たそかれ 不知の物語 (福音館創作童話シリーズ)

著者 :
  • 福音館書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834022513

作品紹介・あらすじ

『かはたれ』から4年後、八寸は、ふたたび長老の言い付けで、人間界へ出かけることになった。今回は、なぜか中学校の古いプールに棲みついてしまった高貴な血筋の河童、不知を河童界に連れもどすという使命を帯びていた。その中学で、3年生の麻と八寸は再会を果たし、麻の協力で、不知は、すでに命を落とした人間の友だちを待ちつづけていることがわかる。不知の持つ霊力で時間を遡り、不知とその友人を再会させようとするが…。

感想・レビュー・書評

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  •  『かはたれ』の八寸にまた会えると思って、はやる気持ちを抑えながら読み始めました。八寸がまた麻やチェスタトンと再会出来ると思ってなかったので、それだけで心はハッピーに。

    『かはたれ』と比べて、挿絵のインパクトが少ないのが残念だったけれど、登場人物のその後がわかり、みんなが幸せになっていく様子がわかり大満足です。

    とても心に響いた河井くんの言葉…
    〈人の心が悲しみや苦しみでいっぱいになってしまうと、音楽や絵や物語の入り込む余地はなくなってしまう。だけど、心がそのまま凍ってしまうわけではない。人の心の深いところには、不思議な力があるからだ。何かの拍子に、悲しみや苦しみのひとつが席をはずすと、たとえば音楽は、いともたやすくその席にすべりこむ。そっとすべりこんできた感動は、心の中の居場所をひそやかに広げて、まだ居座っている悲しみや苦しみを次第にどこかに収めてしまう〉

     実際に河井くんの言っていることを身をもって体験してきたのに、日々の喧騒や苦しさで、またこのことを忘れてしまっていました。
    『かはたれ』と『たそがれ』。この上なく美しいこの二作を読んで、鈍っていた感覚がまた呼び起こされてきた実感があります。とても大切な本になりました。

  • 前作の「かはたれ」がとてもよく、あの八寸にまた会える!ということでわくわくしながらページを手繰りました。
    「かはたれ」の内容を若干忘れていたのですが、本文中に補完する部分が十二分にあり、忘れていてもちゃんと話を追うことが出来ました。
    けれど、これはやはり「かはたれ」を読んでから読んだ方がいいのかなぁと。
    先に「たそかれ」を読んでしまうと「かはたれ」を読む気がしなくなってしまうし、「かはたれ」での感動があっての「たそかれ」なのかなぁと思いました。
    不知は不知で魅力的ではあったけれど、八寸がやはり可愛くて愛おしい。
    八寸の麻を思う気持ちと麻の八寸を思う気持ち、老いてしまったチェスタトン、
    あの「かはたれ」の三人(?)にとても心を寄せて読みました。
    「かはたれ」がとても引き込まれるお話だったので、その周辺譚や後日譚を今作で知ることが出来たことは喜びでした。(八寸の母の二寸の心情なども補完され、より前作が脳内で鮮やかに浮かび上がりました。)
    八寸が帰った後の麻の行動、少しずつ浮かび上がる河童の存在、河童を知る人の存在…。麻という少女が魅力的で、彼女の成長が嬉しい。
    そこへ投入される不知という万能の河童の存在。
    物語が思わぬ方向へ転がっていって、今作もとても惹き込まれる内容でした。
    戦争は遠い日の出来事ではない。朽木さんが被爆二世であることも思い起こされます。河童騒動とは当たらずも遠からずな、校長先生のお話にも心打たれました。
    私たちが今暮らしている街のそこここでも、戦禍に焼かれ亡くなった方がいたかもしれないんだ。そんな当たり前のことを、私たちはすぐに忘れてしまうんだな。
    不知の遠い日の記憶は美しく切なく、物語に戦争が描かれていくことも自然ななりゆきで描かれています。
    河井くんの存在はよかったけれども、彼が妙にタイムリープに詳しい&のめり込んでいく様が、まぁそういう質の人だったのかもしれないけれども、少し都合主義な感じがしないでもなかったです。最後はちょっとふわっとした感じになっていたので、若干置いてけぼりになりつつも、結局は感動して泣いてしまうのでありました。
    最後の、八寸が不知の手を繋ぐところがいいなぁ。不知は、もう孤独ではないかもしれない。八寸グッジョブ。

    余談ですが、途中で面白かったのが、お父さんが河童の存在に耐えうるかという考察のところで、色々な本が出てきたところ。『さまよえる湖』は知らないけれど、調べてみたら面白そう。『エンデュアランス号の漂流』は昨年読んですっごく面白かったし、『旅をする木』は読んでないけど星野さんよね。恐竜に乾草をあたえる男の話が一体何かわからないなと思っていたら、注を見たら、池澤夏樹氏の『ヤー・チャイカ』だった!!『スティル・ライフ』めっちゃ好きなのに。読み返そ。ここの本の繋がりだけでブックトークを作っても面白そうだなと思いました。やってみようかな。

