本を売る技術

著者 :
  • 本の雑誌社
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本棚登録 : 598
感想 : 60
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784860114381

作品紹介・あらすじ

背表紙を棚から5ミリ出すのにも、平台の左端に一番売れる本を置くのにもすべて道理がありました。これまでマニュアル化不可能、口承・口伝、見て盗ぬ、あるいは独学で行なわれてきた書店員の多岐にわたる仕事をはじめて具体的・理論的に語られます。

取引や流通のことから、売り場作り、平積みの仕方、平台の考え方、掃除やPOPの付け方にいたるまで、1冊でも多くの本を売るための技術と考察が詰まってます。

また補講として書店員なら知っておくと便利な知識も収録。本を売る人だけでなく、買う人も楽しめる、本屋さんの面白さと書店員の仕事の奥深さの詰まった一冊。

感想・レビュー・書評

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  • ブク友さんのレビューで興味を抱き、期待をもって読んでみた。
    どちらかと言えば書店員さんのお仕事本という印象。
    絶え間なく働き続ける存在で、こんなにやることがあるのかと驚きが大きい。

    著者の矢部潤子さんは36年間売り場に立ち続けた書店員さん。
    「立ち止まらない書店員さん」として有名な方だったという。
    本の雑誌社の編集さんが、デスクワークになった矢部さんに申し込んで、ようやく成立したというインタビュー本だ。イラストも多く、非常に分かりやすい。
    各章の間には出版業界ならではの商取引や流通などの補講も入り、こちらもかなり面白い。

    見返し部分に表れるのが「32点の本を置ける平台の本の置き方」の図で、言わずもがなの感もある。お客にとってどうか、目線は常にそこにあるからだ。
    動線を意識した置き方で、いかに手に取りやすい位置に置くか。
    スリップ(会計時に店員さんが本から抜き取るアレ)の差し込み位置の工夫、スピンが外に出ている本は中に入れ直す、棚の奥に「あんこ棒」を入れて本の背を5ミリ出す、平台の積み方、難易度の高い棚整理。。
    お客が手に取りやすいということは、買いやすいということであり、棚に戻しやすいということでもある。そこが狙い目。

    かなりの高難易度だと思うのが「返品」。このジャッジは経験値が必要だ。
    本書で初めて知ったのが「面陳」という言葉。
    本の「面」を「陳列」する方法で、市販のスタンドで90度になるように工夫しないといけないという。斜めでは本が傷むからだ。
    何のお薦めかしらと不審に思いながら見ていたが、ちゃんと理由があった。
    空いた棚を隠す目的でもあったらしい。

    どの本も今日入って来たばかりのようにするのが本屋さん。棚や平台だけでなく、ハードカバーの見返しのかからない部分まで固く絞った布でふき取るという。
    はい、すみませんでした。汚れた手で開いて読んだかもしれません。。

    話は変わるが、本屋さんと図書館は決して競合するものではない。
    図書館の本が気に入った場合は、本屋さんで同じものを買い求めるからだ。
    図書館のおかげで書店の売り上げは伸び、品ぞろえも変わって、良い本が売れるようにもなっていく。
    「移動図書館ひまわり号」の中では、地元の本屋さんのそんな感謝の言葉も載っていた。
    街には、図書館も本屋さんも必要なのだ。

    「本屋で働く新しい人たちへの10ヶ条」付き。
    本屋さんだけでなく、基本的なお仕事本としても読める一冊。


  • キノベス2021の第4位。

    本を売る人と本を買う人が、更なる本屋さんの面白さに気づく本、とのこと。

    本屋好きは、本屋さんの知恵や工夫に感心しながら楽しく読める。

    本の陳列法や扱い方、返品の考え方、ポスターの貼り方など、いちいち興味深い。インタビュー形式でわかりやすく進む。本の流通や発注経路、ISBNに関する知識など、専門的な補講もある。

    書店員さんは、この本を読み込んで業務に没入すると、新たな境地に至ることができるんだろうな。

    とても、本と本屋への愛情に満ちた本だと思いました。

    でも、書店員は本を愛しすぎてはいけないそうです。何事も、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」ということですね。

  • タイトルに「技術」とあるため、売り上げを伸ばすためのノウハウ本、と誤解されそうだが、本書を貫くのは、36年間売り場で本を売り続けた書店員、矢部潤子さんのプロフェッショナル魂である。NHKの番組でぜひ取り上げていただきたいほどである。

