痛烈でタイムリーな小説。しかもこの作品自体がすでにアメリカ文学のクラシックの域に達している」――「ニューヨーク・タイムズ」書評家が選ぶトップ・ブックス2017

「まさしくフォークナーの領域だ。ウォードの最新作は現実世界の複雑な状況を背負った人びとにより肉づけされ、ぞっとするほど魅力的に仕上がっている」――「タイムズ」

感想・レビュー・書評

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  • アメリカの患部と暗部に鋭く深くメスを入れる全米図書賞受賞作 | レビュー | Book Bang -ブックバン-
    https://www.bookbang.jp/review/article/623481

    【書評】『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え』 21世紀米文学の可能性 - 産経ニュース
    https://www.sankei.com/article/20200517-UHVZDXJKL5NW5CSA5QAW5D2VR4/?outputType=amp

    作品社|歌え、葬られぬ者たちよ、歌え
    https://sakuhinsha.com/oversea/28034.html

  • ミシシッピ州架空の街ボア・ソバージュ。
    語り手は、黒人の母と白人の父を持つ十三歳のジョジョ、ジョジョの母親レオニ、そして、葬られぬ者。


    ジョジョの祖父、リヴァーが抱えていた苦しみ、哀しみが胸に迫る。ジョジョの祖母、フィロメーヌが逝ってしまう場面は家族一人一人の思いを考えるとどうしようもなく苦しかった。

    「葬られぬ者たち、とは無残な死に方をしたゴーストだけを指すわけではない。そこには生者も含まれている」

  • 人種差別と階級格差、貧困・ドラッグ・暴力が蔓延するアメリカ社会を背景に、南部ミシシッピ州で苦渋の生活をおくる家族の心情と失った親族への鎮魂の想いが語られていきます。記憶のなかで生きる亡き人の生霊(ゴ-スト)との対話、もって生まれた業(カルマ)との葛藤のなかで悶々として生きる登場人物の姿は、著者の体験した不幸な出来事と重ね合せた現代アメリカの病巣を抉り出す物語として描かれています。読み終えてから、じわじわと心に沁み込んでくる文学作品です。

  • マジックリアリズムで綴る、Black Lives Matterの文脈だけではない、差別、貧困、格差、ドラッグ、DVの現代アメリカ南部。

    フォークナーと評されているようだけども、最後のあたりは、スタインベックっぽさもを感じて鳥肌。

    あとがきを読むと、著者が意図する“葬られぬ者たち”は死んでしまった人たちだけではないらしい。

    さあ、虐げられし者たちよ、高らかに歌え。

  • アトウッド絶賛、全米図書賞、何よりタイトルが魅力的なので、読みたくなった。帯に「『ビラヴド』を想起させる」とあるので、あと表紙の木の雰囲気(ストレンジフルーツ的な禍々しさ)から、黒人奴隷あるいは黒人差別が出てくる話だなとは予想していた。
    その予想は外れていないが、描かれるのは単純な黒人差別を告発するようなものではない。1940年代から現代までの南部(ミシシッピ州)を舞台にした、低所得者層(社会の下層階級)のサーガ。というと大げさに聞こえそうだが、個人的な問題を掘り下げれば普遍的な問題にたどり着くように、ジョジョという13歳の少年の成長とその一家の物語が、アメリカの現代史のように感じられるのは私だけではないと思う。
    祖父の時代の下層階級は黒人とネイティブアメリカンだったが、娘や孫の時代になると、そこにプアホワイトが加わる。祖父の時代にはあからさまな差別があったが、現代でもそこここにある。例えば、ジョジョの母レオニは白人の友達とドラッグを運んでも、警察に先に捕まるのは自分だとはっきりわかっている。白人の友達は、レオニと対等な関係だと思っているが、公式の場に立たされたとき自分が白人であるがゆえにレオニより有利であることは全く自覚していない。
    ドラッグに溺れる貧困層の若者の姿を読むと、ドラッグは身体に悪いから、裏社会の資金源になるから、なんて言葉では引き返せそうにないなと感じる。(アクセスしやすいのはアメリカの社会問題)そもそも希望がない。だから一時的な快楽にのめり込む。
    17歳で身ごもって、定職もなく、パートナーは刑務所、兄は白人に殺されたレオニが大人になりきれず、息子から拒否されてますます心荒むのも分かるし、母を信頼できないジョジョの気持ちもわかる。白人に殺されたのに事故扱いされた兄の死が家族に与えた影響も重い。
    この家族の物語だけで終えても十分読み応えがあり、いい小説だったと思う。しかしリッチーという、現代に生きる若者たちとは直接関わっていない少年を存在させることで、そして彼が一番若い世代と特別な形で交流することで、単なる黒人一家の物語ではなく、広く普遍的な物語となった。そして重苦しい中にもひとすじの光を与えた。ラストは歌が響きわたる。
    附録解説に載っていた、ウォードの言葉。
    「葬られぬ者たち、とは無惨な死にかたをしたゴーストだけを指すわけではない。そこには生者も含まれている。」
    ジョジョが父と慕うリヴとのシーンの美しさ、それを見つめる、愛を知らぬまま死んだリッチーの心。
    いくつものシーンが心に残る。
    素晴らしい作品だった。

