ピケティ『21世紀の資本』を日本は突破する~強者の格差論に未来はない~

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  • Amazon.co.jp ・本 (271ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784828418094

作品紹介・あらすじ

日本は資本格差も知的格差も世界一小さい国!そしてサービス業主導経済がこの国の指針となる!!強者の格差論に未来はない。欧米パワーエリートの本音が漏れる驚愕の弱者切り捨ての論理!日本のエリート、官僚たちがピケティほど怜悧な頭脳を持っていなくて良かった!?

感想・レビュー・書評

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  • いつもお世話になっている近所の図書館の新着コーナーで、増田氏の本を見つけました。本屋で増田氏の新刊本はチェックしている私ですが、今回は図書館でお目にかかることになりました。

    この本に惹かれたのは、増田氏が、今有名である「ピケティの21世紀の資本」を解説してくれている点と、それに関して彼なりの考察も加えてくれているところです。

    現在多くの日本経済の解説本がでていますが、悲観論も楽観論も両方読みます。増田氏は以前から一貫して日本の強さを彼の著書の中で、注意すべき点も併せて解説してくれます。この姿勢(まず相手の強みを明確にしてから、注意点を述べる)が私のスタイルに合っています。

    増田氏の解説によれば、問題となっている格差とは、所得の格差ではなく、すでに持っている資産の格差とのことです。貴族の歴史の長いフランスでは、資産家が持っている資産から得られる所得が、一般人の所得の何十倍にもなっていて、一般の人はいくら努力しても追い付けない、という点がこの本の要点のようです。

    ピケティしの本は分厚いようですが、増田氏が読み込んでくれて、その大事なポイントを数時間で学べるなんて、なんて幸せなんだろうと思いながら読書しました。

    また以前、中小企業白書を読んだときに、名前だけ覚えた「全要素生産性」の意義、それが日本の素晴らしさを証明している点(p43)を学ぶことができ、私としては最もうれしかったです。

    付賞で述べられていた、日本にはアメリカの大学院で教えられたことを繰り返すだけで、日本の現実に応用できない経済学者の大半に象徴される「知的エリート」の知的能力の低さは、日本国民が命を懸けてでも守るべき宝物だ(p258)というのは、まさに増田氏の慧眼ですね!

    以下は気になったポイントです。

    ・ピケティが解消しなければならないとする資産格差は、貧富格差ではなく、富・富格差である。高い能力を持った人が懸命に努力しても、平均所得の5-10倍の勤労所得。遺産で生きている人達は、平均所得の30-50倍以上も不労所得を得ていて、これが格差問題の核心である(p2)

    ・フランスでは10歳頃に選抜があり、グランゼコール入学試験を受けるための準備学級で猛勉強する。そこで入試に合格すれば、国が学費・生活費を支給してくれ、本物の少数英才教育を受けられる(p15)

    ・アメリカの所得格(上位10%のシェア)は、1945年頃に35%以下に下がり、1980年初頭まで維持されていたが、1985年から上昇して現在(2010)では、50%に迫る。大恐慌時と同レベル(p16)

    ・ドイツとカナダは、資本所得係数が小さい、これは同じ生産高を確保するために投入しなければならない資本量が少なくて済み、効率の高い経済運営ができていることを意味する(p23,24)

    ・1970-2010(40年間)の一人当たりの年率平均国民所得成長率は、日本は2.0%でOECD諸国(米独仏英伊加豪日)の中で一位。伊は1.6%で8位、微妙な差に見えるが成長率が25%も高かったことになる(p36)

    ・日本特有の体質とは、全要素生産性(TFP)の高さ、資本投入や労働の量的・質的拡大に頼らない、資本も労働も投入量をまったく変えなかったとしても生産量がどれだけ変わるか(p40)

    ・日本の場合、1980-95年の付加価値成長率は年率3.8%、0.4%は労働量増加、1.9%は資本量増加、残りの1.5%が技術進歩や社会全体の効率改善の効果(p41)