    本書では、棚の整理、平台の置き方、発注、返品からポスターの貼り方まで、書店の仕事の一つ一つについて、どういう考え方のもとにどう対処していくのか、矢部さんがインタビューに答える形式でまとめられている。
    商売なので当然利益を上げなければいけないが、ただ売れればいいわけではない。どのような本も決して無駄にならないよう、適切な本が必要な人の手元にすぐ届くようにしなければならない。「置かれた場所で咲きなさい」ではなく、「咲く場所に置きなさい」なのである。
    根底に流れるのは、矢部さんの本に対する「愛」だ。

    書店を訪れた人が本を手に取りやすいよう置き方を工夫する。毎日書店を訪れるお客様のために、少しでも変化を持たせるようこまめに棚や平台を整理する。どの本も、今日入って来たばかりの本のように整える。書店員さんにとって教科書のような本だと思うし、書店員以外の職業でも、仕事に対する姿勢やお客様に対する心配りなどについてはとても参考になる。私も自分の仕事のしかたを見直す良いきっかけになった。

    意外だったのは矢部さんがPOPに懐疑的だったことだ。言葉による販売力を認めながらも、POPで背後の本が隠れてしまうことや、POPを挟むことにより本が傷みやすい、というデメリットを挙げている。
    私の感想なんて世の中の人にはどうでもいい、なんておっしゃっていたが、書店員のプロフェッショナルがどんな本を読んでどういう感想を持ったのか、私だったら読んでみたい。

    ついつい本を買ってしまう書店とあまり気を引かれない書店がこれまで確かにあったが、その理由がわかった。書店を訪れたときの視点が変わる一冊である。

  • ここまでやるのかと正直引いてしまうほど非常に勉強になった。図書館と書店の大きな違いは、同じ本が大量にあるかどうかかもしれない。同じ本が大量にあるってこんなに大変なんだ。でもフェアのワゴンに、平積みに、面陳に、カテゴリーごとの棚にと、あちこち並べるのは楽しそう。フェア終了時の返品のとき棚の古い在庫といれかえるのは目から鱗。今度書店にいったら平台をみて棚を作った書店員さんの思考をのぞいてみようと思う。

  • 書店員の“ホントの”しごとがわかる本。
    読んでからいきつけ本屋さんを眺めると、なぜ居心地がいいと感じるのか、わかるかも?!

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    書店員を36年間されていた矢部潤子さんによる、“本を売る技術”を解説した1冊。
    本の雑誌社・営業部の杉江由次さんとの対談形式になっているので、堅苦しさもなく、とても読みやすいです。
    各章の間には小林泰大さんによる補講があり、本の流通業界のしくみや用語の解説も書かれています。

    イメージする書店員さんのしごとといえば、パタパタはたきで本のホコリを取り、レジをし、雑誌を出す…というくらいでした。
    しかしこの本には、本をどう棚に置くか、届いた本を店頭に並べる品出し、返品の心得などなど、矢部さんの経験から繰り出される“本を売る”ための技術が、すさまじい勢いで解説されていました。
    そこには「本をいちばん良い状態で、お客様に手にとっていただく」「この本屋なら何かあるかも、と思っていただく」ために、ひたすら考えに考えて働かれていた矢部さんの姿が、スッと浮かびます。

    なんのビジネスでもそうですが、この本を読んで強く感じたのはやはり“本を売りたい”という熱意“だけ”では、本を売ることはできない、ということでした。
    そこにその“思考”と“お客様の目線”、そして“確かな技術と工夫”がなければ、本を売ることはできないのです。
    居心地のよい本屋さん、ここの本屋さんなら新刊を買ってもいい、そんな風に思わせてくれる本屋さんが今、どんどんなくなっているから、お客様は泣く泣くネット通販で本を買っているのかもしれません。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    この本を読んでしまうと、ついつい本屋さんに行ったときに書店員さんの働きを目で追ってしまうでしょう。
    そして、なぜこの本のような仕事をしていないのか、と書店員さんを責めたくなるかもしれません。
    でも、その仕事ぷりであるには、それなりの理由があるはずです。
    人件費を削られ、書店員を育てる仕組みがボロボロになっている…そんな裏側がもしかしたら、あるのかもしれません。
    だから、この本1冊で書店員の仕事を全部わかった気になって、書店員さんを責め立てないでほしいのです。

