- Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
- / ISBN・EAN: 9784838105748
作品紹介・あらすじ
戦中からの激動の日本―時代の顔を捉えた434点の写真でつづる林忠彦写真集決定版。
2018年、生誕100年を迎えた林忠彦の生涯の仕事を俯瞰する。
記録としても貴重な戦中・戦後の写真、作家をはじめとする著名人の肖像写真、また晩年の東海道シリーズに代表される日本の風景をとらえた写真などを収録。
瀬戸内寂聴の特別インタビューをはじめ、林忠彦と親交の深かった井上靖、大佛次郎、東郷青児のエッセイも掲載し、人間・林忠彦の魅力にも迫る一冊となっている。
感想・レビュー・書評
-
林忠彦(1918~1990)は昭和を代表する写真家の1人である。
彼の代表作は、何といっても本書の表紙にもなっている、銀座のバー「ルパン」での作家・太宰治の1枚だろう。
写真は一瞬を切り取る。
その人らしさを捉えた一枚に至るには、人の内面に切り込んでいく気魄と、本質を捉える眼力がいる。
林は人物写真を撮ることを「決闘」に譬えたという。それは被写体と写真家との火花の散るような「果し合い」なのだ。
本書には林の代表的な写真を収める。
駆け出しであった頃の戦中・戦後の日本、そしてアメリカのドキュメント。
円熟期の「日本の作家」「日本の画家」「日本の家元」といった人物像シリーズ。
晩年の東海道や長崎などの風景写真。
作家のポートレートとしては、酒場の太宰のほか、足の踏み場もない仕事場の坂口安吾、特急「はと」でポーズを取る内田百閒、縁側に座る幸田文、横顔の志賀直哉、ちょっと艶めかしい瀬戸内晴美、谷崎潤一郎の横には松子夫人、白馬にまたがる三島由紀夫。
どの作家も直接知るわけではないのだが、いかにも「その人らしい」と思わせる1枚になっている。
個人的には、戦中・戦後のドキュメントをもっともおもしろく見た。
戦時、訓練や演習に励む人々、割烹着を来た大日本婦人会。
戦後、復員兵や浮浪児、配給に並ぶ人たち。
戦時下の不安の中にもどこか高揚感が感じられ、一方、戦後の窮乏下でもしたたかに生き抜く庶民がいる。
林のファインダーは人々の生命力を鮮やかに切り取る。
この人はおそらく、人間が好きだったのだろうと思う。
晩年の、人が写っていない風景写真にも、どこか人の営み、息遣いが感じられる。
昭和の熱気を時代とともに駆け抜けた写真家。
あれこれ背景に想いを巡らせる余地のある、懐深い写真集である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ふむ