押井守の映画50年50本 (立東舎)

著者 :
  • 立東舎
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感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784845634446

作品紹介・あらすじ

「1年に1本のみ」という縛りで選ばれた、
50本の映画解析。
キューブリック、タランティーノ、ポン・ジュノからデル・トロまで
押井守の映画半世紀!
「前書き」より
そんな映画まみれの男にその映画人生を回顧させつつ、昔はものを思はざりけり(権中納言敦忠)の高校時代から現在に至るまで、その年ごとに公開された映画の中から1本の映画を選ばせて(思い出させて)語らせたら、映画マニアあるいはシネフィルと呼ばれる読者になにがしか益するところがあるのではないか。あわよくば高度経済成長からバブルを経て昨今のヘタレた日本の戦後史の一部を、映画を通じてフレームアップできるのではないか--と、企画者および編集者は考えたのでしょう(確信的推論)。

感想・レビュー・書評

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  • 【メモ】
    「映画を見ること」と「見た映画について語ること」は別の経験に見えて、その実は全く同一の経験である。いや、より正確に言うなら「映画を見ること」は「見た映画について語ること」によってしか成就しない、「映画は語られることによってしか存在し得ない」のだとして、しかし振り返ってみればその「語られた映画」と「見られた映画」は、実は依然として全く別に存在するものなのだ、という不可思識さこそが「映画を見る」という行為の真相なのです。

    「2001年宇宙の旅」の最大の功績はあの音楽を用いて宇宙の時間を描いたこと。あの滑るように動く宇宙船。巨大宇宙船をゆっくり動かすことで、宇宙そのものの壮大な時間を演出してみせた。これをエポックメイキングと呼ぶんだよ。エポックメイキングの定義って、自分に言わせればそれだけだから。エポックメイキングと化した作品のゲートを通らないと、その世界に入れない。その部分を変更すると、もはやそのジャンルではなくなってしまう。圧倒的な影響力を確立してしまった作品をエポックメイキングと呼ぶんだよ。

    当時の自分が基準なら 『2001年宇宙の旅」を選ぶけど、いまの自分が基準なら別の映画を選ぶ。この本の主旨に関わる部分だから、あえて最初はもう1本選んで、並べて語ってみたい。両作品というか両監督を比較することで、キューブリックに愛想が尽きた理由も明確に見えてくると思う。

    いまの自分を基準にして1968年の映画を選ぶのなら、セルジオ・レオーネの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト」をセレクトしたい。公開当時は 『ウエスタン」という邦題だったのだけど。
    ――押井監督が「2001年宇宙の旅」を選ばないとは、意外ですね。
    意外でもなんでもないよ。「2001年宇宙の旅』を選びたがる気持ちは分かるし、こういう映画ははずしづらい。でもそれは映画を教養で語りたがる人間の悪癖だと思っている。教養で映画を選ぶのではなく、「もっと自分の欲望に忠実になろうぜ」ってことだよ。キューブリックとレオーネ。いま繰り返し見たい映画はどっちだ?となったら、そりゃあレオーネに決まっているんだよ。
    ――おお。それはなぜですか?
    映画の本質が分かってきたから。別の言いかたをするならば、「映画としての語り口の面白さ」かな。けっきょく映画ってそれしかないんだなって、最近つくづく思うようになったんだよ。

    ストーリーとは別物。映画としての豊かさ。僕の言葉で言うと艶っぽさかな。当然、レオーネのほうが艶っぽさがある。スケール感で言えば、両方ともスケール感を撮った映画ではあるんだよ。レオーネのテーマは常に歴史だったから、必ずスケール感をともなっている。

    「愚作駄作を回避するな」と。傑作だの名作だの言われているものだけ見て、映画を分かった気になるなってことだよね。なくとも、ジャンル映画と言われるものには快感原則と言われるモノの秘密が必ずある。それでいて、ヤクザ映画と実録映画の快感原則は明確に異なるんだよ。そして観客は無意識にそれを嗅ぎ分けてしまう。だからこそブームになる。だから色々探る。いろいろバリエーションを試す。
    自分1人で、ものを作って、それを繰り返すなかで本質が掴めるとは到底思えない。他人の体験も自分の体験にすることで本質が見えてくる。映画はそのために見るんだよ。

    映画なんて基本的にアウトローの仕事で、世の中にケンカを売るのが筋だったけど、日本の戦後社会が、すなわち高度に管理された資本主義社会が「アウトローの居場所」を認めなくなった。だから消えていった。ヤクザ映画に限らず、かつての日本映画は社会にケンカを売っていた。