    ・95年から07年は、1.2%成長、この間、労働量は0.4%増加から0.3%減少、資本投入量は0.5%増加、全要素生産性は1.0%増加。これは、技術進歩や社会インフラ整備の改善が続いていることを意味する、この間、全要素生産性があがったのはアメカ(0.8→1.2)のみ(p43)

    ・デフレが勤労者に有利で資本家に不利な経済環境かを示すものとして、1870-90年代の長期デフレを通じで、イギリスとフランスでは勤労所得の取り分が確実に増えた(p58)

    ・イギリスのデフレは1930年代(いわゆる世界恐慌)からではなくて、大戦後の1920年から始まっていた(p58)

    ・貧乏人ほど消費性向が高く、金持ちほど消費性向が低い、したがって金持ちの取り分が増えると、消費が低迷する(p63)

    ・今回の資源不況で最大の被害を蒙るのは、意外なことにアメリカかもしれない。中東などの産油国から還流してきた「オイルダラー」の運用が削減されることで、金融業の利益が圧迫される(p72)

    ・アメリカでは国民総生産が、国内総生産よりも顕著に大きくなっている、これはアメリカ以外で、アメリカ国民が稼いだ労働への報酬や金利配当収入が多いことを示す、この差が2000年の0.2%から、直近の1.6%まで1.4ポイントの上昇となている。2000兆円のGDPの中なので、上昇額としては、29兆円近くと大きな数字である(p85)

    ・生活のために借金しないトップ1%が、平均値値の6倍も借金している。このこと自体が貧富の差を拡大する。次の9%も2.5倍の借金をしている(p98)

    ・原油はずっとバレル20ドル程度であったが、2014.7まで100ドル前後であった。この要因は、1)中国の買いあさり、2)FED(連邦準備制度)による量的緩和(p126)

    ・かさばるものを大量輸送するときの船賃を示す、バルチックドライ海運指数は、2008.5の1万1793という史上最高値から、93.5%の大暴落となった。前代未聞(p140)

    ・中国の2015.1の輸出は前年同月比の3.3%減少であったが、輸入は19.9%減少、原油41%、鉄鉱石50%、石炭61%減少(p145)

    ・過去20年間一貫してインフレ率よりも低い収益率、つまり実質ベースではマイナスの収益率にとどまったのは日本株のみ。勤労世帯にとっては悪くない環境だが、金融業界にとっては悪夢=失われた20年間であった(p149)

    ・エネルギー価格が急落したのは、世界的にエネルギー資源の需給がゆるんでいるから、1)アメリカだ脱車社会化、2)中国で資源浪費バブルが崩壊、にある(p151)

    ・アメリカで原油価格が上がったのは、1)南北戦争で商品価格一般が高騰したため、原油価格も連れ高した、2)戦後の自動車ブームによる燃料不足(p153)

    ・円高で苦労するのは、輸出企業の中でも価格くらいしか競争手段を持ち合わせない、出来の悪い企業のみ(p158)

    ・なぜ日本の工業生産が縮小しているかと言えば、耐久消費財の出荷がすさまじい激減となっているから(p160)

    ・2013年度に史上初めて、日本の個人家計の貯蓄率がマイナス1.3%となった、消費水準の落ち込み幅を狭めるために過去の貯蓄を取り崩している(p161)

    ・ヒスパニックの最下層階級化が定着してしまったのは、スペイン語圏からの移民はスペイン語で初中等教育が受けられるようになったから(p170)

    ・移民を積極的に受け入れることで人口成長率を加速することは、経済成長にプラスではない。移民の受け入れで、一人当たりのGDPの成長率を比較的低水準にとどめる(p173)

    ・デフレでは経済成長ができない、という議論は嘘。20世紀の大半を通じて、アメリカが最強の国民経済を育てたのは、まさに19世紀の大半を通じて経験したデフレの真っただ中(p181)

