鉄路の果てに

著者 :
  • マガジンハウス
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784838730971

作品紹介・あらすじ

「だまされた」
父が遺したメモを手掛かりに、
気鋭のジャーナリストが戦争を辿る。
いつの時代も、国は非情だ。

本棚で見つけた亡き父の「だまされた」というメモ書き。
添えられた地図には、75年前の戦争で父が辿った足跡が記されていた。
どんな思いで戦地に赴き抑留されたか。
なぜ、犠牲にならねばならなかったか。
薄れゆく事実に迫るために、韓国・中国・ロシアへ。

国は過ちを
繰り返してきた。
何度も。
これからも。

目次
序章 赤い導線
1章 38度線の白昼夢
2章 ここはお国を何百里
3章 悲劇の大地
4章 ボストーク号
5章 中露国境
6章 シベリア鉄道の夜
7章 抑留の地
8章 黒パンの味
9章 バイカル湖の伝説
終章 鉄路の果てに

感想・レビュー・書評

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  • 初老版『深夜特急』by沢木耕太郎
    ジャーナリストの清水潔氏と小説家の青木俊氏によるドタバタ鉄道旅行記。いや、本来はそういう読み方ではなく、戦争を巡る日本とロシア周辺の歴史を辿る旅でもあり、重々しいテーマを取り扱ったものだ。しかし、それを2019年にタイムトリップして当に現代を旅するものだから、まるで意識したかのような〝戦争と今“のコントラストを表現した名著。楽しく読める分、凄惨な歴史が沁みるような仕立てと言えるかも知れない。

    「だまされた」亡き父の書棚、一冊の本に貼り付けられたメモ用紙。本の表紙には『シベリアの悪夢』、ミステリー小説のように始まる物語は、清水潔のお家芸。この〝読ませる文章“、開始から終わりに一本のドラマを敷くストーリーテラーでもあるジャーナリストとしての表現力が著者の魅力だ。しかし、結局、何がだまされたのかは、本編とあまり関係ない。シベリア抑留そのものが確実に騙されているし、戦争自体が民間人には国に騙されたとも言える。或いは単に私的な悔恨かも知れない。

    著者の筆力に頼り、そして青木センセイの奔放さ、人間力を放ち、旅が続く。ぬるい酒、不味い飯、強引な車掌、そしてほの暗い歴史。いけいけシベリア鉄道ボストーク号。本筋とズレるが、本著で改めて、文章には細部の数値が大切だと再認識。数値により厳しさの度合い、規模感、歴史の順序が伝わってくる。

    下記にメモ書きしておきたい。

    万里の長城は東端の山海関まで6352キロ、ウラジオストクからモスクワまで走るシベリア鉄道は9300キロ、日本が1889年に開通させた新橋・神戸間の東海道線は600キロ。
     
    1959年になってからハルピン郊外で大慶油田が発見。1973年には日本人が試掘していた場所の近くで遼河油田が見つかり、中国は戦後世界第6位の原油生産国へ。

    日本が朝鮮半島に敷設した鉄道は1435ミリ幅。ロシア軍が敷設した東清鉄道は1524ミリ。この違いは本編でも触れられるが、重要なポイントの一つ。

    バイカル湖はアジア最大の湖で首位は2100キロ。面積は九州と同じ位。深さは世界一で1673メートル、透明度も世界一。

  • 私が読んだことがある本書の筆者、清水潔の他の著作は、「桶川ストーカー殺人事件-遺言」「殺人犯はそこにいる-隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件」という傑作ノンフィクション2冊であるが、本書は、その2冊とは随分と趣の異なる本だ。
    清水潔の父親は、第二次大戦中に満州に、鉄道部隊として出征する。満州で終戦を迎えたために、終戦間際に宣戦布告してきたロシア軍の攻撃を受け、シベリアの強制収容所に抑留される。日本に引き揚げることができたのは、1948年、終戦から3年後のことであった。その父親が亡くなったとき、父親の本棚で清水潔は「だまされた」というメモ書きと戦時中父親が辿った土地の地図が残されていた。
    本書で、筆者は父親の地図の足跡を辿る。ソウルを訪れた後、中国ハルピンからシベリア鉄道に乗り、父親の抑留されたイルクーツクまでたどり着く。そういう意味では、本書は父親の足跡を辿る紀行文であるが、それだけにとどまらない。中国・ロシアを通ることもあるが、日清・日露戦争まで遡り、日本が第二次大戦に突き進んでいく経緯を語る。筆者の父親は、そういった大きな歴史の流れに飲み込まれた犠牲者でもある。
    父親が「だまされた」とメモに記したのは、日本が戦争に突き進み、自分は軍隊に召集され、満州に行き、敗戦を満州で迎え、ロシア軍の攻撃を受け、強制収容所に抑留された経験そのものが全て「だまされた」ものであったのだ。