    庵野が『新世紀エヴァンゲリオン 』を作る際に聖書を貸した。「聖書「外典偽典」という全集があるんだけど、それを。かなりマニアックな濃い本なんだけどね。イブがもう1人いるよう聖書の外伝のお話。それが「エヴァ」の元ネタになったんだよね。

    富野さんは屈折した人なんだよ。つくづく屈折していると思う。富野さんは「アニメ屋ごときが」とか「自分は作家になれなかった人間ですから」「所詮はおもちゃ屋の宣伝映像を作っているだけですから」とよく言うでしょ?アニメーションという業界自体が社会の吹き溜まりではあったんだよ。挫折した人間が寄り集まって、傷口を舐め合っている感じというのかな。そういう意識が横行していた時代ではあったんだけど、富野さんはその意識をいまだに引きずっている人。僕がアニメ業界入りしたときもそうだったんだけど、僕はその自嘲的な意識がイヤでイヤで耐えられなかった。「なんでそんなコンプレックスを持たなきゃいけないんだろう?」と僕は思っていたし、いまもそう思っている。自分の仕事にもっと自信を持っていいはずだよ。だけど、富野さんはそういうふうに屈折していて、本音を隠しながらアニメを作ってきた人なんだよね。その富野さんの本音が「逆襲のシャア」でいきなり炸裂した。

  • 押井守が高校生だった1968年から始まる映画史『押井守の映画50年50本』刊行 - 書籍ニュース : CINRA.NET
    https://www.cinra.net/news/20200805-oshiimamoru

    【連載エッセイ】押井守の映画50年50本アーカイブ - コラム
    http://rittorsha.jp/column/5050/

    押井守の映画50年50本 | 立東舎
    http://rittorsha.jp/items/19317409.html

  • 2020年8月立東舎刊。押井さんが1968〜2017年の50年50本の映画を語った本。押井さんの視点が面白く、本編の話は無論のこと、話に登場する他作品、人物たちも興味深い。巻末の作品索引、人名索引が楽しくて良い。最近は、電子原稿ありきだから、こういった索引は必須でつけるべきだと思います。添えられたイラストも楽しめます。

  • 図書館で借りて読んだらすごく面白かったので、手元に置いておきたくて購入。

    1年1本の縛りで選んだ50本を語った、質の高いインタビュー集だ。
    映画の観方が変わるような映評集であり、赤裸々な自作解題でもあり、映画をフィルターとした自伝(※)ですらある。

    ※むろん体系的な自伝ではないが、随所にある自分語りの積み重ねで、読み終えるころには押井の高校時代から現在までの半生が把握できてしまう。

    延べ25時間超に及んだというインタビューを凝縮していて、たいへん中身が濃い。
    25時間超というのは、聞き書き本一冊のためのインタビューとしてはかなり長い事例である。6時間程度のインタビューで一冊が書かれるケースも多いのだ。

    また、インタビュアーが映画全般と押井作品について造詣が深く、質問やツッコミなども的確。丁々発止のやりとりが心地よい。

    本の作りも丁寧だ。
    一例を挙げれば、取り上げた各作品について、「DVDのジャケ写を使って一丁上がり!」の安直なやり方を取らず、イラストレーターがイラスト化している。

    何より、目からウロコが落ちるような卓見が随所にある。
    それは、若いころには年1000本もの映画を観ていたという筋金入りのシネフィルであり、40年以上にわたって映画・アニメの実作者として生きてきた押井ならではの卓見だ。
    観ているだけの映画評論家にはない、実作者ならではの視座が新鮮である。

    押井守ファンなら必読。ファンでなくても、映画好きなら楽しめる本だ。

  • 「見て終わる」ではなく「見て語る」

    押井守は正直だ

    1968年『2001年 宇宙の旅』から2017年『シェイプ・オブ・ウォーター』まで、押井監督が毎年1本の映画を選び語る
    その1本は必ずしも監督にとってのベスト映画っていうわけではなく、語りたい1本

    キューブリックに愛想を尽かし、リドリー・スコットを“サー”と呼び敬愛する監督
    自らの演出論や自身の作品への引用を語る
    『ベイブ/都会へ行く』なんて認めてないのに語る

    押井監督は来年70歳かあー

    映画について語りたくなる一冊

    • goya626さん
      攻殻機動隊、ファンですよ。何回も見ています。
      攻殻機動隊、ファンですよ。何回も見ています。
      2021/02/18
    • カルリン書房さん
      攻殻機動隊は、押井監督のいうところの“エポックメイキング”ですね
      攻殻機動隊は、押井監督のいうところの“エポックメイキング”ですね
      2021/02/18
  •  著者が映画を見はじめた高校時代から現在に至る50年。その間の数多の作品を「1年に1本のみ」という縛りで選んだ50本の映画解説。

