ヒトラーランド――ナチの台頭を目撃した人々

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  • Amazon.co.jp ・本 (526ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861825101

作品紹介・あらすじ

新証言・資料-当時、ドイツ人とは立場の違う「傍観者」在独アメリカ人たちのインタビューによる証言、個人の手紙、未公開資料など-が語る、知られざる"歴史の真実"。キッシンジャー元国務長官、ワシントン・ポスト、エコノミスト、ニューズウィーク各紙誌書評が激賞!

感想・レビュー・書評

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  • 第二次大戦前のドイツに在住していたアメリカ人たちの記録。著者は元ニューズウィーク特派員で、ベルリン・モスクワ支局長を歴任したジャーナリスト。記者だけにストーリー展開が上手く、物語を読むようだった。最後まで飽きない。
    当時、ドイツに在住していたアメリカ人の多くは特派員ジャーナリストと外交官たちとその家族。彼らはいわば傍観者としてドイツを観察し暗い時代を記録していった。
    著者は在独アメリカ人たちのインタビュー、証言、回顧録、手紙、未公開資料など丹念に辿り、台頭するナチスドイツを立体的に浮き彫りにする。
    ナチスに対する傍観者たちの眼差しは様々だ。
    第一次大戦後の荒廃したドイツのエネルギーと退廃に魅了された若者。ナチスやヒトラーに心酔する者。ヒトラーの弁舌の上手さや魅力を認めつつもいち早く彼の危険とドイツを覆う危機を見抜いた外交官やジャーナリストたちもいた。「あんなごろつきがドイツのリーダーになるわけがない」という青年もいた。「ドイツ人には知性があるから、ヒトラーに騙されるわけがない」と宣言したユダヤ人もいた(そう言った本人は強制収容所で死んだ)。ヒトラーが首相になったら、過激な言動は減り現実的になるだろう。反ユダヤ主義も穏やかになるだろう。ベルサイユ体制と国際秩序に挑戦することはないだろう。まさか再び世界大戦が始まるわけがない。希望的観測を並べ現実を直視しない人もいた。
    なかには、ヒトラーが政権を取り、ユダヤ人差別が激しさを増し、ポーランド侵攻が始まっても、目の前の現実に戸惑い何をどう判断してよいか分からずにいる人もいた。



    人は歴史を振り返るとき後知恵で判断する。結末を知っているがゆえに、あのときこうすればよかったのに、と弾劾糾弾する。だが、この本を読むと、日々の生活のなかで現実を直視し目の前のことから距離を置き、分析し、意味を見極め行動することが人間にとっていかに難しいか。そんな根源的な問いを読み手に突きつける。
    頭が良い。知性がある。先見の明がある。そのような能力は関係ない。秀でた知性があり優れた観察力がある人でも(でさえも)状況を見誤ることがあるということや、経験豊かな人でも自身の願望と事実認識を取り違えることがあるということをこの本は教えてくれる。
    本書を読んで、改めて実感した。そして序に記された次の一文が胸に響く。
    「嵐のなかにいるときは、日々の生活はときとして、一見ごく普通に続いていく。たとえそこにあきらかに異常なことや、不条理や不正義があったとしてもだ」。
    肝に銘じたい言葉。現実を見るということはそれほど難しい。
    この本はこれから生きていく上で指針として、または座右の書としたい。

  • タイトルの"ヒトラーランド"は、当時のベルリンに派遣されていた外国人記者が命名したドイツの呼び名で、風変わりで、ますます不気味さを増しているのに、人を惹きつけてやまないこの場所を的確に表している。
    ディズニーランドにはミッキーがいるように、このランドの中心にはヒトラーがいて、特派員らはナチスが政権を獲得する前からこの男を追いかけた。
    自分自身のパロディかと思わせる滑稽な姿勢、女性的な体型、インタビュー相手に口を挟ませず、まるで何百万人という聴衆に向かって「話して、話して、話し続ける」彼の姿に、記者の反応は冷ややかで一様に侮ってた。

    勢いは一時的で、周りにも彼を出し抜き、うまく御せるはずと過小評価する声が多かった。
    しかしやがて、ナチスに批判的な記者も目の前で彼に見つめられ語りかけられるとのぼせ上がり、「ほかの人間が寝ている時に働いていた」という無尽蔵の精力さ、大衆をペテンにかけるという達人ぶり、一度スイッチが入ると喚き散らす狂人ぶりに、「体の隅々まで狂っている」と吐露し震え上がるようになる。

