ヤービの深い秋 (福音館創作童話シリーズ)

著者 :
  • 福音館書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834084771

作品紹介・あらすじ

秋はしだいに深まり、冬ごもりの支度におおいそがしのヤービたちは、博物学者であったグラン・グランパ・ヤービが、ややこし森でみつけたという、まぼろしのキノコ、ユメミダケを探す冒険に出発します。同じころ、フリースクールの生徒ギンドロと、ウタドリ先生たちも、ギンドロの見つけた不思議な手紙に導かれ、テーブル森林渓谷、ヤービたちのいうところのややこし森へと向かっていたのでした。ヤービシリーズ待望の第二弾。

感想・レビュー・書評

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  • フリースクール教師のウタドリは、いつものように休日にマッドガイド・ウォーターでボートを浮かべていたところ、そこに住む、不思議な生き物の友人ヤービから、ややこし森で採れる、不思議な夢を見られるきのこ「ユメミダケ」について聞かされる。彼女は、その少し前に、帰省先から戻ってきた生徒の一人ギンドロから、付添なしでは行かれないテーブル森林渓谷(=ややこし森)に行きたいと言われていた。ギンドロを産んですぐに意識不明になった彼の母親の容態がここのところ良くないと知った彼女は、庭師のカンヌキとともに彼をそこに連れて行こう考える。カンヌキは、テーブル森林渓谷のことなら何でも知っていて、テーブル・マッシュルーム(=ユメミダケ)の専門家だったという、スクールの創始者ビッグ・オークに同行したことがあった。
    時を同じくしてヤービも、友人トリカの母親の頭痛薬にするためにユメミダケを採りにややこし森への冒険に向かう。

    不思議なきのこをめぐる小さなヤービの冒険と人間の旅とを、美しい秋の自然を背景に描くファンタジー。






    *******ここからはネタバレ*******

    「岸辺のヤービ」の続編。

    前回、ヤービの引っ越しと環境破壊について触れられていたので、今回はこの話かと思いましたが違いましたね。
    また今回は、ヤービの世界よりも「大きい人たち」の世界について重点が置かれているようです。
    寄宿制のフリースクールということで、少なくない、家庭に事情のある子どもたちが取り上げられています。あまり行動的には見えなかったウタドリさんも、今回は積極的に動いています。そして、曖昧ながらもウタドリさんの過去にも触れられます。

    読んでいる私には、ウタドリさんたちが「現実」で、ヤービたちが「ファンタジー」に感じられて、現実の辛さが、ヤービの優しい世界で薄められていくように思えます。

    さらに、今回はウタドリさんが「教師」として登場するせいか、教訓的なものがあちこちに散りばめられているようです。
    たとえは、ヤービが、5,6年に一度しか実をつけないブナの実を「もっといっぱいとってきたらよかった。まだあったのに」と言ったとき、ママ・ヤービが「ブナの実を楽しみにしているのは、ヤービ一族だけではありませんからね」とさりげなく言うとか、
    「秋のきもちを知る」ひとは、悲しくつらい気持ちを味わうときがおとずれるかもしれない、とか、
    パパ・ヤービが冒険に加わると決めたときに、ママ・ヤービが、「探索は子どもたちにまかせて、あなたはゆっくり後ろで見守っていらしてね」と念を押すとか、
    ギンドロの問いに答えて、カンヌキがウタドリの子ども時代のことを話そうとしたとき、彼女は止めたいと思ったけれど、「教師の失敗からも子どもは学んでくれるのではないかと思いなおし、私がはずかしさをがまんすればいいだけの話ではないか、と自分に言い聞かせ」た、とか、
    トリカの母親が、トリカに手ひどい言葉を返すのは、トリカの虚言癖のせいだったとか、
    ウタドリが、ギンドロの母の「自分で不幸にあまんじているような、メソメソした態度」にもやもやする、とか。

    でも、トリカが母親のために虚言癖をなくそうと決意するところには驚きました。この物語では、トリカの一族は悪気なくお話に嘘を混ぜるもの、それはそういうものとして、受け入れられていると思っていたからです。でも、トリカががんばって正直に生きていくとして、トリカ以外の例えば、トリカの父親とその一族の虚言癖はそのままなわけで、そうしたときに、彼女はその人達を、今以上に疎ましく思うことはないのでしょうか?


