ぼそぼそ声のフェミニズム

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  • 作品社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861827518

作品紹介・あらすじ

就活・婚活、非正規雇用、貧困、ハラスメント、#MeToo……
現在の社会が見ないようにしてきた問題を、さらには、それと闘うはずのフェミニズム理論や社会運動からすらこぼれ落ちてきたものを拾い集めて、つぶやき続ける――〈私〉が、そして〈あなた〉が「なかったこと」にされないために。
「弱さ」と共にある、これからのフェミニズムのかたち。

感想・レビュー・書評

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  • フェミニズムの実践書といっていいだろうか。
    発言できないのではなく、発言が意味あるものとして聞き届けられない立場から声を発し、聞き取ることの困難は、想像を絶する。
    そして、著者がとんでもなくこの困難な道を、逃げずに歩もうとしていることを、まず称賛しておきたい。

    言われているように、フェミニズムも、ジェンダー論も、もはや大学で学ぶものになった。
    私の世代でさえ、すでにそうだ。
    そうして、アカデミズムの制度の中に位置づけられたとたん、切れ味鋭く言葉を操れる優等生のためのものになる。
    居場所がなくなっていくような思いをした。

    「女は愚かだ(だから軽んじていい)」という古典的な差別に対して、「女だから愚かという括りはおかしい」という話はわかるが、そもそも「愚かだから軽んじていい」という発想に対してこそ、最も怒るべきなのではないか?(p146)

    愚かさ、弱さを認めることは、大事なことだと思う。
    けれど、この大事なことが貫けていないのが現実だ。
    また、弱さ自慢になってもいけない。
    どうやっていくか、というと、難しいと思わざるを得ないわけだ。

    ただ、こういう立場からのフェミニズムには、きっと攻撃を受けやすいだろうとも想像される。
    自分の弱さを売り物にしているなどとバッシングされそうだ。
    こういう人を応援するにはどうしたらいいのだろう?

  • ハッとすることの多かった本。
    「『愚かさ』『弱さ』を帯びていても最低限の尊重を求めて生きていけるにはどうしたらいいのか」という言葉。世の中うまく立ち回らなければ生き辛いっていうのは、確かにしんどい。ちょっと足踏みしたり、踏み外したりしたら一貫の終わり…じゃない世界が欲しい。

  • これまで読んだフェミ系の本は読後、後悔や絶望が襲ってきて日常が辛くなるものが多かった。でもこの本は読んだ後気持ちが楽になった。

    今、自分が会社のパワハラ闘争に疲れて休職してるせいかどの章も響いた。強くて賢くないと社会で勝利はおさめられないのは分かってても、それについていけない人を貶めたり叩いていいとはどうしても私は思えない。批判の声をあげているうちに自分が病んでしまった。

    >女性たちの真剣さ、真面目さ、誠実さ、世の中の理不尽を何とかしたいという意欲は、こうした組織の中で男たちのエネルギーを維持するために吸い取られていった

    という本文が突き刺さる。批判するたびニヤニヤしていた上司の顔が浮かんで吐き気。

    この本を読んで、強くて賢くて絶えず努力できないといけないと思い込んでる自分に気づけた。弱くても賢くなくても、人並みの生活ができる社会がいいなぁ。
    筆者の本を他も読んでみようと思った。

  • 専門的に勉強したわけでも、たくさん本を読んだわけでもない自分をフェミニストと呼んでもいいものか…と思っていたときに出会った本。著者のスタンスにとても救われた。言葉が易しくとっつきやすい。

  • 2020.10.8
    『ぼそぼそ声のフェミニズム』
    栗田隆子
    作品社
    
    本屋B&Bでのトークイベントがおもしろかったので読んでみました。
    「ぼそぼそ声の」とあるように、声高でなく、つぶやくように語られるフェミニズム。
    
    フェミニズムというと、パワハラ、セクハラがあるので、若い女性や働く女性、子供を育てている女性の問題とつい考えてしまうのだけど、私のように、非正規雇用(っていうとすごく難しい感じがする!)で、結婚してなくて、子供もいない女性にも必要なことなんだとあらためて感じました。
    「フェミニズムはみんなのもの」だからね。
    
    トークイベントでも話題沸騰していた、労働運動の中でも、あるいは中だからこそ、ハラスメントが発生してしまう問題は根深い。
    「差別と戦ってきた女性たちが、なぜ差別する側に立ってしまうのか」
    