  • 戦争にノーと言うために必読ノンフィクション7作。ジャーナリスト清水潔はこう読んだーー国家・権力・取材・生きること|マガジンハウス書籍部
    https://magazinehousebooks.jp/n/n89f01b221d17

    『鉄路の果てに』 — 清水 潔 著 — マガジンハウスの本
    https://magazineworld.jp/books/paper/3097/

  • 『桶川ストーカー殺人事件―遺言』、『殺人犯はそこにいる』という調査報道における金字塔とも言える二本の名作によりその名を高めた清水潔。帯には「気鋭のジャーナリスト」と評されているが、この二本については、その表現ではまったく不足している。現在の「ジャーナリスト」の枠からははみ出した、特異なる成果であると言っても言い過ぎではない。そして、この二本のスクープ報道の取材体験から、警察への不信、司法への不信、官僚への不信、マスコミへの不信がさらに募ったことは間違いない。それはシステムに埋没する個人への不信感であったはずだし、それに抗って自らリスクを負って義に寄って立ってきたという自負があるだろう。

    その後の日本テレビに移籍後の『「南京事件」を調査せよ』では、過去に遡ってかつての官僚的システムの最大のもののひとつであった日本軍とその行状について糾弾した。果たして、この企画が、清水潔の企図したことが実現されたのかは不明だ。しかし、清水潔の思考の傾向が、具体的な出来事に基づく反警察・反司法から、より大きな「反政府」に傾いているように思われた。

    本書は、かつて自分の父が戦時に朝鮮半島から満州・ロシアにかけて兵士として陸軍鉄道聯隊に従軍し、そして終戦を満州で迎えてイルクーツクまで捕虜として移送された鉄路の旅を、息子である著者が75年の時を超えて再体験したものを記録したものである。あの戦争を考えるにおいて、満州を抜いて考えることはおそらくできない。その意味では父に導かれて「近代史」というものを改めてきちんと考える時間であったのではないだろうか。それは、『南京事件』プロジェクトをリードしたジャーナリストとしては、魅力的な題材であったはずだ。その点で残念なのは、 友人の元記者で小説家でもある青木俊さんと同行したことかもしれない。テレビ東京の北京支局長を務め、大学でロシア語を専攻しており、何度もロシアへ足を運んだことがあるという理由もあって同行しているのだが、酒飲みであり、また気心の知れた友人ということからどうしてもコミカルな描写を入れがちとなるのである。単身で乗り込むのか、もしくはロシア語はできなくとも日本近代史にとても詳しい誰かと一緒に足跡を辿っていれば、この本のトーンも大きく違ったのではないかと思う。それは好みの問題かもしれないが、大切な問題だ。

    「鉄道」に着目したいくつかのエピソードは確かに興味深い。軌道の幅が違うこととそのための苦労、バイカル湖を迂回する鉄道建設に至った話などは具体性、すわち歴史性があって面白い。その当時の戦争において、物資補給のための鉄道の重要性は死活問題でもあるから、おそらく色々な語られるべきエピソードはあっただろう。しかし、どうもすっきりと最後に置かれた次のメッセージに結びついてこない、どこかもどかしい読後感を持った。

    「同じあやまちを繰り返さないために。
    すべては、やはり「知る」ことから始まるのだと思う。
    戦争は、なぜ始まるのか――。
    知ろうとしないことは、罪なのだ。
    何かを学び、何かを知る旅。
    必要であれば、私はいつでもその地へ出かけていくだろう。
    たとえ、それが遥かなる鉄路の果てでも。」

    そういえば、村上春樹も中国に従軍した亡き父の話を書いた。あのころ、多くの人が多くの物語を抱えていただろうし、それはそれを引き継ぐべき世代にはどこか重くまた想像力の果てにあることであり、存命のときにはうまく消化しきることができる物語ではなかった。その物語の中に、自ら物語ることなく死んでいった多くのものたちが含まれる場合には特にそうだ。どこか感傷的で、そうしたくないであろうにも関わらず、どこか私的な、不思議な本。