    やさしいお話に、これまたあたたかい挿絵がふんだんに添えられていて、ヤービたちの世界に癒やされます。


    残念なところは、前作を読んでから日が経っているので、ヤービとウタドリさん以外の登場人物についての記憶が曖昧で、読みながらなんとなく思い出していたこと。
    人物紹介や前作までのあらすじが欲しかった。


    前作以上に易しい言葉で書かれているので、中学年以上から読めますが、ファンタジーに浸りたい大人にもオススメです。

  • またヤービの世界に浸れる喜びを感じながら読み始めました。

    今回の語り手も、フリースクールの教師・ウタドリさん。
    水辺で暮らすクーイ族の男の子・ヤービとは友達で、彼から聞いたお話を私たちに教えてくれます。
    ウタドリさんとヤービ達はそれぞれテーブル森林渓谷へと出かけることに。
    ヤービ達は伝説のキノコ・ユメミダケを探すため。
    ウタドリさんは元気のない生徒の願いを叶えるため。

    第1章の章題がとてもすてき。
    「ひとりで、きげんよくしていること」
    ひとりの時間も楽しくごきげんで過ごせる人に、私もなりたいなぁ。

    それから「秋のきもち」という表現もすてきでした。
    自然の変化、例えば季節の移ろいや誰かの成長を感じて、ちょっとさびしくなるような気持ちのことを「秋のきもち」とヤービに伝えたウタドリさん。
    そのあとに、読者にこっそり教えてくれた、ヤービに言えずにいたことまで含めて「秋のきもち」のくだりは大切にしたいと感じたのでした。

    あと、余談ですが。
    『たのしいムーミン一家』(トーベ・ヤンソン/著、講談社)を読んだときにも思ったのですが、”冬ごもり”という言葉のなんとすてきなこと…!
    ほとんど雪の降らない場所で育ったからか、しんしんと雪の降る中、温かく安全な場所で春を待つイメージに憧れてしまうのです。

    • しろくま みかんさん
      素敵な感想で、私も、ひとりで、きげんよくしていること、秋のきもち、ムーミン…とても共感します☺️
      素敵な感想で、私も、ひとりで、きげんよくしていること、秋のきもち、ムーミン…とても共感します☺️
      2022/09/17
    • すずめさん
      しろくま みかんさん、こんにちは!
      コメントいただき、ありがとうございます。
      感想読んでいただけてうれしいです!特に「秋のきもち」の部分...
      しろくま みかんさん、こんにちは!
      コメントいただき、ありがとうございます。
      感想読んでいただけてうれしいです!特に「秋のきもち」の部分、とても大切にしたいことが書いてあると思って、ノートにメモしました。
      ヤービの物語、これからも長く穏やかに続いてほしいな、と思っているシリーズです。
      2022/09/18
    • しろくま みかんさん
      本当にそうですよね、読んでいて心が穏やかになる作品で…。
      ムーミンもよいのですけれど、翻訳ではなく日本の作家さんのことばに直接触れられるので...
      本当にそうですよね、読んでいて心が穏やかになる作品で…。
      ムーミンもよいのですけれど、翻訳ではなく日本の作家さんのことばに直接触れられるので、心に響きやすいのも、ヤービのよいところだなぁと感じます。
      ムーミンも、いろんな方が訳されていて、その訳が良かったりもしますけれど。

      脱線してしまいました、これからもすてきな読書生活、楽しまれてくださいね。
      2022/09/18
  • ヤービが秋を感じるお話。

    ヤービたち小さい人がユメミダケと言っているふしぎな夢を見られるキノコをある理由で取りに行かなければいかなくなったヤービたち。
    そのキノコは幻のキノコで、満月の晩にしか見つけられなくて、探すのが難しい。
    ヤービたちはユメミダケを見つける事が出来るのか⁉︎

    面白かったです。
    早く続き読みたーい。

  • ちょうどこの時期(10月上旬)に読めて嬉しかった。産後に読んだせいか、ちょっとウタドリさんの「センセイ」な感じや、「模範的」すぎるヤービの両親やヤービの「子どもらしさ」が鼻につく場面も多いけれど、それでも、よかったと思う。秋らしさがストーリー全体に活きている素敵な作品だった。
    1巻と同じく、大人向けの児童書なのかなぁ(冒頭に、永遠の子どもたちへ、って書いてあるし…?)子供が読んだらどんな感想を持つんだろうか、と気になる。
    最終章のひとつ手前、「トリカのちかい」は、学生時代に出会ったある女の子を思い出して、余計切なくなった。
    「どの生徒にも、お宝はつまっているのです。ただ、それがここで明らかになることもある、ということなのでしょう」
    こともある
    んです、よね。そうだと思う。

