天の鹿 (福音館文庫 物語)

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  • 福音館書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834026160

作品紹介・あらすじ

安房直子の代表作のひとつの文庫化。鹿撃ちの名人、清十さんの三人の娘たちはそれぞれ、牡鹿に連れられ、山中のにぎやかな鹿の市へと迷いこむ。鹿は、娘たちの振舞いに、あることを見定めようとしているようなのだが…。末娘みゆきと牡鹿との、"運命のひと"を想うせつなさあふれる物語。

感想・レビュー・書評

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  • 行って、帰ってこない物語の、さみしさ。きれいだけれど、俗世の者の手には残らないようなしんとした光が遠くに見える、そんなイメージ。

    3姉妹がいたら心の優しいのは末娘、というのは定石だけれども、姉二人も悪意を持っているわけではない。鹿のほうも、試練を与えているわけではない。ただ、探しているのだ。じぶんを在るべき場所へ連れて行ってくれる、導きの光を。
    山ぶどうのお酒を分かち合った末娘と鹿は出会うべき相手に出会えたと喜ぶが、それは同時にこの世界から離れることでもあった。
    父親の「おう、おう」という声だけがひびく山の彼方、空の向こうで、ふたりはどんな気持ちでいるのだろうか・・・と思う。

  • 漁師の清十は鹿狩りの名人だ。秋、月の赤い夜、みごとな大鹿が「通してくれ。かわりに、たくさんお礼をしよう」といって、清十を背中に乗せて鹿の市につれていった。

    (『キラキラ子どもブックガイド』玉川大学出版部より紹介)

  • なんてせつない話なんだろうと、最初に思った僕を、後になって僕自身、大人になってしまったのだなとつくづく思う。鹿の背中に乗って、みゆきの心でこの物語を読んでいれば、とてもうつくしい話であったはずなのに。電燈のない時代、暗闇に灯るろうそくのような、もしくは夜空にまたたく星のような、か細くて、今にも消えてしまいそうな光と命のきらめき。生活、夢、物欲、安全、来るべき明日、家族、命……僕たちを人間にしてくれる現実的なものたちを捨てても、この人しかいないと思える絆のことを運命と呼ぶなら、そこに身を委ねることは、夜を跳ねる幻の鹿の背中に乗ることにとても似ている。

  • 知人のソウル本を読了。
    図書関連の仕事をされている年上女性に、安房さんファンが多いです。
    私自身、安房さんと知らずたくさんの作品に触れていました。
    やはり安房さんの話は一筋縄ではいかない。生と死のあわい、牡鹿の心持ちに、読了後心引き摺られる作品でした。
    解説・堀江敏幸さんで、個人的にもタイムリー。

  • 安房さんは大っすきなので、
    結構読んでると思ってたんだが、
    これは読んだことなかったなー。

    鹿さん。
    おつかれさまでした。

    ちょっと恒川さんの夜市っぽい感じもあり。

    ラストに結構びっくり。
    そっかー。そのまま一緒に行って、帰ってこないんだな、彼女は。

  • 後書きで解説されていたことひとつひとつに、ああ、そうなのか、と考えてもう一度読んだ。丁寧に、慎重に書かれた本。

  • ベースの物語は昔話。猿婿や蛇婿の話と同じく、鹿の妻になるかどうか(とはっきりと書かれてはいないが)の試練に、三人姉妹の末娘が選ばれる。
    そこに意外性は全くないが、鹿があの世とこの世の間をさまよっている鹿であり、三姉妹の父親が鹿を殺した猟師であること、三姉妹の誰か一人がその鹿の肝を食べたことなど、独特の設定が、安房直子ならでは。
    あとがき(堀江敏幸)でも宮澤賢治との共通点が語られていたが、私も読みながら「なめとこ山の熊」を思い出した。
    物語は読みやすく、小学校中学年でも十分わかるが、この精神性の深さは賢治と同じく、簡単に語れるものではない。
    安房直子は児童文学の中でも特異な存在だなと改めて思う。

  • 力強いのに物悲しさを感じる独特の文体に、呑み込まれるように読みました。
    鹿撃ちの名人が牡鹿に連れて行かれた鹿の市、そこで宝石を手に入れる。そして彼の娘たちも牡鹿に連れられて鹿の市へと行く。昔話の定番通り三度繰り返し末娘が真の宝に辿り着く、と思ったらそんなに単純では済まない展開が待っていました。自分のキモを食べた娘を捜していた牡鹿と、運命の人を感じ取っていた末娘。キモを食べるということは一体化すること、つまり牡鹿も娘も自らの半身を求めていたのかも。ラスト牡鹿と娘は天に昇っていきます。それは求め合うもの同士が昇華したということなのか。美しいだけに悲しさも際立つものでした。

  • ハッピーエンドだと思って読んでたので、最後にビックリ・・

  • 小学生のときに、学校図書館で借りて読んだ覚えがあります。
    今でも読んだことを覚えているのは、スズキコージさんの印象的な絵とすぅすぅとすきま風が吹き込んでくるようなものさみしい読後感があったから。
    今読んでも、その読後感は変わりません。

    安房直子さんの文章には、はっとさせられてばかりです。
    やさしくやわらかい言葉を使われているにもかかわらず、場面場面の描写や登場人物の心の動きが鮮やかに伝わってくるのです。

    最後の場面を読みつつ、ふと遠野物語の「オシラサマ」のお話を思い出しました。
    民話や昔話を彷彿とさせる物語、その魅力を堪能できる1冊です。

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著者プロフィール

安房直子(あわ・なおこ)
1943年、東京都生まれ。日本女子大学国文科卒業。在学中より山室静氏に師事、「目白児童文学」「海賊」を中心に、かずかずの美しい物語を発表。『さんしょっ子』第3回日本児童文学者協会新人賞、『北風のわすれたハンカチ』第19回サンケイ児童出版文化賞推薦、『風と木の歌』第22回小学館文学賞、『遠い野ばらの村』第20回野間児童文芸賞、『山の童話 風のローラースケート』第3回新見南吉児童文学賞、『花豆の煮えるまで―小夜の物語』赤い鳥文学賞特別賞、受賞作多数。1993年永眠。

「2022年 『春の窓 安房直子ファンタジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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