    それに、哀しいけれどそういう本屋さんはおそらく、何もしなくてもそのうちつぶれていきます。
    なぜなら居心地がよくない、そこで本を買おうと思えない本屋さんになっていくのですから。

    この本は、書店員さんを責め立てる本ではなく、書店員としての本質に還らせてくれる本でもあり、熱意に本を売る技術をのせる手助けをしてくれる本です。
    また本を買う側にとっては、いきつけ本屋さんの居心地のよさはどこからくるのかを教えてくれる本でもあり、涙ぐましい書店員さんの本を売るための努力を伝えてくれる本でもあります。

    すでに書店員さんの方、これから書店員さんになろうとしている方、そして本を買う側の方、つまりはすべての人にオススメなこちらの本。
    読みきったとき、きっとあなたは、ちがった視点から本屋さんを眺めることができるはずです。

  • 書店に行くとついチェックしてしまうこと、と言うか、気になって仕方がないことが2つある。ひとつは、本棚に表紙が見えるように本を置くこと(本書で知ったが、これは「面陳」と言うそうだ)、そしてポップ。
    本の陳列の基本は平積みと棚差しであるのは言うまでもないが、棚差しした本の間に表紙が見えるように本が置いてあることがよくある。当該の本を推したいと言う書店側の意思は分かる。分かるんだけれども、ワタシには本が傷まないか気になる陳列方法でしかない。角度が甘いと下に落ちやすくなってしまうし、角度が深いと本がたわんでしまう。そして、何よりも買い手の立場からすると、その本が取りにくい。細心の注意を払って取ろうとしても、落としてしまったことは一度や二度ではない。
    そして、ポップ。本の帯についている惹句とは別に書店員の言葉が書いてあるとついつい読んでしまうし、センスのいいポップには唸ったりする。でも、ポップがあると、そのポップの後ろにある本が見えない。さらに、ポップを支える針金が本を傷めるんじゃないかと気になって仕方がない。
    かなりマニアックで神経質なことだと思って、これまで誰にも言わずにいたのだが、本書はこの2つの心配を正面から取り上げてくれ、明快な答を出してくれた。同じように気になって、対処していた書店員がいたのだ。ワタシは決してマニアックでも神経質でもなかった。実に喜ばしい。

  • 何気なく訪れていた本屋さん、こんなに綿密に計画して売り場を作っていたことに驚きました。
    次回からはいつもと違った角度で楽しめそうです。

  • 何人もの先輩達から断片的に教えてもらってきた事。
    なんとなく、こうがいいなと思ってきた事。
    そして新たに教えてもらう事。
    この本は、生きた知恵、技術が詰まっている。
    きっと何十年も古びないだろう。
    もっともっと矢部さんの話が聴きたい。

  • 本屋の仕事の一端がリアルにわかって面白かった。
    本の並べ方、棚の作り方、発注の仕方、見せ方など、本屋じゃなくてもすごく参考になります。
    同じ価格で同じものを、自分の店ではどう売るか。
    本屋さんは常にそこで戦ってる。エライと思います。

  • 本屋で働く新しい人たちへの10ヶ条
    の最後には
    そして本を愛しすぎないこと
    という項目が。基本、本を愛してやまない人たちだからこそだろう。

    小さな本屋や古本屋はオーナーの意図のある品揃え
    が魅力だけれど、大きな本屋は、客の欲する本が手
    に取りやすく、美しい状態でそこにあるように、毎日出る大量の新刊を捌きながら奮闘してくれている。
    ネット通販や電子書籍におされる時代の中でも、色々な本に出逢わせてくれるワクワクする空間が
    ずっとそこにあって欲しい。

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著者プロフィール

1980年芳林堂書店入社、池袋本店の理工書担当として書店員をスタート。3年後、新所沢店新規開店の求人に応募してパルコブックセンターに転職、新所沢店、吉祥寺店を経て、93年渋谷店に開店から勤務。2000年、渋谷店店長のときにリブロと統合があり、リブロ池袋本店に異動。人文書・理工書、商品部、仕入など担当しながら2015年閉店まで勤務。現在は(株)トゥ・ディファクトで、ハイブリッド書店hontoのコンテンツ作成に携わる。

「2020年 『本を売る技術』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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