    以下、引用。
    
    会社という場所に身体と精神のかなりのところを差し出さなければならないという恐怖もある。風邪を引いても無理矢理会社に行き、転勤を命じられたらさっと動く身体。そのように(会社にとっての)他人の身体を思うように動かす「会社」という権力。「暴力」とは決して意識されず振るわれている力ー。
    
    「キャリア」とみなされない労働に従事していないと、なぜ「生きていけない」社会なのか。
    
    人間が成長して、社会から一人前と見なされるためには、仕事をもち、結婚することが必要です。仕事の内容や結婚形態は変わっても、「仕事をもって結婚して一人前」ということ自体は、有志以来、変わっていません。
    (山田昌弘『「婚活」時代』)
    
    “Personal is political “「個人的なことは政治的なこと」
    
    一見物分かり良く、社会の諸問題に敏感で、フェミニズムさえ「理解」していそうな男性が、いざというときに発露させる支配欲と、それを目撃してしまったときに感じる「気持ち悪さ」について書いた。
    
    頭を上から殴るのも、頭を撫でるのも、拳がグーかパーの違いはあるものの、どちらも頭の上に手があることに変わりはない。
    
    生存運動と労働運動のあるべき結びつき、さらにフェミニズムが絡むとすれば、一人の女で子どもがいてもいなくても、パートナーがいてもいなくても、どんな生き方をしても生き延びられるあり方をこそ考えるべきだし、私は考えたい。
    
    必要に応じて、暗い出来事を書くことは、とても明るいことなのではないかと私は考えている。
    

  • ジェンダー平等だけじゃなくて、生活水準のボトムアップについてもすごく考えた一冊。

    社会問題としては認知度が高くてもその社会問題の中でさらにマイノリティな立場っていうのには目が届きにくいってことだったりも、ああ、やっぱりいろんな情報に目を向けられるようになりたいと思った。

    偏りのあった社会に入り込めていった女性って"優秀"な人だけなんじゃ?っていうのに実際共感できた部分がある
    そもそもの前提に大学進学があったり。

    ジェンダー平等本当に望んでることだけど、なんかたまに、女性への待遇もちゃんとしてるよ!って言うのをゴリ押しというか、、
    不平等を気にしすぎて男性が嫌な思いすることもあるってことを忘れないようにしないと


  • フェミニズムから?この人から?みたme tooの話が印象的だった。立ち止まって考えること。その人にとっての問題とそれを近くで引き受けること。恋愛が運動にも!入ってきてしんどくなると女の側がしんどさを引き受ける羽目になりがちなこと。ひしひしと重たくて、わかるわかると思って。すごい言語化能力。涙が出るほど的確にもやもやしていたものをことばにしてもらった。

  • わかりやすい活動を必ずしもしていなくとも、フェミニストとしてひっそり生きていくことができるのだなとしみじみ。

  • 結婚したくない「反婚」の著者。単身、非正規で、生活保護受給中のフェミニストが本当の「弱くある自由」を探求する。

    自分に起こった出来事、そこで考えたことを「なかったこと」にしないぼそぼそとした「証言」は、あまりに「なかったことにしやすい」隙間に入り込み、読者の思索を助けれくれる。

    あとがきに「つぶやきは一人でできても答えは関係の中にある」とあるとおり、手紙のように書かれた文章に思わず返事を書きたくなり、私にしては珍しく読者カードを送った。

  •  周辺(?)から見たフェミニズム。

     フェミニズムというと声高に真ん中で女性の権利を訴えるイメージかもしれないが、この著者ははっきりできない部分を切り捨てずにそのまま抱えている印象を受けた。
     このスタンスは運動というものを考える上でとても大事なものだと思う。この著者だからこそ、労働運動の中の性差別についても書くことができたのだろう。

     フェミニズムや運動を考える上で重要な一冊。

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著者プロフィール

1973年生まれ。大阪大学大学院で哲学を学び、シモーヌ・ヴェイユを研究。その後、非常勤職や派遣社員などのかたわら、女性の貧困問題や労働問題を中心に新聞・雑誌等で発言。
2007年から雑誌『フリーターズフリー』を編集委員の一員として3号まで出版。
2008年、「女性と貧困ネットワーク」呼びかけ人となる。2014年~2017年、「働く女性の全国センター(ACW2)」代表。
共著に『1995年――未了の問題圏』(大月書店、2008年)、『フェミニズムはだれのもの?――フリーターズフリー対談集』(人文書院、2010年)、『高学歴女子の貧困――女子は学歴で「幸せ」になれるか?』(光文社新書、2014年)。

「2019年 『ぼそぼそ声のフェミニズム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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