  • 1作目の細かいところはほとんど覚えていなかったけれど、
    今回これを読んでいて、
    「あー私が生物科学に興味を持ったきっかけって、ヤービだったなぁ」
    とふと思い出しました。

    今回は秋のお話。
    私もp.100の「秋の気持ち」にかんして、共感というか、みんなおなじなんだとほっとしたっていうか、不思議な気持ちになりました。

    今回はウタドリさんの大きな人のフリースクールのお話が、個人的にとっても魅力的でした。もっと知りたいし、もっと読みたい~!

  • 「岸辺のヤービ」も良かったけど、これは本当に読めて良かった。
    「秋のきもちを知る」力を、信じ続けるということ。その力ゆえにいつかとてつもない悲しみを感じるとしても、世界の細々した秘密を感じるよろこびを捨てないということ。

    大きな人も小さな彼らも、お母さんを思う気持ちから森へ分け入る冒険をして、「世界の秘密」をたくさん見ることになる。
    「きょげんへき」を努力の末に克服して詩人になるトリカにも、幼い心にいっぱいの寂しさをたたえていたギンドロが最後に駆けだしていくのも、胸がいっぱいになる。そして相変わらずやさしいまなざしで全てが包まれている感覚。

  • すこーし風は冷たくなって、でもまだおひさまはあたたかい、澄んだ青い空のひろがった日に、庭でなにやら小鳥がさえずるのを聴きながら、この本を読めることのなんという幸せ!
    パンポンケーキ!なまえからしておいしそう!!
    そしてタンタンさんのつくってくれた外でたべるごちそう
    食べるの大好き人間なものでお話のなかにこーゆーおいしいものが、しかもおいしそうなイラスト付きででてくると
    もうそれだけで幸せになる。
    学校の生徒達にしても、トリカにしてもいわゆる標準的といわれる家庭環境でないなかで、生まれる気持ちってのはあるのだろう。
    まあ、標準的っといわれる家族の中にも色々ありはするのだけれど…。
    今回ヤービ達と大きい人は思わぬところで同じ時間を過ごすことになる。
    現実ではそんなうまい話があるものか、という人もいるかもしれない。でもこうゆう幸せな物語が子どもには絶対に必要だと思うのです。
    もちろん、かつて子どもだった、大人にも。
    そういえば一昨日は本当に綺麗な月でした。
    どこかでユメミダケが開いていたかも。
    そして今回も挿絵が可愛くて、可愛くて!!
    おはなしももちろん好きなのだけれど、この可愛らしい挿絵が本の魅力を倍増している〜。
    子どもたちが、自立する力を育んでくれるビックオークの学校はまさに理想。
    でも、タンタン夫妻の今までだとか、おそらく理想的でない世界が外には広がっていそう。
    秋を感じる心が、耐えられないほどの悲しみを感じることがありませんように。

  • ヤービ、なんか好きです!
    図書館の人から、(私に)オススメ!と言われて読みました。
    2冊目ですが、続く…と書いてあるので、シリーズ化して3冊目が出るのかな〜と思います。
    どなたか、情報お持ちでしたら教えていただきいです。
    小さな生き物(妖精みたいな)の冒険お話だけでなく、人間(教師)の世界との2つの世界のお話がリンクしたので、この続きが楽しみです。

  • マッドガイド・ウォーターシリーズのヤービ物語2作目。前作よりも人間(ウタドリさん)のシーンが多いし、冒険要素が強くてより楽しめました^^

  • シリーズ2冊め。
    今回はヤービたちの冒険もですが、ウタドリさんたち寄宿舎学校の物語の印象が強かったです。生徒たちの成長が伝わってきました。

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著者プロフィール

1959年生まれ。小説作品に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』『丹生都比売 梨木香歩作品集』『裏庭』『沼地のある森を抜けて』『家守綺譚』『冬虫夏草』『ピスタチオ』『海うそ』『f植物園の巣穴』『椿宿の辺りに』など。エッセイに『春になったら莓を摘みに』『水辺にて』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』『やがて満ちてくる光の』など。他に『岸辺のヤービ』『ヤービの深い秋』がある。

「2020年 『風と双眼鏡、膝掛け毛布』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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