ははがうまれる (福音館の単行本)

著者 :
  • 福音館書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834082456

作品紹介・あらすじ

多くの人のトラウマと向き合ってきた精神科医が、自身の経験や専門知識も交え、子育てのこと、母親を取り巻く様々な問題について、やさしく語りかけるエッセイ集。赤ちゃんの泣き声にイライラしてしまう、ママ友付き合いで自分一人がはずれているように感じる…。日常の小さな悩みや違和感、言葉にならない気持ちを丁寧にすくい取り、そこから抜け出すヒントを提示してくれます。月刊誌「母の友」連載時に多くの共感を呼びました。

感想・レビュー・書評

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  • 最初から母であるわけがない。
    母であろうと、産んだ瞬間から後戻りできない道を歩き始めるのだ。
    なのに、当然のように母であることを求められる。できないことを責められ、また自分でも責めてしまう。
    そんなことしなくていい。
    大丈夫。
    完璧である必要なんてまったくない。
    だって、育児しながら育自してるのだから。
    あの頃の自分に言ってあげたい。
    間違ってなかったよって。
    そう再確認できた作品でした。

  • 福音館書店からは毎月、親御さん向けの雑誌「母の友」が発行されています。

    その「母の友」にて2010~2015年に掲載されたエッセイをまとめたものが「ははがうまれる」という本です。
    著者は、母であり精神科医でもある宮地尚子さんです。

    この本は特に、子育てを始めたばかりの親御さんやまわりにいる方にオススメしたい1冊です。

    乳児健診では、子どもに絵本をプレゼントする自治体も多くなりました。
    子どもに絵本をプレゼントするなら、親御さんにも味方になってくれる本をプレゼントする試みも、あっていいと思います。

    もしわたしがもっと子どもが小さかったとき「ははがうまれる」を手渡されていたら、「母の大変さをわかってくれて、ここに味方がいてくれる」と、読みながら泣いていたでしょう。

    育児の方法を説いた本はたくさんありますが、そうした本は「こうした方がいいでしょう」という、あくまでも方法を教えてくれるものでしかありません。
    そして個々にちがう暮らしのなかでは、本通りになんて進まないことの方がたくさんあります。

    そのたびにお母さんは、うまくできない自分を責めてしまいがちです。
    失敗したこと、落ちこんだことを話す相手もなかなかいないお母さんもいます。
    ただ、聞いてもらえるだけで、お母さんの心は安心できて落ちつくのに、まわりに人はいても、話しを「聴いてくれる」人がいないのです。

    でも、「ははがうまれる」という本は、そんなお母さんの心にそっと寄り添ってくれるのです。

    「新しく生まれた子ども同様、新しく生まれた母も、育てられる必要がある。母になり、母をするという初めての経験を日々こなしていくためには、一緒に子どもの面倒を見ながらお手本を見せてくれる人、周りのサポートや優しいアドバイスが欠かせない。」

    「それに、二十四時間、大切な命の責任者であることは、とても大変である。共同責任者の存在がなければどれほど心細いことか。」(13ページ)

    はじめてのことは、なんでもドキドキして不安になりますよね。
    でも、なぜか育児においては「お母さん」になったとたん、完ぺきな育児を求められがちです。
    「お母さんだからやれて当然」「お母さんなのに、どうして泣きやませられないの?」そんな言葉が、お母さんのなかには鳴り響くいます。

    でもよく考えてください。

    お母さんだって、「お母さん」をするのははじめてなんです。
    そして「お母さん」と「子ども」はちがう人間なんです。

    子どもの気持ちがなんでもわかって、はじめからやることなすこと全部うまくいく人なんて、そんなスーパーマン、どこにもいません。
    にも関わらず、自分がそんなスーパーマンになれないけど、お母さんははスーパーマンになってね、と言われたらどう思いますか。

    また、なぜかお母さんが育児、お父さんが仕事みたいになっているご家庭もまだまだあると思います。
    お父さんは仕事の間、お子さんの命の責任者をお母さんに担ってもらえるのに、お母さんは24時間ずっとその役を代わってもらえないとしたら…おそろしいことですよね。
    そりゃお母さんだって重圧に押しつぶされて倒れるよ、って話なのです。

    「子どもであれ大人であれ、雨にも負け
    風にも負けるのが人間の常である。」(45ページ)

    「ここで気づいておいたほうがいいのは
    養育者にとっても赤ちゃんの泣き声はストレスであり、その上、周囲からもストレスをうけているという事実である。」(64ページ)

