マルジナリアでつかまえて 書かずば読めぬの巻

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784860114459

作品紹介・あらすじ

人類は大きく二つに分かれる。本に書き込みをする者と、しない者に──。

書物界の魔人が世にあふれる“人と本との接触の痕跡=マルジナリア”を追う。余白の書き込みを見つけては考え、知る、新しい本の愉しみ。著名人から無名の筆遣い、プログラミングのコメントまで。読みやすいものから判読不明なものまで。広くて深いマルジナリアの大地を一緒に歩いてみませんか。カラー口絵には石井桃子、夏目漱石、高野長英、和辻哲郎、山本貴光の筆跡を収録。「本の雑誌」の人気連載書籍化第1弾。

感想・レビュー・書評

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  • マルジナリア(marginalia)とは、本の余白の書き込みのこと。
    「痕跡本」とは趣が異なり、本と四つに組んで読み込んだ証明のようなもの。
    ついでながら本書の余白も大きくとってある。
    その手に乗るものかと誘惑をふりきって読んだ。だって図書館本だもの。

    口絵に登場する石井桃子さんのマルジナリアがすごい。
    翻訳は精読中の精読と知ってはいたけれど、版が変わるたびに朱筆を入れ続ける。
    尋常ではない付箋の数に、驚くこと感動すること。
    テキストだけじゃなく、音読した際の区切り方まで考慮している。
    まさに背筋が伸びる思いだ。
    石井桃子さんのマルジナリア本がいつか出ないかしら。

    漱石もまた大変なマルジナリアン。
    ペンを持たねば本を読めない(これがマルジナリアンの特徴らしい)人だったらしく、疑問・賛否・思考の三つにまたがって、まぁ書き込むこと。
    ジェイン・エアの登場人物に向けた「Bad,bad,bad,bad man!」なんていうのも。
    「What is~?/何ノ事ダカ分ラヌ」
    「モーパッサンは馬鹿ニ違イナイ!!」とかね。
    その都度一度きりしかない読書の、貴重な観察記録とも読める。

    歴史に残るフェルマーのマルジナリア。
    「算術」の本に書き込んだのは数式ではなくまだるっこしい文章だった。
    とんだ思わせぶりの書き込みに、数学史上屈指の難問として君臨していたらしい。
    20世紀末に証明できる人が現れるまでの騒ぎを想像すると面白い。
    彼の息子さんが世に出したおかげで、マリジナリアが本文に昇格した例だ。

    まだまだ続々と出てくる。
    ハンナ・アーレントにいたってはコレクションとして公開され、書き込みされた当該ページだけ抜粋してデジタル化。その数だけで300冊以上にもなるという。
    終日写本に勤しんでいた写学生の頃から、書き込みはあったというから、人は余白に何かしら呟かずにはおれないのかも。
    著者はブログラムの書き込みまで公開している。
    50年ほど前のNASAのアポロ計画の資料だ。

    読みようによっては無駄知識の宝庫のような本だが「本を読む時に何が起きているのか」と真面目に考えたくなってくる。
    他人事ではない。楽器を習った経験のある方なら楽譜に書き込んだ記憶があるかと。
    一曲仕上がる頃には、譜面のマルジナリアンとして立派に(?)独り立ちしたはず。
    著者は「索引」の重要性まで述べている。ここも相当面白い。

    よくぞまぁ、このような本があったものだ。「本の本」のタイムリーヒット。
    本書には書き込みの方法まで載っている。
    読みながらついツッコミを入れる方、ぜひ参考になさってはいかが?
    ただし、カスタマイズするのは自分で購入した本だけにしてね。

  • 【感想】
    マルジナリアとは、「本の余白(マージン)への書き込み」である。強調線、マーカー、メモ、付箋といった、読み手が読書中に本に付け加えたもの全般を指す。

    筆者の山本氏は「ペンを持たぬと(本に書き込みができないと)本が読めぬ」というぐらいのマルジナリア中毒者。本書ではそんな筆者が、本そのものではなく、本の余白に書かれた文章――いわば本の「第二形態」を紹介し、読み手との関係性を新しい形で紐解いていく。夏目漱石、モンテーニュ、ウラジミール・ナボコフなど、さまざまな偉人のマルジナリアを取り上げるのだが、内容はそれこそ人それぞれだ。他人の文章の添削、自分が書いた文書へのツッコミ、自作した挿絵、索引など、読み手が変わればマルジナリアも多岐に渡っていく。

    私は本を図書館で借りることが多いため、もっぱら書き込みはしない派だ。代わりに、要約や感想をブクログに「メモ」としてしたためている。これも一種の「マルジナリア活用」と言えるだろう。本そのものには書けないので、別の余白に書き写す。そう考えれば、感想を書いているブクログユーザーの多くは「マルジナリア読書」を経験しているはずだ。