    その意味で、アメリカ人記者ハワード・スミスがまとめた4段階のドイツ観の変化は、本書で最も核となる理論だろう。
    旅行者のような短期の訪問者の視点の浅さがよくわかる。
    第1段階は、ドイツの清潔さや整然とした秩序ぶりをナチスの業績と勘違いする「鈍感さはサイの皮膚並み、人間としての深みはティーソーサー並み」の浅薄な反応の段階。
    第2段階は、戦時中でもないのに、日常生活のそこら中に溢れて違和感のない軍服と銃の存在で、この非現実性にどこか浮き立つ感想を抱く段階。
    第3段階になって、彼らが黙々と人殺しの訓練をしているのだと気づき、ショーから悪夢に変化する段階。
    最後の第4段階は、純然たる恐怖に打ちひしがれる段階で、文明に対する差し迫った脅威にとても目を背けてはいられなくなる。
    「人によってはわずか一週間で、第一段階から第四段階にまで到達する人もいたという。いっぽうで、第一段階か第二段階にずっととどまったままの人もいた。また第三段階まで行ったからといって、かならずしも全員が第四段階に上がるわけでもなかった。
     短期間しか滞在しないアメリカ人は無論、たいていは第一段階か第二段階までしか - 少なくとも旅行中には - 進まなかった」

  • 歴史
    ノンフィクション

  • ☆うーん。

  • 米国人ジャーナリストによるナチが台頭する状況を描いた本。当時の公文書や手紙等をもとにヒトラーが当時どのように評価され、各国が対応していったのかという事実の一端をうかがい知れた。ただ、完全に当時の状況に基づいているかといえばそうとも言えず、ヒトラーが一方的に非難される現在の価値観からの評価に引きずられたコメントが気に入らなかった。訳はとてもよい。
    「歴史のなりゆきというのは、あとから振り返ったときにだけ、当然の帰結のように感じられるものだ」p13
    「(リューデッケ(ナチ党員))ベルリンはマルクス主義者とユダヤ人の本拠地であり、ミュンヘンは彼らにとって敵の城塞であった」p26
    「ヒトラーのお気に入りはブラックコーヒーとチョコレート」p64
    「(ビアホール一揆後)ヒトラーの信奉者の妻である若いアメリカ人女性(ヘレン・ニーマイヤー)が、ヒトラーに自殺を思いとどまらせたという事実を知っているのは、ごく限られた関係者だけであった」p76
    「奇妙に思われるだろうが、ドイツにいた2年間(1918~20)、ユダヤ人である私は、反ユダヤ主義運動など見たことも聞いたこともなかった。第一次世界大戦後のドイツで反ユダヤ主義運動について聞いたり、見たり、感じたり、気配を察したりする機会は、どの時代のアメリカよりも少なかった」p95
    「(米国人記者 ニッカーボッカー 1932年)ヒトラーは、ナチ党の嗅覚として活躍するだろうが、表向きには党の代表の座に残ったとしても、彼がドイツのムッソリーニになるとは、私には思えない」p119
    「(ニッカーボッカー 1933年)ドイツが戦争で負ける確率は極めて高く、せいぜい頭の狂ったドイツ人くらいしか、フランスやその連合国に対して戦争を仕掛けるようなことはしないだろう。国外で大勢を占める意見とは裏腹に、今日のドイツは、決して頭の狂った人間達に支配されているわけではないと断言できる。ヒトラーの言う平和とは、軍備を固めるまでの間、世界の安全を確保しておくためのものだ。軍備が世界を戦争から守ったことなど、これまで一度たりともない」p231
    「(ハースト(米出版界の大物))アメリカ人は、ヒトラーのことを軽く見すぎている。ヒトラーは膨大なエネルギーと、強い熱意と、感動的な演説を行うすばらしい才能と、統率者としてのすぐれた技量を持っている。もちろん、こうした能力がすべて間違った方向に使われる可能性はある」p266
    「(アン・リンドバーグ)ドイツの力、団結力、意志の強さは、だれの目にも明らかです。本当にすばらしい。これまでの人生で、あれほどの「統制された力」を強く意識したのははじめてでした。その力が人々、特に若い人たちのエネルギー、誇り、士気としてあふれ出すさまは、実に感動的です」p310
    「(米外交官タルボット)ナチズムが成し遂げた物理的業績、立派な道路、ごたごたしたスラム街の撤去、新たな住宅供給、橋、公共建造物、これらすべてがこの国に新鮮な輝きを与えている。一方でナチ党のやり方には、背筋の寒くなるようなものもある」p367
    「(ウェデマイヤー(ドイツへの軍事交換留学生))ドイツ式の手法と教育内容の質の高さに深く感銘を受け、ドイツの教授法とカリキュラムは、私が見たところ、わが国のそれよりもすぐれていたと述べている」p371
    「(AP通信 ロックナー)あのパレードを見る限り、次の戦争は間違いなく、世界がこれまで見たこともないほど悲惨なものになる。きっと1914年の戦争が子供の火遊びのように思えるだろう」p383
    「(ロックナー)自分の敵を過小評価するのは、いつでも危険なことだ。ドイツの最高指導者たちが、1914年から18年の過ちをもう一度繰り返すとは。覚えているか。かつてドイツは、アメリカが海を越えて軍隊を運ぶという考えを、ありえないと馬鹿にしていたんだ。そして今度はドイツの人々に、イギリスは年をとり過ぎて戦えない、フランスは国内紛争でズタズタ、アメリカは大ボラ吹きだなんだと吹き込んでいる。哀れなものだ」p384
    「ヨーロッパを旅して回っていたニッカーボッカーによると、だれもがいちばん気にかけていたのは、フランスが軍を動かして助けに来てくれるまで、ポーランド軍が持ちこたえられるかどうかだったという。楽観的なポーランド人に聞くと、3年は持ちこたえると言った。悲観的なポーランド人は、1年だと言った。フランス人は、ポーランド人は6か月はもつだろうと思っていた」p384
    「(独ソ不可侵条約)(CBS シャイラー)これは実質上の(独ソ)同盟であり、ナチズムとその侵略行為における最大の敵スターリンが、ドイツにどうぞこちらへ来てポーランドを片付けてくださいと言っているようなものだ」p389
    「ドイツの急激な軍国化について鋭い分析を加えた報告書をワシントンに送り続け(しかし相手にされなかった)、1939年4月に最後のベルリン駐在を終えた大使館付武官のトルーマン・スミスと同じように、ビームもまた、悪いニュースというものは、まずそれをもたらした人間の動機が疑われるのだということを、身をもって思い知らされた」p419