    ・アメリカの人口は、1830年の1200万人から、1890年の6000万人へと、60年間でほぼ5倍の急成長。鉄道総延長も同じ時期に27万キロまで激増している。これを支えたのは、鋼製レールの慢性的価格低下、つまりデフレ(p184)

    ・海外の内部留保をアメリカに還流させればアメリカでの法人税率が適用されるので、借金をすることで利払いを税額控除できるので、株主優遇策のたびに社債発行で資金をねん出する(p207)

    ・欧州では、自前の通貨でがんばっている国々は、デンマークを筆頭に高負担だけで高福祉を実現するので、貧富の拡大がおきた。ユーロ圏国債を利用した国々では貧富の格差を小さくとどめられた、しかし、これらの国(イタリアスペイン、ベルギー、フランス)にはそうとう悲惨な未来が待ち受けているはず(p223)

    ・ピケティの偽らざる本音は、下から半分は早々に切り捨てて、全精力を上から半分の中での価格是正、解消をするということにある。本当の格差は、自分の能力で稼ぐ優秀な人間と、遺産で食っている不労所得生活者のあいだにある(p251、252)

    ・日常生活に必要な仕事のほとんどを自国民のあいだでこなしながら、貧富の格差をこれほど小さくとどめることに成功したのは世界で日本だけかもしれない。(p255)

    ・日本では、平社員、工員が自分達の仕事のやり方を改善する方法を提案することができるし、上司が実際にその方法をやってみることを許可する場合が多い、欧米ではありえない(p255)

    ・世界のトップイノベータ(ボストン、国際事業開発研究所が発行)100社の国籍別内訳で、2014年、ついに日本が39社で、2位のアメリカ(35社)を抜いた。(p256)

    ・日本の留学生の大部分が、自分の学びたいことを学び終えると、日本に帰る人が多い。これを持って「日本人は愛国者が多い」と言われる。中国人はほとんど例外なくアメリカで生活し、できれば永住しようとする(p257)

    ・日本にはアメリカの大学院で教えられたことを繰り返すだけで、日本の現実に応用できない経済学者の大半に象徴される「知的エリート」の知的能力の低さは、日本国民が命を懸けてでも守るべき宝物だ(p258)

    ・「上に立つ」人達の愚鈍さこそ、日本の格差拡大を防ぐ何よりの無形資産である(p260)

    ・日本で最も深刻な格差は、男女間の雇用条件格差である(p260)

    ・サービス業主導経済での勝負は、なるべく均質の優秀な製品を大量生産ではなく、いろいろな趣味嗜好を持った人たちに顧客にあわせてどう提供するか(p264)

    ・日本語は論理的に白黒をはっきりさせるには不向きだが、気分を共有するには最適な構造である(p266)

    2015年5月9日作成

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著者プロフィール

1949年東京都生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修了後、ジョンズ・ホプキンス大学大学院で歴史学・経済学の修士号取得、博士課程単位修得退学。ニューヨーク州立大学バッファロー校助教授を経て帰国。HSBC証券、JPモルガン等の外資系証券会社で建設・住宅・不動産担当アナリストなどを務めたのち、著述業に専念。経済アナリスト・文明評論家。主著に『クルマ社会・七つの大罪』、『奇跡の日本史――花づな列島の恵みを言祝ぐ』、(ともにPHP研究所)、『デフレ救国論――本当は恐ろしいアベノミクスの正体』、『戦争とインフレが終わり激変する世界経済と日本』(ともに徳間書店)、『投資はするな! なぜ2027年まで大不況は続くのか』、『日本経済2020 恐怖の三重底から日本は異次元急上昇』、『新型コロナウイルスは世界をどう変えたか』(3冊ともビジネス社)、『米中貿易戦争 アメリカの真の狙いは日本』(コスミック出版)などがある。

「2021年 『日本人が知らないトランプ後の世界を本当に動かす人たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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