    ここからは私見だが、「読書が好きな人」は、「人の考えを探るのが好きな人」でもあると思う。
    私は図書館やブックカフェにある「読んだ本を戻すワゴン」に置かれた本を漁るのが楽しい。「お、この本自分も読んだことあるな」「この本読んだのは誰なのかな」といった、他人の読書遍歴を探るのが、どうも心地よく感じてしまうのだ。
    だから、他人のマルジナリアを読むことも、本そのものと同様に、知的好奇心がそそられてしまう。書き込みとは、その時々に生じた思考の痕跡であり、読み手のプチ書評である。それを辿ることで誰かと一緒に本の意味を味わうことが出来るし、自分には無かった視点を与えてくれる補助線にもなる。そしてそれが文豪や哲学者といった「知の巨人」であれば、一粒で二度美味しい。

    読書というのは大なり小なり「人の考えに触れる」営みである。であるならば、人の考えのエッセンスであるマルジナリアを、嫌いだと思う読書家はいないのではないだろうか。

    ――――――――――――――――――――――――――
    【まとめ】
    ●夏目漱石のマルジナリア
    夏目漱石は、主に①疑問、②賛否、③思考のマルジナリアを書いている。
    ①疑問:漱石は著者の主張が腑に落ちない場合、「なぜ?」「なんのことかわからない」などと書いている。さらには「君ノ云フidealトハ頗ル曖昧デアルモツトシツカリ書テ貰ヒタイ」と注文をつけることもある。いまの自分には分からない点や著者の議論に疑問があれば、遠慮なく表明すればよい。
    ②賛否:「然り」「変なり」だけでなく、「Yes!」「No!」「馬鹿を云へ」「大賛成」など、ノリノリである。そう、読書とはツッコミなのだ。
    ③思考:連想、比較、そして発想を書いている。
    発想とは、ものを読んで自分の考えが動くことである。本と対話し、そこから暗示を受け、別の本と比べて関係や共通点を見つける。そうすれば自分の狭い考えに閉じこもらずに済むし、ダイナミックな読書になる。

    書き込みも付箋も本を活用する上では重要なものだ。ただし、「ここ大事」「これに注目」と書き続けていると、いずれあっちもこっちも要注目になってしまう。強調のためのモノが強調の働きを失ってしまうのだ。
    そうしたら次はさらに、下線の上からマーカーを引き、それでも足りなくなって矢印を書き込むなど、もう収集がつかなくなってくる。

    ●筆者が教えるマルジナリアの心得
    1 無理をしないこと。どうも書き込む気にならないときは、無理して書き込まない。
    2 失敗しても惜しくないように、練習用の本を使う。
    3 筆記用具を選ぶ。
    4 線を引く。「重要」「気になるところ」「面白いところ」など。何でもいいからラフに引こう。
    5 補助記号を使う。「?」「!」など。
    6 メモを書く。要約、換言、意見、疑問、調査、原文など。
    7 書き換える。
    8 無理せず楽しく。

    ――特に複雑なことはありませんが、そのとき思い浮かんだことをできるだけ書き留めておこうと努めています。というのも、ものを読んでいるとき、そのときしか思い浮かばないことも結構あるように感じるのです。かつては「そんなに大事なことなら、あとでまた思い出せるはずだから、いちいち書かないでもいいじゃん」と思っていました。ところが、私は物覚えがよくないのか、読みながら思い浮かんだことも、先へ進んだり他のことに気を取られたりしているうち、つぎつぎと消えていき、忘れてしまいます。(略)いまこの文字列を見て思い浮かんだことは、後になって同じようには思い浮かばないかもしれない、と。
    ここで注意したいのは、「でも、そんなたいしたことを思いつくわけじゃないんだから、やっぱりいちいち書かなくてもいいんじゃない?」とわき上がる疑問にどう対処するかです。(略)しかし、思い浮かんだことがどんな意味を持つかは、後になってみないと分からないものです。

  • 帰ってきた炎の営業日誌 7月29日(水)| WEB本の雑誌
    http://www.webdoku.jp/column/sugie/

    マルジナリアでつかまえて- 本の雑誌社の最新刊|WEB本の雑誌
    http://www.webdoku.jp/kanko/page/4860114450.html

  • 余白への書き込み、マルジナリアの深淵で広範な世界。
    読書術とは一線を画すマルジナリアへの熱量が面白い。

    著者の山本さんは元プログラマーということで、関連書籍もありそっち方面でも気になる。

  • この人、本を読むのが好きなんだろうな、と感じられて、楽しい本だった。本好きのための本だね。マルジナリアという言葉に、なじみはなかった。本の余白、マージンに書き込みをすることなんだってね。本を読んでいて、ここいいな、と気になるところはあるし、読みながら頭に浮かんだことを書き留めておきたいと思うことはたしかにある。ここ最近は、せいぜいラインを引くくらいで、書き込みまではなかなかしなくなったけどね。何の気なしに本を開いて、過去の自分の文章を見かけたりすると、ちょっと恥ずかしいから。ただ、長く積読のままで、この本読んでないんだよなぁと手に取り、開いたら自分の字で書きこみを見つけてびっくりすることも、たしかにあるんだよね。本の愉しみというのは、読むばかりではなく、読んだことを頭の中であれこれ動かし、それをときに書き込んだりすることも含めてのものなのだろう。