    売れるかわからないのに素晴らしい本をたくさん出している作品社は偉い。確固たるポリシーを感じる。応援したい。装丁も良い。が、たった一つ文句を言うなら、背表紙のタイトル文字が金色であるため、書店ですごく見つけにくかった。平積みなら表紙は黒に金色が乗っているので目立つが、背表紙は白地に金色だから。せっかくいい本なのに書店で目立たないのはもったいない。

  • 魂を揺さぶる、強さをもった作品。
    差別、貧困、ドラッグ、ネグレクト、愛と暴力、生と死。
    切なすぎる現実。胸が痛い。未熟さゆえ、息子を愛しきれない母レオニ。
    妹を守り堅固に生きる主人公ジョジョ。
    素直にただ愛してると言って、笑顔で穏やかに暮らすことさえ許されないというの?
    社会の不条理。哀しい過去。
    死に近い人間は読むのが辛いと思う。
    穏やかに生きている自分でさえ胸が苦しい。
    情景のうつくしさ、叙情詩的なうつくしさ。
    まるで映画を観ているかのような圧倒的な筆力に体力を消耗しながら読む作品でした。

  • 読解力や背景知識が足りないので、小冊子として添付されている青木耕平氏のすばらしい解説と合わせて読んで、よかった。解説→本書→解説→本書の最後の部分再読、みたいな形。

    重たい、重たい話だけれど、それが現実にもとづいていて、しかも奴隷制が敷かれていた時代のことではなく、現代なのだということが何より心にずっしりとのしかかってくる。終盤、ジョジョが「父さん」と呼ぶリヴァーの告白は、冒頭のヤギの屠殺場面にもつながっていて、暴力的だけれどほかにどうしようもなく、深い慟哭が聞こえてきそうなやるせない語りだった。

    ケイラの歌うラストシーンは、なんともいえない悲しみとなぐさめに満ちている。

    トニー・モリスンの『ビラヴド』は、冒頭しか読んでいなくて放りっぱなしなんだけど、それでもすぐに受けつがれているものを感じた。そうやって人から人へ、手から手へと受け渡されていくことが、黒人文学の伝統だし、力になるんだろうなと思う。もっと読まないとな。

  • 静かに淡々と流れる歌のように、静かに、しかしはっきりと力強く語られる物語。
    少年ジョジョは黒人の家庭に生まれ、貧困の中、妹ケイラの面倒を見る。
    母レオニは出所する夫マイケルを迎えるために、ジョジョとレオニを車に乗せ刑務所に向かう。
    レオニは明らかに母性に問題がある母親で、息子や娘に愛情を感じながらも、長続きせず、苛立ちが先に立つ。
    少年ジョジョはそんな母親を幾分覚めた目で見ており、祖父母の方に強く愛情を感じている。
    しかしジョジョにはもう一つ親に語れない秘密がある。ジョジョにはなぜか亡くなった者の姿や声を見聞きできるのだ。祖父と同じ刑務所にいたリーチの黒い影がジョジョには見え、リーチがなぜ死んでしまったのか?その事をなぜ祖父は語らないのかが気にかかる。

    アメリカの貧困層に生きる人々(黒人だけでなく、白人も)が、自らの置かれた場所、そして黒人というだけであまりにも理不尽に扱われることから逃れられない絶望感のようなものに窒息しそうになりながらも、生きていくということを選択せざるを得ない、そんな叫びのような、歌。

  • 唸る。

  • タイトルがいいが内容も素晴らしい。圧倒的な語り。傑作。
    暴力、貧困、ドラッグ、差別、残酷な社会で非業の死を遂げ葬られぬ者への鎮魂歌、生き延びようともがく者への讃歌。
    「2010年代最高の小説10冊」に選ばれたそうで、その価値があり、日本での紹介が遅かったくらいだが、翻訳を読めたことに感謝する。

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著者プロフィール

(Jesmyn Ward)ミシガン大学ファインアーツ修士課程修了。マッカーサー天才賞、ステグナー・フェローシップ、ジョン・アンド・レネイ・グリシャム・ライターズ・レシデンシー、ストラウス・リヴィング・プライズ、の各奨学金を獲得。『骨を引き上げろ(Salvage the Bones)』(2011年)と『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え(Sing, Unburied, Sing)』(2017年)の全米図書賞受賞により、同賞を2度にわたり受賞した初の女性作家となる。そのほかの著書に小説『線が血を流すところ(Where the Line Bleeds)』(本書)および自伝『わたしたちが刈り取った男たち(Men We Reaped)』などが、編書にアンソロジー『今度は火だ(The Fire This Time)』がある。『わたしたちが刈り取った男たち(Men We Reaped)』は全米書評家連盟賞の最終候補に選ばれたほか、シカゴ・トリビューン・ハートランド賞および公正な社会のためのメディア賞を受賞。現在はルイジアナ州テュレーン大学創作科にて教鞭を執る。ミシシッピ州在住。

「2022年 『線が血を流すところ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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