〈ジャック・デリダ〉入門講義

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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861825781

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    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/65863

  • デリダは、言葉の綴りや由来から根源的な意味を探り、思想の根拠とする。ギリシャ語、ドイツ語を主に扱うハイデガーの解釈などを、複数意味を持つ単語(特にフランス語)で、二重に表現したりするので、言葉遊びと言われる所以である。さらにそれを訳した日本語で読もうとしているのだからかなり難解である。本書はそれを読み解き、筆者による一定の解釈を与えているので、大変理解しやすい。講義形式で主に4著書の読解を行なっている。

    『精神について』
    ハイデガーの"精神"の概念について、『存在と時間』からフライブルク大学長就任演説までで、ナチスとの関連を踏まえて述べている。魂とも異なり、亡霊のように取り憑き、炎のように燃え上がり/燃え上がらせる、キリスト教や近代知、ギリシャ神話よりも前の、根源的な力としての"精神"。神学出身のハイデガーはキリスト教的な枠組みから抜け出せず、形而上学的な根源を求める発想は、異質性を排除するナチスの民族主義的な危険思想に繋がる。"炎"についてもユダヤ教から引き継がれる生贄を焼き殺す燔祭(ホロコースト)を暗示している。

    『死を与える』
    責任と自由について、善であるはずの絶対的他者の神が、人間に死を与え、その存在は人間から秘密のままでいる。人間は聖書や神の声の"絶対的な決断"への責任を、自ら引き受けることによって近代的な自由を手にする。パトチュカを参照しキリスト教の系譜を論じており、原初的な集団狂躁秘儀(オルギア)→プラトン主義(魂・政治・イデア)→キリスト教(絶対的他者の決断)と移行して、その歴史性と対峙するために内在化した異質性は、犠牲死である。死の絶対性がおそれおののきを与え、代替不可能な単独性、責任(=応答可能性)を主体(=存在)に持たせる。旧約聖書のイサク奉献の残酷さと神の秘密の不気味さから、キルケゴールの単独者、レヴィナスの他者の顔、カントの定言命法の自他の関係の共通性を踏まえ、(絶対的)他者との"責任"の概念を論じ、新約聖書のイエスの"汝の敵"の範囲解釈を巡るシュミットの民族紛争の正当化を脱構築する。ニーチェによる債権者・債務者と神・信者などの経済用語とキリスト教の語源的関連を引用し、さらに経済的循環(エコノミー)と絡めて、キリスト教の払いきれない責任・罪がそもそもの契約関係として破綻している矛盾を指摘する。

    『声と現象』『グラマトロジーについて』
    古代ギリシアから続く哲学や近代知は、発話(パロール)が書込み(エクリチュール)に先立つ"音声中心主義"を前提としていたが、先人達の残した図画を含む記号の痕跡に共通する一定のルール(差異の体系)を、習い使用する(反復する)ことで初めて話し思考することができるため、むしろパロールはエクリチュールを代理的に補完(代補)しているに過ぎないとする。それが未文字社会などの原初的な文化に立ち返ろうとするルソーやレヴィ=ストロース、幾何学などの公理系のアプリオリ(先天的)な論理法則が記号言語に先立つとするフッサールへの批判とつながる。"現在"と言った時のように、声は現象そのものを表す際に、言語の差異化で微妙にずれ、その時点で遅延している(差延)。形而上学をはじめとする絶対的な知や存在などの前提を解体(脱構築)している。

  • 7回にわたっておこなわれた講義を収録しています。とりあげられているテクストは、ハイデガーについて論じた『精神について』と、「責任」というテーマをめぐって議論がなされている『死を与える』です。また最終日の第7回の講義では、初期の著作である『グラマとロジーについて』と『声と現象』の内容がコンパクトに解説されています。

    参加者たちとともにデリダの複雑なモティーフが入り組んだ文章をじっさいに読み解いて、その思想の内容とそれを実現しているデリダの思索のスタイルについて具体的に説明がなされています。

    あつかわれている範囲は広くありませんが、デリダの難解なテクストを読む方法を具体的に学ぶことができます。本書を読み終えた読者が、みずからデリダのテクストを読んでいくための手引きとして有益ではないかと思います。

  • 『〈ジャック・デリダ〉入門講義 Introductory Lectures on Jacques Derrida』

    【内容】
     ポストモダンの頂点、デリダの“難解さ”を攻略する!
     スタンスがはっきりかつコンパクトに表現されている著作を精読し、脱構築、差延、代補現前の形而上学、エクリチュール/パロール、憑在論……といった独自の用語を丁寧に解説。哲学的な細かさと文学的レトリックが多重に絡み合った奇妙な文体を駆使したデリダは、いったい何に“拘り続けたか”を明らかにする。いままで日本で受容されてきたデリダ像を更新する入門講義。
    http://www.sakuhinsha.com/philosophy/25781.html

    【簡易目次】
    括弧付の「精神Geist」
    精神と火の隠された関係
    精神と「根源生originalité」
    責任の主体の生成
    「絶対的責任」-非合理的決断と反復脅迫的な態度
    〈Tout autre est tout autre.〉、「差異と類比の戯れjeu de la différence et l'analogie」、「エコノミーéconomie」
    デリダの音声中心主義批判について

  • 2014年の著書の講義をまとめたもの。
    「はじめに」に書いてある通り、『デリダは、際限のない解釈の連鎖へと誘う著者である。ー略ー訳知り顔でツブヤキたがる輩がいるが、そういうのは、現代思想をつまらなくするだけの不毛な¨拘り¨であることにぜひ気づいてほしい。』
    に尽きるでしょう。

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著者プロフィール

哲学者、金沢大学法学類教授。
1963年、広島県呉市に生まれる。東京大学大学院総合文化研究科地域文化専攻研究博士課程修了(学術博士)。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。難解な哲学害を分かりやすく読み解くことに定評がある。
著書に、『危機の詩学─へルダリン、存在と言語』(作品社)、『歴史と正義』(御 茶の水書房)、『今こそア ーレントを読み直す』(講談社現代新書)、『集中講義! 日本の現代思想』(N‌H‌K出版)、『ヘーゲルを越えるヘーゲル』(講談社現代新書)など多数。
訳書に、ハンナ・アーレント『完訳 カント政治哲学講義録』(明月堂書店)など多数。

「2021年 『哲学JAM[白版]』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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