     

  •  マルジナリアつまり本の余白への書き込みについての本。

     この著者はきちんと原典にあたって書くところに好感がもてる。ディシプリンがきいていて、かつユーモアもある書きぶりも魅力といえよう。

     それにしても本への書き込みをどうとらえるかについては、自分もそれなりに自負があったが、マーキングを超えた本への書き込みオタクがいることを知って、自分もまだまだと思った。

  •  かつての著者同様、「本は大事なもの」と教えられ、特に単行本については、書き込みはもちろんドッグイヤーも憚られる。もちろん読書する際は、必ず何かしらのカバーをつけ、汚れや傷から本を守る。そして興味のある本は付箋だらけに。さらに猫と暮らし始めて以来、爪とぎから守ることも追加された。迂闊に置いておくと、表紙はまるでインクの出ないホールペンでカキカキしたような爪跡だらけになる。これが非常に悲しい。

     猫はともかく、多読家で博識な諸先輩方の読書案内本を読むにつれ、少なくとも本の中身を美しいまま残すことにどなたも価値をおいておられない。むしろ逆。
    そんな私に、マルジナリアの価値の高さを思い知らせ、踏ん切りをつけさせてくれるのではと期待して手に取った本だ。

     洋の東西を問わず、古くから近代にかけての様々な書物に書き込まれたマルジナリアを、著者の興味に沿って紹介されている。

     「私にも書き込めるかもしれない」と思えてきた。まずはオリジナルの作品を作るところからかな。

    完読。B2 0.7ミリのシャープペンシルを手に入れた。マルジナリアの世界へ一歩。

  •  本の余白への書き込みをマルジナリアと呼ぶらしい。たまに古本を買うと前の持ち主の書き込みに遭遇することがあるけれど、本著はそのマルジナリアに真摯に向き合った1冊。電子書籍の普及、メルカリの台頭などで紙の本に直接何かを書き込むことはほとんどない中で、そのオモシロさがかなり伝わってきた。
     著名な人の余白への書き込みがアーカイブ化されたり貴重なものとして取り扱われるカルチャーは愉快だし、本の読み方をある程度トレースできる点が興味深い。さまざまな実例が紹介されているが、翻訳家の石井桃子のマルジナリアがかなり気合い入ってて好きだった。何十版となっても毎回自ら読み直して余白に書き込みを入れて常に翻訳をアップデートし続けていたらしい。出版したら終わりではないプロフェッショナルの仕事。あと石井桃子の書斎の写真が巻頭に使われていて、それがまたいい感じで本好きはめちゃくちゃ上がると思う。(ググったら写真出てくるけど、この本の写真がベスト)
     個人的な話をすると紙の本を読むときは細い付箋を気になった部分に貼るという作業をしている。(電子書籍の場合はマーカーを引いている)ただ著者は「気になった」をさらに細分化して、どういう感情なのかを記載しているらしい。そうやって自分だけの本にカスタマイズしていく作業を大きな意味のマルジナリアと捉えて、細かく記録すればするほど読書メモを書くとき楽になりそう。可能な範囲で真似できればと思う。
     牽引と検索の違いの話がとても興味深かった。検索はあらかじめ何を調べるか自分で思いつかなければ使いようがない。それに対して牽引は本の内容を網羅的に把握できるツールで、リバースエンジニアリングだというのは目から鱗だった。技術書とか専門書だと牽引役立つなーと思ってたけど、著者が試したように小説で牽引を作ってみると作家のテーマや書き方が定量的に浮かび上がってくると思うので楽しそう。自分の脳みそのキャパには限界があるんでガンガン読書したことを色んな方法でアウトプットしていきたい。

  • それにしても、僕は本に書き込みはしないだろう。

    子供の頃は、姓名のハンコを巻末に捺していたけど。学校を卒業した折に、それまで学校で使っていた姓名のハンコ。

  • 文章が読みやすくて面白かった。以前から、買った本は付箋を貼ったり角を折ったりする他に線を引いたりはしていたけど、書き込みもしてみたら面白そうなのでこれからやってみたい。

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著者プロフィール

山本貴光(やまもと・たかみつ) 文筆家、ゲーム作家、ユーチューバー。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。著書に『マルジナリアでつかまえて』(全2巻、本の雑誌社、2020/2022年)、『記憶のデザイン』(筑摩書房、2020年)、吉川浩満との共著に『その悩み、エピクテトスなら、こう言うね。――古代ローマの大賢人の教え』(筑摩書房、2020年)など。

「2022年 『自由に生きるための知性とはなにか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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