    「あわよくば高度経済成長からバブルを経て昨今のヘタレた日本の戦後史の一部を、映画を通じてフレームアップできるのではないか」

     という著者というか企画制作側の意図が上手く反映されたかは定かではないが、

    “「映画を見ること」は「見た映画について語ること」によってし成就しない、「映画は語られることによってしか存在し得ない」のだ”

     という著者(というか本書の場合、語り手)の思いは存分に汲み取れたか。確かに、こうして語ると面白いのかもしれない。多い時には年間1000本見たという著者ならではの、縦横無尽な、業界の裏表も知悉した分析は、映画を楽しむ新たな視点を与えてくれそうだ。

     自分も昔、映画を見はじめた大学生の頃は、年間200本ほど鑑賞し、ひとりの役者、ひとりの監督の作品を通して観るなんて鑑賞方法も採っていた。そうでもしないと、それまでほとんど映画なんて観てこなかったハンデを克服できないと考えたから。要は、体系的に映画を学ぶような、そんな鑑賞の仕方だった。

     今は違う。むしろ、この監督の作品だから前作と較べてどうだとか、このジャンルの作品では他にこんな作品がありそれとの比較で、と言った見方はやめようと思っている。予備知識もなにもなく、素のままで見てみた作品そのもの、単体としてどんな味わいがあるかを楽しもうとさえ思っている。

     とはいえ、こうした(本書のような)作品比較、あるいは同じ監督作品の第1作からその作品までの並べて俯瞰して見てどうか、という批評も悪くないし、語るには値するだろう。
     でも、まだ今はいいや。そんな楽しみ方は、もう少し鑑賞した作品群が増えてからでいいだろう。今は、年間50~80作を、極力劇場鑑賞で楽しもうと心がけている。そう思って数年が経ったか。その合計ですら押井守の年間1000本に及ばないが、数が増えてくれば、自然と、横串を通してなり、俯瞰して語れるようにもなるでしょう。

     本書は、そういう意味で、1作1作の映画評ではない。 当人も、

    「いい映画だからという理由で「50年50本」を選んでいるわけではない。映画の正体に近づくために、映画の正体について語るために50本を選んでいる。だから、傑作をセレクトするわけではないんだよ。」

     と語っているように、己の映画論、監督論を語らんがためのセレクションだ。
     それでも、古典と呼ばれる作品は何が優れているか、映画が持ちえる時間の表現方法、音楽と音声と映像の組み合わせ方、映画監督がやってしまう2つのこと等々、やはり、単なる映画ファンでは持ちえない、映画製作を職業とした者ならではの考え方は傾聴に値する。
     作品の背景を楽しもうとか、制作された意義とかよりも、なぜこの監督はこう作ったのかとか、どう撮れば、あるいはどうすれば成功したのか(興行的にという意味ではなく、作品として成立するか)という視点は一貫している。

     自分の映画空白の時代(2005-2015)の面白そうな作品も紹介してくれていたので、本書を参考に観てみようとも思った。

  • アクションと暴力はちがう

  • 映画全く知らないけど演出論に触れられて面白かった。

  • 20.8.13〜14

  • 富野さんのホンネが人類粛正なのは、最初から変わっていない。
    問題は、ガイゾックやイデのような圧倒的な暴力に「粛正される」ことはあっても、テンパった人間による粛正は絶対に成就しないこと。
    要するに、ご当人同様に腑抜けなのであって、だから、ザブングル以降、全てナンダコリャにしかならない。

    一方、押井先生の方は、なんでそんなに「スカイ・クロラ」の自己評価が高いの、ということが全く理解不能。

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著者プロフィール

映画監督、作家。1951年、東京都大田区生まれ。
竜の子プロダクション、スタジオぴえろを経てフリーに。主な監督作品に『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(84)『天使のたまご』(85)『機動警察パトレイバー the Movie』(89)『機動警察パトレイバー2 the Movie』(93)『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(95)。『イノセンス』(04)がカンヌ国際映画祭、『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(08)がヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品。実写映画も多数監督し、著書多数。2016年、ウィンザー・マッケイ賞を受賞。

「2024年 『鈴木敏夫×押井守 対談集 されどわれらが日々』 で使われていた紹介文から引用しています。」

押井守の作品

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