権力 VS 調査報道

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784845112364

作品紹介・あらすじ

日本を揺るがしたあのスクープはどのようにうまれたのか。新聞記者たちの地道な取材が「権力の壁」を打ち破る!スクープの舞台裏を語る迫真の証言集。

感想・レビュー・書評

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  • 調査研究について何の興味もなかったけど、
    ただ、タイトルの 権力 の文字を見て、手に取ってみた。
    調査報道は誰のためか。
    それぞれ記者の思いや考え方が違う。目的も違う。
    だけど真実を追い求めることには、変わらなかった。

    調査の仕方や切り口の展開などは、
    論文にも通じますな。
    テーマの端緒が大事らしい。

  •  先月末の事。安倍首相とロシアのプーチン大統領がモスクワで会談し、その後記者会見が行われた。両国間で経済協力を拡大する一方、領土問題に関する交渉も進めるとした両首脳に対し、日本のTBSの記者がした質問がネット上で話題になった。詳しい事は割愛するけど、ロシアが北方領土において実効支配を強めていることについて質したもので、この質問に対しプーチン大統領は「人から渡された質問か、両国間に妨げをつくりたいのか」といった内容の返答をした。
     ネット上では「バカ記者が空気の読めない質問をしてプーチンに怒られた!」と話題沸騰。この記者を小馬鹿にするコメントで溢れ返った。

     別に記者の質問が素晴らしいとは思わないが、ネット上の反応は異常だ。記者は「ロシアは日本からの投資を求めているが、その割には領土問題でも強気の姿勢ではないか」という事を質問している。当然の質問だと思うし、プーチン大統領は痛い所を突かれたので明確に答えず曖昧に返答したのだと思う。実際安倍首相もこの質問については無難な答えでお茶を濁している。(ちなみに記者側で聞きたい事をとりまとめて代表した一人が質問すると言う事も記者会見では普通の事だ)
     ヤバいなこれ言ったら怒るかな、なんて「空気を読んで」質問する記者がいたらそいつこそバカだと思う。大体記者の質問一つで壊れるような交渉であれば、それだけのものなのだ。政治家というのは権力者である。市井の人々ならまだしも、メディアの人間が権力者の顔色をうかがっていては無意味だろう。
     しかしネット上の論調は権力者の側を絶賛するものばかりだった。僕はインターネットに新しい民主主義が生まれる事を期待している人間なので、この反応にはガッカリした。結局、既存の大手マスコミが嫌い、という感情で批判していることが明らかだったからだ。

     権力というものは大変恐ろしい力である。普段意識することはあまりないが、特に国家権力というものは市井の人々を容易に飲み込むほどの力がある。
     それに対抗する力とは何か。現代ではインターネットというグローバルなツールがあるし、インターネット登場以前は大手マスコミがその力を持っていた。「言論」という力だ。
     しかしテレビ・新聞に代表されるマスコミも、戦後の長い歴史を経る中で肥大化し、腐敗も指摘されるようになった。権力は腐敗する。権力のカウンターとして存在したマスコミという「権力」もまた腐敗するのである。
     しかし、そんなマスコミの中にもまだこんな仕事をしている人がいるのだ、という実例を集めたのが本書『権力VS.調査報道』である。
     権力に挑んだ調査報道について、新聞での実例を4例取り上げている。

     近年のマスメディアの凋落と、調査報道の重要性については、元・日本経済新聞記者である牧野洋氏の著書『官報複合体』(講談社)に詳しい。マスコミの最大の仕事は権力を監視することであり、権力に癒着して特ダネを追いかけることではない。しかし現在、それができている報道機関は多くない。そう、多くないが、それでも権力に食らいついているメディアもあるのだ。

     本書で取り上げられている事例は、朝日新聞によるリクルート報道、琉球新報による地位協定関連のスクープ、高知新聞による高知県闇融資問題報道、朝日新聞による大阪地検特捜部証拠改ざん事件報道の4つ。それぞれ政治権力、外交機密、地方権力、捜査当局の闇に挑んだ調査報道である。
     これら4つの報道を比較することで、様々な事柄が浮き彫りになっていく。それは具体的な調査報道による成果だけでなく、マスコミというものの内部にある問題もだ。例えば「新聞」といっしょくたにされているが、同じ新聞でも全国紙と地方紙ではスタンスがまったく違う事。また例え同じ新聞社内であっても部署によってやっていることが全然違う事。一時期話題となった「オフレコ問題」や、震災後の福島における原発事故報道についても少し触れられている。
     メディアの傲慢さ、現場記者の苦しみ。
     高知新聞の事例において、こんな文章がある。「全国的にみると、地方紙は書きまくっているのに全国的にはまったく知られていないニュースも少なくないのではないでしょうか」(p176) 地方に住む人間としては非常に重要な点だと思っている。

     マスコミの存在意義はかつてと比べると明らかに低下している。時代に合わない部分も多い。「読者の新聞離れというが、ほんとうは新聞の読者離れではないのか」(p138 ※孫引き)という言葉は重い。そしてこんな時代だからこそマスコミは本来の仕事を思い出さなくてはいけないだろう。

     全体を読んでいると若干、自画自賛的な臭いも鼻につき、こういう高飛車な態度がそもそもいかんのではないかという気もするが、報道の過程とその周辺を調査した、「調査報道の調査」という点でとても面白い。

  • 記者クラブ発表の報道は無視出来ないが新聞の本領は調査報道にある。リクルート事件のスクープは地検が立件を諦めたあとからの取材が結晶したもの。

  • 面白かったです!
    「調査報道」をしてきた記者の実際の経験に基づいた取材方法やそれに対する考え、そして調査報道に関する著者ら自身の考えなんかがとても上手く整理されていて、読みやすく、さらに勉強になりました。
    とても刺激を受けました。バイブル本になりそうです。

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著者プロフィール

1960年生まれ。法政大学卒業後、1986年に北海道新聞社入社。経済部、東京政治経済部などを経て、報道本部次長、ロンドン支局長を務める。2011年に退社。フリージャーナリストを経て、2012年から高知新聞記者。北海道新聞時代の1996年、「北海道庁の公費乱用」報道の取材班メンバーとして新聞協会賞、日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞奨励賞を受賞。2004年に「北海道警察の裏金問題」報道の取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、JCJ大賞などを受賞。著書・共著に『権力vs.調査報道』『希望』(以上、旬報社)、『真実――新聞が警察に跪いた日』(角川文庫)、『@Fukushima――私たちの望むものは』『メディアの罠』(以上、産学社)など。2017年4月より東京都市大学メディア情報学部教授。

「2019年 『「わたし」と平成』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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