    64ページを読みながら、わたしは息子を産んで里帰りしていたときのことを思い出しました。
    産まれたばかりの赤ちゃんは、胎内の昼も夜もないころの生活リズムからまだ抜け出せていません。
    だから夜泣きをしてしまうわけです。

    息子も例にもれず、毎日夜泣きでした。
    何をしても泣きやまず、わたしもイライラしたり悲しくなって泣きながら、抱っこを続けていました。

    すると、夜中にトイレに起きたわたしの祖母がのぞきにきて、「ミルクが足らんのじゃないか」「寒いからじゃないか」と、あれこれ言ってくるのです。

    わたしからすれば、そんなことはとうに試しています。
    やれるだけのことはやっても、それでも泣きやまないから困っているのです。

    その時のわたしが欲しかったのは、アドバイスなんかではなく、「毎日夜遅くまで、がんばっているね」と、認めてもらうことでした。

    お母さんだから、赤ちゃんの泣き声はへっちゃら…なワケはないのです。
    イライラもしますし、お母さんとしての自信も砕かれます。

    周囲の方がよかれと思ってかけた言葉が、ますますお母さんを追いつめてしまうことがある。
    それを知ってもらうだけで、お母さんにとってはどれだけ助かることか。

    親御さんにとっては、心強い味方となってくれる本であり、周囲の人にとっては「親はこういうもの」という思いこみを壊してくれる本です。

    1本3ページのエッセイが、ぎゅっとつまったこの本を、たくさんの人に届けたいと思います。

  • 母の友で連載されていたエッセイ集。
    一つ一つはとても短いエッセイなので読みやすい。
    著者の人柄が現れているのか、文章も優しく温かい。
    しかし、

    母親の自己犠牲は美化されがちだが、実際には何のメリットもない。

    ズバリと清々しいほど言い切ってくれた!
    素晴らしい!!!
    この前後も夫に読み聞いてもらったのだが、「つまりこうやって夜な夜な読書をしていることが、妻(私)にとってのセルフケアってこと?」と聞かれた。
    確かに読書は自分の大切な時間だけど、それだけじゃなくて子ども抜きで社会との繋がりが欲しいんだよね。
    そこはなかなか理解してもらえなかった。残念。

    それから著者が家事なんてだーいきらい!と断言しているのも笑っちゃうくらい好印象。
    ああ、日本でもシンガポールのように朝食は屋台で食べるような習慣が生まれてほしい。

    華々しい経歴を見て驚いたが、人に優しく、自分を飾らない、とてもステキな方だと思う。
    母だけでなく父にも独身者にも読んでもらいたい一冊。

  • じんわり心に栄養をもらえた1冊。
    雑誌『母の友』2023年4月号に『母親のための酸素マスク』の話が載っていて、これは読まねば!と図書館で取り寄せた。精神科医で社会学の教授、という肩書も珍しく感じて興味を持った。
    ひとつひとつのエッセイが短く、読みやすい。ご本人の育児体験も書かれていて、いま小さい子どもがいる私にとっては、未来を見ている気分になったし、宮地先生の過去の後悔が今の自分につながる気もしてハッとした。
    育児に関するエッセイだけど、お仕着せがまじい感じもしなかった。こういうこと言ってくれる人が身近にいたらなぁ…。
    電車で赤ちゃんが泣いてるときは、親にとってもつらい。母性本能がないなぁ、と思う瞬間は私にもあって、「子どもとのコミュニケーションの中で育まれていく」というのも、「誰にとってもはじめてのことに失敗はつきもの」というのも元気が出た。
    いずれ私も、育児でつらいなぁーと思っている人に、お仕着せがましくない会話をできるようになりたいなぁ。子どもの成長に比べると、大人の成長は目に見えにくいんだけど、自分のなかでは少しずつでも成長していけたらいいなぁ。
    まずは保育園の行き帰りで、子どもをなるべく急かさないようにしたいけど、これもなかなか難しいんだよなぁ…。

  • 「母親の自己犠牲は美化されがちだが、実際にはなんのメリットもない。」

    この一言に尽きます。
    ありがとうございますと著者の手を取って言いたい。
    冷静な目と脈打つ心の両方をバランスを取って書いているのがとてもいい。
    今後、出産祝いはこの本にしたい。
    相手が女友達でも男友達でも。