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    『桶川ストーカー殺人事件―遺言』(清水潔)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4101492212
    『殺人犯はそこにいる: 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』(清水潔)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4104405027
    『「南京事件」を調査せよ』(清水潔)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4163905146
    『猫を棄てる 父親について語るとき』(村上春樹)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sa

  • 文庫Xでお世話になった清水潔さんのシベリア旅エッセイは、父親の残したメモをスタートに、自分が今まで知らなかった父のこと、戦争のこと、そしてシベリアのことをたどっていく。
    父親の残した「だまされた」というメモ。重くなりそうなテーマを抱えたこの旅は意外にも軽やかで楽しい。
    この旅に気持ちよさという彩を添えてくれたのは、同行者である作家青木俊さん。
    ロシアに何度も行ったことのある青木センセイのアドバイスと度胸と知識があってこその、この旅。最高の同行者は最高の旅を作るんだな、としみじみ。

    日本と大陸の関係、日清日露戦争、第二次世界大戦、七三一部隊、南京事件、シベリア出兵、敗戦、シベリア抑留…本当に、どこをどうとっても楽しい話はない。世界が犯してきた罪のその足跡をたどる鉄路。
    鉄道というものが果たす役割の大きさ、その存在の意味。
    希望や命を運ぶ鉄道の終着駅が絶望と死である「戦争」のそのおぞましさも目の当たりにする旅。
    そのひとつひとつと、父親の足跡とを自分の中で消化していく。多分一人旅であったら続けられなかったのではないか。豪快にウォッカを飲みながらわははわははと笑い飛ばしてくれる青木センセイの存在が冷たい旅に温かさをもたらしてくれている。あぁそうか、もしかすると青木センセイはわざとそんな風にしていてくれたのかも。
    なんて考えながら、傑作『潔白』の表紙のような写真を撮ってくれという青木センセイのリクエストに応えて撮った一枚が、どんな風だったかを読んで思わず吹き出してしまった。いや、それ見たかった…

    全体的に軽やかに楽し気に仕上がっているこの旅の一冊が、実はものすごくたくさんの重く深い事実を含んでいることに読み終わってしばらくしてから改めて気付くだろう。
    私たちが生きている今、どんな歴史の上にこの時間が成り立っているのか、誰から、何を受け取ってきたのか、それをゆっくりと考えたい。

  • 非常に読みやすく、勉強になった。令和版深夜特急といった感じ。鉄道と戦争の関係が非常によくわかった。満州やシベリア鉄道、ぜひ行って、乗ってみたい。

  • 国は民衆の命を犠牲にして戦争を仕掛ける。権力者は民族云々という空疎な思想によって暴走する。戦死によって労働力を失った戦勝国は、捕虜を尊厳無視して強制連行する。そこは極寒のシベリアであり、乏しい衣食住によってさらなる落命を連鎖させてしまう。この書籍ではその責任を問うのではなく、現在の街を行き交う道程と戦後の変貌を辿っていく。そこに戦争の空気は消えてしまっても、人びとの記憶はまだらに残されている。戦争を知らない、ではなく、知ろうとする、そして誰も幸せにならない戦争をしてはならない。と痛感する。

  • 2022/12/31
    戦争へと向かう、危うい今を思う。

  • 積読2年笑

    著者とお父様が、私と私の父のちょうど10歳上で、色々と考えました。私の父は旧制中学3年が敗戦の年で、8月後半は、動員先で戦争協力の証拠破棄していたそうです。

    親族でシベリア抑留された人はいないので、通り一遍の事しか知らなかったですが、元気があれば関連書籍も読みます。

  • 著者の亡父の太平洋戦争史を辿るという話。
    父は満鉄に勤務したのち、シベリアの捕虜で強制労働させられたという。
    清水さんの本だから期待していたけど、父の話はほとんどなく、シベリア鉄道の珍道中がほとんどで微妙な内容だった。

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著者プロフィール

昭和23年生。皇學館大学学事顧問、名誉教授。博士(法律学)。
主な著書に、式内社研究会編纂『式内社調査報告』全25巻(共編著、皇学館大学出版部、昭和51~平成2年)、『類聚符宣抄の研究』(国書刊行会、昭和57年)、『新校 本朝月令』神道資料叢刊八(皇學館大學神道研究所、平成14年)。

「2020年 『神武天皇論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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