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  • 「ヒトラーランド」は当時ドイツ人とは立場の違う傍観者であった在独アメリカ人による証言等を集めた「のちに語られた歴史」ではないあの時の真実のドイツが見えてくる1冊。もちろんヒトラーのオリンピックといわれた「ベルリンオリンピック」も語られている。メダルの授与で黒人選手にヒトラーは握手を拒否したと言われるが当のアメリカ人選手ジェシー・オーエンスは侮辱を受けたとは感じていない。むしろアメリカ国内で侮辱を受けないことは不可能だったと語っている。人種差別に独裁国家。あってはならないことも視点を変えると焦点がぼやけてくる

  • ナチスやヒトラーについて、あまりにも多くのことを知りすぎて、心の整理がつかない。あえて率直な印象を表現するなら「第1次世界大戦のトラウマとヨーロッパを翻弄したアメリカが作り上げた虚像」とでも言おうか。かつて人類が経験したことのない惨劇を生んだ第1次世界大戦。戦火の再発に怯える戦勝国が、復讐に燃える敗戦国ドイツによって蹂躙されるという歪んだ構図。ビアホール一揆まではただの反逆者だったヒトラーが、世界最悪の独裁者へと変貌していく過程で常に存在したアメリカの陰。その中にヘンリー・フォードの名前が含まれているのには目を疑った。歴史を直視するのに、こんなにも勇気が必要とは。

  • 「満州事変と政策の形成過程」、「昭和陸軍秘録 軍務局軍事課長の幻の証言 」といった本を読むたびに「そうだったのか!」と目から鱗だったが、この本もまさにそうであった。
    ユダヤ人に対する憎悪はヒトラーだけでなく、ドイツ国民のみならずアメリカ国民も程度の差はあれ、感じていたこと(もちろん、そうでない国民も多くいたと思うけれど)、扇動者としてのヒトラーの能力は評価していたものの、当時の権力者は高をくくっていたことなど、ヒトラーの台頭を許した要因を当時のドイツに滞在していたアメリカ人記者の目から描写している。
    また、ヒトラーが支配していたドイツに訪れたほとんどのアメリカ人が賞賛していたということにも驚かされるとともに、ヒトラー=ナチスドイツだけを戦争の元凶だと、それこそ「高をくくって」いたら、現代でも悲劇が繰り返されることを警鐘している書でもあると思う。

  • アメリカ人がよき勝者であると考えられた理由の1つとして、ドイツ人から好意的に迎えられたことで、彼らの方もドイツ人に好意的に接したことがあげられる。アメリカ人とドイツ人はまた、どちらにとっても「悪しき勝者」であったフランスに対するいらだちも共有していた。第一次大戦直後の混乱期、ワシントンとパリは敗戦国ドイツの扱いについてことごとく対立していた 。

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著者プロフィール

アメリカ在住のジャーナリスト。「ニューズウイーク」誌で香港、モスクワ、ローマ、ボン、ワルシャワ、ベルリンの支局長を歴任後独立。受賞歴多数。著書に『ヒトラーランド――ナチの台頭を目撃した人々』『モスクワ攻防戦―― 20世紀を決した史上最大の戦闘』(ともに邦訳は作品社)がある。

「2017年 『隠れナチを探し出せ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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