  • 2021.02.08

    精神科医として働くが、この本では「母」であり
    かつて妊婦で新米母として戦ってきた著者のこれまでの振り返りと、「母として」像がある。
    経験者の言葉は重く深く、そして気づきがたくさんある。
    すぎてみれば…思うところがあるのは、人生皆同じだ。
    この目線は想像するしかない、失敗はしてなんぼ(命にかかわらなければ)先輩ママからのことばに励まされる。

  • 育児真っ只中の今、著者の言葉はじんわり心に響く。待ったなしの育児、どんどん大きくなる我が子。自分も母として一緒に成長しているんだ、1人の大人であるのだと認識させられる。子供という存在がいるだけで、大人だけの世界では見えなかったこと、思いもつかなかったことに気付かされる。大変な毎日でも、我が子との時間は一瞬なんだろうな。かけがえのない日々を大切に生きたいと思う。

  • 日々のザラザライライラした日常を穏やかにしてくれるような、そんな感じ。
    あの難解な本を書いている宮地先生が、こんな一面も持っているんだ…と、なんだか救われるような感覚もある。それと同時に、子育てもしながらあれほどの仕事をしていることに尊敬と羨望と。

    コロナ禍について、宮地先生は何かお書きだろうか。調べてみようかな。

    →あった
    https://plaza.rakuten.co.jp/anboclub/diary/202007070003/

    https://news.yahoo.co.jp/articles/0159bf42798fbdd82714324f5ea0e2676fd071c5

  • 何度も腕を骨折する息子。見方を変えれば、腕がもっと大事な身体の中心部分を守ってくれている。

    子どもに対して「まったくもう!」と思うことを、ちょっと見方を変えてほっこり心が温まる。そんな風に子どもの成長を見守りたいと思った。

  • ははがうまれる。
    このやわらかいひらがな表記の中に、戸惑いや迷い、自信のなさなどいろいろな葛藤が含まれている。妊娠中の今の私に、それでいいんだよ、と包み込んでくれるようなやさしい安心感を与えてくれる。

    ほどく、という章がとても好きだった。
    何かを作るというワークショップは多いけれど、ほどくワークショップはほとんどないという。
    「私たちは、何かを作ることが、生産的で価値のあることだと思い過ぎている」とも宮地さんは言う。今の私の状態は、まさにこのほどく過程にあるのではないかと思った。
    作り出すことは、目に見えてわかりやすいし、やった感があって充実した気持ちになる。でも、どうしても気持ちがそちらに向かない。
    1ヶ月ちょっと後に控えた出産という大きな出来事に向かうモラトリアムのような時間。今の私は、作り出すよりも、いろいろなことをほどいていく時なのかもしれない。自分の分身のいのちが生まれるその時までに、私は静かに神妙に少しずつ自分をほどいていっている。
    そして、まっさらな自分に生まれ変わって、あなたを迎える。あなたと一緒に、ははもうまれる。
    そのための時間を、今私は過ごしている。

    そう考えると、産休のこの時間を有意義に過ごせない劣等感や虚無感、敗北感、自己嫌悪、そういったものたちから自分を解放してあげられる。

    ははがうまれる。
    母になるでもなく、母をするでもなく、ははがうまれる。
    しばし、あたたかいシャワーのように、このことばに素直に包まれていようと思う。

    ーーーーーーーーーーーー
    あったはずのものが消失し、静かな空間が残る。なくなってしまったセーターのかわりに、手の間を糸が通る感触と、編まれていたものに向き合っていた時間が残る。
    ほどかれた毛糸は、蒸すと、よれがなくなり、まっすぐになる。もう元のセーターの余韻は去り、次に何かに生まれ変わることを待っている。

    編んだり、結んだり、作ったりする動作から、ほどく、ゆるめる、ほぐすといった動作に注目を移すこと。それは、よれる、もつれる、からむ、といった途中経過も含めて、日々の暮らしの大切な何かを語っているような気がする。(86)

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著者プロフィール

宮地尚子(みやじ・なおこ)一橋大学大学院社会学研究科教授。専門は文化精神医学・医療人類学。精神科の医師として臨床をおこないつつ、トラウマやジェンダーの研究をつづけている。1986年京都府立医科大学卒業。1993年同大学院修了。主な著書に『トラウマ』(岩波新書)、『ははがうまれる』(福音館書店)、『環状島=トラウマの地政学』(みすず書房)がある。

「2022年 『傷を愛せるか 増補新版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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