  • 同じ作者の「かはたれ」の続編。
    「かはたれ」を補完し、さらに拡がりを持たせている。

    ただ、前作「かはたれ」を読まずに単独で楽しめるかと言えば少し疑問。単独作品としての完成度という点では「かはたれ」のほうが高いように感じた。

    種による時間の流れの違い、が切ない。
    犬のチェスタトンと河童の八寸が挨拶を交し合うラスト近くのシーンは、深く印象に残った。

  • 前巻が「絵」なら今回は「音楽」がキーワード。八寸が家族と出会えて、ひとりぼっちの寂しさが埋められて、ほっとしながら読みはじめた。前巻よりも少し大きなテーマで対象年齢も少し上かもしれない。
    戦争の話が色濃くて、大空襲の話は胸が苦しくなる。作者が被爆2世だということを知ってしまっていたから、広島の原爆のことも重なって読めて、余計に苦しい気持ちになった。銀色の河童が本当に繊細で美しくて、帰ってこない人を待ち続けるのが切ない。
    音楽や絵や物語の持つ力の素晴らしさを謳いあげる本でもあった。本当に辛くて心に何も入りこむ隙間がなくても、いつかふとした時にすべりこむ。終章のその場面を泣きながら読んだ。
    私自身はこの登場人物たちのように、ここまで辛い気持ちにも境遇にもなったことはきっとないと思う。それでもすぐにくじける気持ちを慰めてくれるのは、やっぱり数々の音楽や絵や物語だったと思う。それらがなければ、不安定で危なっかしい気持ちで過ごす毎日を、ここまで生きて来れなかっただろう。また一冊心を慰めてくれるすてきな本を読んで、明日ももう少しがんばろうかな、という気持ちになれた。

  • 「かはたれ」続編。少しだけ大人になった八寸が再び人間のところへ。
    不知とのやり取りが徐々に変化するさまや、もう会えないと女の子を思ってぼんやりする姿が涙、です。最後の5人の交流のシーンはほっこりします。

  • 河童時間ではそんなに時間はたっていないが、人間時間では4年の月日がたった散在ガ池。

    八寸は長老に呼び出され、“不知”という学校のプールに住む河童を迎えにいくよう申しつけられる。

    〇晴れ晴れと八寸と手をつないで歩く不知の姿に良かったなあと思った。
    〇校長先生のお話を皆に聞いて欲しいなあ。
    〇チェスタートンにあえた。

  • 「かはたれ」の続編。

    前作はとにかく八寸がかわいそうだったけど、この作品では失敗する様子もひたすら可愛かった。

    「こわくてあぶないのはむしろ、だれにでも見えるものしか見ようとしない人間たちや、目に見えるものしか信じない人間たちなんだ。」

    校長先生の話の部分、不知と司の別れの部分、そして最後もやはり涙が止まらなくなりました。

  • 待ち続ける心。わかっているというのと理解しているとの違いも・・・。いじめられっ子の少年が少したくましくなって出てくるけれど、非常にリアリスティックな登場になっていた。そこもまた狙いなんだろうとは思うが、ラストの締め方とともに、もう少し情緒あるタイプを私としては望んでいたのかもしれないなあと・・・読み終えて気がついた。

    とうとうAmazonで1クリック買いしてしまった。
    やはり、「かはたれ」を読んでからこちらに来ると、先の不自然さはまったくなく、これはもう、連続ものであり単独に読むものではなことがわかる。

  • 喪失、罪悪感、そして再生と赦し。戦争の悲しみ。八寸の子どもらしさと純粋さが話の重さを救っている。麻も河井くんもいい子だ。

  • 児童書。
    ファンタジー。
    河童の物語り。かわいいです。

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著者プロフィール

広島出身。被爆2世。
デビュー作『かはたれ』(福音館書店)で児童文芸新人賞、日本児童文学者協会新人賞、産経児童出版文化賞受賞。その後『彼岸花はきつねのかんざし』(学習研究社)で日本児童文芸家協会賞受賞。『風の靴』(講談社)で産経児童出版文化賞大賞受賞。『光のうつしえ』(講談社)で小学館児童出版文化賞、福田清人賞受賞。『あひるの手紙』(佼成出版社)で日本児童文学者協会賞受賞。ほかの著書に『引き出しの中の家』(ポプラ社)、『月白青船山』(岩波書店)、『八月の光 失われた声に耳をすませて』(小学館)などがある。
近年では、『光のうつしえ』が英訳刊行され、アメリカでベストブックス2021に選定されるなど、海外での評価も高まっている。

「2023年 『かげふみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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