聖愚者ラヴル

  • 作品社
4.40
  • (2)
  • (3)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 35
感想 : 6
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (436ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861826092

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 静かなのに温かみがあって、秋の夜長にゆっくり読むのによい本。説話文学ぽいのかな、カラフルかつ読み手を脅かしてこない。しかし懐かしいタイプの小説というわけではなく、フラッシュフォワードの使い方が現代的で風通しが良い。

    しかし主人公は取り返しのつかないことをやらかしておいて勝手に被害者と和解した気になって、「彼女のために...!」と頑張って聖愚者になっちゃうわけで、図々しい話でもある。まさに「死人に口なし」。なんで女を損なわないと善行を積めないのか。崇拝されている場合じゃないだろう。

    被害者が凶悪な妖怪になっちゃって、絶えず主人公の足を引っ張り続けて、ついつい被害者を呪いそうになる主人公の葛藤!みたいな展開だったら、最後まで気が散らなかったかもしれない。主人公に迷いがないのは好みじゃなかった。面白く読んだけれど。

  • あとがきによると作者ヴォドラスキンはルーシ時代の聖人伝を意識して本作を書いたそうで、「16世紀ロシアに生まれていたら良い作家になっていた自信があります」というようなことを言っている。
    確かに、本作はアルセーニーという医療聖人(っぽい人物)かつ聖愚者の聖人伝という風に読める。とはいえ、本物の聖人伝なら修道院入りする前に女性と暮らしていて、その女性とどう結ばれたかなどということは書かれないだろうけど。聖愚者とは神のために人から愚か者と蔑まれるような生活を送る世捨て人で、ルーシならびにロシアでは聖愚者を大変敬う伝統がある。

    高い医療技術、というより神から発する治療の恩恵を患者に「取り次ぐ」能力を持つアルセーニーが救えたはずなのに救えなかった数少ない人物が若かりし頃に同棲していたウスチーナである。ウスチーナの要求通りにきちんと産婆に見せていれば…。だから、話の最後で村人に袋叩きにされた未婚で身重の少女を無事に助けられたのはアルセーニーにとって最も重要な救いだったのかもしれない。

    プスコフ(確か)からエルサレムまでの巡礼の途上では、キーウ、ジェシェフなど最近のニュースでよく目にする地名が出てくる。物語自体、場面と直接関係のない未来や、登場人物の預かり知らぬ過去を急に登場させて(ロシア文学あるある?)、「時」という概念を超越するような語り方をしているので、余計に最近の東欧情勢を重ね合わせながら読んでしまう。

    一つ理解できなかったのはアルセーニーが最後に名乗った名前がなぜラヴルだったのかということ。アルセーニーは4つの名前を名乗るけど、そのうちウスチンとこのラヴルが本名と頭文字の一致しない名前である。ウスチンはウスチーナ由来だからいいとして、ラヴルは?同名の聖人に何か種明かしのヒントがあったりするのかな?あと10年くらいしてもう少しルーシへの理解が深まったら、また読んでみたい本。

  • 4.67/27
    『わたしはアルセーニーであり、ウスチン、アムブローシーであり、今はラヴルになりました。わたしの命を生きるのは、別の体と別の名前を持つ、お互い似たところのない四人の人間です。
    四つの名前を生きながら、愛する女性を救うことのできなかった己の罪を生涯を懸けて償い続ける中世ロシアの聖者の凄絶かつ清廉な生の軌跡――。
    「ポリシャヤ・クニーカ(大きな本)賞」と「ヤースナヤ・ポリャーニャ賞」をダブル受賞した現代ロシアの超大型新人が贈る、大いなる愛の物語!』(「作品社」サイトより▽)
    https://sakuhinsha.com/oversea/26092.html


    原書名:『Лавр』(英語版:『Laurus』)
    著者:エヴゲーニー・ヴォドラスキン (Eugene Vodolazkin)
    訳者:日下部 陽介
    出版社 ‏: ‎作品社
    単行本 ‏: ‎436ページ

  • 重厚であるのに軽やかで可笑しく、永遠と刹那の時を超える物語。
    思いがけず一緒に旅し、涙し、笑い、キリスト者でもないのに祈り、物語に寄り添えた幸福な体験だった。

  • 聖者伝の形を取りながら、ソ連の市民の生活までちらりと見せる、なかなかに魅力的な本。超大型新人というのも伊達じゃないね。 主人公、迷える修行者ではあっても、所謂聖愚者ユーロジーな感じはあまりしなかった。手元に置いて何度でも愛読するつもりだ。
    『シベリアの掟』以来の傑作で、知人にも大いに薦めたい。

全6件中 1 - 6件を表示

日下部陽介の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
劉 慈欣
スタニスワフ・レ...
クラリッセ・リス...
カズオ・イシグロ
ローベルト・ゼー...
ピエール ルメー...
ジュンパ ラヒリ
リチャード・パワ...
ゴンサロ・M・タ...
ヴァージニア ウ...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×